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【0083特集】メカニカルスタイリング 河森正治インタビュー

2022.01.18

メカニカルスタイリング 河森正治インタビュー 月刊ホビージャパン2022年2月号(12月25日発売)

 緻密なメカニック描写で、誕生から30周年を迎えた現在でも「傑作」と称される『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』。その原動力となったのは、河森正治氏が手掛けたガンダムの存在なくしては語れない。「メカニカルスタイリング」として本作に参加した河森氏の意図、そしてガンダムのデザインの本質とは?(聞き手・構成/河合宏之)

キャラクターとしてのガンダムデザインの強さ

デザインとスタイリングという考え方を知ろう

 『0083』で河森正治氏はメカニカルデザインではなく、「メカニカルスタイリング」とクレジットされている。デザインとスタイリングの考え方については、カーデザインなどのさまざまなデザインの現場では一般的だが、その意図について振り返ってみよう。そもそも「デザイン」とは、構造や機能、用途、そしてアニメでいえば世界観までを含めて考えて構築されるもの。外装や色、柄などはあくまで「スタイリング」に過ぎない。わかりやすくたとえるなら、車というメカを考えるのがデザインで、その外装を考えるのがスタイリングということになる。そう考えると、モビルスーツやガンダムのデザインは『機動戦士ガンダム』ですでに確立されていることになる。そのため、河森氏はオリジナルデザインを尊重し、自身の立場をメカニカルスタイリングとした。

河森正治

河森正治(カワモリショウジ)

 監督、演出、デザインと多岐にわたって活躍するビジョンクリエイター。主な代表作に『マクロス』シリーズ他。


すでに確立されていたモビルスーツのデザイン

──河森さんは『0083』では、「メカニカルスタイリング」とクレジットされていることが、重要だと思うんです。そこには「ガンダムのオリジナルデザインを尊重する」という意図が込められているわけですが、そもそも河森さんと『機動戦士ガンダム』の出会いは、どのようなものだったのでしょうか?

河森 当時はもうスタジオぬえに出入りしてセミプロのような状態でしたから、『ガンダム』の企画や設定も放送前に見せてもらっていたんです。その中でインパクトがあったのはザクですね。一方でガンダムそのものに関しては、どうしても70年代スーパーロボットの路線を消し切れていないじゃないですか? それを劇中でどのようにミリタリー的に描いていくか、というアプローチが面白かったですね。

──言ってしまうとガンダムそのものは、70年代スーパーロボットのスタイリング変更というニュアンスが強いですよね。

河森 当時のスタジオぬえはみんな口が悪くて、「ガンダムがいなければいい作品」みたいな話をしていたんですよ。それほど目指していた作品の方向性に対して、意外な存在ではありましたから。ただ、そこから10年、20年経過して、スーパーロボット、スーパーヒーローのニュアンスを持っていた強さが活きていますね。たとえば、スタジオぬえのパワードスーツ(『宇宙の戦士』)のままで行ったら、ミリタリー的には素晴らしい作品になっていたかもしれませんが、マニアック度が強くなって、40年も市民権を得るようなキャラクターにはならなかったでしょう。ガンダムのデザインのベースがミリタリーを突き詰めていないがゆえに、ヒーローからミリタリーの幅の中で遊べる存在になっていると感じます。

──ガンダムもさまざまなデザインが生まれましたが、「ガンダムってどんなイメージ?」と言われると、ほとんどの人がRX-78-2的なイメージを思い浮かべると思うんです。

河森 そこがガンダムのキャラクターデザインの懐の深さなんですよ。シンプルで線が少ないうえに、キャラクターとして際立っていて、どのようにスタイリングを変えようが、デコレーションしようが受け止めてしまう。
たとえば自分がやらせてもらったガンダムのハッチオープンもそうですよね。完全にミリタリーなメカがハッチ開けても、別に何の驚きもありません。が、キャラクター的なガンダムがハッチオープンすると、ちょっと意外な面白さがあります。正反対の要素を受け止めるのも、懐の深さなんです。

──そう考えるとモビルスーツは、どのような点がデザインだと思われましたか?

河森 モビルスーツのデザインを強く感じさせるのはザクでしょうね。スーツであってロボットじゃない。20m級のロボットだけど、人が着てもおかしくないようなデザイン、それがモビルスーツのデザインと言えると思います。衝撃だったのは、第1話でスペースコロニーの中にザクが入って、コロニーの中に降りていくシーンですよね。このシーンは強烈にモビルスーツというイメージを意識させてくれます。逆にガンダムが大地に立つシーンは『鉄腕アトム』の第1話そのものですから、ザクほどの衝撃はなかったですね。

オリジナルデザインを尊重して取り組むこと

──プロデビューから約10年が経過した後、実際にご自身が『ガンダム』シリーズに携わることになるわけですが、どんなお気持ちでしたか?

河森 不思議な感覚がありましたね。デザインという意味では、大河原(邦男)さんを中心に、富野(由悠季)さん、安彦(良和)さんが作り上げたものじゃないですか。すでに完成されているものに、手を加えることもあって、まずメカニカルスタイリングという立場にさせていただいて、その点については大河原さんにもご了承いただいて。作品の世界観の中で、最初の解答を出すのがデザインの仕事みたいな部分ってあるじゃないですか? そういう意味ではガンダムとザクで、モビルスーツのデザインという回答が出されているわけですから、スタイリングという肩書にしてもらったんです。Vアンテナもなく、機構から何からすべてデザインすることができれば、「デザイナー」と名乗ってもいいんでしょうけどね。『ガンダム』の場合は、どこまで行ってもベースのデザインがありますから。

──特にガンダム試作1号機GP01は、原点のガンダムに近いイメージになりました。

河森 ラフ案はいろいろと提案しましたが、GP01についてはもっともガンダムに近いイメージが選ばれてしまいましたね(笑)。まるっきり変えることができてしまえば楽なんですが、GP02Aとの対比がやりやすいという利点もありました。

──ある程度制約があるとは思いますが、デザインとしてはどんな要素を盛り込もうと思いましたか?

河森 GP01に関しては、基本的に元のガンダムからあまり離れないように、というオーダーはあったので、それほど大きく変えることはなかったと思います。唯一自分がデザインしたといえるのは、コア・ファイターのエンジンをモビルスーツの状態でも活かすということです。よくお話させていただくのですが、航空機と戦車であれば、航空機のエンジンのほうがはるかに馬力が高いわけで。そのエンジンを「収納してしまうのはもったいない」と思っていたので、その点については手を加えています。

──コア・ファイターのエンジンを活かすという考え方は、フルバーニアンでも活きてますね。

河森 そうですね。ポイントとしてはコア・ファイターそのものに宇宙用パックを装備して、そのままドッキングできるようにするという考え方です。宇宙でもモビルスーツを運用しようと思ったとき、最初の『ガンダム』ではちょっと物足りない側面はありますからね。AMBACなどの設定もありましたが、姿勢は制御できるけど、移動できるわけではないので。胸のノズルも含めて、フルバーニアンぐらいの改修は必要だったと思います。

──『0083』の製作当時は『機動戦士ガンダム』から10年以上が経過して、その間に培われたリアリティも意識する作品ではあったと思うんです。

河森 「今回はリアルにします」という話はありましたが、方向性的にはキャラクターに流れていったので、リアルという言葉に対する受け取り方の違いはあったと思います。そこはガンダム世界におけるリアルと、現実のリアルという認識のズレでしょうね。まぁリアルを突き詰めてしまうと、そもそも人型であること自体がナンセンスですから。極端な話、以前描いたボールガンダム(河森正治EXPOで公開された、「ガンダム」と名付けられたボール)になってしまっても、おかしくありませんからね。

──とはいえ細部はガンダムと全然違うんですよね。たとえば股関節には、のちのAIBOや現代のロボット技術に通じるイメージが盛り込まれていますし。

河森 「意図した」というよりは、自然にやってしまったという感覚のほうが近いかもしれません。普通に考えれば、ガンダムの腰部分は70年代スーパーロボットそのものですから、変えてしまったんでしょうね。

──『ガンダム』シリーズとしては、『機動戦士Zガンダム』や『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』などの作品がすでに存在していましたが、意識した部分はありますか?

河森 そこまで意識はしていなかったですね。あくまでガンダム世界のことですから、その中に納まっていればいいというイメージで。ただ、その後の時代よりも技術的に進んではいけない、という点はあったかもしれません。

あらためて感じるガンダムデザインの強さ

──一方でガンダム試作2号機GP02Aは「ジオン側のガンダム」という明確なコンセプトがありますね。

河森 まず少し悪く見えてもいい、敵らしさを意識する、という点はポイントですね。バインダーを広げると、十字架のようなシルエットになるのも狙ったところです。カラーリングは今だったら黒でもよかったんじゃないかと思います。

──ジオンらしさとは、どんな部分だと思われましたか?

河森 最初はモノアイのザク顔のガンダムも考えたのですが、それは通りませんでした(笑)。「ジオンらしさ」を意識させるのは、曲面の使い方でしょう。ガンダムも曲面を使っていないわけではありませんが、たとえばふくらはぎなど一部に使われているだけで。上半身にも曲面を使う、あとガンダムっぽいポイントであるふくらはぎを描かずに脚部の裾を広げる。そうするとジオンらしさが出ると思います。

──お話として核を使う、というのがデザインのポイントにもなっていますね。

河森 核を使うガンダムがデザインの要望だったかは失念してしまったのですが、「至近距離で核を撃つ」というイメージは、自分で考えたのかもしれません。そこで蒸発する盾というアイデアにつながっていますね。

──河森正治EXPOでは、幻の河森版ガンダム試作3号機GP03が公開されました。こちらはどのようなオーダーだったのでしょうか?

河森 シンプルに武器の塊というオーダーだったと思います。ただ全身武器だらけにしてしまうと、モビルスーツ…人型である意味がさらに失われてしまうので、拡張スーツ型にしました。拡張スーツなら、人型で手足のある意味もありますからね。現実問題として、作画では描くのは不可能でしたが、CGなら大丈夫だと思います。だれか再現してほしいですね(笑)。

──せっかくですから、なにか形になると楽しいですね。

河森 たとえば試作3号機が実は2機作られていて、「幻のバージョン違いが存在した!」という内容でも面白いじゃないですか? 試験中に爆発して失われてしまったというエピソードで。来年の全日本オラザク選手権で、誰か作ってくれると嬉しいですね(笑)。

──お話を伺っていると、あらためてガンダムのデザインの強さを感じますね。

河森 乱暴な言い方をすれば、Vアンテナさえあればガンダムに見えてしまいますからね(笑)。当時どうだったかわかりませんが、今だったらGP02Aは「こんなのガンダムじゃない」って炎上していたでしょうね。
 個人差はあると思いますが、どこで「これはガンダムだ」と認識するかは非常に面白いですね。心理的にどんな効果が働いているのか、とても興味があります。

──車のグリルに近いものがあるのかもしれませんね。

河森 そうかもしれませんね。鼻がふたつあったらBMWと認識できますから。

──それと同時に、『0083』の話題はデザインとスタイリングの意味を話題にするいい機会になっていると思います。

河森 やっぱり改めてデザインとスタイリングの話をしないと、本当の意味でのデザイナーが育たないという感覚はあります。特に最近はメカが主役を張る作品を作ること自体、少なくなっていますからね。すでにデザインが確立された『ガンダム』は作られ続けていますけど、なかなか世界観からトータルでメカデザインを構築できる仕事はありません。ロボットアニメの場合、単純にいえば主人公メカを描くのに1カット、生身の主人公を描くのに1カット、合計2カットが必要になりますから、カット数の問題で手間がかかるんです。現在は話数や時間が限られた作品ばかりですから、なかなか新しいメカデザインを生み出すのは難しい状況と言えます。

──『0083』の立体物は継続的にリリースされてきましたが、昨今はROBOT魂などで、河森テイストを活かした商品も登場しました。あらためて原点のデザインを見直す空気がありますね。

河森 作品が30周年を迎えて、こうしてファンの方に作品が支持され、立体物を作り続けてもらえるのは本当にありがたいことです。絵でごまかせる部分も立体になることで見えてきますし、逆に立体だとごまかせる部分も理解できます。今でも立体化まで実現できたら、「やっと仕事が終わった」と感じますね。

──また河森さんがデザインしたガンダムを見てみたいですね。

河森 自分がディレクターの作品だけではなく、他の監督さんからのオーダーでデザインをするのも好きですからね。自分にないものを刺激されるので、それはそれで楽しい仕事なんです。チャンスがあれば、また『ガンダム』にトライしてみたいと思っていますので、これからも応援よろしくお願いします。


河森正治ラフデザイン

 河森氏が手掛けた『0083』のラフ群の一部。膨大なパターンのラフ案が作成された中で、GP01はベースとなるガンダムに近いもの。GP02Aはモノアイタイプの頭部案なども検討されたが、最終的にはツインアイタイプの悪役顔に。幻の試作3号機はシルエットアーマードガンダムという名称で、内部にガンダムを格納した強化外骨格型。A、Bという2パターンが検討された。コンセプト自体は全身のフルアーマー化、脚部のスラスター+プロペラント・タンクという点は共通で、武装が異なっている。

GP01
▲ GP01案
GP01フルバーニアン
▲ GP01フルバーニアン案
GP02A
▲ GP02A案
GP03A
▲ GP03案A
GP03B
▲GP03案B
コア・ファイターの変形構造
▲ 河森氏が唯一デザインと呼べる機能を追加したのがコア・ファイターの変形構造。コア・ファイターのエンジンがバックパックを構成しており、ガンダムへ換装したあともその出力を活かせる構造となっている
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ⓒ創通・サンライズ

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