外伝小説『勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル』4話 【期間限定公開】
2024.08.22勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル 月刊ホビージャパン2024年9月号(7月25日発売)
――日本:種子島:竹崎海岸――
「一体何がどうなってるわけ!?」
想定外過ぎる状況の連続にヒビキは烈華の操縦席で誰にも聞こえない叫びを上げた。
ヴァニタスとスペルビアの交戦が始まってしばらく、スペルビアの援護を遠距離用の武装が多いシェリー機に任せたヒビキたちは近づきつつある2つ目の塔を警戒し竹崎海岸南東端の小型ロケット発射台付近での待機を続けていたのだ。
しかし、その行動は無に帰した。2つ目の塔は、地表に落ちる前に爆散したからだ。
塔の破片は海へ落ちて、荒波を呼ぶ。しかし、そこには何も確認できなかったのだ。
『ギガース1、こちらコンステレーション! 応答せよ!』
「こちらギガース1! 状況は!?」
いつの間にか通信が回復していることに驚きつつも、ヒビキはなんとか言葉を返す。
『先程、交戦中のスペルビアとヴァニタスのもとに突如クーヌスが現出した』
「今度はクーヌスですか!?」
以前の戦いで〈デスドライヴズ〉淫蕩のクーヌスはスミスとルルが搭乗する〈XM3 ライジング・オルトス〉と戦い、相打ちになった相手だ。時空を操るその能力にブレイブナイツの面々は苦しめられた。
ヒビキもまた、スミスがいなければあそこで死んでいたかもしれないのだ。少なくとも、他の〈デスドライヴズ〉よりも脅威的な存在なのは間違いなかった。
『ああ。ギガース各機は、ただちにマスラオ1の援護へ向かってくれ』
「了解! ギガース1はこれより、ギガース2、3とともにマスラオ1の援護に向かいます!」
『頼む。こちらも打開するための準備を進めている。コンステレーション、アウト』
サタケからの通信が切れると、すぐにヒビキは隊員たちへ回線を繋ぐ。
クーヌスはブレイブナイツが交戦した〈デスドライヴズ〉。それぞれ因縁のある相手だ。特に、最後まで戦ったルルにとっては。
(ルルちゃん……)
スミスを失った時の彼女を思い出し、ビビキは表情を固くした。
―― 日本:種子島:大崎海岸沖:コンステレーション:格納庫――
スペルビアたちがヴァニタス型の〈デスドライヴズ〉と交戦している頃、コンステレーションは現在静止状態であるクーヌス型の〈デスドライヴズ〉を攻撃するための準備を進めていた。
「おいミユ、こっちは終わったぞ!」
「は、はい! ではすぐ飛行甲板に上げてください!」
「おっし、任せとけ!」
「お願いします!」
ミユは整備班長へそう返事をすると、最終確認を終えたばかりの240mm電磁加速砲〈ブレイブカノン〉はすぐに格納庫に設置された飛行甲板へ続くエレベーターに載せられる。
「あとは……」
飛行甲板へと向かうエレベーターを見送ったミユは額の汗を拭うと、手元の端末に目を向けた。
そこに表示されているのは、〈ブレイブカノン〉のデータだ。
種子島に向かうまでの間に、今のTSでこれを運用するための準備はしていた。
しかし、ミユはその時がこんなに早く来るとは思っていなかったのだ。 整備班総動員で最終調整を行ったものの、不安は拭えない。
〈ブレイブカノン〉のエネルギーはコンステレーションからケーブルで電力を供給し、姿勢を安定させるための補助ユニットを脚部に装着して発射の反動を抑える。言葉にすれば簡単なことだが、一度も稼働テストをしないままの実戦だ。データ上は問題がなくとも、実際の運用ではどんな不具合が起きるかはわからない。下手をすれば、〈ブレイブカノン〉が自壊し、装備したTSが爆発に巻き込まれるなんてこともあり得るのだ。
「それでも、私たちにはそれしかできないから」
拳を握り、胸に当てる。
自分の中の勇気を、もう一度確かめるように。
―― 日本:種子島:竹崎海岸南東端より南2kmの地点――
戦場に突如現れたクーヌスはスミスの名前を叫んだあと、微動だにせずいた。
その静寂を破ったのは、ヴァニタスの遠隔ユニットだ。
2機の遠隔ユニットが光の刃で突進してきているのを、後ろの4機が光線を放ち援護してきている。
『任せて!』
真っ直ぐスペルビアに向かってきていた遠隔ユニットの1機にシェリー機の攻撃が命中し爆散した。続く2機目をスペルビアは回し蹴りで撃退してみせる。
「スペルビア、ヴァニタス動き出した!」
好機とばかりに遠隔ユニットから放たれた光線を飛燕雷牙で打ち払うと、ルルとスペルビアはすぐ次弾に備える。
『真のヴァニタスとペシミズムのような連携がなければ、とるに足らん相手であるが……』
「じゃあ、まとめてやっちゃおう! クーヌスもルルたちがやっつける!」
『待てルルよ。クーヌスもどきが仕掛けて来ないにせよ、先程のような邪魔をされてはかなわん……もどきとは言え、奴を仕留めるのはたやすくは……ぬっ!?』
スペルビアの視界から、クーヌスの姿が忽然と消えていた。
『マスラオ1、こちらギガース4! クーヌスが転移した!』
ほぼ同時に気づいたのは、竹崎海岸から遠隔ユニットの狙撃を続けるシェリーだった。
クーヌスは現出位置から約1km先の竹崎海岸沖に瞬間的に移動したのだ。
『マスラオ1! こちらコンステレーション! 応答せよ!』
スペルビアの思考を遮ったのはサタケからの通信だ。
「サタケ! こちらマスラオ1! なに!」
『そのままヴァニタスとの戦闘を継続してくれ。クーヌスは遠距離からの狙撃で撃破を試みる』
『なに? いくらあのクーヌスもどきの力が弱くとも、時空を操る力はあるのだぞ。お主らで倒せるのか?』
サタケの発した言葉に、スペルビアは小さく疑念を覚える。
『作戦はある。このままヴァニタスを自由に動かす方が危険だ。転移したポイント付近の〈ギガース〉にも迎撃にあたってもらう』
「ガピ! サタケに秘策あり!」
そう言って、ルルはにっと笑顔を作る。
『ならばお主の言葉、信じよう』
スペルビアは無条件に信じたわけではない。ルルには人間たちと過ごした記憶と知識がある。それを以て判断したことを察したのだ。こういった小さなことを補い合うのもまた相棒と呼べる関係なのだと、スペルビアはわかりはじめていた。
「今度こそ、ヴァニタス倒す!」
『うむ!』
スペルビアはヴァニタスへと急接近しながら、飛燕雷牙にパワーを集中させていく。
『──ゥ─────』
今度こそ己の最期を悟ったのか、ヴァニタスは小さく唸るような声を響かせる。
しかし、ルルはその動きに小さな違和感を覚えていた。
その感覚はスペルビアへと伝わり、流れるような動きで左方向に飛燕雷牙を振るった。 直後、光線で光の刃を生成した遠隔ユニットが衝撃で破壊される。
「よし!!」
『以前のヴァニタスにはなかった攻撃ばかりを……面妖な!』
ヴァニタスは光線での遠距離攻撃に依存していた。しかし今回は光線によるフィールドの生成や光刃を作り出すなど、様々な方法で攻撃を行ってきているのだ。
今のヴァニタスに以前までの自由意思はない。機械のように効率的に最大の攻撃を繰り出してくる姿は、以前より強くなっているように感じられる。だが――
『魂無き者の刃など、我らには届かぬぞ!!』
「うん、全部見えてる! 当たらない!」
だがヴァニタスの攻撃を捌いている一方でスペルビアの攻撃も無尽蔵に現出する遠隔ユニットに阻まれ続けていた。いくらスペルビアが勢いづいていようとも、遠隔ユニットの妨害が続く限り決定打を放てない。
このままでは全ての遠隔ユニットを破壊し終えるまで、一進一退の攻防を繰り返すだけになってしまうだろう。
『マスラオ1、こちらギガース4。このままじゃ埒が明かなそうね……こちらは引き続き遠隔ユニットへの狙撃を継続するわ』
「りょーかい!」
そんな歯痒い状況にルルたちはヴァニタスが面倒な相手であると否応なしに認識させられた。
──日本:種子島:大崎海岸沖:コンステレーション:甲──
「なるほどな。データ通りなら接近しなくてもこの位置で十分だ」
リュウジ・サタケは〈ブレイブカノン〉を装備した〈烈華〉の操縦席で呟いた。
サタケの搭乗する〈烈華〉はミユが提案した姿勢制御用の補助ユニットを脚部に装着し、両腕で銃座に取り付けられた〈ブレイブカノン〉を抱えた状態で〈コンステレーション〉の甲板に固定されている。ある程度の姿勢制御は可能だが、〈ブレイブカノン〉に〈コンステレーション〉からエネルギーを補助するためのケーブルが接続されているため大幅な移動はできない。
だが、今回使用するのは240mm電磁加速砲だ。単純に倍ではないが、威力だけではなく射程も今まで採用されてきたどの120mm電磁加速砲よりも長い。
しかし照準は装備しているTS側で調整する必要がある。これが、サタケが今ここにいる理由。コンステレーションに残るそれができるパイロットはサタケしかいなかったのだ。
「こちらアトラス・アクチュアル。現状機体と〈ブレイブカノン〉の接続に問題はない。そちらはどうだ?」
烈華に搭乗したサタケはELCOのTS部隊指揮官を示す〈アトラス・アクチュアル〉のコールサインで呼ばれる。
『こちらカトウ2曹。電源の接続問題ありません。エネルギーの送電が終わり次第、機体からのコントロールでいつでも発射態勢に入れます』
「ならあとはこちらの仕事だ。万一に備えて引き続きシステムの監視を続けてくれ」
『了解しました!』
ミユとの通信が切れると、サタケは小さく口元に笑みを漏らした。 今最も必要なのは、やり遂げるための強い意思。それを彼は――勇気と呼んでいた。
「〈ブレイブカノン〉、発射態勢! これより手動での照準に入る!」
もしもがあった場合は、プラムマン上級曹長に今後のことを託してある。
この戦場で誰一人失わせない――あの日果たせなかった覚悟が、サタケの集中をより高めていった。
──日本:種子島:竹崎海岸──
竹崎射場からスペルビアを援護するために南下しようとしていたヒビキたちは現在、進路を反転し北上している。クーヌスが現出地点から転移し、2つ目の塔の落下ポイント付近である竹崎海岸沖に現れたからだ。
そのためヒビキたち〈ギガース〉の面々は〈ギガース4〉シェリー機に引き続きスペルビアの援護を任せ、クーヌスの追跡を担っていた。
「あの野郎! ロケットを狙ってやがるのか」
ヒロ・アウリィは久しぶりに相対した宿敵に悪態をついた。
クーヌスは現在、海岸線に沿って緩やかに低空を浮遊しながら北西へ進路を取っている。このまま北上すれば、種子島灯台を超えて内陸部のJAXAの施設が集中しているエリアに到達する。そこを攻撃されれば作戦は失敗だ。このまま内陸へ侵攻されることはなんとしても阻止しなければならなかった。
『ギガース2、3、こちらギガース1、クーヌスとの交戦を許可! コンステレーションからの狙撃まで時間を稼いで! 各個に展開、射撃せよ!』
まもなく有効射程というところで、ヒビキから隊員たちに攻撃命令が下される。
「ギガース2、了解だ!」
『ギガース3、了解! 』
返答したヒロは待ち侘びたとばかりに〈M2 イクシード・ライノス〉のスラスターを全開にし、加速していく。
『おい、あんまり先走んじゃねぇぞ!』
「わかってる! ちゃんとついてこいよ」
『誰に言ってんだ!』
ヒロに追随するようにアキラの〈烈華〉も速度を上げクーヌスへ向かっていく。
『ギガース2、3、こちらギガース1! 後方から射撃を行う!』
「了解!」
先行したヒロとアキラを援護するため、ヒビキの〈烈華〉に装備された多連装ミサイルポッドからクーヌスに向けて誘導弾を発射される。
海岸にはほとんど視界を遮るものはなく、地形を生かして死角から攻撃することも難しい。しかし、逆に現在の位置ならば、突然島内に転移されたとしても味方に当たるようなことはないという判断からだ。
「カーネル・サタケにだけいい格好をさせるかよ!」
ヒロは〈M2 イクシード・ライノス〉で砂浜の砂を巻き上げながらクーヌスに接近すると、左腕部の30mmガトリング砲を発射した。
アキラの〈烈華〉も合わせるように30mmアサルトライフルの弾を撃ち込むと、若干ながら移動速度が緩まっていく。
その直後、クーヌスの背後からヒビキの〈烈華〉が発射していた誘導弾が直撃した。
『――ァ――』
爆風の中からクーヌスから呻くような声が聞こえる。
「少しは効いてるようだな」
しかし、再び機関砲を構えて追撃をかけようとしたヒロの〈イクシード・ライノス〉の前から、クーヌスの姿が突如として消失した。
「なっ――」
直後、後方から機関砲の着弾音が響く。クーヌスは力を使って瞬間移動し、100mほど離れた地点に移動していた。そこにヒビキの烈華が発射した砲弾が直撃したのだ。
『ギガース2、敵は瞬間移動の能力がある。一度距離を取って!』
「……チッ、了解!」
ヒロ機はすぐさまクーヌスの浮かぶ海上から陸地側に距離を取った。
海岸を移動しながら、機関砲の照準をクーヌスに合わせる。
先程は攻撃の効果があったように思えたが、クーヌスは損傷を受けた様子もなく、今度は海岸線沿いを移動し始めていた。
このルートなら、すぐに大崎海岸沖に到達するだろう。ELCOの艦隊と大型ロケット発射場は目の前だ。島内への侵入は防げているが、危険な状況には変わりない。しかし、クーヌスの様子は先程までと少しだけ違っているように見えた。
何かを求めるかのように進行方向に腕を伸ばしていたのだ。
「まさか、あいつ……」
そんなクーヌスの姿を見て、ヒロは気付いた。
クーヌスの求め続けるルイス・スミスはもういない。ブレイバーンも死んだ。しかし、まだこの世界に残っているものがある。
「こちらギガース2! コンステレーション、応答してくれ!」
そう、クーヌスの狙いはルイス・スミス――ブレイバーンのコアユニットだ。
©「勇気爆発バーンブレイバーン」製作委員会