外伝小説『勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル』3話 【期間限定公開】
2024.07.24勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル 月刊ホビージャパン2024年8月号(6月25日発売)
──日本:種子島:大崎海岸より5km東の海域:空母〈コンステレーション〉:艦橋──
「NASAとスペースフォースより通達があった。超大型母艦から塔の射出が確認され、まもなく大気圏に到達する。軌道計算での落下予測地点はここより南西15km。到達までは30分というところだ。TS部隊には早速だが対応にあたってもらう。詳細は各自共有された観測データを確認してくれ」
『了解。各員、既に出撃準備に入っています』
サタケとの通信が終わり、キングはすぐにスペルビアへと通信を繋ぐ。
「スペルビア、君にも出撃してもらいたい」
『敵は〈ゾルダートテラー〉ではない、そうだな?』
「その通りだ。予想していたより早いが、降下してきている塔には、君たち〈デスドライヴズ〉と同等の質量を持った個体が搭載されている可能性がある」
『承知した。後は我らに任せよ』
その言葉でスペルビアとの通信は終了する。
「さて……」
しかし、キングは考え続けていた。いざスペルビアを仲間に迎え、宇宙を目指そうというところで現れた新たな敵。予想していたことではあるが、あまりにもタイミングも良すぎた。もう少し動きが早ければ、ELCOの編成も間に合わなかっただろう。
これはむしろ、ELCOを狙っているとしか思えない動きだ。種子島の発射台を破壊されれば、宇宙へ向かうためにスペルビアは大きく疲弊することとなる。そうなれば超大型母艦の破壊は困難となり、我々の目論見は崩れることになるだろう。だが、それを敵が想定しているとは考え難かった。
「いや、むしろこう考えられるか……スペルビアこそが、異星人どもの狙いだと」
今は予測の域を出ないことだ。しかし、キングはそれが間違いないという直感があった。
「だが、まずはここを乗り越えることからだな」
ELCOとして最初の戦いの火蓋が、今切って落とされようとしていた。
――日本:種子島上空:E-8 J-STARS内部――
TS要撃管制官のホノカ・スズナギとカレン・オルドレンの二人はE-8 J-STARSに搭乗していた。
E-8はこの作戦でATFの時と同様、TS部隊の要撃管制と航空部隊の対地管制を担当することになる。そのため、空母での運用ができないE-8はコンステレーションに先駆けて横田基地から離陸し、先ほど空中給油を行って作戦空域に到達した。
「不謹慎かもしれないですけど……なんだか、懐かしいです」
「ふふ……そうは言っても、前とは違う機体だけどね」
あっけらかんと返してくるカレンにホノカはもう、と小さく息を吐いた。
「それはそうですけど……」
彼女達がATFで愛機としていたE-8は〈ゾルダートテラー〉の攻撃を受け、破壊されている。そのため最後の戦いでは途中で離脱することになってしまったのだ。
この機体は新たに用意された同型機であり、〈トールハンマー〉のコールサインを与えられている。
「今度こそ、最後まで務めを果たしましょう」
「もう大丈夫みたいね」
「はい。必ず最後までやり遂げましょう」
ホノカはそっと拳を握ると、はっきりとそう答えた。
決して諦めず、前を向き続けること。それをきっと、勇気と呼ぶのだ。
――日本:種子島:竹崎海岸――
宇宙より飛来した塔は予測から少しだけ逸れた南西12km地点、竹崎海岸の海岸線付近に落下した。
轟音と高波をあげて海中から突き立った塔は以前の戦いを想起させるかのようにそびえ立ち、まるでオベリスクのような荘厳ささえ感じられるほどだ。しかし落下の影響は少なく、海岸線の竹崎展望台を始めとした施設の被害はほとんどない。これも〈デスドライヴズ〉が持つ未知の技術が関連しているのだろう。
まだ落下の影響も収まらない頃、コンステレーションから発艦した輸送機〈ファッティーエクスプレス〉と〈ベイプエクスプレス〉の2機とスペルビアが竹崎海岸の海岸線上空に到達した。
落下してから現在まで塔に動きはないが、ここに〈デスドライヴズ〉が現れ北上する進路をとった場合、大崎海岸付近の大型ロケット発射場が被害を受ける可能性は高い。ELCOは偵察と迎撃のためTS小隊〈ギガース〉を輸送機で竹崎海岸まで移送し、艦隊は大崎海岸の海岸線で防衛ラインの構築を進めていた。
輸送機のハッチが開き、そこから搭載されていた〈ギガース〉のTS部隊が次々と投下していく。
「〈ギガース1〉、〈烈華〉! 発進します!」
ヒビキ・リオウは彼女のため、新たにカスタマイズされた〈烈華〉を発進させた。
以前は対〈デスドライヴズ〉用の兵装を積んでいなかったが、この機体はバリアに対抗するための多連装ミサイルポッドや新型のアームパイルが搭載されている。
「……にしても、新機体でいきなり実戦とはね」
TSの基本的な操作はもちろん変わらないが、隊長というポジションのせいもあって、自分でも緊張しているのがわかった。
『せっかくのカスタム機だっていうのに不満なのか?』
『こら、いきなり隊長に失礼なこと言うんじゃねぇ。でもやっぱこういうのっていいもんだろ?』
『アキラがよくても、みんながそうとは限らないでしょ。ねぇ、隊長?』
ヒビキが漏らした言葉に隊員たちが軽口を返してくる。 ブレイブナイツの時と変わらない雰囲気にヒビキは安心感を覚えていた。
『あはは……ま、とにかくやってみるしかないね。みんな、よろしく!』
仲間たちと言葉を交わしたおかげで、いつの間にか緊張は消えていた。
ヒビキは操縦に集中すると、指定されたポイントへとTSを進めていく。
「黒い、塔……この前映像で見たやつか」
指定されたポイントに到着し、烈華を停止させた。ここから2kmほど南の海上には塔のような建造物がそびえ立っているのが視認できる。それは以前世界各地に飛来したものと近い姿ではあるが、一回り以上大きい。その上、鮮やかな色でなく、海に溶けるかのような黒に近い青色をしている。
しかしその見た目よりも、ヒビキは塔が動く様子がないことに不気味さを感じていた。これまでと同じならばすぐに〈ゾルダートテラー〉が展開されていただろうからだ。
「まだ動きはないか」
ふう、とヒビキは小さく息を吐く。どうやらすぐに戦闘とはならなそうだった。
「コンステレーション、こちらギガース1。ギガース各機配置完了しました」
小隊のTSが全機配置されたのを確認すると、ヒビキは〈コンステレーション〉にすぐに通信を入れた。
『ギガース1、こちらコンステレーション。全機、そのまま待機しろ。我々は種子島の施設防衛が最優先だ』
サタケからの指示に隊員からの了解が続く中、ヒビキも同じように返そうとして思い留まる。塔の内部に敵が潜んでいるとしても、今火力を集中すれば多少ダメージを与えることができるのではないか、と。
『現状、TSだけで塔の破壊は困難だ。指示を待て』
「ギガース1、了解。指示があるまで待機する」
サタケの命令は当然だ。現在大型ロケット発射場を中心に〈オニオウ〉や〈カタンナーバ〉といった一般TS部隊が防衛のため展開されている。それを除いた航空戦力を集中させ先制攻撃できるとしても、相手は〈デスドライヴズ〉。それがきっかけで何が起こるかはわからないのだ。現状、こちらの戦力が少ない中であえてリスクがある行動を起こすべきではない。
だがヒビキの〈烈華〉の後ろから、青い光が前へと飛び出した。
「あ……」
〈ギガース〉に同伴し、上空で待機していたスペルビアだ。
『先陣は我に任せよ』
『うん……ルル、戦う!』
ヒビキはルルとスペルビアが戦場を一目散に飛んでいく姿を見て、在りし日のイサミとブレイバーンのようだと感じていた。なんとなくだが、彼らがいれば大丈夫――そんな気にさせてくれるのだ。
「コンステレーション、こちらギガース1。指示を請う」
『交戦を許可する。以降は臨機応変にスペルビアを援護せよ』
「了解! ル――マスラオ1、こちらギガース1。攻撃開始!」
〈マスラオ1〉。スペルビアに搭乗したルルのコールサインだ。
「りょうかい。よし、いこうスペルビア」
静かに返事したルルをよそに、スペルビアはルルが抱いている不安について考えていた。
なにか、それを払拭する手立てはないものか。共に推して参るためには、きっとそれが必要になるだろうという確信めいた予感もあった。
(ブレイバーンも共に推して参る者がおった……確か名は、イサミといったか)
そんな時、スペルビアの脳裏に浮かんだのはイサミだった。
まだ「ルル」が〈ルル〉であった時、ブレイバーンとの戦いでスペルビアは十全な状態であったにも関わらず敗北した。その時ブレイバーンにあって、スペルビアになかったもの――それは、相棒の存在だ。
のちに〈ルル〉ではない「ルル」に困惑するスペルビアにブレイバーンは言った。熱い魂を持つ者を乗せて共に戦うのはいいものだ、と。
その言葉の意味をこの短い間にスペルビアは実感させられてきた。ルルと共に往く戦いの中で生まれる未曾有の力――どこか心地良くも不自由で、燃え続ける熱き魂の軌跡を。このまま共に同じ道を行けば、いつかブレイバーンさえも超え、真の益荒男に至れるかもしれない。そんな思いを芽生えさせるほどに。
ならば、すべき事は――
「どうかした?」
気づけば、ルルは不思議そうな表情を向けていた。
「すまぬ、しばし考えを巡らせておった」
スペルビアはルルを安心させるように、はっきりとそう告げる。
「ガピ? もう平気?」
『ああ、共に参るぞ……ルル!』
「……!」
スペルビアは彼女を〈ルル〉ではなく、ルルと呼んだ。そのことにルルは、小さな驚きを見せる。
「ガーガピー!!」
だが、すぐに満面の笑みで返事を返す。それはまるで嬉しさを溢れさせるような声だった。
『ふん!』
槍状の武器〈飛燕雷牙〉を掲げたスペルビアは、今までにない感覚を覚えていた。
ただ名前を呼んだだけ――しかし、それだけで格段に二人の心は近づいている。前回ルルが搭乗した時とは違うというのが、スペルビアは実感できていた。
『飛燕雷牙!』
その現れかのように二人の声が重なり、スペルビアの持つ槍状の武器〈飛燕雷牙〉が光に纏われ、その質量を増していく。
『ライジング、ザーーーーン!!』
スペルビアから放たれた必殺の一撃は真っ直ぐに塔のような建造物へ直撃し――閃光が爆ぜた。
『ふん』
『やったー!』
素直に喜びの声をあげるルルにヒビキは思わず苦笑する。
「それ、やれてない時のやつだ」
閃光が収まると、そこにはヒビキの言葉通りの光景が広がっていた。
破壊された塔の残骸が浮かぶ海に大きな影が浮かんだ瞬間、巨大な水柱が上がる。
それが収まると、そこには巨大な何かが浮かび上がっていた。
「あれって……〈デスドライヴズ〉?」
それは、ブレイバーンやスペルビアと同じ、機械生命体。
『ヴァニタス……いや、違う』
『――――――――!!』
機械生命体から、声にならない雄叫びが発せられる。それはまるで獣のようで、今まで戦ってきた〈デスドライヴズ〉たちのような知性は感じられなかった。
『ふん、形だけ似せた紛い物か』
スペルビアはつまらなそうにそう吐き捨てる。
その直後、ヒビキにサタケから通信が入った。
『ギガース1、こちらコンステレーション! 上空から新たなアンノウンだ! 警戒を――』
サタケからの通信が不自然なノイズの後、そのまま途切れてしまう。アンノウンの出現により、コンステレーションの状況に何かがあったことが推測された。
『こちらコン――レーション! ジャミングが発生――いる! 一時後退――!』
サタケから再び入った通信は先程より強いノイズが発生していて、ところどころ聞き取れないところ部分がある。だがそれ以上にその声から感じられた焦りが、ヒビキに小さな不安を抱かせた。
「コンステレーション、こちらギガース1。繰り返してください!」
ヒビキは繰り返しを求めるが、この状況ではこちらからの通信も正常に届いているかはわからない。まるで、じわじわと追い詰められているような感覚があった。
「これ、結構やばい状況になってきたかも」
遥か空の向こうから、何かが落ちてきているのが目視できた。
あれは間違いなくここに落ちたものと塔と同じもの――即ち、2体目の〈デスドライヴズ〉だろう。
湧き上がる恐怖を必死に押さえつけながら、ヒビキは操縦桿を握りしめる。
「でも、なんとかするしかないよね」
だがその瞳から、希望は失われていなかった
episode 4 へつづく
【勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル】
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episode 4 ←明日 7月25日発売 「月刊ホビージャパン9月号」にて掲載!!
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