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外伝小説『勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル』3話 【期間限定公開】

2024.07.24

勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル 月刊ホビージャパン2024年8月号(6月25日発売)

──日本:横須賀近海:空母〈コンステレーション〉:格納庫:技術研究室──

 ギガースのパイロットたちがブリーフィングを行っている頃、ミユ・カトウはひとり、図面を見ながら唸っていた。


「うーん……」


 ミユの新しい職場となった〈コンステレーション〉の技術研究室はATFの時には存在しなかった場所だ。ここはかつて、ブレイバーンの部屋として使われていた場所である。
 ミユを唸らせている原因は、TS用の新たな対〈デスドライヴズ〉兵器の使用方法だった。


「〈ブレイブカノン〉……これを通常のTSが兵装にするのは、エネルギーが追いつかない……」


 240mm電磁加速砲〈ブレイブカノン〉。M2ブラスト・ライノスに装備されていた120mm電磁加速砲を大型化した新型の装備であり、理論上はデスドライヴズの装甲をも容易に貫通するとされている。しかし、こうして組み上がったもののまだ実用段階には程遠く、現状のTSに搭載しても機体が耐えられないのだ。


「空母からエネルギーの供給を受ければ、砲台として使うことは可能かもしれない……」


 衛星により観測された〈デスドライヴズ〉の超大型母艦の再起動。ルルとスペルビアによる情報を合わせると、近く〈ゾルダートテラー〉以上の脅威が地球に襲来する可能性は高い。そのため、より有効となる兵器の開発が必要と考えられていた。


「確かに〈デスドライヴズ〉由来の技術体系を活かせれば、今の問題を解決できる可能性はあるけど……」


 現時点では少なくとも、スペルビアの協力を取り付けることはできるだろう。そして目の前には、ブレイバーンが遺したコアもある。


「ブレイバーンさんとスミスさんが同じ人だったなんて……まだ信じられません」


 ルイス・スミスがブレイバーンだったいう事実を受け入れてはいる。しかしそれは二人を同じ人物として見たこともないミユにとって、あまりに現実味がないことでもあった。


「……とはいえ、思い返せば、少し似ているところがあるような」


 好きなものに対する熱い語りなんかは、二人の共通点かもしれなかった。誰かとじっくりと話してみたい気もするが、このことを知っているのは一部の人間だけ。そもそもブレイバーンの存在自体、公的には秘匿されているのだ。気軽に話していい内容ではなかった。


「……って、そうじゃないそうじゃない。今はこれをどうするか……」


 ミユは気を取り直して新兵器のことを考え始める。
 ブレイバーンのコアが持つ莫大なエネルギーは、今抱えている問題を一気に解決へと近づけるだろう。しかし人類が外敵と戦うためとはいえ、これを人類が兵器に使うことをイサミ・アオとブレイバーン――そしてルイス・スミスが望むのだろうか。
 そんなことを考えてしまい、どうにも上手く進まないでいる。


「これを使えば方法はあるかもしれない……だけど、それでいいのかな」

「いいんじゃないでしょうか」

「え?」


 突然聞こえた声に振り返ろると、そこには見知った顔があった。


「ホノカさん!?」


 思いがけない来訪者に、ミユは素っ頓狂な声をあげる。
 そこにいたのは2つのカップを手にしたホノカだった。彼女も先日このELCOの要撃管制官に着任したのだが、この研究室に来るのははじめてのことだ。


「私が知るアオ3尉なら多分、できることはやるって言いだすと思います」

「確かに……そうかも知れません」

「早速頑張ってるみたいですね」


 ホノカは口元に小さく笑みを作ると、左に持つカップをミユに差し出した。


「ありがとうございます」

「なんだか悩んでそうに見えたので、気になってしまいました」

「すみません、心配をかけて……」

「いいえ。それに、これを見たかったのもあります」


 ホノカはそう言って、ブレイバーンのコアを見上げる。


「……なんだか寂しい気持ちになりますね」


 ホノカはATFでイサミとブレイバーンの戦闘管制を担当していた。ミユと近い感情を覚えているのだろう。彼女の瞳の向こうには、イサミとブレイバーンの姿が見えているのかもしれない。


「でも、ようやくです! また、出会えました。ルルちゃんと、ブレイバーンさんに」


 ミユは先程までとは違い、どこか熱のこもった声でそう言った。


「特機群に戻っていた時は、悔しい思いもありました。なんで私は何もできないんだろう……って。でもここに来て、ようやく向き合うことができた気がするんです」

「向き合う……ですか」

「あの日の後悔を無駄にしないためにも、もっともっと悩まないとですね。やれることをやれるだけやってみないと!」


 そう言って、ミユは口元に微かに緩める。
 今はコアの力には頼ることはしない。まだ、自分のできることをやりきっていないのだ。まずは悩んで悩んで悩み抜いてみる。話はそれからだ。


「コーヒー、ありがとうございますホノカさん!」


 再び図面へと向き直ったミユの瞳にはもう、迷いはなくなっていた。


──日本:横須賀:空母〈コンステレーション〉:格納庫──

 ブリーフィングを終えたルルは、艦内に用意された自分の部屋に戻らず、スペルビアの操縦席にいた。


『随分と浮かない顔をしているな』

「…………」


 ルルはスペルビアの問いに答えず、どこか虚ろな表情でタブレットに映るスパルガイザーを見つめている。
 〈機攻特警スパルガイザー〉はスミスの好きだった作品だ。ここからルルが得た知識もたくさんある。


『迷っておるのか』

「……!? 違う! ルル、迷ってない! ブレイバーンなるって、決めた……」


 ルルは一瞬顔を上げるも、話すうちに少しずつ俯いてしまう。
 しばしの静寂の後、言葉を発したのはスペルビアだ。


『ならば、それを貫き通せ。それこそが我の往く真の益荒男へと続く道だ』

「ピガ……」

『人間の感情の機微などわからぬ。だが、迷いは己の刃さえも鈍らせるだろう』


 今までのスペルビアであれば考えられない、誰かへの――魂を通わせる相棒のための言葉。
 それは確かにルルの胸を打ち、胸の中に温かさを与えてくれる。


「ガピ……ありがとう、スペルビア……」

『礼には及ばぬ。我らは今、相棒となっているのだからな』

「ガガピ! スペルビア、ちょっと静かにしてて」


 暗い雰囲気が消えた途端、ルルは口元に指を立ててみせる。


『なぬ!?』

「いまからいいところ! ルルと一緒に見る!」

「こやつめ……あいわかった」


 少しの呆れと優しさを込めて、スペルビアはそう答えた。


──日本:横須賀:空母〈コンステレーション〉:艦橋──

 キングの演説からELCOが本格的に活動を開始した翌日。
 データの確認を終えたELCO司令官、ハル・キングは〈コンステレーション〉の艦橋へと戻り、今回の作戦について考えていた。
 〈オペレーション・ブレイブローンチ〉――スペルビアを宇宙に上げ、超大型母艦へ最大限の攻撃を与えるというこの作戦は、スペルビアの消耗をいかに抑えるかが重要だ。
 スペルビアは単機で大気圏離脱する能力を有するが、それにはかなりの負荷がかかる。彼を万全の状態で超大型母艦に向かわせるためには、人類側で宇宙へスペルビアを送る手段が必要になったのだ。
 しかし、ELCOと各国の宇宙開発機関の調整は難航した。アメリカ航空宇宙局NASAの施設が前回の〈デスドライヴズ〉襲撃で破壊され、未だほとんどの施設が復旧作業中であることも大きな要因だ。交渉を続ける中で、使用許可を得ることができたのは、唯一国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構JAXAが持つ種子島宇宙センターのみ。種子島で運用テストが続けられていた新型のシャトル発射台と衛星打ち上げ用のロケットは、前回の〈デスドライヴズ〉の襲来時に攻撃されておらず、問題なく使用することができるという。


「宇宙、か……」


 そう言って、キングは静かに空を見上げた。
 戦闘機のパイロットだったときは自分が空ではなく、宇宙と向き合うことになるなど考えることもしなかった。だが、こうしてELCOの司令官となった以上、向き合わずにはいられない。
 いまだ強大な外宇宙からの敵に人類の力では対応しきれない、歯がゆい状況は変わらないままだ。
 近くTSでの宇宙戦闘は可能になるだろうが、今はまだ地球側に、宇宙で自由に動かせる兵器は存在しない。ミサイルなど使用可能なものはあるが、そういった攻撃は〈デスドライヴズ〉には迎撃されてしまうのだ。
 しかし、だからといって指を咥えて見ているだけではいられない。
 キングは戦闘情報センターCICに集約した本作戦の情報を確認している〈コンステレーション〉艦長のアイザックスへと通信を繋いだ。


「アイザックス艦長、状況はどうなっている?」

『はっ。自衛隊から現状いずもをはじめとした数隻と可能な限りの航空戦力を投入するとの報告を受けております』

「そうか……」


 横須賀に停泊した目的の一つが、対〈デスドライヴズ〉用の戦力を整えることだった。キングは自衛隊と米軍に働きかけ、スペルビアとルルをバックアップする準備を着々と勧めていたのだ。


「……今度こそ、遅れをとるわけにはいかんな」

『おかげであのとき、ヒーローになり損ねましたからね』

「まったく……その通りだ」


 キングの脳裏に志半ばに散った英雄たちの姿が浮かぶ。あの時、キングは誓ったのだ。


『たとえ最後まで共に戦えなかったとしても……決して誰一人、残しはしない。志も何もかも、全てだ』


 その誓いを果たすためにも、今できることをするしかないのだ。


──日本:横須賀:空母〈コンステレーション〉:食堂──

「ふぅ……」


 満腹になって一息ついたヒビキはカップを口に運ぶ。食後のコーヒーの味はまずまずと言ったところだ。
 ギガースのTSパイロットたちはつい先程、食堂で揃って夕食を終えたところだった。


「みんな、ちょっといい?」


 ヒビキはカップを置いて姿勢を正すと、真面目な表情で切り出した。
 出港前の時間でヒビキは隊員たちにどうしても話しておきたいことがあったのだ。


「これから、私たちはルルちゃんとスペルビアを援護するために戦うことになる」


 これよりELCOは新たな〈デスドライヴズ〉の襲撃を考慮し、スペルビアとともにコンステレーションで海路を進む。結局戦闘になればスペルビアの手を借りる必要があるだろうが、〈ギガース〉がサポートすることで少しでも消耗を抑えられればという考えだ。
 スペルビアとTS部隊を先行させる案もあったらしいが、種子島に十分な武装や兵糧はないため、コンステレーションを伴って向かうことになっていた。


「私たちは今度こそ、ヒーローを助ける力になりたい。ううん、ならなくちゃいけないと思ってる」


 一騎当千の力を持つルルとスペルビアの消耗を抑えるというならば、それ相応の活躍をすることが求められる。それはいくら実戦経験のある〈ギガース〉のパイロットでも簡単なことではない。


「敵は〈デスドライヴズ〉。今回も間違いなく命懸けの戦いになる。だけど……今度こそ胸を張って世界を守ったって言うためにも、みんなの命を私に預けて欲しい」


 ヒビキは隊員たちの顔を真っ直ぐに見据え、そう言った。


「おう。ここでオアフの借りを返すんだろ?」


 ヒビキの言葉にアキラがニッと笑みを作って応えると、その笑顔が隊員たちに広がっていく。


「今度こそ意地を見せてやるさ。スミスに笑われないようにな」

「そうね。私たちは戦うためにここに来たんだから」


 ここにいるのはオアフ島での戦いを乗り越えてきた戦士たち。覚悟など、とうに決まっていたのだ。


「ありがとう……ううん、違うか。最後まで戦って、必ず全員で帰ってこよう! もちろん、ルルちゃんとスペルビアも一緒に!」


 今度こそ、誰一人欠けずに戦い抜いてみせる。そんな決意を込めたヒビキの言葉に、隊員たちは力強く頷くのだった。
 それからまもなく、〈コンステレーション〉は司令官であるキングの号令を受け日米の護衛艦、駆逐艦を伴い横須賀を出港した――それはスペルビアとELCOを中核とする〈オペレーション・ブレイブローンチ〉の作戦開始を意味していた。


──日本:種子島:大崎海岸より5km東の海域:空母〈コンステレーション〉:格納庫──

 〈コンステレーション〉が横須賀を出てから十数時間。横須賀基地から太平洋を南西に進み、ELCOの艦隊は種子島周辺へと到達していた。
 種子島宇宙センターJAXAは種子島南東端にあり、現在コンステレーションが向かっている大崎海岸は海路で種子島を目指した際にスペルビアを打ち上げる予定の大型ロケット発射場に最も近い場所だ。
 〈コンステレーション〉は大崎海岸付近に到着したのち、海岸線に随伴艦とともに防衛ラインを展開。施設付近にはTS部隊を配備し、現状可能な限りの戦力でスペルビアを搭載したロケットの打ち上げを防衛することになる。
 大崎海岸から約7km南下した竹崎海岸付近の小型ロケット発射場を利用する計画もあったのだが、今回は万全を期すために大型ロケット発射場で準備を進めることになっていた。
 まもなく到着するというタイミングで、ミユはようやく出港前から取り掛かっていたTSのメンテナンス作業を終えた。


「ふぅ……メンテナンスはこれで全機完了……っと」


 手元の端末を置いて、ミユはふぅと額に流れる汗を拭った。


「間に合ってよかったぁ……」


 ELCOが持つTSは計6機。新たな装備を追加する機体もあり、種子島到着までに全ての調整を終えるのは、以前の戦いを経験したメカニックたちでなければ不可能だっただろう。
 一旦落ち着いたので研究室へ行こう――そう考えていると、小さな影が格納庫に飛び込んできた。


「ミユ、おわった!?」

「ルルちゃん!? ……どうしてここに?」

「ルル、会いにきた」

「会いに来た……? 私……なわけないか」


 ミユはルルと毎日のように顔を合わせている。そんなルルがわざわざ会いに来たと言うのだから、他の誰かに違いない。


「もしかして……研究室に入りたいの?」

「ガピ! ルルもスミスのところ、いきたい」


 神妙な顔をしたルルの言葉にミユは一瞬逡巡する。それは本来、技術研究室に登録者以外の立ち入りは認められていないからだった。
 だが、ルルの様子に何かあるのだろうと感じたミユは責任者である自分の判断でルルを入室させることに決める。


「よし、行こ――ッ!?」


 笑顔を作ったミユの声は、突如鳴り響いた警報に遮られる。


『General quarters, general quarters! All hands man your battle stations!』


 それは、戦闘配置を知らせる全艦放送であった。


「敵襲!?」

「なにかきた!?」


 ミユが前回警報を聞いたのは東京湾に〈ゾルダートテラー〉が現れた時だ。なら、今回も同じだろうと予想できた。


「何してるミユ! 出せれるだけ出せってお達しだ! 急げぇ!!」

「班長!? 了解です!!」


 いつもより厳しさ2割増しの大声で呼ばれたミユは、すぐにキャップを被り直す。


「ルルちゃんはスペルビアさんのところへ! 私は班長のところに急ぎます!」

「ガピ! 絶対、戻って来る!」

「はい! 帰ってきてから、一緒に行きましょう!」

「ガガピ!」


 警報に背中を押されそれぞれの持ち場へ走り出す二人を見送るかのように、ブレイバーンのコアは一瞬だけ微かな光を灯すのだった。


©「勇気爆発バーンブレイバーン」製作委員会

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