• HOME
  • 記事
  • キャラクターモデル
  • 【境界戦機 フロストフラワー】 第5話「Life in a Northen Town」【境界戦機 フロストフラワー】 第5話「Life in a Northen Town」【境界戦機 フロストフラワー】 第5話「Life in a Nor...

【境界戦機 フロストフラワー】 第5話「Life in a Northen Town」

2021.12.07

境界戦機 フロストフラワー 月刊ホビージャパン2022年1月号(11月25日発売)

境界戦機FFロゴ

その命は、北に咲く

 北の大地で活動するレジスタンス組織“際の極光”に属する青年、北条カイと特殊なMAILeS「ビャクチ」の活躍を描く公式外伝『境界戦機 フロストフラワー』。兵頭一歩氏によるテキストと本編メカニックデザイナーが手掛けるAMAIMの作例による特撮写真で『境界戦機』の世界観をさらに拡げていく。
 ついに作戦の目的地となる網走を視界に捉えた“際の極光”一行。まずは温泉で疲れた体を癒し…。

STAFF

 企画 
SUNRISE BEYOND
 シナリオ 
兵頭一歩
 キャラクターデザイン 
大貫健一
 メカニックデザイン 
小柳祐也(KEN OKUYAMA DESIGN)
海老川兼武
寺岡賢司
形部一平
 メカニックデザインスーパーバイザー 
奥山清行(KEN OKUYAMA DESIGN)
 協力 
BANDAI SPIRITS
ホビージャパン

『境界戦機』
公式サイト https://www.kyoukai-senki.net/
公式Twitter @kyoukai_senki

プラモデルシリーズ公式サイト
https://bandai-hobby.net/site/kyoukai-senki/


第5話「Life in a Northen Town」 

「温泉、か……」
「ここをキャンプ地とするーってね」
 カイのつぶやきに、携帯端末からのルーのダレた声が続く。
 その保養施設は、最盛期には多くの観光客で賑わったらしい。しかし境界戦以降、観光で成り立っていた多くの土地がそうであるように、ここもまた、今ではもうすっかり寂れてしまっていた。客といえばほとんどが地元の人間で、以前は集客のための見世物であったであろう歌謡ショーが行われていたステージも、ただの物置と化している。
 保養施設のロゴがプリントされた浴衣を着たカイは、畳敷きの、ただ広いだけの休憩室で寝転がっていた。ステージでショーが行われていた頃は、ここに大勢の客が集まったのであろうが、今はカイとケンゴ、本馬といった“ 極光”の男性陣三人の姿と、ルーとの通話を可能にする携帯端末があるだけ。ちなみにユキと、二番キャリアのドライバーであるツネマルは、ちょっと探検してくると、先ほど施設の別の場所を見物しに行った。
「漁協の建物に美味しい食堂があるらしいよ。あとで行ってみよう !」
「なに検索してんだよ。ルーは食べられないだろ」
「海の幸は目にも美味しいんだよ」
 道東を目指すカイたちの道のりは、ついに知床半島にまで達していた。オホーツク海を望む漁港の町に入ったのは数日前、網走で始まるレジスタンスの大規模な作戦の決行日は目前に迫っている。
 結局、極光本部の奮闘もむなしく陸路で網走に入ることは断念された。カイたちは本部の隊と合流するルートを変更、知床半島からオホーツクの海を渡り、海路で現地入りすることにした。
 地元住民の力を借りて、漁船にビャクチとセツロを積んで乗り込もうというのだが、さすがにキャリアまで積んで行くわけにはいかないので、作戦時は本部の装備を借りることになる。
 漁船の手配は早々に完了し、あとは作戦が決行される前日深夜の出港を待つだけ。それまでは特にやることもなく、カイたちは港から少し離れた高台にある温泉で、束の間の休息をとることにした。
「演歌にでも出てきそうな町だよね。うん、嫌いじゃないよ」
 町に入ってから、ルーは上機嫌だった。もとよりAIとしての知識収集に偏りがあるルーだが、最近になってわかったのは、その一傾向に懐古趣味があるということだった。町の雰囲気を演歌と称したのはその最たるもので、続いてルーは、カイが聴いたことのない古い歌を歌い始めた。
 休憩室に置いてあった将棋盤とひとりにらみ合っていたケンゴが「それは津軽海峡だ」とツッコむと、「間違えた」と中断して、今度はやたらフォーキーな歌を口ずさむ。
 AIにしては妙に感情が乗って聞こえる歌声に、今度はケンゴもツッコまず、カイもしばし聴き入った。先ほどから自分の腕を枕に眠っている本馬だが、その歌で目を覚ますこともなかった。
 ひとしきり歌い終えたあと、ルーは満足そうに「フフン」と笑った。
「でもいいな〜、温泉。私もホロやネコと一緒に、極楽極楽〜って、やりたかったな」
 早々に湯上りして休憩室で雑魚寝を始めた男性陣に対し、ホロやネコは長湯だった。女湯の方には岩盤浴もあるとかで、それを満喫しているのかもしれない。
「ところでカイ。私は当然必要なデータとして、砂小間ホホロと猫宮メイの“ 極光” 参加時における身体検査の結果を保有しているワケだが」
 カイが久しぶりに聞くホロとネコのフルネームだった。そのやたらと意味ありげな物言いに、カイは面倒くさそうに返す。
「何が言いたい?」
「知りたくない? ふたりの身体について」
「やめろ」
「興味ないの?」
「…………ない」
「間があったね」
 人間の心情は複雑だ……カイが怒鳴りつけるより先にルーはしみじみとつぶやき、その気勢を削いだ。
「オレたちが複雑だってんなら、ルーの方は極めてシンプルだよな」
 カイの言葉には、からかいに対する反撃として、少しだけ嫌味が混じっていた。
「私が組み込まれてたドヴォイニークって開発計画は、AIを分散開発して人間の複雑な思考を実現しようとするものだからね。そりゃあシンプルだよ」
「全部で六つのAIの開発が同時進行してるってアレか」
「最終的に統合される予定の、その六つの『ファルベルジェの卵』には、単一の感情が割り当てられてる。いわゆる『喜』『怒』『哀』『楽』に、『愛』と『憎』が加わって、六つ」
「聞いてないぞ、そんなの」
「計画の全容を教えられる前に、私は誰かさんに強奪されちゃったからね。自分に関わる情報も、時間をかけて集めなきゃいけないんだよ」
「そりゃ……悪かったよ」
 素直に詫びたカイに、ルーはクスクス笑った。
「で、私の担当は、どうやら『喜』だったみたい。喜びの『喜』」
「なるほど……ルーらしいな」
「褒められた?」
「ちょっと皮肉も入ってるけどな」
 ルーが集めた情報によると、他の感情が割り当てられたAIたちもまた、皆この北海道の地で開発、ラーニングが進められているらしい。先日対した紺青色の有人機に搭載されているであろうことは把握されたが、他について、詳しい所在まではわからないとルーは言う。
「この間みたいに直接戦いでもすれば、存在はすぐに感じ取れるんだけど、全部がAMAIMに載ってるとは限らないからね」
『ファルベルジェの卵』たちのラーニングが完了し、そしてひとつに統合されたその時、人の造りし究極の知性が誕生するとドヴォイニークは語る。
 だが、ルーがカイたちと行動を共にする限り、それは永遠に達成されることはないのだ。だが、力づくで奪い返そうとして、AI自身に何らかのダメージを与えてしまっては元も子もない。
 なるほど、ユーラシア軍が自分たちをある程度泳がせているのは、そういう事情もあるのか ── カイは、これまで戦いの中で感じていた微かな違和感の理由を、見つけた気がしていた。
「おおいカイ、卓球やるべ卓球 !」
 ドタドタと戻って来たユキとツネマルの騒々しさに、カイの思考は中断させられる。
 ふたりは施設の奥に、温泉地ならではの遊技場を見つけたらしかった。

 ホロとネコが浴衣姿で休憩室にやって来たのは、それからさらに一時間ほどが経ってからだった。人数分のフルーツ牛乳を配りながら、ホロは知り合った地元の中年女性 ── ホロはおばちゃんと呼んだ ── から持ち掛けられた相談ごとについて話した。
「駐留してるユーラシア軍の連中が、毎夜おばちゃんのスナックを占領して、場所代がわりに料金タダにしろってやりたい放題……」
「やくざ映画かよ !」
 ホロの言葉に食い気味に入ったユキのツッコミに、ルーが「番外地だねぇ」と続けた。
「だから私たちに何とかしてほしいんだって」
「なんだそりゃ。オレたち関係なくね?」
「……いや、見過ごしてはおけない」
 めんどくさそうに言ったユキに対し、渋めの声を響かせたのはケンゴだった。将棋盤から顔を上げ、やたら格好をつけた表情でホロを見ている。
「ご婦人が困っているのなら助ける。それが渡世の義理ってもんだ」
「ご婦人……おばちゃんがくすぐったがりそうだね」
「ケンゴさん……相変わらず年齢に関係なく女の人にやさしいね。つーか渡世って」
「止めてくれるなおっかさん……」
 ホロ、ユキ、ルーの軽口が続き、ケンゴはムッと眉を寄せた。
「ふざけるな。俺はただ、ユーラシア軍の横暴を許せんだけだ」
 フンっと鼻息の荒いケンゴの信念は固いようだった。カイは、起きたばかりであくびをしている本馬に、確認するような目を向ける。“ 際の極光” 本馬組リーダーの答えは「好きにやれ」と簡潔だった。目立つな、立場を理解してるのか……いろいろ言い様はあったかもしれないのにあえて言わないのは、本馬なりの信頼か。
(いや、そういう部分では諦められてんだろうな)
 あくまで興味なさそうな本馬の様子に、カイはやれやれとため息をついた。

境界戦機FF5-1

 ── だが。
 事態はまったく想定外の方向に転がった。
「なんでこんなことになってんだ……?」
 カイはビャクチのコクピットの中で天を仰いだ。
 カイたちは客を装い、ホロたちは店員に扮して、おばちゃんの店で問題のユーラシア兵を待ち伏せた。果たして姿を現したユーラシア兵はいつも通りの横暴を働き、カイたちはママであるおばちゃんの知り合いを名乗って脅しをかけた。だが、すでに酔っぱらっていた相手は一歩も引かず、挙句の果てには暴走し、治安維持の名目のもとに配備されていたAMAIMを持ち出して来たのである。
「マジであれに人が乗ってるのか、ルー?」
 ビャクチの前で暴れているAMAIMは、FGEA07ソボーテジアマン。ユーラシア軍では主に無人機として運用されている機体だった。
「無人機としてAIが搭載されている部分は有人機のコクピットとほぼ同じ大きさだし、ブロックごと入れ替えることもできるみたいだね」
「なんでわざわざそんなことする必要が……」
「さあ? 訓練機にはよくある仕様だけど、およそ、重機代わりかなんかに使ってたんじゃない? 感覚的な土木作業は、有人の方がやりやすいからね」
 めんどくさ……思わず漏れたカイのつぶやきに、「みーとぅー」とルーは返した。
 ソボーテジアマン特有の携行武器である鉈を振りかざし、相手は町を破壊する勢いで暴れ回る。
 それに対し、本馬は、本部から支給されたばかりの装備の使用を許可した。銃身の短いハンドガンと小振りのマチェットは近接戦闘用のもので、この状況ならば、テストに丁度良いということらしい。
 まさかのAMAIM戦に、さすがにカイも「作戦前の息をひそめていなくちゃいけない時期に……」と本馬に確認を取ったが、心配するな上手くやる、と、また簡潔さしかない答えが返って来た。
「不祥事が露見するのを恐れる部隊は、すぐに報告を上げたりなどはしない。俺たちを発見したからこそ出撃したと報告することもできるかもしれんが、そんなすぐにバレる嘘をつくほど無能でもないだろう。連中は、網走の作戦が終わるまで余計なことをしないよう、住民に頼んで監視してもらっておく。まぁもとよりそれほど信用がある奴らでもないようだから、数日なら怪しまれることもあるまい」
 それでも……と、カイはまだ不安を述べたかったが、だからと言って他に策が思いつくでもなく、結局はいつも通り、本馬にすべて任せるしかなかった。
 かくしてビャクチは極めて軽装備で、暴走するユーラシア軍機とタイマン勝負するハメになったのである。
 威嚇のためにハンドガンの銃口を向けるものの、カイは、それを町中で使用するのをためらった。ピンポイントで上手く命中させられれば問題ないのだろうが、暴れ回る相手にそれは容易なことではない。周りの住宅にはすっかり空き家が増えたとおばちゃんからは聞いていたが、だからといって流れ弾で壊して良いというものでもない。
「まあ、人目がないってのは有難いことだけどな」
 カイは相手を力づくで取り押さえようと目論んでいた。ビャクチの俊敏さとパワーをもってすればさほど難しくはないはずだった。
 問題は、それを実行すべき場所に相手をいかに誘導するか ──
 周囲の建物を破壊せず、極力目立たず、酔っぱらって理性を飛ばした相手を思惑通りに動かすというのは、かなり難度の高いミッションだった。
「いいじゃない、ゲームみたいでさ。楽しんじゃおうよ、カイ」
 ルーはあくまでお気楽だった。
 そこに、普段は寡黙なネコの怒鳴り声が、通信を介して割り込んで来る。
「カイ ! ぶっ飛ばせ ! あの野郎、タダでアタシのカラダ触りまくりやがって !」
 そういえば身長の高いネコのドレスアップした姿は、なかなか悪くなかったと、カイは思い出す。
「ぶっちゃけ稼げるよね、アレ」
「ああ……」
ルーのつぶやきに、思わず同意するカイである。

境界戦機FF5-2

 地面に向けての威嚇射撃、距離を詰めてプレッシャーを与えたりしながら、カイは、なんとか敵を誘導して行った。
 目標は港にある駐車場。そこまで行けば、少々の取っ組み合いを演じても、周りに被害が出ることもないだろう。
 やみくもに振り回される鉈の切っ先を器用にいなし、ビャクチはさらに相手を追い詰めて行く。
 やがて ── 想定の二倍近い時間を要して、カイは相手を港の駐車場にまで誘導することに成功した。いよいよ本格的な取っ組み合いが始まったが、そこで大人しくしてくれれば良いものを、酔っ払いはなおも抵抗を続ける。
 ビャクチはタックルをかますようにして、相手の腰につかみかかった。
 マチェットを振りかざし、原始的な狩りのごとく、脚部に向けてそれを振り下ろす。
 狙いは違わず、比較的装甲の薄い関節部が一気に破断された。
 ガクンと下半身が崩れ落ち、そのタイミングで自重をかけてのしかかり、ビャクチはようやく暴走する相手を抑え込んだ。
 巨大な人型兵器による捕り物劇はさぞ見ごたえがあったのか、早朝の出港の用意をしていた漁師たちからは拍手が上がった。
「よし、これで終わり。思ったより騒ぎにはならなかったみたいだな……。さすがの立ち回りだったよ、ルー」
「自分、不器用じゃなく器用なもんで」
「……誰のセリフだよ」

 暴走した連中を拘束し、駐留する部隊にはしばらく口をつむぐよう取引し ──
 数日後、カイたちはビャクチとセツロと共に漁船に乗り込み、網走に向けて出港した。
 すっかり打ち解けた港町の人々による見送りを、カイたちは狭い甲板の上から眺めていた。賑やかに大漁旗を掲げる一団の中には、あのスナックのおばちゃんが手を振る姿もある。
「止めてくれるな、おっかさん……」
 ルーの芝居がかった言葉に、カイはまたため息をつく。
「気に入ってんじゃねぇよ」

(つづく)

【 境界戦機 フロストフラワー 】
第1話「absolute beginners

第2話「material girl」

第3話「Under Pressure」

第4話「I say a little prayer」

第5話「Life in a Northen Town」 ←いまココ

第6話「Set Them Free」

第7話「Everything But The Girl」

第8話「Want To Know What Love Is」

第9話「Fortress Around Your Heart」

第10話「Can’t Fight This Feeling」

第11話「With or Without You」

第12話「Ode to Joy」(終)

この記事が気に入ったらシェアしてください!

©2021 SUNRISE BEYOND INC.

関連記事

関連書籍

月刊ホビージャパン2022年1月号

ご購入はこちら

ガンダムフォワードVol.6

ご購入はこちら

サンライズ・メカニック列伝

ご購入はこちら
PAGE TOP
メニュー