【ネタバレ有】映画『仮面ライダーガッチャード』プロデューサー 湊 陽祐×松浦大悟インタビュー リピーター歓迎!映画をもう一度楽しむためのポイントを、1万字超のロングインタビューで解説
2024.08.01――冥黒のデスマスクも今回の映画の大きなトピックですね。
湊 まず映画にテレビシリーズのキャラクターを敵として出すのは通常難しいんですよね。テレビシリーズの敵を映画で倒してしまうわけにはいかないので映画オリジナルの敵を設定するのが定石なんですが、やっぱり冥黒の三姉妹も映画に出したい。そこで未来という設定を利用してアトロポスとクロトーは仲間になっているシチュエーションや、テレビシリーズのキャラクターと同じ見た目の敵である冥黒のデスマスクを長谷川さんが作ってくれたんです。敵幹部A・B・Cのためにキャスティングをするわけではなく、見知った登場人物の姿をしている敵というところからさらにドラマが読み取れるような形にできたのは長谷川さんのお力です。
――今回はラスボスに該当するキャラクターもグリオンで、敵側に映画のゲストがほぼいないというのは珍しいですよね。
湊 新しいキャラクターを出すということはそのキャラクターを紹介するために尺を割かなきゃいけないということでもあります。それでどうしたって本筋のドラマの尺は削られてしまう。もちろんゲスト敵にはゲスト敵のよさがあるんですが、今回は新しい答えの出し方として、枝分かれした世界では同じ登場人物で新しい物語を描けるということを長谷川さんに提示してもらいました。
松浦 熊木(陸斗)さん達も普段と違う芝居ができてすごく楽しそうでしたね。演者も楽しんでくれてましたし、一年間観てきてくださった人へのご褒美のような感じでみなさんにも楽しんでいただけたら嬉しいです。
湊 それも今回はDAIGOさんのゲスト出演が決まったうえで映画の企画を始められたのが大きかったように思います。DAIGOさんが出演する時点でゲスト知名度という意味ではほとんど勝算が見えていたので、それ以外はあまり縛りを気にせず進めることができました。
――そしてゲストといえば門矢士のサプライズ出演もありました。
湊 これはもう完全に松浦にお任せしました。『仮面ライダーディケイド』は僕にとっては大人になってから観た番組なんですよ。もちろん好きな作品ですけど、思い入れで言えば中高生や子ども時代に観た人には絶対に敵わないと思っていて。
松浦 世代的に、湊さんにとっての『仮面ライダーアギト』が僕にとっての『ディケイド』だったということでしょうか。ある意味、僕自身カグヤと一緒なんです。あの時みた「ディケイド」の背中を追っていて、それを越えていきたい。
湊 中1で観た『アギト』の印象は僕の中にありありと残っているので、『ディケイド』にそれくらいの思い入れを持っている松浦にすべてを任せました。台本も長谷川さんには前後の流れだけ作っていただいて、すべて松浦がセリフから作っています。
松浦 あのパートは長谷川さんに書いていただくのもちょっと申し訳ない気もしたんです。長谷川さんは『ディケイド』は一度も書いていませんし、そもそも士の出演はこの映画の本筋とはあまり関係がないことなので、だったら自分で書いちゃえ! と(笑)。『仮面ライダーディケイド』は15周年ですし、『ガッチャード』ファンだけでなく、あまねく仮面ライダーシリーズのファンの方に観てほしいということから、過去のライダーを誰か出すのならカグヤとの関わりも深いディケイドかなと決まったんです。『ディケイド』が出演する映画を全部観返して、白倉(伸一郎)さんに「こういうセリフ回しでよろしいでしょうか」とお伺いを立てたりもして。士役の井上(正大)さんもノリノリでやってくださいましたし、なにより結果的にカグヤの物語としてうまく決着できたと思います。カグヤにとってのデイブレイク=夜明けになっているように見えましたし、ディケイドにとってもカグヤへの継承というテーマができたので、『ディケイド』が好きな人にも観てもらいたいですね。15年経って、やっと後を託せそうな人が出てきたのかな?(笑)
あと、マーベラスレアのライドケミーカードを出すこともお題だったので、それを士の写真とリンクさせるアイデアが出てきたときは嬉しかったです。士といえば写真ですからね。あの写真は田﨑監督じきじきに加工していただいたんですよ。
湊 『ディケイド』世代の人たちが今回の士再登場についてどう思うのか。僕は松浦が入れてくれた台本を見て「こういうところにディケイドの味があるんだな」と感じました。
――ミラクルガッチャードのデザインもかっこよかったですね。
湊 ファイヤーガッチャード、アイアンガッチャードのように何に特化してるのかが明確なフォームが現場でも好評だったんです。元々はアイアンガッチャードはパンチで、プラチナガッチャードはキックに特化してるという風にしたかったんですがちょっとストーリー的にそうはならなくて。それもあって今回のミラクルガッチャードはキック特化にして、足に煙突が三本も付いているという。
松浦 あとミラクルガッチャードに関しては「頑張れライダー」を最初からやろうと決めていたので、みんなの応援で肩アーマーから足の方まで「仮装大賞」のパネルみたいにピピピピピピピピッ! ってエネルギーが溜まっていくというイメージで、みんなの思いを受けてキックするフォームとしてデザインしていただきました。カッコよくてけっこうお気に入りのフォームです。
――シャイニングデイブレイクについては?
湊 まずデイブレイク自体が、一応テレビにも出てはいますけど映画ゲストなので、それが姿を変えたら子どもたちは認識しにくくなるんじゃないかという懸念があったんです。だからまず大きくは変えないという前提で、そのうえでザ・サンの力が乗るというのはどういうことなんだろうと考えました。ザ・サンの矢印がバイザーみたいになっているのでデイブレイクのマスクにバイザーパーツを付け足して、上半身に太陽のアーマーを付けて、背中の太陽から合成でプラズマが飛び出すように、というデザインで作りました。
松浦 あとアーマーとマントの色が夜明けのグラデーションになってます。デイブレイクの「概念」が極まった姿というイメージですね。
――映画の限定フォームがふたつあるというのも仮面ライダーの映画では珍しいように思います。
松浦 珍しいですね。そういう意味では全体的にリッチな印象でしょうか。と言いつつ再生怪人盛りだくさんでもあるんですが(笑)、そこはもう福沢(博文)アクション監督と田﨑監督が熟練の技術で。ドレットルーパーなんてほんとうは……あんなにたくさんいないのに、いっぱいいるように撮ってくださいました。
湊 ドレットルーパーに関しては本編43話でもグリオンが作り出していて、ルートは変わっても結局グリオンという存在は同じ結果に辿り着くという設定になっています。
――時間軸に関しても慎重に考えられているんですね。
湊 時間移動はひとつルールとして決めておかないとどこまでも自由になってしまうので(笑)。
松浦 もちろんそこを伝えたいわけではなく、意識しなくても楽しめるものにしています。
ここで話しているのもあくまで解釈のひとつなので、絶対的なものではありません。皆様の好きに解釈していただくのが一番良いと思うのですが、制作サイドはこういうつもりです、ということだけです。
湊 ただそれを知ったうえで改めて観ていただくと、また違う楽しみ方ができるんじゃないかとも思うので、テレビ本編も合わせて観返していただけると面白いと思います。ひとつ種明かしをすると、エンディングシーンの夏祭りについては、直後のテレビ44話とは繋がっていないです。
松浦 テレビシリーズでデイブレイクが過去を変えてもデイブレイクの未来はそのままだったように、過去が変わることで、枝分かれして時間軸が増えていく方式なんですよね。だから120年前にデイブレイクが冥黒王を倒したことでまた別の時間軸が生まれてるんですよ。
湊 未来宝太郎が過去に飛んだ時点で現代パートは別のルートにスイッチするので、あの夏祭りのシーンだけがパラレルなんです。その結果、44話冒頭の夏祭りとどう変わったのか、もう一度映画を観直して確認していただけたらと思います。
松浦 絵本の絵も変わっていますし、テレビ本編とは齟齬が生まれていますからね。
湊 だとすると、テレビシリーズで登場した絵本の「暁の錬金術師」は一体何者なのか? 様々なヒントを元に皆さんで考察していただきたいポイントです。
――EDで流れる主題歌「THE FUTURE DAYBREAK」も爽やかでよかったです。
湊 ほんとうにFLOWさん、BACK-ONさんには大感謝です。みなさん番組のことを大好きでいてくださっています。作詞・作曲もすべて二組にお願いして、お互いコミュニケーションをとりながらブラッシュアップしていってくださいました。
松浦 主題歌のメロディや歌詞のアレンジのような箇所もあって、聴いたことあるけど聴いたことないような、新しい聞き心地のリピートして聴きたい曲になりました。みなさんにはフルバージョンもぜひ聴いていただきたいです。
湊 歌詞を聴くとふたりのガッチャードの両方の要素が入っているんですよね。
――それでは最後に、これから映画を観る方に注目してほしいポイントを教えてください。
湊 これから観る方にも、2回目、3回目になる方にもお伝えしたいのがカラコレ(画面の色の調整)の素晴らしさです。カラコレの素晴らしさに気づいてほしい。
松浦 渋いところいきますね!
湊 今回カラコレに同席してほんとうに感動したんです。L合成を使ったりロケだったり、いろんな場所で撮影した映像を使ってるんですが、天気やトーンが違ってほとんど繋がっていなかった映像が、カラコレの力でものすごく綺麗に繋がってるんです。映画って色なんだな、と改めて思ったのでそこに注目してほしいです。このシーン実は晴れてる! とか。
松浦 それ元素材知らない状態でもわかりますかね?(笑)
湊 まあ元を知ってるからよりわかる部分もあるけど(笑)、L合成と実写の繋がりだけでも。いかに映像演出として同じ場所に見えるように工夫されているかというのを感じてもらえると思います。現代と未来で彩度を変えているのもポイントです。
松浦 僕は我ながらナイスアイデアだってみんなに自慢してるんですけど、パンフレットを買っていただいて最後のクレジットのページを見ていただきたいです。詳しくは言いませんがこの映画ならではのこだわりが入っているので、映画館に行った楽しみとしてパンフレットをゲットしてほしいです。あと平成ライダーファンの皆さまにお伝えしたいのですが、レジェンドが召喚したクウガには富永(研司)さんが入っています。本物です。
湊 そう! しかも富永さんに福沢さんがアクションをつけてるんですよ。福沢さんは当時グロンギをやっていたので、「蹴られてきた俺が全部わかってる」と。富永さんが忘れている部分も福沢さんが全部指示して……あれは熱かった。
松浦 あそこは完全にクウガでした。
湊 今回チーフPをやるにあたって、レジェンドライダーを恐れずにやろう、というのが実は最初からあって。その結果がレジェンド編なんですが、平成ライダー以降、仮面ライダーは冬映画や春映画で集合するだけで、テレビ本編は個々の世界観があるというかたちでした。でも子供たちにとっては、ヒーローはいつの時代でも変わらずいて、それを繋ぐ存在がいればいつどこで関わってもおかしくないと思うんです。今回の映画でもディケイドが物語に関わるかたちで出せたのはよかったですね。なので、今後もみなさん変わらず仮面ライダーシリーズを愛していただければいいことがあるかもしれません(笑)。
松浦 つまり、今後もいつ「奴ら」が襲来するか分からない。みなさん油断しないでくださいね(笑)。
そういう意味で、今回の映画は『ガッチャード』を応援してくださる方はもちろん、『ガッチャード』は追っていないけどライダーは好きという方にもおすすめしたい一作となっています。ですので周りでそういう方がいたら、引きずってでも劇場にお連れください!(笑) みなさまのご尽力で今後が変わりますので、何卒よろしくお願いいたします!!
湊陽祐
みなと・ようすけ
1988年6月26日生まれ、群馬県出身。アニメ制作スタジオ・マッドハウスにて制作進行として数々の作品に携わり、アニメ『オーバーロードⅡ』や劇場アニメ『きみの声をとどけたい』で制作デスクを担当。その後東映の「特撮専任プロデューサー募集」に応募し、2019年に入社。『仮面ライダーゼロワン』『仮面ライダーセイバー』『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』にプロデューサー補として参加し、『仮面ライダーガッチャード』で初のチーフプロデューサーを務めている。
松浦大悟
まつうら・だいご
1996年11月8日生まれ、神奈川県出身。2019年東映に入社後、『機界戦隊ゼンカイジャー』『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』『仮面ライダーガッチャード』『仮面ライダー555 20thパラダイス・リゲインド』でプロデューサー補を務める。
映画『仮面ライダーガッチャード ザ・フューチャー・デイブレイク』
大ヒット上映中!
映画は引き続き全国劇場で公開中だ。一度観た方もぜひもう一度映画館に足を運んでみて、『仮面ライダーガッチャード』の集大成をその目に焼き付けよう。
映画『仮面ライダーガッチャード ザ・フューチャー・デイブレイク』
[キャスト]本島純政●松本麗世●藤林泰也●安倍 乙●富園力也●熊木陸斗●永田聖一朗●沖田絃乃●宮原華音●坂巻有紗●加部亜門●山中柔太朗●福田沙紀●鎌苅健太●石丸幹二●垂水文音●小島よしお●DAIGO
[声の出演]福圓美里●檜山修之●岡本信彦●保志総一朗●一条和矢●小西克幸
[スタッフ]原作:石ノ森章太郎●脚本:長谷川圭一●監督:田﨑竜太●アクション監督:福沢博文●特撮監督:佛田 洋●プロデューサー:湊 陽祐(東映)、大川武宏、芝高啓介(テレビ朝日)、鈴木遼河(ADKエモーションズ)
映画「ガッチャード・ブンブンジャー」製作委員会 ©石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映 ©テレビ朝日・東映AG・東映