ROBOT魂ver. A.N.I.M.E.で『機動戦士Zガンダム』始動!! 柳沢仁氏×元木博行氏×BANDAI SPIRITSの企画スタッフインタビュー!
2024.04.23ver. A.N.I.M.E.でZガンダム始動!!
開発スタッフインタビュー
ROBOT魂ver. A.N.I.M.E.の新たなラインナップとしてついに始動する『機動戦士Zガンダム』シリーズ。グリプス戦役のMSをいかにして「ver. A.N.I.M.E.」のフォーマットに落とし込んだのか? そして今後の展開は? キーパーソンである企画協力のアーミック柳沢仁氏、造形/設計を担当しているT-REXの元木博行氏、BANDAI SPIRITSの企画スタッフにお話をうかがった。
(取材:五十嵐浩司、文:岡本智年)
柳沢仁(やなぎさわ・ひとし)
1968年、東京都出身。有限会社アーミック取締役。ホビーメーカーのコンサルタントや企画~発売までのサポート業務に従事する。
元木博行(もとき・ひろゆき)
1974年、埼玉県出身。T-REX取締役。造形および設計デザイナーとして、DX超合金マクロスシリーズやROBOT魂ver. A.N.I.M.E.、HI-METAL R等関わっている。
10年経っても“古い”と言われない物作りを『機動戦士Zガンダム』で意識しています
――ROBOT魂ver. A.N.I.M.E.のラインナップとして、『機動戦士Zガンダム』がスタートします。『Zガンダム』を展開し始める経緯は?
柳沢 『機動戦士ガンダム』に次ぐテレビシリーズの『Zガンダム』は、「ver. A.N.I.M.E.」展開当初からすでに見据えていました。ただ『Zガンダム』の場合はモビルスーツ(以下MS)が大型化し、可変MSもあるので機構的ハードルが多い。だから先延ばししたい気持ち(笑)でした。やがてファーストガンダムの派生MSも残り少なくなりBANDAI SPIRITSさんから『Zガンダム』が提案されました。
BANDAI SPIRITS 2020年に5周年を迎えた「ver. A.N.I.M.E.」は6、7周年と走り続け、世界中のお客様に愛されるワールドワイドなシリーズになりました。だからこそ、満を持して『Zガンダム』でさらなる驚きを与えたいと思ってます。
――“驚きを与える”という部分では、アーミックさん、T-REXさんが考える『Zガンダム』の方向性、既存商品に対するプラスアルファはどのような部分でしょう。
柳沢 「ver. A.N.I.M.E.」は、MSの開発系譜が見えるプロポーション、設定や劇中イメージを逸脱しない範囲での統一性を大事にしているシリーズです。『Zガンダム』で多くの設定画のクリーンナップを担当されたのはメカニカルデザイン・藤田一己さんです。
他にも多くのデザイナーがMSを手がけている『Zガンダム』ですが、どこかに統一性を持たせたい。新世代のMSであるガンダムMk-Ⅱやリック・ディアスであっても“テレビやOVAに登場したMSからパワーアップした系譜の機体である”ことを大事にしたいと考えています。
――“アニメのイメージを再現する”だけではなく、過去・後継作品も含めた繋がりを「ver. A.N.I.M.E.」で打ち出していこうということですね。
柳沢 例えば『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』に登場したジム・クゥエルが存在した上での黒いガンダムMk-Ⅱということですね。作品が異なる2体であっても並べられるようしておきたい。ジム・クゥエルのベースにしていたジム改の開発段階ですでにガンダムMk-Ⅱを想定していました。
元木 私は原理主義に走っちゃう派(笑)なので“『Zガンダム』のMSはこう”となりがちなので、解像度を上げ過ぎないように系譜や統一性を意識しています。また、途中段階のチェックで近い系譜のMS、例えばMk-Ⅱの場合は……。
柳沢 ジム・クゥエル、ジム・カスタムだったかな。
元木 それらとMk-Ⅱを並べて統一性を確認しました。1体だけ突出しないように気を使うので、初期段階での直し、バランス調整は当然入ります。
柳沢 もうひとつのコンセプトとして“劇中シーンの再現”を大事にしています。難しいこともありますが、いったんはT-REXさんに無理をお願いして出てきたものを見せてもらい“ここは可動を優先で攻めよう”や“ここは諦めよう”などのやり取りをしています
元木 まず設定資料や大量のキャプチャー画像と合わせて“このポーズは外せない”などのオーダーが柳沢さんから届くので、可動を仕込んだ3DのPDFで確認していただきます。T-REXとしては設計・強度・遊びやすさを気にしながらも結構ギリギリまで攻めているのですが、柳沢さんからさらに攻めたコメントをいただき、BANDAI SPIRITSさんに調整していただきます。
その後T-REXでベースとなる立体のモックモデル=1号機を作り、さらに検討を重ねます。ファーストガンダムでは本当に手探りの状態から始まりましたが、ノウハウは蓄積されていますから現在は方向性を決めやすい。でも『Zガンダム』となれば、皆さんの見る目、望まれるハードルもやはり変わります。
――『Zガンダム』のMSは、可動を意識したデザインに見えるのですが。
元木 実は『機動戦士ガンダム』のMSは形状がプレーンなので、可動に関しては動かし方をいろいろと考えることができます。逆に『Zガンダム』ではMSを構成する面が多いために干渉する部分が出やすいんですよ。
柳沢 『Zガンダム』を手がけて改めて気づいたことですが、一年戦争系のMSの場合はある程度これまでのフォーマットが活かせました。ところが『Zガンダム』に関しては、デザイン的に尖っているものが多く、デザイン時にムーバブル・フレームなども取り入れられているとはいえ1985年の作品です。関節構造にしても一見曲げやすそうなのですが、実際に立体化した際には“もう一息深く曲げたい”となる部分が多いので工夫は必要です。
元木 デザインをトレースし過ぎると、意外と動かないですね。
柳沢 特にMk-Ⅱの肩部は問題になるだろうと思っていました。
――「ver. A.N.I.M.E.」のMk-Ⅱの肩部は、可動部分のパーツがフレーム構造だと認識できるのが素晴らしいです。
柳沢 フレームが胸部と肩部に双方に喰い込むデザインなので、最初はどうやって前後に振るんだっていう(笑)。この肩付け根で3軸+ボールジョイントの構造になっています。見映えも気にしなくてはいけなかったのでBANDAI SPIRITSさんとの相談で、POM素材の関節パーツを肉厚ギリギリまで攻めて、カバーを被せる構造になり肩付け根に片側5パーツも使ってしまいました。
元木 プロポーションでは、ウエストを太くする調整が入りましたね。
柳沢 最初はもっと設定画に近い細さでした。ただ並べて確認すると腰周りが細く見える印象がありました。RX-78-2、さらにガンダムNT-1~GP系を踏まえるとMk-Ⅱはウエストを太くすることで、MSの系譜的により力強く見えることを意識しました。
――バルカン・ポッド・システムを装着しながら、首が大きく可動しますね。
柳沢 首に関しては劇場版『星を継ぐ者』でガルバルディβを回し蹴りするシーンの動きを再現したいと思っていました。
元木 柳沢さんから「首はどこまで回ります?」と相談を受けて、最初は「いや回んないっす”って(笑)」どうしても再現したいという意見からですね。
――映像の発進シークエンスと同様にシールドも正面を向けられるのも新しい解釈ですね。
元木 最初のオーダーに「シールドは前に向けたい」とすでにありましたね。
柳沢 既存の商品で気になっていた部分でした。再現するためにシールドと前腕をつなぐジョイントパーツに一軸追加しています。
――「ver. A.N.I.M.E.」では初となる藤田さんのデザインと対峙した感想は?
柳沢 『青の騎士ベルゼルガ物語』の頃から藤田さんの描くラインがすごく好きだったので、藤田さんテイストのあるMk-Ⅱが作りたかったんです。
藤田氏のデザインは手描きで直線が全部湾曲していますから、メインの構成はパキパキしている印象なのに実は安彦良和さん的にふっくらしている。また1985年当時はデザイン段階でC面が表現されていても、ふわっとファジーな線で描いてある。僕たちがある程度エッジの捉え方を想像する必要があります。
トータルイメージとしては劇場版『Zガンダム』のMk-Ⅱを参考に再現するのが一番だろうと思いました。
元木 藤田さんのデザインについては手描きであることも含めて、エッジの立ち方や面構成に注意を払いました。生産時の仕上がりも考えながら調整したので、普通のモデリングに比べて倍ぐらいの手間をかけています。
――そういう意味でも、このMk-Ⅱはまさに最新の解釈ですね。
元木 「ver. A.N.I.M.E.」は10年経った時に“古いね、昔のデザインだね”と見られないを『Zガンダム』でも意識しています。可動等のギミックに関しても、工場のクオリティが上がった現在だからこそ、シールドの伸縮や腰部背面のハイパー・バズーカのマウントなど可能となった機構が多くあります。一方でやりすぎないことも大切ですよね。遊びやすさも含めた落としどころは常に意識しています。
柳沢 僕は今回、特に足の甲部分の形状を気にしていて……。
元木 Mk-Ⅱを立たせると、ここでラインが切れがちですよね。
柳沢 そう、スネのフレームからシリンダーが出ていて、そのカバーとしてグレーの部分があるこの流れ。全部が装甲の内側でちゃんと繋がり、収まっていてほしい。また足首を構成するパーツ全体のシルエットがきれいに楔形に整って、各パーツの角度が美しく交わっているのを再現したかった。
元木 足首と胸部はMk-Ⅱの難所ですよね。
柳沢 胸は正面形の左右の端がちょっと下がっていてね。これ、図面や画像の段階で見ると不安になるんですよ(笑)。“かっこ悪くなるのでは……でも設定画では絶対に下がっているし”と。OVAのMS設定画はデザイナーさんが考えた面構成をある程度読み取りやすかったのですが、Mk-Ⅱは面構成がまったく違う作法でした。このあとに続く商品は『ver. A.N.I.M.E.』のMk-Ⅱを真似してくれると嬉しいですね。
――“俺のMk-Ⅱはこうだ”って気持ちが皆さんにあるのですね。
柳沢 僕たちの世代には『Zガンダム』って、待望の新作ガンダムでした。リアルロボットのブームを通過した上での進化系として“MSのデザインがこうなるんだ、凄ぇ!”って。その時の感動はもう伝わりづらいと思いますが(笑)。当時を知る人には、その頃を思い起こしてもらえる商品にしたかった。Mk-Ⅱは凄く気合いが入りましたよ。
――リック・ディアスの立体化も、かなりのハードルだったと思います
柳沢 リック・ディアスは、元木さんのこだわりに驚かされました。
元木 元のデザインが好きすぎるという原理主義(笑)が良い方向に働き、バランスについては早い段階でOKが出ました。その上で“もっと肩を大きくしませんか”と。
柳沢 いつもとは逆に僕のほうが“大きすぎないですか?”とリアクションして(笑)。
元木 “上腕はもっと丸みがあったほうがいいんじゃないですか”“手はデカいほうが”などのリクエストを言わせてもらって。ちょっとうるさかったです(笑)。
柳沢 その結果、エモーショナルなリック・ディアスになったと思います。
――Mk-Ⅱに比べると、確かに手が大きいですね。
柳沢 手の大きさは悩ましいところです。手の比率は作品ごとに結構違っていますが、手の大きさを変えると武器の互換性がなくなる。アクションフィギュアとしての武器交換が遊びの部分で求められるので、手の大きさは設定画から逸脱しすぎないサイズ感、ギリギリ違和感のない範囲で統一しようと意識しています。
元木 武器についてもグリップ部分で互換性を考えた設計をしています。
――頭部はバルカン・ファランクスを差し替えなしで再現していますね。
柳沢 T-REXさんの変態設計ですね。僕は差し替えでいいと言ったんですけど。
元木 バルカン・ファランクスはBANDAI SPIRITSさんに“できる?”って聞いてから進めました。
――スライドして伸びるんですか?
柳沢 そうです。開いて、引っ張り出して、前に倒す。このサイズでは初だと思います。
――ビーム・ピストルのギミック、ランダム・バインダー基部の造形、トリモチランチャー時のハンドも付属するなど随所にこだわりが感じられます。
柳沢 背中のラックにビーム・ピストルを付けるのは、不安定になってしまう場合が多いので、出っ張り部分を可動にすることで干渉を避けて落ちないようにしています。トリモチハンドは付けないと絶対クレームだろうなと思って(笑)。
――驚いたのはこのサイズの脚部装甲に設定通りにディテールが入っているところです。
柳沢 リック・ディアスならばやっておかなければならないですね。
元木 リック・ディアスは、装甲も厚いですし。
柳沢 厚みとディテールを再現するために、パーツを分割しました。
元木 当時から大好きな機体だったので、こだわりすぎるかもしれないという意識はありましたが、何度もやり取りさせてもらえたおかげでいい塩梅に仕上げられたと思います。ただリック・ディアスとしてはもっとデザイン画に寄せてもよいという気がしないでもなくて(笑)。
――最後に今後のラインナップについて教えてください。TAMASHII NATION 2023で参考展示されていたMk-Ⅱのエゥーゴカラー仕様、ハイザックなどについては企画が進行中だと思いますが。
BANDAI SPIRITS ハイザックは商品化が決定しました。Mk-Ⅱのエゥーゴ仕様などの機体に関しては、皆様の応援次第とはなりますが、ご期待ください。
――ジャブロー編にはMSVも登場します。こちらについては?
BANDAI SPIRITS ジム・キャノンとグフ飛行試験型の発売が決定しました!
――可変MSや大型MSについても気になるところです。
BANDAI SPIRITS 「ver. A.N.I.M.E.」はアニメ設定準拠の造形にこだわりながらも可動することがコンセプトのブランドです。そこは優先しながらどういった仕様がよいかを鋭意検討中です。
柳沢 可変MSに関しては、ユーザーの皆さんのご意見を聞きたいですよね。今まで通りプロポーションと可動を重視したモデルで“変形はもう他の商品があるからいいよ”と言ってもらえるものなのか、それとも“完全変形しないのはナシでしょう”みたいな話になるのか……。
BANDAI SPIRITS ぜひ、ユーザーの皆様のご意見もお聞かせいただきたいと思います。
――本日はありがとうございました。
(2024年2月28日、BANDAI SPIRITSにて取材)
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