谷明造型の真髄とガレージキットスピリッツをARTPLA「機甲界ガリアン 鉄の紋章 鉄巨神vs邪神兵」で実現
2024.06.21現在、谷の原型制作はデジタル造形によって行われている。そのため、2020年代に入って原型制作がなされたARTPLAのスレイプニールやマシーネンクリーガーなどのアイテムは、谷がデジタルで作り上げた原型のデータをもとに、中国の金型工場で金型化する手法が採られている。
しかし、2010年代後半の段階で、谷の原型制作は、いわゆる“手原型”と言われる、粘土やパテ、プラ板などの素材を盛ったり削ったりして行う形で造型が行われていた。その後、谷がデジタル造形へと軸足を移すことにより、「鉄巨神vs邪神兵」は谷がアナログによる“手原型”で制作した最後期の大型アイテムとなった。商品の企画段階の「造型で完全燃焼できる」というコンセプトのもと、谷自身もリミッターを外す形で原型制作に臨んだということを踏まえると、「鉄巨神vs邪神兵」は、海洋堂と谷にとってもある意味特別な意味を持つ造形物だったとも言えるだろう。
海洋堂でARTPLAの企画・開発を担当する塩入翼は、「鉄巨神vs邪神兵」を商品化するにあたり「谷さん本人が手で作った感を失わせない、手で作られたものがそのままプラキットになっていると感じさせるプロダクトを生み出したい」と考えていたという。そしてそこから、インジェクションキット化に向けて、こだわり抜いた工程を歩んでいくことになる。
「完成度の高い谷さんの原型といえど、各部にはチラっとアナログ造形であることが垣間見える部分があるんです。邪神兵の鱗のディテールの心地よい不均一感やエングレービングの絶妙な段差感、凹モールドのちょっとしたブレ。コード類は、市販品をそのまま使用しているがゆえの存在感、各パーツのエッジの絶妙な丸み。こうした部分は、CADで設計するとなると綺麗に修正されがちな部分ですが、あえてそのまま残しています」(塩入)
谷が手掛けた“手原型らしさ”を残したままキット化するために、まずは原型をレジンを使って複製し、それをもとに100を超えるパーツを光学式3Dスキャナを使用して高解像度でスキャンを行っている。3Dスキャンによって、原型は高精度にデジタルデータ化がされたが、さらに海洋堂社内のデジタルサポートチームによって、3Dスキャンでは再現しきれない細部の表現を原型を確認しながら地道にデジタル修正を行っている。
「さすがに拾いきれなかった細かいコード類の表面は、原型を見ながらしっかりと商品でも確認できるようにディテールアップをし、原型の格好良さが出るように調整しています。一週間ほどかけて複製原型の102パーツを調整したと記憶しています。大きなパーツや表現が細かいものに関しては各部の形状確認にしっかりと時間をかけ、1日10~20パーツを調整することを目標に作業しました」(海洋堂デジタルサポートチーム 水田帆南、仲井彩身)
こうして完成したデジタルデータはARTPLAの設計・金型制作をおこなう中国の工場に渡され、インジェクションキット用のパーツ分割作業に入る。パーツ分割も出来上がったデータを工場側に渡すだけという完全にお任せという形はとらず、あるコンセプトのもとにこだわった設計をお願いしている。それは、「もの凄い造型作品が、組み立てるだけで目の前に現れる」というものだった。開発担当の塩入によるこのコンセプトの提示によって、パーツ分割の方向性が決定されることとなった。
「キットは、パーツ状態でもなんとなくどの部分であるかがわかる単位でまとめていて、原型を左右で分割する“モナカ構造”を積極的に採用しています。邪神兵の胴体などが顕著ですが、ミルフィーユ的に重なり合うモナカパーツを嵌めていくと、みるみるうちに谷造型が姿を現していきます。その組み立てることで凄い造形物が現れる快感を味わって欲しいという思いがありました」(塩入)
「鉄巨神vs邪神兵」は、これまでのARTPLA同様のポーズ固定のキットとなっている。ロボット系のインジェクションキットで一般的な可動モデルのようなポーズをとらせるための可動構造が入った関節パーツが存在せず、リアリティを感じさせる形状で固定された関節部の造型も大きな注目ポイントとなっている。
「何か新しいキットを買うときは、見たことのないパーツにワクワクするものです。本作は原型をできる限り再現しているので、可動プラモでは表現の難しい箇所である伸び、縮んだ動きを実感させる関節のディテールを含む腕や足のパーツにはぜひ注目して欲しいです」(塩入)
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