【大人の工場見学】先端技術と匠の技をあわせもつ「無限邂逅メガロマリア」。生産工場・菊池製作所を訪ねてプラモデルが生まれるまでを見てみよう
2025.04.26ガールズプラモスタイル #06(3月31日発売)
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数値化できないプラモデルの魅力への挑戦!
菊池製作所とコトブキヤが目指す国内製造プラモデルの形
菊池製作所はもともとハイレベルな金属加工技術をもつ会社です。とある縁でコトブキヤと出会いプラモデルの開発に漕ぎ出すのですが、その過程ではさまざまな困難があったそう。プラモデルよりも複雑な構成のパーツを成型してきた職人が、「(プラモデルが)最も難しいかもしれません…各パーツの成型条件が数値化できず、さらにコトブキヤさんが好む組み味・勘合に調整するという、樹脂に気持ちを注ぐような作業が連続するのです」と言うほど。ここでは菊池製作所スタッフに、「無限邂逅メガロマリア」への挑戦と、コトブキヤとともに国内生産プラモデルをどのように紡いでいくのかをお聞きしました。
▲これまでに発売・発表された「メガロマリア」の数々。新キットは概ね月1~2のペースで発売されています。クオリティはもちろん、発売スケジュールが安定していることも国内製造の大きな強みと言えます
--「無限邂逅メガロマリア」を菊池製作所で製造することになった経緯を教えてください。
コトブキヤ開発(以下開):最初は銀行からの紹介です。金属加工を得意としており、金型製作も可能とのことで紹介を受け、トライアルをお願いしたところ成型品の精度の高さを見て、今までと違う形の商品を作ることができるという感覚になったので、まずはM.S.G(※1)から依頼していきました。その中で「メガロマリア」の企画を聞き、可動と曲線美を両立したデザインということで、菊池製作所さんの技術でなら成型品としても綺麗な表現ができるのではないかということで、「メガロマリア」の企画のYUKIさんに打診、承諾をもらい製造する運びになりました。 コトブキヤYUKI(以下コ):銀行からの紹介というのがなんともビジネス的ですが、ほぼ同じ地方の企業ということ、金型成型の技術力に興味が湧いたので、まずお話をうかがってみました。そこで一度中国で生産した「M.S.G.ヘヴィウェポンユニット16 オーバードマニピュレーター」のデータをお渡しして、成型していただいたのです。その時の精度や、菊池製作所さんとのやり取りが思っていた以上にスムーズにできたので、一緒にプラモデルシリーズを一本動かしてみたいと思いました。現在のヘヴィウェポンユニット16 オーバードマニピュレーターは、菊池製作所さんで生産した国内製造版となっていて、さらに精度が向上したものとなっています。その流れで「M.S.G.」シリーズは現在、菊池製作所さんに製造をお願いしています。
--これまでの成型品とプラモデルでは、どのような違いや難しさがありますか?
菊:金属やその他の成型品も難しさはそれぞれにあります。他のプラスチック製品で言えば、本来なら寸法公差などの許容範囲があります。各パーツ数値化しやすく、金型を作ってから成型までの流れがシンプルに進行します。しかしコトブキヤさんの製品などは、外観の稜線、製品部の勘合具合など寸法では表せない人の感覚的な要素が多分にあります。例えば、「きつい」、「ゆるい」、「気持ちいい」「超気持ちいい」です。このような感覚的な要素が関節の分だけあり、そういった成型品を作るのは初めての体験でした。「メガロマリア」は関節部が50数ヵ所、可動します。そのすべてをコトブキヤさんが提示する「気持ち良い」という感覚にまで金型を調整するのです。まったく数値化できない「気持ち良い」という感覚を私たちの中で見つけて、それをさらにコトブキヤさんと同じ感覚になれるように共有するというのが本当に難しいことでした。でもその感度の調整を何度もやりとりできたのは、私たちとコトブキヤさんの距離の近さがとてもあると思います。常に近い距離感で打ち合わせができるというのは国内製造における大きなメリットのひとつであると、改めて確信しました。
コ:テストショットのチェックのたびに、私たちがプラモデル業界的によく使われる「ピタッとはまる」「へたらない」などの感覚的言葉で何度も対話していました。まったくプラモデルを製造したことがない菊池製作所さんは大いに悩んだと思います。
菊:当初は知らない言葉ばかりでした。「デコマス(※2)って何?」とか、本当に毎回勉強の連続でした。話を戻しますと、プラモデルを成型する上でやはり一番大変なのは「超気持ち良い」と言われるまで金型を微調整していくことです。この部分は最終的に人間の手によって行われます。弊社にはプラモデルが昔から大好きな金型職人がいたことも、今回の企画には大きくプラスに働いています。彼の感覚はコトブキヤさんの嵌合イメージのすり合わせにすごく役立っています。
--「無限邂逅メガロマリア」第1弾・プリンシパルの製造について印象に残っているやりとりを教えてください。
菊:先ほどと重複してしまうのですが、やはり「勘合」です。接着剤を使わずパーツをプラの嵌合だけで嵌めていくこと。さらに気持よく可動することは現在のプラモデルでは当たり前のようになっていますが、やはり大変です。当初、勘合具合を測定により数値化し進めていこうと弊社側から提案してみたのですが、部位ごとの必要な勘合具合の違い、プラスチックの収縮による微小な変形、ゆるい、きついなどの「感覚に頼るもの」が多く測定値による管理が進められませんでした。この「感覚によるものづくり」という方針に変更し、進めていくことになりました。勘合部の修正要求が0.0025mm削りなど、機械精度以上の数値を求められることもあり、精度出しにはとても苦労しました。嵌合部分の調整は最終的には職人が手で仕上げる必要があります。そこで金型設計としては最終仕上げをやりやすい状態にできるよう金型の狙い値を検証しました。現在の加工技術は1μ単位が限界で、手仕上げを必用としない寸法を狙うには0.1μ単位の加工技術が必要です。
嵌合だけでなく外観についても非常にこだわっています。コトブキヤさんからも「国産を売りにしているからこそ、最高のものを提示したい。エッジや表面仕上げについてこだわりたい」と高い要求がありました。表面仕上げは、弊社独自の方法で艶消し加工をしてコトブキヤさんから高い評価を得ています。エッジについては厳しい要求もあり、加工方法を検討し、チャレンジしてきた結果かなり改善できてきました。また、一部ですが特殊な金型構造にしてエッジを強調することにも成功しています。詳細は企業秘密です。
開:相当厳しい要求をお願いしていたと思うのですが、それも菊池製作所さんの高い技術を信じて私たちもトライさせていただきました。今では私たちが特別な指示をしなくても、大きな武装を持つキャラクターの関節嵌合強度は高めにしてきてくれたりして、どんどんスムーズに開発が進行しています
菊:一番最初のプリンシパルで何度もトライさせていただいたおかげだと思っています。これくらいきつくするにはどのぐらい金型を磨けばよいのかも感覚で覚えられてきました。数値ではなくまさに体で覚えるといった感じです。プラモデル開発がここまで感覚的要素が強いとは本当に思ってもいませんでした。
開:ここまでのやり取りをスムーズかつスピーディーにできたのは、まさに国内製造だからできたこと。シリーズ開始1年で多数のアイテムラインナップを展開できているのも菊池製作所さんのおかげといっても過言ではありません。
--「メガロマリア」は梱包まで菊池製作所が一貫して行なっていると聞きました。
菊:はい。こちらもご協力させていただいております。蓋身式の箱(※3)だと箱にコストが大幅にかかる(組み立てた状態で輸送されるので、輸送コストが大きくかかる。模型業界では空気を運ぶとまで言われたりします)ので、キャラメル箱のような折りたためる箱を採用しています。このような梱包にもコトブキヤさんからたくさんのアドバイスをもらったのでスムーズに進行できました。
----「メガロマリア」は梱包まで菊池製作所が一貫して行なっていると聞きました。
菊:いっさいのバリのなさです。組みやすさのために非常にこだわっています。美しいパーツを多くの人が気軽に楽しんでもらえるように、常に精度の高い金型製作とパーツ成型を心がけています。
--今後チャレンジしてみたいことはありますか?
菊:現在はメカ的なラインが多いプラモデルを成型していますが、コトブキヤさんの「創彩少女庭園」のようなやわらかな造形のプラモデルにも挑戦してみたいです。
コ:私たちもぜひお願いしてみたいです。菊池製作所さんではまだ「印刷物があるパーツ」はやっていません。瞳のタンポ印刷まで可能となった日には、さらに強力なパートナーとなってくれると思います!
菊:まさかの新しい課題! これからもさらにチャレンジして、コトブキヤさんと一緒に国内製造プラモのクオリティをどんどん上げていきたいと思っています。
--本日は誠にありがとうございました。
▲菊池製作所のプラモデルチーム! 金型、設計、製造、梱包、営業とチームがひとつになって「無限邂逅メガロマリア」を作り出しています
ガールズプラモスタイル#06
2400円(税込)
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