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外伝小説『勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル』3話 【期間限定公開】

2024.07.24

勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル 月刊ホビージャパン2024年8月号(6月25日発売)

勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルルエピソード3-TOP

 外宇宙より突如地球に襲来した機械生命体〈デスドライヴズ〉。
 人類の技術力を大きく超えた力を前に、人々を助けるべく現れたのは〈デスドライヴズ〉に近い姿を持つ謎のロボット『ブレイバーン』だった。

 ブレイバーンは地球人『イサミ・アオ』を搭乗させると凄まじい力を発揮。人類と手を取り合い、激しい戦いを乗り越えていく。
 そしてブレイバーンは最後に現れた〈デスドライヴズ〉憤怒のイーラを自分の命と引き換えに倒すのだった。
 こうして地球の平和は守られた――
 ブレイバーンとイサミ・アオの犠牲によって。

 好敵手を失い、残された〈デスドライヴズ〉『高慢のスペルビア』と大切な人たちから未来を託された少女『ルル』。
 二つの勇気が辿り着く先は、果たして――

原作/Cygames
ストーリー/横山いつき
ストーリー監修/小柳啓伍
協力/CygamesPicturesグッドスマイルカンパニー
スペルビア製作/コジマ大隊長
ゾルダートテラー製作/六笠勝弘
イラスト/かも仮面


episode 3

――日本近海:空母〈コンステレーション〉:飛行甲板フライトデッキ――

 横田基地でスペルビアが地球外生命体対策機構ELCOへ協力の意思を見せてから、丸一日が過ぎた。
 現状新たな〈デスドライヴズ〉側の動きはなく、ELCOイーエルシーオーは活動を開始するための準備を着々と進めている。
 そのためにELCOの母艦である〈コンステレーション〉は横須賀基地に入港していた。〈コンステレーション〉は先の〈デスドライヴズ〉との戦いでATFの旗艦となった船だ。ハワイでの戦闘の際、一度は座礁するまで追い込まれたが、損傷の大きい動力部と外装を修復したのち、再びキングたちに託されることとなった。
 現在〈コンステレーション〉がここを訪れているのにはもちろん理由がある。横須賀基地は〈デスドライヴズ〉襲撃による被害のあと、迅速な復興が行われており、襲撃前に近い状態になっている軍事施設だ。ELCOが今後〈デスドライヴズ〉の対策を進める上で、適した場所だといえる。


『よく集まってくれた。ここにいるのは皆、覚悟を持った者たちだ』 


 ELCO司令官ハル・キングの声が拡声器から甲板の隅々まで響き渡る。
 甲板にはELCOのシンボルマーク――銀色のブレイバーンのエンブレムを刺繍した腕章をつけた軍人が整列し、キングとその後ろに座するスペルビアへ視線を向けていた。ELCOは他の外宇宙生命体が確認されていない現状では、実質的に対〈デスドライヴズ〉専任の組織だ。有事に際しては強い権限を持ち、対〈デスドライヴズ〉においてはタスク・フォースを編成する際に中核となり、指揮を執ることになっている。
 そのためアメリカ軍に連なる組織ではあるが、選りすぐりの人材が各国の軍や機関から出向しており、実質的に以前の戦いで活躍を見せたATFを日米中心に再編した形だ。その分、対〈デスドライヴズ〉においては政府機関から強い信頼を得ており、その手腕を期待されていた。

(なんか思い出すな、ブレイバーンが仲間になった時のこと)

 ヒビキ・リオウはキングの言葉を聞きながら、駐機場に集まった時のことを思い出す。
 ブレイバーンを仲間に迎えるとキングが皆に伝えたのは、遠い昔の話ではない。だが今のヒビキには、随分と懐かしく思えた。
 前は自衛隊でまとまっていたのだが、今ヒビキと列を同じくするのはELCOのTS小隊〈ギガース〉の面々だ。

 〈ギガース1〉ヒビキ・リオウ。
 〈ギガース2〉ヒロ・アウリィ。
 〈ギガース3〉アキラ・ミシマ。
 〈ギガース4〉シェリー・ローレン。

 〈ギガース〉に所属するパイロットは、ほとんどがブレイバーンをサポートしていた旧ブレイブナイツのメンバーだ。
 しかも小隊長はヒビキ・リオウ――即ち自分である。
 最初に話を聞いた時は自衛隊ではサタケが適任ではないかと進言したのだが、サタケは既にELCOのTS部隊指揮官としての着任が決まっていた。
 そうして小隊を背負うことになったヒビキだったのだが、新設されたこの部隊で、命を賭けた戦場を共にした仲間とまた一緒に戦えることは嬉しく思っている。だが、同時に寂しさも覚えてしまっていた。
 その原因はわかっている。イサミとスミスがいないからだ。


「人一倍騒がしかったもんなぁ……」


 ヒビキは思わず、そんな言葉をこぼす。実際一番騒がしかったのはブレイバーンなのだが。


『この世界を侵略者から護るため、あの日の英雄達の想いを胸に、我々は再び立ち上がる! どうか皆の力をもう一度貸して欲しい! この世界に平和を取り戻す、その日のために!』


 ヒビキが懐かしさを覚えている間に、キングの演説は終わりを迎えようとしている。ヒビキはこれからの戦いに思いを馳せつつ、姿勢を正した。


―― 日本:横須賀近海:空母〈コンステレーション〉:ブリーフィングルーム――

 飛行甲板でキングの演説が行われた後、ルルとELCOのTS部隊〈ギガース〉の面々は、ブリーフィングルームに集められていた。


「そういえばさ、ルルちゃん」

「ガピ?」

「スペルビアに乗るのって、どんな感じなの?」


 ヒビキはふと気になっていた話題を切り出した。
 以前イサミはブレイバーンに乗っていたときのことをあまり話さなかった。まぁ実際にはもう少し詳しく聞けたかもしれないが、ブレイバーンのスパルタ訓練や相次ぐ〈デスドライヴズ〉との戦闘でこちらも余裕がなかったし、ブレイバーンの高すぎるテンションもあって、その話題にはなることはなかったのだ。


「んー……」


 言われて、ルルは視線を宙に泳がせた。
 ルルも一度、スミスと共に〈XM3 ライジング・オルトス〉というTSに搭乗したことがある。恐らくはその時のことを思い出しているのだろう。
 ルルはふと動きを止めると、ひらめいたとばかりの顔でヒビキの顔を真っ直ぐに見つめ――


「ガガピー! って感じ!」


 自信満々に、そんな答えを返した。


「……そっかぁ……そうだよねぇ。スミスなんか乗った後、すごいことになってたけど」


 そういった答えがあることも想定していたヒビキはただただ頷いてみせる。


「確かにドロドロしたのにまみれてすごかったよな」

「テレビの番組で泥沼に突っ込んだみたいだった」


 以前スミスがイサミのようにスペルビアに乗ろうとした時は、上手くいかず酷い目にあっただけだった。


「……スミス」


 ルルは一瞬だけ遠い目をして、すぐに笑顔を作った。
 その様子を見て、隊員たちは口元に小さく笑みを作る。


「ま、みんなそんなもんだろうと思ってたさ。でも、あれだ。勇気を一つにする、みたいなやつはどうだ?」

「すっげぇ熱血だったもんな。ブレイバーンはさ」

「確かにスペルビアはちょっと違うわよね」


 今まで静かにしていたヒロ、アキラ、シェリーが次々と会話に加わっていく。


『ふむ……』


 そこにふと、モニターから悩みを含んだような声が聞こえてきた。


「ん、スペルビア?」


 ルルがモニターに向き直ると、自然とヒビキたちの視線もそこに集まっていく。


『我とブレイバーンの違いとは、なんだ?』


 そう問われて、ルル以外の全員が困惑の表情を浮かべ沈黙する。いざ何が違うといわれても、ヒビキたちもあまりスペルビアのことを知らない。何を伝えればいいのか見当もつかないでいた。


「ブレイバーンとイサミ、ゆうきばくはつする!!」


 その沈黙を破ったのは、やはりルルだ。


「まぁ確かにそれか」

「それだな」

「それだよね」

「それね」


 小隊の全員が、うんうんと頷いてみせる。


「あとはイサミイサミーって騒がしかったよな」

「ま、それが一種のキャラみたいなところもあったしね」


 アキラの言葉にヒビキは苦笑する。段々慣れていったとはいえ、あの二人は最初、凸凹なバディだったのだ。


「それがあんな凄い相棒(バティ)になるんだから、不思議なものよね」


 〈デスドライヴズ〉との厳しい戦いの中で、ブレイバーンはATFにとってムードメーカーでもあった。そんな彼の話題に、みんな自然と笑みを浮かべる。
 しかしその中で一人、スペルビアだけは疑問を浮かべていた。


『つまり、どうすれば強くなれるというのだ』

「一番近くで、一緒に同じ方向を見てるってことかも。もしかしたら、スペルビアとルルちゃんもそんな感じなのかな?」

『ふむ……それで?』

「ええと……とりあえず相棒として信じ合うところから? ブレイバーン風に言うと、ソウルメイト? みたいな」

『なるほど……つまり互いの魂を通わせるということか』


 それきり、スペルビアは何かを考えているようだった。
 ヒビキたちもELCO上級曹長であるトーマス・J・プラムマンの視線に促され、ブリーフィングの開始を静かに待っている。
 しばらくしてリュウジ・サタケ1等陸佐が部屋に入室すると、ブリーフィングが始まった。


「現時点でのELCOの任務は、衛星軌道上に存在する〈デスドライヴズ〉の超大型母艦の排除だ。それは皆、理解しているな?」


「ガガピ!」

勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルルエピソード3-1

 リュウジ・サタケは勢いよく手を上げた少女を見て、若干困ったような表情を浮かべる。
 

「ルルちゃん、ダメダメ。今はうんうんって頷いておくところだから」

「ガピ? りょーかい」


 言われたままにうんうんと頷いてみせるルルに、ヒビキは苦笑する。


『む……』


 だが、スペルビアは僅かに俯いたルルの表情が一瞬曇ったのを見逃さなかった。


「サタケ1佐」


 それを静かに見ていたサタケはプラムマンに促され、再び隊員たちに向き直った。


「……先日の〈ゾルダートテラー〉による東京湾への襲撃。今回はスペルビアの協力もあり難を逃れたが、以前のように全世界規模の攻撃があれば、我々に対抗する手段はない。奴らが動き始めた以上、我々に残された時間はそう多くないだろう」

『然り。早急にあれを破壊する必要がある』


 モニター越しに参加するスペルビアにサタケは映像を共有する。


「右が前回の戦いの直後に撮影したもの、左が現在の敵方母艦だ」


 映像には、誰が見ても一目でわかる違いがあった。〈デスドライヴズ〉の一体『クーヌス』の攻撃によって破壊されていた箇所が修復されている。元々は7つの塔があったはずだが、現在は2つの塔と球状の建造物が存在していた。


「あれって、地球に落ちてきた塔みたいなやつですか?」


 前回の戦いで超大型母艦は7つの塔を分離し、地球へ降下させた。そのため、現在の超大型母艦に塔のようなものがあるというのはどう考えてもおかしいのだ。


「ああ。外見はそれに近いな。スペルビアの情報によれば、あれは新造されたものだ。同じものなのかは現時点では判明していないが、大きな違いはここにある」


 そういってサタケが指したのは、球状になっている場所だった。


「東京湾に飛来した新たな〈ゾルダートテラー〉は、この球体から地球へと発射された。あの球体の建造物は製造プラントだと思われる。スペルビアの話ではクーヌスの攻撃で超大型母艦に搭載されていた再生機能は完全に破壊されたとのことだが、こちらは残っていたようだな」


 〈デスドライヴズ〉が持つ、未知の技術は人類には計り知れない。元より〈デスドライヴズ〉とともに地球へ降下した塔には〈ゾルダートテラー〉の生産機能があった。


『しかしあれには我との繋がりを感じん。〈デスドライヴズ〉の母艦は、もはや我らと袂を分かったということかもしれんな』

「じゃあ、あの〈ゾルダートテラー〉は前に現れたのとは違っていたってこと?」


 シェリーの問いかけに、ヒビキは首を横に振る。


「見た目は変わってない。根本的に違ったのは、動きかな」

『我らの母艦に生産された以上、根本は変わらぬであろう。だが、確かに今までの〈ゾルダートテラー〉とは違っていた』

「動きねぇ……」

「それについては映像がある。見てもらった方が早いだろうな」


 ヒロの訝しげな言葉に、サタケは東京湾で起きた戦闘の映像を再生する。


「リオウ2尉からは確認できなかったかもしれないが、この中に指揮を執っていたと思しき機体があった。それが統制のとれた動きの要因だろうな」


 映像には通常の〈ゾルダートテラー〉と違い、頭部にアンテナのようなものが追加されている個体が2体確認できた。


「これが指揮を執っていた機体?」

「ヒビキが交戦したときの映像は?」

「これだ」


 比較のため、同時に再生された二つの映像を見た隊員たちはすぐにその違いを理解する。ツノ付きに近い個体は陣形を組んで統制された組織だった動きをしていた。一方でツノ付きから一定の距離が離れている個体は以前より戦術的であるものの、統制されているとは言い難い。


「多分、指揮できる範囲みたいなのがあるんだ……これ、私は運が良かったってことか」


 ツノ付きが統制する〈ゾルダートテラー〉と交戦していたら、スペルビアが現れる前にヒビキの〈烈華〉も撃破されていたかもしれない。


『生産プラント自体の性能が向上し、さらなる力を得た可能性が高い。如何ほどであろうとも、我の敵ではない。現時点では、であるがな』

「……まぁ、そういうことだ。放置すれば、より厄介な敵が生まれることになるかもしれない」


 製造プラントが〈ゾルダートテラー〉よりも強力な敵を作り出すまでに至れば、今後地球側の戦力だけでは対応できなくなるだろう。


「よって我々は可能な限り迅速に〈デスドライヴズ〉の超大型母艦を撃破するため、スペルビアを万全な状態で宇宙に送りだす」


 スペルビアを宇宙に送る――サタケの発した想定外の言葉に隊員たちは呆気にとられた表情で固まった。


©「勇気爆発バーンブレイバーン」製作委員会

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