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『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』でメカニック表現がCGになった理由とは? メカシーンの制作スタッフに裏側を語ってもらった

2024.03.24

メカニックパートスタッフ座談会 重田智、佐藤光裕、櫛田健介 月刊ホビージャパン2024年4月号(2月24日発売)

メカニックパート
スタッフ座談会

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』座談会 メカニックパートスタッフ2

 『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』において、大きな見せ場を担うモビルスーツや艦船による戦闘シーン。本作では、CGを駆使することで『ガンダムSEED』らしさを残しつつ、さらに進化したメカニカルアクションが展開されている。本作のメカシーンはどのようにして制作されていったのか? TVシリーズから作品に関わり続けている重田 智氏に加え、本作のCGディレクターである佐藤光裕氏、櫛田健介氏のおふたりを交えて制作の裏側を振り返ってもらった。

重田智

メカニカルアニメーションディレクター

重田 智

佐藤光裕

CGアニメーションメインディレクター

佐藤 光裕

櫛田健介

CGモデリングメインディレクター

櫛田 健介

聞き手/石井誠


■『SEED FREEDOM』でメカニック表現がCGになった理由

──まずは、それぞれどのようなお仕事を担当されたのか教えてください。

重田:役職としてはメカニカルアニメーションディレクターとなっていますが、作業としてはCGワークの下支えですね。具体的な作画や作監作業よりも、物量としてははるかにそちらが多かったと思います。
佐藤:自分はCGのアニメーション、カット全般の制作を担当させていただきました。
櫛田:私はモビルスーツをはじめとした、メカのモデリング全般のディレクションをしています。

──今まで、サンライズ作品のCG制作は、サンライズ社内にあるCG専門のデジタルクリエイション(DC)スタジオが引き受けたり、外部のCG会社が担当することがありましたが、今回はどのような体制でやられたのでしょうか?

佐藤:今回の『SEED FREEDOM』は、バンダイナムコフィルムワークスの第1スタジオに『SEED FREEDOM』専属のCGチームを結成し、そこで制作作業しているという形です。

──かつては、CGは専門の部署で引き受けて作業する形だったのが、アニメーション制作においてCGが欠かせないものとなって、各スタジオにCGのディレクターが入るようになったということでしょうか?

佐藤:そうですね。かつてのDCスタジオに所属していたCGスタッフと、『機動戦士ガンダムUC』のCGスタッフが合同で第1スタジオの3DCGの専門スタッフとして関わっているという形ですね。

──本作では、モビルスーツはかつての作画での表現から3DCGを取り入れた表現に変わったわけですが、具体的な理由などはあるのでしょうか?

佐藤:現在、メカの表現は他社さんも含めてCGが多くなっているので、今作においても時流に乗ったものだと思います。
重田:福田さんも、TVシリーズの時も艦船類はCGを使っていましたし、初期の劇場版の企画を立ち上げた時にも3DCGはTV以上に使いたいとは言っていましたので。3DCGを使わないということではなく、もともと使うつもりだったのが、時の流れとともに現状の作業量の体制になったということでしょうね。

──どのような形で作業を進められたのでしょうか?

佐藤:具体的な流れとしては、コンテをもとにCGで簡単なプライマリ(おおまかな動きなどを表現したもの)を作りまして、それを監督が演出的部分を。動きや画面の見映えに関わる点を重田さんに見てもらいました。重田さんからは手書きの修正指示を入れていただいたりします。それをフィードバックして作業者のほうでもう一度精度を上げたものを作り、再度チェックしてもらうという作業を重ねてクオリティを上げていくという形ですね。

──重田さんはモビルスーツのモデリングからアニメーションまで、しっかりとCGのディレクションをされていたんですね。

重田:最初の作業依頼がモデリングの監修でした。いわゆる『SEED』的なテイストというか、ルックを出すにあたって、大河原(邦男)さんの設定画をそのままCGモデルでリライトするのではなく、モデリング段階でのプロポーションを見てほしいと。最初はそういう依頼でした。ただそもそもモデリングのチェックをするにしても、どうやってやるんだろうという状態で。ガンプラなどの立体物の監修を何度かしたり、他作品では3Dモデルに絡む仕事もしていたので、立体物としての形状に対して意見を言うことは全くわからないということはありませんでしたけれど、それでもモデリングやCGカットをどうやって見て、どうやって指示を出すのが正しいやり方なのかわからないんですよね。他の作品で他の方がやっているチェックを見たことがないので、お手本もない状態だったんですね。

──アニメ制作の中でもCGは新しく登場した作業でもあるので、現段階でもセオリーがちゃんと決まっていないというのもあるかもしれませんね。

重田:CGの制作進行をしているスタッフに「『THE ORIGIN』とか『閃光のハサウェイ』ではどうしているんですか?」って聞いたら「人それぞれです」って言われてしまって(笑)。だから、とりあえず正解かどうかわからないんですけど、「こんなんでいいのかな?」と修正を入れるようにしていて。ただ、それがCGを実際に作るスタッフにとってわかりやすい指示になっているのか、欲しい情報がちゃんと伝わっているのかわからない。そこは「わからなかったら聞いてね」と伝えつつ進めていました。

──重田さんにとっても今回の作業はすごく手探りだったんですね。

重田:「こうなったらいいな」という思いの丈を描きつつ、立体映えするのかどうかの辻褄が合う、合わないというのもそれなりに考えてやらせてもらいました。でも、ガンプラやMETAL BUILDのような立体物と同じで、最終的な辻褄合わせは担当者まかせになってしまうんですよね。良くも悪くもアニメーターは見てくれで勝負してしまうので、そうならないように立体を意識しているんですけど、完全にはこちらが描いたとおりにはできないとも思うので、ニュアンスなどを汲んでもらって、最終的には“らしさ”が出てくれればと思ってやるしかなかったですね。

■モビルスーツの形状を決めるモデリング作業

──モデリングの監修作業はどのような手順を踏んでやられたのでしょうか?

重田:最初に大河原さんの設定があって、それをもとに、まずCGモデラーの方に「重田さんだったらこんなプロポーションで描きますよね」というようなモデルを作ってもらって、その三面図や顔のアップ、アングルの付いたものなどを出力して持ってきてもらって。デジタルに明るい人ならペンタブとかで修正作業するんだろうけど、自分はアナログなものなので、その上に作画の原画修正と同じように、修正用紙を被せて線を描いて「バランスはこんな感じ」、「ここをこうしてほしい」みたいな要項を描いていく。方法はガンプラの監修の時とほぼ同じでしたね。ただ、ガンプラだと「それを入れるとパーツの肉厚が」とか、「関節の強度が」というような問題が出てくることがあったんですけれど、映像用のCGモデルはそのあたりはあまり気にしなくていいので、気持ち的にはちょっとラクだったかなと。プラモデルだと「翼の開き具合をこんな風にしてほしい」と言っても「そこにはヒンジが入らないんですよ」と言われちゃうんですよね。ただ、CGも仕込むものは一緒なので、自分が思っているほど簡単ではなかったかと思いますが、「これ以上薄くできません」みたいなことはあまり言われたことがなかったですね。

──実際のモデリング作業は、「重田さんだったらこう描くだろう」というところから手探りで始めたという感じでしょうか?

櫛田:そうですね。大河原さんの設定と、当時映像で見ていた重田さんの作画のふたつが存在するので、一度「こんな感じ」というのを作って、それを見ていただく形にしました。また、先ほどもあったとおり、CGも立体物なのでガンプラと一緒で「この関節位置だと、曲げた時にめり込んでしまう」という箇所があったり、「この可動をすると関節周りがスカスカになっちゃう」とかいろいろ問題も出るので、そのあたりはその都度重田さんに相談させてもらいました。
重田:例えば、ライジングフリーダムやイモータルジャスティスの背中に配置されるノーズコーンの内側にカバーが無くてコーンの中が丸見えになっちゃうんですと。作画なら黒く塗り潰しておくこともできるけれど、CGだとそうもいかない。完成映像を見たらほとんどわからないとは思うんですけど、ベースはそれなりに作っておいたほうがいい……というようなことはありましたね。
櫛田:イモータルジャスティスは、ノーズコーンの内側に、ディテールの入ったギミックを描いていただいたりもしています。あとはヒジ、ヒザ関節は監督の要望があって実物大ガンダム立像や動くガンダムなんかのメカニカルな感じがほしいというお話がって。そこだけ作画に比べてディテールが多くなるよう、それらを参考にオリジナルで作らせていただきました。そのあたりは今出ている立体物にも反映されているみたいで良かったです。

──今回は物量がかなりの数になっていますが、どれくらいのモデルが作られたのでしょうか?

重田:モビルスーツは50体くらいとかだったかな? かなりの数になっていましたね。だから、モデリングが早々に終わってCGカットに専念ということができなくて。作業も冒頭の出番が早いところからモデルを作っていかなくちゃならないので、ダガーやジンが最初で、そしてライジングフリーダムやイモータルジャスティスが次に来てという形で。もちろん、モビルスーツ本体だけではなくて、バックパックなどの別武装もあったりするので、1体につき結構な数になってしまっている。機体の数は50体くらいだけど、指示書として描き込んだページ数だと何ページあるんだという感じでしたよね。

──そういう意味では物量の多さが苦労されたポイントではあるんですね。

重田:『閃光のハサウェイ』では今時のリアルなディテール構造を詰めていく形だったと思いますが、こちらはとにかく機体数が多くて大変でした。こんなにモビルスーツや戦艦が出てくるガンダムは見たことがないんじゃないかって。『閃光のハサウェイ』や『ククルス・ドアンの島』などは場所が限定されているのに対して、こちら“お祭りみたいな”総力戦だったりするので、見ている人は楽しかったかもしれないけど作業しているほうはなかなか大変でしたねね。泣く泣く絞っちゃったところもあって、ザクも結局色違いや武装違いを用意はしたものの使い切れなかったりもしていますね。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』座談会 メカニックパートスタッフ
▲座談会中は、3Dモデルに重田氏の指示が書かれたものや、モデリング作業中の画像等が補足説明に使用された

■『SEED』らしいモビルスーツ形状を見せるためのこだわり

──可動に関してもいろいろ考えながらやられているのでしょうか?

重田:関節位置はあとからずらすのが大変なので、最初に決め込んでほしいと言われていたので、三面図上の時にでプロポーションを詰めておいて、あとからアングルを変えた時に「ここがこう見えたらいい」といった感じで付随して調整していった感じですね。基本的に今回のモビルスーツは極端に背が高いとか寸胴だとかというのはないので、各モビルスーツで関節位置はあまり変わっていないです。気を付けたのはバランスで、全体的なシルエットが映像で見た際に映えるかというところですね。あとは細かい部分だとキャラクターとしてそれぞれの機体を捉えた時に「こんな感じのラインやパーツのボリューム感が欲しい」という雰囲気や、「作画だったらこうする」という見せ方なんかも指示を出す時には気を付けていました。
櫛田:ズゴックは結構悩みましたよね。
重田:何度やってもなかなかOKにならなくて。特にズゴックとカルラはイメージがつかみづらくて何回も修正を重ねていって。当初、福田さんが「ズゴックは可愛いんだよ」と言ったので、みんなそっちに引っ張られてしまって。でも最終的には「これがズゴックだよ」というバランスになって、可愛い感じは全然なくなってしまっていてね。
佐藤:結局、「カッコイイ」になっていましたからね。
重田:ズゴックは、先ほど言ったようなモビルスーツとは全く違うバランス感覚で調整することになりました。ズゴックらしいシルエットにするためには、いわゆる『SEED』に出てくるスラリとしたイメージの機体とは変えていて、これまで、いろいろ方が手を入れたズゴックのデザインバランスを見ながら、「ここをこうするとらしくなるな」と調整をしています。CGカットの映像が出来上がっていくのを見ていた福田さんはズゴックが一番のお気に入りになったみたいで。「カッコイイな!」って自画自賛していました(笑)。
佐藤:ズゴック立ち上がるストロボのカットは、監督がすごく喜んでいましたね。
重田:『機動戦士ガンダム』のオマージュをそっくりそのままできて良かったと(笑)。あと、モデリングで大変だったのは、ファウンデーション側の機体ですね。わざとガンダムフェイスではない感じになっていて、大河原さんと福田さんがデザインを揉んでいる時に「これ、どう思う?」ってデザインを見せられて、“らしく”ないので返答に困りました。実際に3Dモデルに起こす時もどんなバランスにしたら“らしく”なるのかわからないし、どこまでやれば『SEED』っぽくなるのかも難しかったりもして。
櫛田:今までの『SEED』からすると、完全に新規の方向でしたからね。
重田:カルラに関しても途中で意見を聞かれていて。中期の頃は装甲に金色の模様が入ってなかったんですが、模様は入れたほうがいいと提案しました。手描きではないからできるところではありますよね。敵の存在がTVシリーズのように話数を追って説明されないので、見た感じが異質で、なおかつザフトや連合とも違う雰囲気が出せたほうが良い。ファウンデーションの王城とかの雰囲気もあったので、大将機としての存在感があったほうがいいと思ったのでそう提案しました。

■CGで新たにチャレンジした『SEED』らしい表現

──CGチームにとって、重田さんとのお仕事はこれまでとは違う感じだったのでしょうか?

佐藤:かなり違いますね。ここまで手取り足取りサポートしていただけたのは重田さんくらいなので。他の作品だと、カットの修正指示はどうしても文章だけでの簡単なやり取りになることもあったのですが、かなり細かく修正を入れていただいて。ここまでやっていただけたのは初めてでした。
櫛田:モデリングに関しても、私の今までの経験上、一番わかりやすい指示書きでした。
重田:自分もそうなんですけど、画を描いて何かを表現する人は、「見てもらえればわかるんだ」と思っているところがあって、それを人に説明する時に言葉でうまく伝えられないことがあるんですよ。それは、作画作業でもCGカットのチェックの時にも感じるところはあって。作画の場合、直したい時は、上がってきた絵に対して、修正用紙を乗せて「このとおりに直してください」と指示を出せば、ある程度の完成ラインにはなるわけです。でも、CGカットの場合は言葉で担当の作業者に説明しなくちゃいけくて、これが難しい。語彙力も必要だし、お互いの頭の中を見ているわけじゃないので、イメージや内容をきちんと伝えられているのかもわからない。そこは本当に難しくて。

──絵ではなくて、立体の形とそれに伴う映像になると、イメージをきちんと伝えるのは難しそうですね。

重田:CGカットのチェックは普通のドラマや映画と同じで、役者さんに演技指導をするように、こちらのイメージを時には自分でアクションの「動き」を見せたりしてやっていくしかないようですね。なので、メカ作画が上手い人が必ずしもCGの人に教えるのが上手いかといえば、そんなことはないかもしれません。

──では、実際に「CGを動かす」方のお話も聞ければと思いますが、今回の映像的な方向性はどのように決められていったのでしょうか?

佐藤:やはり、『SEED』のTVシリーズの印象を持った方がお客さんとして来られるので、真っ先に考えたのは作画を見ていた人たちが「なんだCGか」とならないようにすることですね。そうした懸念はどうしてもあるので、なるべく作画の印象と変わらないようにするという部分に気を付けました。なので、モデリングでも結構細かくリグ(可動部)を入れてもらって、なるべく作画の時と同じように動かせて、変形しやすいオーダーをさせていただきました。コマ打ちもCGならばフルアニメーションの1秒間に24コマで出すこともできるのですが、そこからわざとコマを落として、2コマ落ち、3コマ落ちにして作画アニメーションのタイムシートに合わせたようなアクションになるよう気を付けています。そのようにやっていたのですが、序盤のほうをTVシリーズのイメージのまま作ったら、監督から「序盤は違うんだ」と修正を言われたときもありました。

──完成映像はドキュメンタリータッチというか、戦争映画的というか、ちょっと重厚な感じでしたね。

佐藤:そうですね。特に夜間戦闘の部分は超リアルにやってほしいと言われました。
重田:あそこは自分も最初はよくイメージがつかめなくて。「リアルじゃなきゃ困る」って言われたんですけど、「リアルとは?」となってしまって。福田さんの意図はわかるんですけど、完成映像としての出来上がりを自分も明確にイメージできずに、どこまで抑えた感じにすればいいのかのバランスが難しくて。あと、CGはどうしても本撮(仕上げ段階のすべての素材が集まった状態での撮影)にならない限り映像が決まらないことも多いんですよ。モビルスーツの動きはテイクの「積み重ねで見ることができるんですけど、エフェクトやライティングは撮影処理で印象がずいぶんと変わってくるんですよね。動きに関しても「これくらいならいいかな」って思っていると「やり過ぎだ」と言われてしまって。例えば、ライジングフリーダムが変形する時に“らしく”ないのでクルッと回転しちゃいけないと言われたりしてね。
佐藤:そういうのはありましたね。
重田:後半を所謂『SEED』らしい映像にしたいので、前半は逆に引き締めておきたいというのを福田さんは最初からオーダーしていて。今思えば「なるほど」と思うんですけど、やっている時は作品の全体像が見えないので「どうかな?」って悩みながらの作業でしたね。さらに言えば、序盤の夜間戦闘は、過去の『SEED』ではやっていなかったので、サンプルもないのでやはりちょっと難しかったですね。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』座談会 メカニックパートスタッフ3

■モビルスーツの動きと表現に関わる関節配置

──先ほどちょっと動きの話が出ましたが、映像演出に応じられるようモデリングの段階でリギングを組み込んでいらっしゃるんですよね?

櫛田:そうです。モデルを作る際に、やはりセル作画に寄せたい、できる限りセルに寄せた動きを付けられるよう、リギングが組めるようリガーの人たちと相談しながら試行錯誤してやらせてもらいました。各部の調整が効くように組んだので、カットのほうでも結構自由度が高かったと思います。
重田:作画の場合はノリはじめたらパース感や可動範囲なんかをあまり考えずに描いたりするのですが、CGの場合は最初に想定しておかないと「できません」になっちゃうこともありますよね。幸か不幸か『SEED』という世界観の共通認識はあったので、モデルの段階で想定したポーズが取れる位置にリグを入れてもらって。実際は使わないかもしれないけど、劇場版では細かいところもいじれたりするから、スラスターなんかも固定じゃなくて角度が付けられるようにしてもらって。だから、指示書には「ここは可動」みたいなものはずいぶん書き込んでいました。そういう意味では、アプローチの仕方は作画アニメとは全然違いました。
佐藤:CGだといわゆるカッコイイパースというのは、結構ごまかしつつカッコよくする必要があるんです。CGモデルを撮影する3Dのカメラで普通に撮ってもあまり格好が付かない。そこで、モデル自体に各部のパーツを大きくすることができるリグを入れてもらっているんです。例えば、つま先やスネの部分だけを大きくすることで嘘のパースを付けることができる。それが全身に施されています。特定のアングルだとパースがついてカッコよく見えるけど、別アングルだと足だけ大きくなっているということなのですが、それをできるように最初からオーダーして、全身にビッシリと拡大縮小ができるリグが入っています。
重田:ガンプラを使って映画のポーズをとらせてみても、同じパースにはならないでしょうね。
佐藤:そのパースのまま左右にカメラを動かす必要もあったので、カメラの手前に寄ってくる瞬間だけパーツを大きくして、次のコマでは小さくする。そうしたモデリングとしての進化はしています。

──3Dでメカを作画風に描くにあたって、いろんな要望や経験値が積み重なった結果、そうした表現も取り入れられていったわけですね。

櫛田:そうですね。私が『THE ORIGIN』をやった時もそういう要望は結構あったので。
重田:表現の足りない部分がどこなのかをわかった蓄積の結果ですよね。
櫛田:そうですね。今回はそれを満たしつつ、さらにアニメーターの方々がいじりやすくなるように考えながらやっていました。

──そういう意味では、重田さんのレイアウトやカットごとに「こういう風にしたい」というチェックにはほぼ対応できたということでしょうか?

佐藤:そうですね。こちらが入れた標準のリグでそれはほぼできていたと思います。どうしても一部できないところは、ポリゴンからいじることもありました。
重田:上がってきたカットのテイクを見た時に、「だいたいいいんだけど、あの絵面の時に足を小さくできないかな?」と言えば「なりますから大丈夫です」となって。細かいことを言っても、あらかたは「あとでいじれば直ります」という感じだったので、そこは良かったですね。自分はCGに対しては詳しくないので、「それはできない」って言われたら「しょうがない」ってなってしまうし、だからと言ってわかり過ぎていると「この可能な範囲でやればいい」となってしまう。自分の場合はCGに関しては外にいた人間なので、「こういう風に見せられませんか?」というのを全部可能にならないにしても、今までは言われなかったけどいじればできることもあるかと思うので、あまり遠慮せずに最初から言えるだけ言っておこうと。そして、可能な部分は再現してもらえばいい。どうしても絵描きの人は、欲しいカットや1枚の原画の絵の収まりというか、見映えで絵を描いてしまうので、それに近いような絵があまり苦労せずにとれるように最初から仕込みがしてあるというのはありがたかったです。

■CGだからこそ可能になったさまざまな映像演出

──映像的には、CGだからこそのスピード感の出し方、スピーディーな動きにカメラの回り込みが加わるなど、演出的な進化に関してはどのような取り組みがあったのでしょうか?

佐藤:スピード感に関しては、普通にカメラを置いてモデルを動かしてみて、何度か調整を重ねていった感じです。CGは作画のようにタイムシートは無いので、実際に映像を見てもらいながら、「ここはもうちょっと詰めてもらいたい」とか言葉での説明をしていただきつつという感じです。作画だと中のコマを飛ばしてカッコよくスピード感を出すと思うので、そこも重田さんに伺いながら調整をしていますね。
重田:福田さんも「CGでやる」というのを前提でコンテを描いているんですよ。真面目に作画で描いたら大変なアクションの部分があるし、作画の場合だとあそこまで自由にカメラを振ることが難しいのでカットを割ったりしますよね。逆を言えば、CGだからできるようなカットにしないと意味がないということだと思います。例えば、ミレニアムがスライドしながらカメラが回り込むようなところは、CGだからこそというのはありますよね。それはある意味、福田さんが実写を意識しているんだと思います。コンテ段階でもそうした指示はいろいろあって、「カメラを固定しない」、「カメラが回り込んで」みたいな指示はたくさんありました。

──改めて劇場版の仕事を振り返ってみていかがでしたか?

佐藤:今回は物量が多かったので、時間との戦いでしたね。これまでの作品の中では、アセットもカットも最大級に多かったと思います。
重田:福田さんは、車でも飛行機でも、ましてやロボットでもなくて船が好きなんですよね。だから、ミレニアムに対する思い入れが超強かった印象があります。他の同業者に「他のガンダム作品でこんなに真面目に艦隊戦とか描いているのはないですよ」って言われたことがありました。
櫛田:ミレニアムもギミックがすごいですよね。
重田:あれも福田さんのこだわりですね。TVシリーズだったらカタパルトもクローズドにして省力化を図るんですけど、劇場版でカメラが回り込めるならオープンにしなくちゃ意味がないって、十数年前にすでに言ってましたからね。さらに、ミレニアムに対する愛情とこだわりが着水や離水のシーンでよく出ていましたよね。
櫛田:そういう意味では、艦船関係はかなりディテールが多くなっています。アークエンジェルやミレニアムはカメラが寄ったら見えるようになるアングルが多かったので、モビルスーツよりも大変な部分が多かったですね。
佐藤:完成形はモビルスーツとは別の合成方法を使っているんです。モビルスーツはわりと作画っぽい感じですが、艦船はアンビエントオクルージョンという環境光っぽい質感、つまり質感ブラシみたいなものが入っていたりするんです。そのほうが艦船のディテールアップにも合っているので。だから、質感がモビルスーツとは違って見えると思います。
櫛田:モデリングの段階で監督から艦船関係は質感を変えたい、ちょっと重厚感がある感じにしたいというお話があって。そちらは素材感が出せるように仕込みを入れています。撮影処理もちょっと合成が複雑だったりするので、撮影さんにお任せするのではなく、艦船関係はほとんどCGチームのほうでやっています。
重田:劇場版を見た方からはまだ艦船や艦隊戦に対するコメントがあまり無いようですけれど、こちらのほうも結構大変だったのでそこは見返す時には注目してほしい部分でもありますね。

──では最後に、作品の大ヒットも含めて、現在のお気持ちをお聞かせください。

佐藤:最初にお話ししたように、やっぱり20年来のファンが待っていた作品だと思ったので、まずファンの皆さんに喜んでもらえるかが心配で。結果的には喜んでもらえたようで良かったなと。
櫛田:私も佐藤と同じように、最速上映のあとにどんな感想が書き込まれるのか、ネットに張り付いてチェックしていました。やっぱり、CGって良くなかったと言われることも多いので、そこが怖くて。でも、結構評判もよくてひと安心です。自分は子供の頃に見ていた作品だったということもあって、大変な日々を乗り越えられたという思いがありますね。

──重田さんはいかがですか? 一度企画としては止まってしまった作品に改めて関わったわけですが。

重田:劇場版やるやる詐欺で一番被害を受けているのは自分だったりしますからね(笑)。今回だって、本当にやるのかなと思っていて(笑)。実際に作業に関わってみて、公開する直前まではおふたりと同じように「大丈夫かな? お客さんが本当にこれを“良し”としてくれるかな?」と不安でしたね。ただ、現在は逆に否定している人があまりいないので、違う意味で怖くなってもいます。数年経って評価がどう変化するかはわかりませんが、これは悪い意味ではなくて、本当にSEEDファンのためのイベントムービーとして考えれば、確かにこうだよなというところがあって。アニメーションのクオリティとか、ガンダムらしさを真面目に考えても仕方ないと思うし、完成品を観た時は、「福田さん、すごいな。ここまで振り切れちゃうんだ」と思いましたけどね(笑)。自分の作業としての実働は『コードギアス』との並行作業でも2年とか2年半で、それに付き合っていくのは大変でしたけど、作画作業のように自分で描いたり、作監修正したりということではない作業がほとんどだったのであまり自分でやっている気がしなかったんですよ。指示出しをするだけで、チェック作業が大切だということもわかってはいるのですが、自分が大変な思いをして実作業をやっていないので、なんか他人事みたいな不思議な感じもしていますね。

──本日はありがとうございました。

(2024年1月、バンダイナムコフィルムワークスにて収録)


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