1/700 潜水母艦「迅鯨」がリニューアル! 新規パーツで大戦末期の状態を製作!【ピットロード】
2024.08.20時代の変遷を生き抜いた
潜水艦部隊のサポーター
1920年代、大正期の八八艦隊計画の一環として建造された潜水母艦「長鯨」と「迅鯨」は、太平洋戦争時も唯一の正規潜水母艦として活動、戦争後期には南方方面の輸送作戦にも従事している。戦闘艦というより商船に近いフォルムを持つ独特の艦影は、日本海軍艦艇の中でも異色の存在だが、「迅鯨」唯一のプラキットであるピットロードの1/700キットが、このほどフルハルパーツと電探、見張り所、機銃座などの大戦末期の状態を再現する最終時パーツを追加してリニューアル発売。地味な存在ながら戦没まで戦い続けた名脇役を最終時の状態で製作!
■「迅鯨」型潜水母艦について
第一次大戦の頃、主要海軍国では潜水艦が大型化して外洋行動が可能となり、艦隊戦の兵力単位に組み込む模索が始まった。大きく出遅れていた日本海軍も八八艦隊構想の中で艦隊潜水艦に着目し、「迅鯨」型支援母艦2隻が1920年に計画された。
当時はようやく呂号潜水艦の就役が始まったばかりで、行動距離の短い波号レベルの小型艦をケアする母艦には交戦機会を考慮して旧式の戦闘艦艇を充当していたが、「迅鯨」型のコンセプトはその延長線上にあり、世界の新造潜水母艦でもっとも強力な14cm砲を搭載するが、装甲を持たず計画速力わずか16ノット(実績18ノット)とちぐはぐな設計で、数十本もの予備魚雷など補給品を抱えたまま危険海域に出ていくコンセプトに無理があり、しかも竣工した1922~23年には海大や巡潜といった大型潜水艦の就役も始まって、整備工場としてのキャパシティも足りなくなった。
自国潜水艦の急激な発達ペースに取り残された「迅鯨」型だったが、正統的な代替艦が実現しなかったため結果的には太平洋戦争時も実質唯一の正規潜水母艦として、1943年まで前線基地としての任務を全うした。その後は瀬戸内海で訓練部隊の母艦となり、「迅鯨」は一時派遣された沖縄向け輸送任務の途上で米潜の雷撃を受け損傷、避難地の奄美大島で航空攻撃により擱座。「長鯨」は終戦時損傷状態で残っていた。
■キットについて
ピットロードの「迅鯨」型は1990年代後期に品番W35・36として発売された。今回のW262「迅鯨 1944」は基本的には同じ商品ながら、フルハル仕様と最終時に対応するパーツが新規追加されたほか、既存パーツにも舷外電路の追加など各所にこまごました手直しが入っている。「長鯨」も発売予定とのことだが、「迅鯨」の組立説明書に戦前~大戦前期状態の作り方が示されておらず、何らかの対応が望まれる状態となっている。
■製作
「迅鯨」型のキットは「長鯨」の図面から作られている。一般的に両者の外見上の違いとしては、後部マスト横の搭載機用デリックポストと、「長鯨」のみ実施された艦橋構造物の延長がよく知られており、キットもこれで作り分けるようになっている。実際はもっとこまごま違っているのだが、このあたりの特殊な艦を商品化するにあたっては充分うなずける範囲の省略ないし共通化と考えるべき。今回は呉海事歴史科学館で入手した図面をもとに「迅鯨」固有の形状を再生しておいたが、あまりこだわりすぎるとせっかく戦時状態まで選択肢を広げたメーカーの意図がかえって重荷になってしまうので、落としどころを充分計算してから作りはじめるといいだろう。
キーポイントは舷側に大量に取り付けられたモンキーラッタルで、ふつう1/700では切り捨てても構わないと思うのだが、用途上の特色としてキットのモールドを活用するのもよく、全体のディテールもある程度これを踏まえればイメージがまとまりやすいのでは。また、新規の下部船体部品を実艦に近づけるにはかなりのスキルが求められるが、興味のある方は作例も参考にしていただくよう言及する程度にとどめる。
■考証に関して
学研の歴史群像・太平洋戦史シリーズなどでたびたび踏み込んだ研究が掲載されたが、現在では入手が難しく、筆者も一部しか目を通していない。ただ、裏付けの取れない元乗組員の回想や写真と異なる現存図面など紛らわしい情報が多いため、キットの組立説明書にも推測や「この武装を取り付ける場合は」というような曖昧な表現が含まれている。考証にもディテールにもこだわりたい方には、やはり戦前状態がおすすめだ。
ピットロード 1/700スケール プラスチックキット
日本海軍 潜水母艦 迅鯨 1944
製作・文/岩重多四郎
日本海軍 潜水母艦 迅鯨 1944
●発売元/ピットロード●4180円、発売中●1/700、約17.9cm●プラキット
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岩重多四郎(イワシゲタシロウ)
第二次大戦までの艦船を軍民・国籍問わず幅広く扱う。好きなミュージシャン①ペレス・プラード(ラテン)。