外伝小説『勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル』4話 【期間限定公開】
2024.08.22勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル 月刊ホビージャパン2024年9月号(7月25日発売)
外宇宙より突如地球に襲来した機械生命体〈デスドライヴズ〉。
人類の技術力を大きく超えた力を前に、人々を助けるべく現れたのは〈デスドライヴズ〉に近い姿を持つ謎のロボット『ブレイバーン』だった。
ブレイバーンは地球人『イサミ・アオ』を搭乗させると凄まじい力を発揮。人類と手を取り合い、激しい戦いを乗り越えていく。
そしてブレイバーンは最後に現れた〈デスドライヴズ〉憤怒のイーラを自分の命と引き換えに倒すのだった。
こうして地球の平和は守られた――
ブレイバーンとイサミ・アオの犠牲によって。
好敵手を失い、残された〈デスドライヴズ〉『高慢のスペルビア』と大切な人たちから未来を託された少女『ルル』。
二つの勇気が辿り着く先は、果たして――
原作/Cygames
ストーリー/横山いつき
ストーリー監修/小柳啓伍
協力/CygamesPictures、グッドスマイルカンパニー
イラスト/かも仮面
スペルビア製作/コジマ大隊長
episode 4
――日本:種子島:大崎海岸より5km東の海域:コンステレーション:戦闘情報センター――
現在地球外生命体対策機構は戦闘態勢にある。種子島への到着を目前にして衛星軌道上のデスドライヴズ超大型母艦から射出された分離母艦である塔の迎撃にあたることになったのだ。
塔は〈コンステレーション〉の現在地である大崎海岸沖より西3km、南に12kmの竹崎海岸近くの海上に落下した。スペルビアが破壊に成功するも、内部から〈デスドライヴズ〉ヴァニタスが現出する。さらに時をおかずして、2つ目の塔が飛来してきた。
現在リュウジ・サタケはCICでモニターに映る2つ目の塔の落下予測地点を確認している。
2つ目の塔が落下するのはここから7kmほど南西にある竹崎射場近くの海域だ。恐らく迫りくる塔にも〈デスドライヴズ〉が潜んでいるのは間違いないだろう。
しかしそんなサタケの予想は意外な形で裏切られる。
モニターしていた2つ目の塔が、突如爆発したのだ。
「塔が……爆発しただと?」
破壊された塔の残骸が海へと沈んでいく光景を見ながら、サタケは呆然と呟いた。
1つ目の塔が破壊された時と違い〈デスドライヴズ〉が現れる予兆もなく、まるで状況がつかめない。
『コンステレーション、こちらトールハンマー! 応答せよ!』
そんな時、E-8 J-STARSからコンステレーションにホノカから通信が入った。聞こえてくるクリアな音声に、通信障害が解消されたことがわかる。
「トールハンマー、こちらコンステレーション。感明よし。飛来中だった2つ目の塔が爆発した。マスラオ1や周辺の状況はどうなっている?」
『現在マスラオ1は塔から現出したヴァニタス型の〈デスドライヴズ〉と交戦中。……!? 突如新たな〈デスドライヴズ〉が現出! 恐らくクーヌスだと思われます!』
「……了解。どのあたりだ?」
『竹崎海岸沖にて、マスラオ1とヴィニタス型が交戦していた付近です。データリンクで詳細な現出位置を表示します』
すぐにサタケ機のレーダーにクーヌスの現出位置が表示される。確かにヴァニタスの現出位置のすぐ近くだ。
想定を上回る状況に驚きを覚えながらも、サタケは現状を冷静に分析していた。
クーヌスは時空を操る力を持つ〈デスドライヴズ〉。2つ目の塔が爆発した原因は不明だが、内部から転移の力を使った際なんらかの影響を及ぼしたのかもしれない。あるいははじめから塔を放棄するつもりだったという可能性もある。
「クーヌス型は現在、マスラオ1と交戦中か?」
『いえ、ブルズアイより方位1-9-0、距離7マイル、高度1000フィート、対地速度0、空中で静止しています』
「了解。状況が動き次第、すぐに報告してくれ」
『了解!』
ホノカとの通信を終えると、サタケはすぐに各所の状況を確認し、TS部隊へ指示を出していく。
〈オニオウ〉には引き続き打ち上げ施設の防衛を、〈カタンナーバ〉には打ち上げ施設と艦隊の間に防衛ラインを形成し迎撃準備を命じた。あとは新たに現れたクーヌス型の〈デスドライヴズ〉への対処だけだ。
まだクーヌスが動き出していないとはいえ、いくらスペルビアといえど2体の〈デスドライヴズ〉を同時に相手にすることは難しいだろう。ならば、1体はELCOの戦力で対応する必要がある。 現状を打破する方法は恐らく一つだけ。しかも確実とは言えないものだ。
サタケは許可を得るために司令官であるキングへと通信を繋ぐ――240mm電磁加速砲〈ブレイブカノン〉の実戦投入を具申するために。
―― 日本:種子島:竹崎海岸南東端より南2km地点――
塔の残骸が浮かぶ海上から20mほど上空でヴァニタスを模した〈デスドライヴズ〉とスペルビアは相対していた。
「このデスドライヴズ、ブレイバーンがやっつけたやつ!」
『そうだ。奴はヴァニタスと同じ姿をしておる。彼奴を模しているならば遠間からの攻撃に長けているはず。しかし距離を詰めれば敵ではあるまい』
「だったら、全速力!」
『ふむ、心得ているな。一気に駆けるぞ!』
ルルとスペルビアの意志が重なり、スペルビアはヴァニタスに向かい急加速していく
それに反応するように、ヴァニタスの巨体はゆっくりと宙へと浮かび上がっていった。
『――――ァ――――』
ヴァニタスから放たれた呻くような重低音が空気を震わせる。
次の瞬間、準備は終わったとばかりにヴァニタスは複数の遠隔ユニットから同時に光線を放った。 その光線は網状に拡散し、スペルビアへ光の雨となって降り注ぐ。これはスペルビアに当てることを目的とした攻撃だ。前回までの攻撃方法が線なら、今回は面。たとえ威力が小さくても、回避は難しくなる。
『おのれ姑息な! 紛い物の分際で彼奴の煌めきを真似ようというか!』
「スペルビア、ヴァニタスに詳しい」
光線に紛れて飛行するヴァニタスの遠隔ユニットから放たれた追撃を避けながら、スペルビアは距離を詰めていく。
『――ァ――――ァ――』
「ヴァニタス、なに言ってる!?」
『紛い物の言葉など、我にもわからぬ!!』
スペルビアは遠距離から〈デスドライヴズ〉を一撃で倒せる威力のある攻撃を持たない。ゆえに、確実に当てられる距離まで接近する必要があるのだ。
『ぬ!』
スペルビアの進行方向に、ヴァニタスの遠隔ユニットが数機、展開されたまま静止していた。引き続き光線を放ってくるユニットもあるが、明らかに不自然な挙動を見せている。
「スペルビア! ヴァニタス、逃げる!」
『待て、ルルよ。あれは……』
ヴァニタスの思惑を思案するスペルビアをよそに、ルルはスペルビアをより加速させていく。
接近することで光線による攻撃は確かに少なくなっていく。だが――
『これは!?』
4つの遠隔ユニットを繋ぐように光線が放たれると、スペルビアの進路を塞ぐように突如巨大な光壁を形成する。
「ガピッ!? バリア!?」
『足止めのつもりか! 爪波導!』
スペルビアは一度静止すると、即座に腕を振りかざし、青色の光線を放つ。しかし光線は光壁を貫くことなく、それを受け止めきった。
「ふんっ!」
スペルビアは次に遠隔ユニットを狙って爪波導を放った。しかし、遠隔ユニットは光壁を解除してそれを避けると、再び光壁を展開する。
「ガガピ! 壁、壊せなそう! だったら!」
『飛燕雷牙!!!』
破壊できないならば、いっそ圧倒的な力で障害物を貫いてしまえばいい――二人の意見がシンクロした瞬間、スペルビアに通信が入った。
『マスラオ1、こちらギガース4。突撃にあわせて遠隔ユニットを狙撃してみるわ。攻撃を回避する時に壁を解除しているのを見るに、どうもあの壁を展開しながらの移動はできなさそうだから』
「おお!? マスラオ1、りょーかい!」
シェリーからの通信にルルが元気よく応えると、スペルビアは速度をなるべく落とさないよう残る遠隔ユニットの攻撃を避けながら、軌道を調整して接近していく。
ここで光壁を解除すれば、スペルビアは一瞬でヴァニタスを仕留められる間合いに到達する。遠隔ユニットは防御に集中させるしかない。
――数秒ののち、スペルビアの真横を光の奔流が通り過ぎた。
その正体はシェリーの乗るTS〈M2ブラスト・ライノス〉が海岸線から放った120mm電磁加速砲だ。今回の出撃は〈M2A1ディンゴ〉の装備では射程距離に不安があることを考慮し、ELCOに配備されていた予備機に搭乗している。
ヴァニタスの遠隔ユニットが光に包まれ小破すると光壁が消失した。
『やっぱりね! そのまま行って!』
『任せよ!』
他のユニットが新たな光壁を展開しようとする隙に、スペルビアは一気に距離を詰めていく。
『往くぞ、ルルよ! 我らが魂の一撃、見せてやろう!』
「ガーガピー! やろう、一緒に!」
『これが! これこそが我らの益荒男道よ!!』
飛燕雷牙を突き出すようにして、スペルビアは全速力でヴァニタスへと向かっていく。
そして、不意をついたその一撃はヴァニタスの頭上から真っ直ぐに振り下ろされ――空を切った。
「「……!?」」
ルルとスペルビアは先程より50mほど右方に瞬間移動させられていた。
『――――――』
元々スペルビアがいた付近に新たな〈デスドライヴズ〉が現出していた。その遥か後方には、塔だったもの残骸が無惨にも落下していくのが見える。
『ぬっ!? その姿……そして、この力は……』
「これ……ルル、知ってる……!」
2つ目の塔に搭載されていた〈デスドライヴズ〉。その姿は、ルルとスペルビアの記憶にあるものだ。
ルルの脳裏にかつての戦いが思い起こされ、表情に不安の色が浮かぶ。
『今度はクーヌスの紛い物か。真の力であれば、我をこの星の裏側に送ることもできただろうに。とはいえその力、厄介なものよ!』
淫蕩のクーヌス――時空に干渉する力を持った〈デスドライヴズ〉。それと姿形だけでなく同じ能力を持つならば、オリジナルよりその力が弱くとも簡単な相手ではない。
『ルイ、ス……スミィィイイス……!!』
そして、明確な意思を以て、最も焦がれる者の名を叫んだ。
「……スミ、ス……?」
『どうした、ルル?』
「クーヌスまた、スミス狙いにきた……? だめ! そんなの!」
『落ち着くのだ、ルルよ! あやつはクーヌスではない!』
「ルル、また一人になる……イヤ!」
目の前の光景を信じたくないとばかりにルルはいやいやと首を振る。
クーヌスはスミスとともに消え、その身体と魂はブレイバーンへと受け継がれている。しかし、目の前には確かにクーヌスが存在しているのだ。
横浜の戦いで一人残されたルルにとって、その姿は心に残った傷を容赦なく抉りつけてくる劇物だった。
以前のスペルビアであればルルが何故苦しんでいるのかがわからなかっただろう。しかしブレイバーンがいなくなった今、ルルの心を掻き乱す心地悪い空白が理解できた。
『ルルよ』
スペルビアはクーヌスに向き直り飛燕雷牙を構え直すと、ルルへ静かに語りかける。
『我がいる』
「ガピ……?」
ルルは一瞬不思議そうな表情を浮かべ、小さく首を傾げた。
スペルビアはブレイバーンの最後の姿を脳裏に浮かべながら、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
『……挫けてしまった時、再び立ち向かうため必要になるものとは、一体なんだ?』
「……わからない」
ルルは不安を残した声色でそう返した。スペルビアの言葉をすぐに理解することができなかったのだ。
だがスペルビアは己の強い意思を表すかのように飛燕雷牙を握り締めると、再びルルへ問いかける。
「我は一度ブレイバーンに敗れたが、立ち向かうことはやめなかった。それは、彼奴が我の望みを果たしてくれると感じたからだ。では、ブレイバーンとイサミという男はどうであった?」
「ブレイバーンと、イサミ?」
ルルの脳裏にも、二人の最後の姿が浮かぶ。どれだけ傷つき、何度倒れようとも立ち上がり、戦い続けた。
『たとえ最上の願いが叶わずとも、己の信念を貫き通す。立ち向かい、歩み続けるその心の在り方を彼奴らは――勇気。そう呼んでいたのではないか?』
「……っ!! ゆうき……勇気!」
それは、彼らがルルに教えてくれた、大切な言葉だ。
『我にはまだ、それが理解できたとは言えぬ。しかし、それが今お主に必要なものではないかと感じるのだ』
スペルビアの言葉に、ルルは落ち着きを取り戻していく。
「……負けない! 今度こそスミスとみんなを守る!」
スミスとライジング・オルトスに搭乗していた時、ルルは何もできなかった。しかし、今はスペルビアと共に戦うことができる。
『その意気やよし! 勝つぞ、我が相棒よ』
「勝つ! 勇気、爆発で!!」
それは、かつての後悔を塗り替えるため、ルルの心に勇気が宿った瞬間だった。
©「勇気爆発バーンブレイバーン」製作委員会