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【境界戦機 フロストフラワー】 第8話「I Want To Know What Love Is」

2022.03.07

境界戦機 フロストフラワー 月刊ホビージャパン2022年4月号(2月25日発売)

境界戦機FFロゴ

その命は、北に咲く

 北の大地で活動するレジスタンス組織“際の極光”に属する青年、北条カイと特殊なMAILeS「ビャクチ」の活躍を描く公式外伝『境界戦機 フロストフラワー』。兵頭一歩氏によるテキストと本編メカニックデザイナーが手掛けるAMAIM の作例による特撮写真で『境界戦機』の世界観をさらに拡げていく。
 “際の極光”の拠点のひとつ、利尻で次の作戦に向けて準備を進めるカイたち。しかし、その情報はすでにユーラシア軍に察知されていた。

STAFF

 企画 
SUNRISE BEYOND
 シナリオ 
兵頭一歩
 キャラクターデザイン 
大貫健一
 メカニックデザイン 
小柳祐也(KEN OKUYAMA DESIGN)
海老川兼武
寺岡賢司
形部一平
 メカニックデザインスーパーバイザー 
奥山清行(KEN OKUYAMA DESIGN)
 協力 
BANDAI SPIRITS
ホビージャパン

『境界戦機』
公式サイト https://www.kyoukai-senki.net/
公式Twitter @kyoukai_senki

プラモデルシリーズ公式サイト
https://bandai-hobby.net/site/kyoukai-senki/


第8話「I Want To Know What Love Is」

 カイたちが利尻島に渡ってから、すでに十日以上が経過していた。
 その間、石狩川での戦闘で損傷を受けたセツロの修理と、ビャクチのオーバーホールは急ピッチで進められた。
 利尻島には函館に次ぐ規模を誇る極光の拠点があり、ここには数機のAMAIMが配備され、それを整備する専用のドックが設けられていた。道内各地から集まった専門スタッフの技術力も高く、二機に関する作業は極めてスムーズに行われた。
 だが、期待されていたルーの解析については、あまり芳しい成果は得られなかった。
 自律思考型AI関連の情報自体が少ないのも原因だが、それよりも弊害となったのは、大ユーラシア連邦による開発計画内容の不可解さであった。
 人の心情を模した六つのAIを分散し、個別にラーニングを進める“ドヴォイニーク”と呼ばれる計画 ── 連邦は、なぜそのような手間のかかる手段で開発を進めようとしているのか? 彼らはいかなるAIを生み出そうとしているのか? 結局、そんな初手の段階から躓いてしまえば、ルー自身への理解が深まるはずもなく、最終的には「ビャクチ運用のためのシステムとして問題なし」との報告のみで、解析作業は終えられた。
 だが結果報告を受け取る際、解析を担当したスタッフは、カイにある見解を語った。戦闘記録から判断するに、ルーに関しては“敵の手に渡ったという状況を利用して”ラーニングが進められている節がある ── すなわち、これまでのビャクチの戦いは、敵のAI開発の一環とされていたのかもしれないと、彼は言った。
 言われてみれば、ユーラシア軍の手練れの戦士を相手に、経験の少ない自分が対等に渡り合えて来たのは、そういう理由があったからだとすれば納得も行く。ルーのラーニングという思惑があったからこそ、これまで自分は生かされて来たのかもしれないのだ。
 冗談じゃない ── 自分への情けなさも当然あったが、それよりもカイは、命がけの戦闘をも打算的に利用しようとするユーラシア軍のやり方に、顔をしかめた。

×   ×   ×

 すべての作業が終わると、カイたちには、利尻島の隣、礼文島への移動が指示された。
 礼文は面積こそ小さいが、南北に細長く伸びた島の形と、切り立った岸壁が多い地形が極秘施設の建設向きとされ、極光のドックが多く造られていた。
 利尻の施設は、表向き、国立公園管理団体のものとされているが、こちらは存在自体が完全に秘匿された、真にレジスタンス活動を行うための施設である。ビャクチとセツロ、それに関連する装備一式は、ひとまず、そこに隠されることになったのだ。海を隔てているとはいえ、目と鼻の先の稚内にはユーラシア軍の基地もある。すぐに道内に戻そうとすればまた目立つだろうし、この措置は当然であると言えた。

「でも要するに厄介払いだよね? ただの公園の管理団体が網走を襲ったAMAIMを匿ってるなんておかしいし、次の作戦に向けての準備も忙しいみたいだしさ」
 礼文へと向かう四十分程度の船旅の中で、ルーの文句は止まらなかった。カイは甲板の手すりにもたれかかり、片手に持った携帯端末を通じて再生される声を、もうずいぶん前から聞き流していた。
「悪い方にばっか考えるなよ。礼文の方がある意味安全だって話だ。ユキのケガも治ったばかりだし、休暇だとでも考えろよ」
「カイは甘いよ。バターサンドよりチョコポテチより小樽のチーズケーキよりも甘い」
「名物ならべんな。食べたいのか?」
「私が、というよりユキがね。そんな話ができるくらいには落ち着いたみたい」
「そうか……」
 先日の戦闘で、人体実験のごときAI開発計画への怒りを爆発させたユキは、その後しばらく、ふさぎ込む日々を続けた。それなりに医療設備が整った利尻に入っても、メンタル的なケアが受けられるでもなく、結局彼は、自力で立ち直るしかなかった。そんな極光側の薄情な対応を差し置いて「休暇だ」と軽口を叩いた自分は、確かに甘いのかもしれない。ルーの忠告は的確だったと、カイは今さらながらに納得した。
 利尻の態勢は、ビャクチらの整備を終えたあと、一気に作戦モードに切り替わった。
 網走監獄を解放したことで、北海道にレジスタンスありと、極光の知名度は一気に上がった。今後もそういう戦いを継続して行くことこそが組織としては正しい姿ではあるのだろうが、ルーを得て、大ユーラシア連邦の開発計画を知るに至り、本部は方針の修正を行った。いわく、開発中のAIが六つあるならそれらをひとつでも多く奪取、もしくは破壊し、ユーラシアの計画を阻害せよ ── そんな目標が、活動の中に加えられたのである。
 そしてその新方針に基づき、ある作戦が立案された。ユーラシア軍基地のある稚内から程近い宗谷岬にある鉄道駅の襲撃作戦である。
 境界戦後、ユーラシア軍によって敷設された北海道縦断鉄道は、宗谷岬を経由して、直接大ユーラシア連邦本土の大陸鉄道に接続する。最北端の駅には鉄道を集中管理する施設があり、最新鋭のAIが導入されたとの噂があった。極光はこれまでの調査結果からそれこそがラーニング中の六つのAI“ファルベルジェの卵”のひとつであると判断、奪取しようとするのが、今回の作戦の目的だ。
 もちろん作戦には、カイたちも参加することになる。すでに多くの戦力は利尻を出たと言うし、礼文に身を潜めるのも、そう長くはならないはずだった。
 連続する大きな作戦への参加に、カイは、まるで自分がゲームの駒扱いされているような気分になっていた。それは決して嬉しい気分ではない。
(でもオレに、駒以上の何かができるワケでもないんだよ)
 またルーに「甘い」と指摘される気がして、カイはその思いを口にはしない。
 ユーラシアの横暴が許せなくてレジスタンスになった ── 意識としては単純だったかもしれないが、それでも自分なりの信念を貫いて行動して来たつもりだった。
 だが、ただAI開発のために戦いを繰り広げているかもしれない敵のことを知り、カイは、戦いそのものに対して疑問を抱く。信念ではなく、単なるデータ採りのためだけの戦い方を前に、カイたちの思いなど笑い飛ばされたような気になった。
 そして、その中で傷ついたユキ。
 オレたちの命がけさえAI開発の一環なのだとしたら、すべてはまったくの茶番だ。
 怒りは湧いてくる。レジスタンスに参加した動機とはまた違う怒りだ。しかしそれに対してどう動くべきなのかは、今のカイにはわからなかった。もどかしさばかりが頭の中で渦を巻き、言葉に出来ない疑念の数々が、溜息となって口から洩れる。
「イヤな溜息だね。こっちのやる気まで削がれるよ」
「言うなよ。みんなの前ではやらないからさ」
「ふぅん、私にはいいんだ?」
「たまには甘えさせてくれよ。相棒」
 つぶやくようなカイに、ルーはクスリと笑った。

 レジスタンスを追って稚内の基地に入ったユーリは、即座に利尻島への進軍を提言した。情報操作によって隠蔽されてはいたが、網走襲撃の主犯格が利尻へと逃げ込んだのは明白だった。ならば今こそ国立公園管理団体の隠れ蓑を剥ぎ取り、一気に壊滅すべきと、ユーリは強く言い放った。
 レジスタンスが辿ったルートの情報を解析したのはチャイカだった。彼女の脳には今、従来の“憐み(ジャーロスチ)”に加えて、新たに“憎(ニェーナヴィスチ)”と呼ばれるAIがインストールされている。これは網走監獄の囚人監視システムに使用されていたAIで、膨大な情報分析を行うのに優れており、その超絶的な能力の前に、レジスタンスの欺瞞工作などは児戯に等しかった。
 だがふたつのAIを収めた人の脳は明らかにオーバーヒートを起こしており、チャイカは常時、多くの薬を服用しなければならなくなった。そうしなければAMAIMの操縦はおろか、日常生活さえままならなくなってしまう。当の本人は、そんな自分の実情を「すべて任務だ」と淡白に受け取っている様子だが、大量の薬をあおりながらAMAIMに乗り続ける姿には、常に異常さが漂っていた。
 それを目の当たりにするたびに、ユーリの中の疑問は増大して行った。
 人ひとりの人生を引き換えにして、生み出される知能とは一体何なのであろうかと。
 ドヴォイニークは究極に人の心を再現しようとする試みであるという。しかしそれは傲慢であるし、ましてや人間性をないがしろにして達成するものならば本末転倒だ。
 ユーリは怒っていた。実情を知るにも関わらず少女に命令を下す自分自身に、AIの開発計画そのものに。ラーニングのためと命令され、それに従い戦いを続けてきた自分自身に嫌気がさしていた。
 だから彼は、利尻島攻撃作戦を提言したのだ。敵に奪われたAI、および実験機は、敵対状況においてこそ効率的なラーニングが促せるなどと、もはや悠長に構えていられるものではない。即刻破壊すべきなのだ。
 作戦には、チャイカも参加すると言った。彼女自身、奪われた実験機に搭載されたAIについて、非常に興味を持っているようだった。それを、ユーリにだけは「嫉妬だ」と告白していたが、真意はわからない。
 執着は危険だと感じるユーリではあったが、ならばそれを断ち切るため、チャイカの作戦への参加は必要なのだと自分を言い聞かせる。
 彼女の前でドヴォイニークを終わらせることこそが、その心を解放することになるはずなのだ。

 ユーラシア軍が中隊レベルの編成で稚内港を出た ── カイたちがその報告を聞いたのは、彼らが礼文に渡った翌日のことだった。本馬組が利尻島に入ったことはしっかりとサーチされており、名目を得たユーラシア軍は、ついに本気で利尻島の制圧に乗り出して来たのだ。
 対する極光側にしてもそれは大方の予想通りだった。さかのぼること数日前、カイたちを受け入れると決めた直後に、本部は次なる作戦の決行を急遽決断、戦力の大半を北海道本土に移動させていた。利尻を事前に放棄し、敵に無駄足を踏ませようという目論見である。
 カイたちは、落ち着く間もなく荷物をまとめ、また移動しなければならなくなった。
 身を寄せていた秘密ドックは、三方が切り立った崖に囲まれた要害然とした施設だった。出入りする道がひとつしかなく、礼文の中にあってもダントツの秘匿性を誇っている。だがその反面、攻め込まれれば逃げ道が無く、あっという間に追い込まれてしまうという場所である。察知される前に、早々に出奔せねばならなかった。
 しかし敵の本隊が利尻に到達するよりも早く、直接礼文に乗り込んで来る別動隊があった。
 狙いはあくまで利尻島の本部を叩くことにあるのだから、常識的に見て、わざわざ戦力を分散する必要などない。本部を制圧してから、ゆっくりと周囲のクリアリングを図れば良いのだから。
 それでもあえて、こちらにやって来る者たちがいるとするなら ── それはカイたちをターゲットとし、カイたちがこちら側に潜んでいると知り得た者であるはずだ。
 まさか……と思ったカイの嫌な予感は的中した。本隊とは別に礼文島に上陸してきたのは、本馬組を付け狙う、紺青色のAMAIMが率いる部隊であったのだ。

 敵部隊の侵攻は驚くほど速かった。
 中距離砲を装備し、足回りの強化されたソボーテジアマン二機が道を切り開き、紺青色と、そして深紅のゼリーゼジアマンが、まっすぐにドックへと突き進んで来る。
 カイたちは完全に出遅れた。唯一の経路から脱出しようとすれば、今からでは敵と正面から対することになってしまう。
 紺青色と深紅が二機のみであれば、対峙するのは初めてではないし、強行突破できる公算も高かったかもしれない。
 厄介なのは、中距離装備の二機だった。正直に正面から突っ込んでは、いい的にされるだけだ。
 それなら、と、口を挟んだのはルーだった。
「お試し品だった山登り用の道具、アレ使えない?」
 ルーが言うのは、まだ試作段階にあるAMAIM用の垂直登攀装備のことである。
 先端がカギ爪状になったハーケンを撃ち出す射出機と、そこに繋がれたワイヤーの巻揚機を機体に装着、それをロッククライミングのロープワークのごとく使用して立体移動を可能にするもので、本格的なテスト前ではあったが、有用性はすでに実証されていた。ドックにはビャクチとセツロ、それぞれにカスタマイズされたものが二基あり、ビャクチ用のものについては、さらに素早い移動を可能にする推進器までがセットになっていた。
「これで崖を登って、敵の背中に回り込むんだよ」
 ルーの提案は無謀にも思えたが、他に策が無いのなら賭けてみるしかない。敵はなおも侵攻中で、時間も無いのだ。
 ドックのスタッフらの手を借りて、登攀装備の装着は迅速に完了した。
 かくしてビャクチとセツロは、パイロット自身さえ生身では経験したことのないクライミングに挑戦することになる。


×   ×   ×

 ドックが見上げる北側の崖の上には、かつては展望台だった廃墟の支柱が遺されていた。ビャクチとセツロは射出したハーケンをそこに掛け、ワイヤーを巻き上げながら崖を登る。姿勢制御はルーとモブ任せなので、操縦自体は平面を歩く時とほぼ変わりはなかった。しかし明らかに異なる平衡感覚と押し寄せる落下の恐怖に、カイとユキは緊張した。ルーはケーブルカーと同じだと言ったが、とてもそんな悠長な気分でいられるわけがなかった。
 やがて崖の上に到着し、装備を外して身を軽くすると、カイたちは敵の位置を確認した。
 紺青色たちはすでに崖の谷間の奥深くまで侵入し、ドックに残ったレジスタンスはまさに袋の鼠といった状態だった。
 崖の上を回り込むように移動すると、ほどなくしてルーは、カイたちに降下を合図した。今度はなんら特別な装備に頼ることもなく、比較的緩やかな傾斜地をただ駆け下りるだけの、サーカスじみた挙動を実現しなくてはならない。しかし、それでもまだ二足歩行の延長であるだけ、カイたちにとっては気が楽だった。
 一気に崖を下り、まず砲撃仕様の二機を撃破する。後方からの攻撃はやはり想定外だったのだろう、狙い撃ちは容易だった。
 いきなり二機を損失うことになった敵だが、そこからの対応は早かった。
 まず紺青色が転進し、機関砲を連射しながら平地に降り立ったばかりのビャクチらに向かって来た。
「ユキ、援護してくれ !」
 カイはライフルで応射しつつ、迫る敵に対して、こちらからも突進した。
 もとより崖に挟まれた狭い場所だ。下手に回避することなど考えず、数を撃ち込み、先に相手の態勢を崩すことを狙ったのだ。
 だが、そこにはカイ自身さえも気づくことのできない甘えがあった。
 これまで紺青色は、ビャクチを試すような戦い方を続けて来た。戦いの中でAIをラーニングさせようとするからこそ、適度に痛めつけることを目的とする戦術に終始していたのだろう。そういう“緩さ”を感じ取り、どこかでカイは油断してしまっていたのだ。
 しかしどんな方針転換があったのか、今回の紺青色は違った。
 適当に受け流すようなことはせず、確実に仕留めに来るかのごとく襲い掛かって来る。
 機関砲を捨て、恐らく最も得意とする武器なのであろう巨大な鉈を振り被る姿からは激しい戦意が感じられた。

 その鬼気迫る姿を目前に、カイは自らの甘さを後悔した。
「怯むな、カイ ! 初めての相手じゃないだろ、自信を持て !」
 叱咤するルーの声に、カイは、浮かび上がろうとした恐怖を辛うじて押しとどめた。逃げたくなる気持ちを抑え、戦いに集中する。
 しかし、追い込まれた状況は変わらない。
 周囲を崖に囲まれたこの狭所では、鉈の切っ先が届く範囲外に逃げることは容易ではない。ライフルが撃てる距離を確保することはもっと難しい。
 突き上げる衝撃がコクピットを揺さぶった。
 相手が振るった鉈の刃が、腕部を弾いたのだ。シールドによって致命傷は免れたが、敵は機体の破壊よりも、衝撃によるバランスの喪失を狙っていたらしい。続けざまに紺青色は、よろめいて無防備になったビャクチ頭部を狙って、鉈を高々と上段に振り上げた。
「この……っ !」
 回避しようとするが、狭所ゆえ、ビャクチの背中が岩肌に接触する。だが構わず、カイは背中をこすりながら、すんでの所で攻撃をかわした。
 敵が振るった鉈の切っ先が岩肌にめり込んだ。
 その間に、ビャクチは紺青色の懐から逃れる。なんとか距離を取り、照準もそこそこにライフルを構える。
 そこに、別方向から深紅の機体が現れた。
 こちらも武器を鉈に持ち替え、紺青色を真似するかのような動きで襲い掛かって来る。
 その動きは速かった。
 カイは、機体が暴力的に叩き壊されるのを覚悟した。
「カイ ! 動くなよ !」
 ユキの声が届いた。ビャクチのはるか背後、ライフルを構えたセツロの姿が望遠モニター越しに見える。ユキは、その距離から深紅の機体を狙い撃つつもりらしい。
 鋭く、発射音が鳴り響く。
 セツロが放ったライフルの弾はビャクチの機体をかすめ、深紅の機体の頭部に命中した。
 もんどりうったその体に、続けてまた二発が命中する。
 敵の体は崩れ落ちた。
 間髪入れず、カイはとどめを刺すべく銃口を機体に向けた。
 すると ── 突然カイの視界に紺青色の機体が割って入って来た。岩にめり込んだままの鉈を捨て、身を挺して僚機を守るかのごとく、もう一機の敵は、無防備に割り込んで来た。
 その姿は、AMAIMであるのに妙に人間っぽく見えた。自分の命を投げ出して他者を守ろうとする ── たとえば子供のために自らが盾になろうとする親の姿のようにも見えた。

 思わず、カイは攻撃の手を止めてしまった。戦闘の定石を著しく逸脱した行為を目の当たりにして、呆気に取られてしまったのだ。
 紺青色は、彫像のようにビャクチの前に立ちはだかる。
 するとその背後で、不意に何かが動いた。
 倒れ込んだ機体の、背中の装甲の一部が弾け飛んだのである。
 それは恐らくコクピットのハッチ。
 続けてやけにか細い体が、機体の奥から起き上がって来た。
 その姿にカイは目を見張る。
「女……の子……?」
 自分と同じくらいか、少し若いくらいに見える。それは、少女だった。
 赤い短髪が風に揺れ、その向こうのハッキリとした顔立ちが、ビャクチを見上げる。
 小さな口元が動いた。声はコクピットの中にまでは届かないが、ルーは、動きで発せられた言葉がわかると言った。
 ルーは、少女の声を代弁した。
(私は ── 知りたい)
「知りたい?」
(そこにあるAIの感情を ── “喜び”の感情を知りたい。私は、自分の心を完成させたい……)
 ビャクチを見上げる少女の視線は、カイを射抜くかのようだった。その真摯なまなざしに、カイは絶句する。魅入られたように、全身が硬直する。
 膠着状態を破ったのは、紺青色だった。
 敵は倒れ込んだもう一機を抱え上げると、一度ビャクチらをけん制するような素振りを見せてから、一気に後退に転じた。先ほどまでの戦意はもはや感じられず、それは見るも鮮やかな引き際だった。
 カイは、そして後方で警戒していたユキも、呆然とそれを見送ることしかできなかった。勝利した感覚はなく、むしろ見逃されたような気がして、立ち尽くすしかなかった。
(私は ── 知りたい)
 少女が遺した言葉が、鈍くうずき続ける頭痛のように、カイの脳裏に残った。

(つづく)

【境界戦機 フロストフラワー】

第1話「absolute beginners」

第2話「material girl」

第3話「Under Pressure」

第4話「I say a little prayer」

第5話「Life in a Northen Town」

第6話「Set Them Free」

第7話「Everything But The Girl」

第8話「 Want To Know What Love Is」 ←いまココ

第9話「Fortress Around Your Heart」

第10話「Can’t Fight This Feeling」new

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©2021 SUNRISE BEYOND INC.

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