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【境界戦機 フロストフラワー】
第2話「material girl」

2021.08.26

境界戦機 フロストフラワー 月刊ホビージャパン2021年10月号(8月25日発売)

タイトルロゴ

その命は、北に咲く

 北の大地で活動するレジスタンス組織“際の極光”に属する青年、北条カイと特殊なMAILeS「ビャクチ」の活躍を描く公式外伝『境界戦機 フロストフラワー』。兵頭一歩氏によるテキストと本編メカデザイナーが手掛けるAMAIMの作例による特撮写真で『境界戦機』の世界観をさらに拡げていく。
 第2話は時をさかのぼり、カイとルーの出会いの話…。

STAFF

 企画 
SUNRISE BEYOND
 シナリオ 
兵頭一歩
 キャラクターデザイン 
大貫健一
 メカニックデザイン 
小柳祐也(KEN OKUYAMA DESIGN)
海老川兼武
寺岡賢司
形部一平
 メカニックデザインスーパーバイザー 
奥山清行(KEN OKUYAMA DESIGN)
 協力 
BANDAI SPIRITS
ホビージャパン

『境界戦機』
公式サイト https://www.kyoukai-senki.net/
公式Twitter @kyoukai_senki

プラモデルシリーズ公式サイト
https://bandai-hobby.net/site/kyoukai-senki/

CHARACTER FILE 01

北条カイ
設定画

北条カイ

ユーラシア軍より強奪した実験機“ビャクチ”のパイロット。

ルー
設定画

ルー

ビャクチに搭載されていた自律思考型AI。白いイタチ(オコジョ)の姿で現れる。


第2話「material girl」

 21世紀の半ば———
 国としての機能が破綻寸前に追い込まれた日本は、大国や連合国による身勝手な政治的介入を許し、それらの勢力争いは武力衝突に発展、国土は戦場と化した。
 のちに境界戦と呼ばれるこの戦いの結果、日本はパズルのごとき状態で分割統治されることとなり、以降も境界をめぐる小競り合いは幾度となく繰り返されている。
 この狭い国土での戦闘で主役となったのは人型特殊機動兵器、通称AMAIM。
 戦術特化型のAIが搭載され、無人の機体は盤上の駒のごとく、ミニマムな戦争において効率よく運用された。
 しかし人は、戦場にさらなる知性を求めた。パイロットとAIの間にパートナーシップを築き、より発展的な戦術を実現しようとする試み———すなわち自律思考型AIの開発である。
 大国同士のパワーゲームの最前線、絶えず戦火のくすぶる日本は、その実験場として最適な場所であった。


 レジスタンス“際の極光”が、リゾート跡の廃墟でユーラシア軍と会敵する数日前———北条カイの姿は港町にあった。
 経済特区、小樽。
 北海道、東北地区を統治する大ユーラシア連邦の管理下にありながら、国内外を問わず多くの民間企業を誘致、優遇し、経済的な独立と発展が目覚ましい地域である。防衛上、津軽海峡や太平洋航路が封鎖された今、小樽の港は唯一開かれた海の玄関口であった。
 物資の輸送に関しては、空路や、青函トンネルを経て大陸鉄道につながる陸路という手段もあるが、それらは連邦が占有しており、高い関税などコストの面で現実的ではない。
 必定、道内に出回る輸入品のほぼすべては一度小樽を経由することになり、その取引をする人などで港町は常に賑わっていた。


 カイは、アルバイトに来た学生を装い町に潜入した。“際の極光”の本部から『小樽にユーラシア軍の新型機が運び込まれる』との情報がもたらされたのが二週間前。以降、その裏取りに奔走し、数日後、情報に偽りなしとの報告を本部に返すと、当然のように『奪取せよ』との命令が下った。簡単に言うなと断っても良かったが、それでいて、わざわざ民間ルートで運び込まれる新型機———その特異性ゆえに隙があると、カイは考えていた。現に命令が下ってからの調査で、考えが的外れではないとの確信も得ていた。

×     ×     ×

 きらびやかなライトに照らされてゆく夕暮れの町並みを、カイは橋の上から眺めていた。アルバイト先の建設現場は数区画先にあって、今はその帰り道である。住み込みの宿舎まではあと数百メートル、そこで必ず渡るのが、運河にかかったこの石造りの橋だった。夜景を一望できるこの場所は、古くからの観光名所でもあるらしい。
「ライトアップとは……えらい余裕だべ」
 カイの隣でヤレヤレと笑ったのは、同じく”極光”に参加するユキだ。紙パックの乳酸菌飲料を直飲みするその姿は部活帰りの高校生のようにも見えるが、今年二十歳。カイよりひとつ年上となる。
「昔の照明を、街灯代わりに使ってるだけだろ」
「ケチくせぇ。さすが大ユーラシア連邦サマだな」
「照明は八時に消える。向こうだって目立ちたくないはずだし、動くとしたらそれからだろうな」
「ホロに連絡入れとくよ」
 ユキは民生品を改造した携帯電話を取り出す。ホロと言うのは通信を担当する“極光”の仲間の名で、ユキとは同じ大学に通った先輩後輩の間柄であるとカイは聞いていた。
 “極光”には、本部と、実働部隊であるいくつかのグループがあり、カイが所属するグループは本馬組と呼ばれていた。その呼び名の由来となったリーダーの本馬アマトとカイを合わせた計七人で構成されており、本馬以外はすべて北海道内の出身、年の若い者が多い。ゆえに今回のように町に紛れ込むような行動はお手のもので、新型機の調査、奪取などの命令を与えられるのも、その特性を期待してのことだった。
「さて、もう一回段取り確認しとくべ」
 携帯をしまい、ユキはカイと目を合わせることもせず会話を再開する。お互いに暇そうな様子で橋にもたれるその姿は、傍から見れば学生そのものだった。
「八時を過ぎたら、オレは建設現場に隠したセツロで適当に暴れまわる。陽動としては見え見えだけど、かといってユーラシア軍も無視するわけにいかないべ」

警備中のソボーテジアマン

 セツロとは、ユキが乗るAMAIMの名だ。正式名ではない。かなりカスタムは施してあるが、もとは北米同盟軍から鹵獲したNA10/3ジョーハウンドである。本馬組の虎の子の機体で、そのたった一機で、これまで極光に本馬組ありと言われるほど、数々の戦果を上げてきた。だがユーラシア軍との抗争が拡大を続ける中、さすがにそれっきりでは心もとない。戦力の増強は急務であった。そこに下った新型機奪取の命令は、ユーラシア軍への打撃を目論んだことはもちろん、本部が本馬組に向ける期待の表れでもあった。いわく、奪取に成功した暁には新型機はそのまま本馬組の戦力とせよ———そのパイロットにはカイが選ばれていた。
「でもだからって、自分で単身乗り込んで奪って来いってのはないよな」
「いいじゃん、新型機。けっぱれ」
 北米の民間軍事会社で経験を積んだ本馬に、カイはレンジャー訓練と同時にAMAIMの操縦技術を叩き込まれていた。セツロにも何度も乗ったことがある。自信はそれなりにあるが、しかし正体不明の新型機となれば話は別である。無人機ではなくパイロット搭乗型であるという確認は取れているものの、操縦系統の情報は皆無。そんなものに直接乗り込んで奪って来いなどと、命令としては乱暴すぎる。けっぱれと励まされても、苦笑いしか返すことができないカイだった。
 目の前の運河を、カイはあらためて眺めた。
 二十世紀の中ごろに本来の目的を終え、以降は観光資源となっていた運河は、境界戦以降はその価値さえ失い、今はほぼ放置された状態となっている。
 しかし、ある噂が流れていた。大ユーラシア連邦が、表向きの自由貿易とは別のルートで運び込まれる物資を、運河を使って運搬しているというのだ。人目を避けるのに、打ち捨てられたかつての設備などは好都合であろうから、噂には信憑性があった。
 そして今回カイたちがターゲットとする新型機も、果たしてその水路で運搬されるとのことだった。特区に治安維持の目的以外で兵器を持ち込むことは、取り決め違反である。だから、多少警備上のリスクがあったとしても、抜け道を使う必要があるというわけだ。
「俺はそろそろ行くよ。カイも適当にぶらついてないと怪しまれるぞ」
「わかってる」
 言いながら、二人はお互いの携帯電話で合流地点を確認した。なんの変哲もない地図アプリにいくつかのマーキングがされている。もちろんほとんどがダミーだ。実際に確認するべき地点は、事前に申し合わせてある。そこには、先日極光の本部から送られてきたばかりのAMAIM用のキャリアが待機している。セツロを積載する従来のものに加えてもう一台、新型機用に納車されたもので、本馬組は一気に大所帯となった。キャリアのそれぞれには番号が振られることになり、新しいものを一番車、古いものは二番車と呼ばれることになった。必然的にセツロは二番機となってしまうことに、ユキは散々文句を言ったものだ。
「一番車……載せられるのか、ホントに?」
 携帯をしまい、カイは素直な感想を言った。
「わからん。一応すべてのAMAIMに対応してるとの触れ込みだけど、なんせ新型機だからなぁ。……まあ、なんとかなるべ。お前は無事、合流地点に辿り着くことだけを心配してりゃいい」
 じゃあな、と言って、ユキは去って行った。
 運河のライトアップが消えるまであと二時間。カイは一度繁華街を散策してから、再びまた戻って来ることにした。


 運河の照明が消えると、まだ早い時間だというのに、町は一気に静まり返った。盛り場さえ、ほとんどの店が火を落としてしまっている。それは大ユーラシア連邦のお国柄を反映したものであるのか、それとも元々の土地柄であるのか、遠く上川地方出身のカイにはわからなかった。
 夜目が利くような装備を与えられるわけでもなく、カイは橋の上からひたすら目を凝らしていた。眼下を流れる運河の川面は真っ黒で、それを熱心に眺める姿は怪しいことこの上ないが、かと言ってターゲットを見逃してしまっては元も子もない。カイは職務質問を受けた時の言い訳を考えながら、運河の先を注視し続けた。
(……来た)
 漆黒のベルトコンベアーをゆっくりとのぼって来るものがある。一見すれば、よくある小型のコンテナ船。家畜などの飼料を運搬するため、現在においても水路を使用している企業のマーキングが施されていた。
(けど一隻ってのは怪しいだろ……)
 交通渋滞緩和のために水路に追いやられたくらいの会社だ。いつもならあてつけのように三、四隻は連なって、狭い空間を独占しながらのぼってくるはずである。
 船が橋の下を通過するまでにはあと数分。
 その時タイミングよく、運河からさほど離れていない場所で、火の手が上がった。
 鳴り響くサイレン。ユキがセツロを起動し、陽動を開始したのだ。危機感を煽るため、セツロはライフルを装備しているが、装弾はしていない。上がった火の手も、恐らく燃料か何かが不可抗力で発火したのだろう。
 周囲の様子は、いきなり騒然となるといったようなことはなかった。だが治安維持のため町に駐屯しているユーラシア軍はそうはいかない。対応のため、最低限配備されていたAMAIMたちは慌ただしく出撃して行ったことだろう。あとはユキがどれだけ注意を引き付けてくれるか———任務の成否は、そこにかかっていると言っても過言ではない。
 やがてコンテナ船が橋の下に差し掛かろうとすると、カイは身を乗り出して船上の様子を確認した。
 コンテナがふたつ連結した状態で載っており、それだけでデッキは一杯だった。一応民間の船を装っているのだから当然だが、護衛のためのAMAIMが載っているようなこともない。企業の制服を着た男たちの姿が何人か見えるが、特に武装している様子もなかった。懐にハンドガンくらいは忍ばせているかもしれないが、それもあくまで警備のためだと言い訳が利く程度のものだろう。
 ここから先は忍者だな、そんなゲームもあったっけ———
 船が丁度橋の下をくぐるのを待って、カイは橋の手すりに足をかけた。


 一方ユキは、数機のユーラシア軍のAMAIMに取り囲まれ、少なからず焦っていた。相手は治安維持を目的に配備されたものなので武装は最低限だが、数に差があれば余裕でいられるはずもない。
 ユキは血迷ったテロリストを演じて、あえてセツロを無茶苦茶に暴れさせた。当然、搭載されたAIであるモブからの戦術的な提案は完全無視。ここで戦い慣れたところを見せれば、レジスタンスである素性がばれないとも限らない。
「著しく合理性を欠いています。行動を改めてください。著しく合理性を……」

戦闘中のセツロとソボーテジアマン

「わかってやってんだからちょっと黙ってろ !」
 まるで家電のアラームのように同じ文言を繰り返すモブを、ユキは怒鳴りつけた。
 大学を休学する前、ユキは研究室で新たなAIの開発に関わっていた。まだ最低限のコミュニケーションをとることしかできないものであったが、それでもユキたちのチームは、自律思考型のAIを組み上げることに成功した。
 レジスタンスに参加するにあたり、ユキと後輩のホロは手土産としてそのAIを持参、セツロに搭載されるに至り、モブという名前が付けられた。
「機体運用計画に変更がある場合は、新規のデータリンクを確認してください。確認手順はマニュアル6の12、および……」
「あーもう、メンドくせーーー !」
 またも怒鳴りながら、ユキは近くに駐車してあった車を一台蹴とばした。海外製の高級車だったのは、いらだちまぎれの、いわゆる八つ当たりだった。


 コンテナの中には、果たして一機のAMAIMが体を折りたたんだ状態で横たわっていた。
 橋から甲板上へと飛び降り、カイは二人のスタッフを昏倒させた後、船上のコンテナの中へと侵入していた。スタッフに化けていたのはおそらく軍人だろうが、格闘にはあまり慣れていない様子だった。もしかすると技術屋だったのかもしれない。
(襲撃があるにしても、まさか生身でやって来るとは思ってなかったんだろうな)
 運搬中にもメンテナンスが行われていたのか、コクピットのハッチは解放されたままになっていた。新型機には違いないが、ひょっとすると実験機なのかもしれない。暗くてはっきりとは見えないが、全体的な姿も、これまで見たユーラシア軍のものとはまったく異なったデザインをしていた。
 外観から想像するよりは案外広そうに見えるコクピットの中をのぞき込み、カイは中に体を滑り込ませる。するとようやく見張りが倒されたことを知ったのか、やはり企業の制服に身を包んだ男たちが、コンテナの中へと走り込んで来た。今度はそれなりの銃を手にしている。
 慌ててハッチを閉めると、起動シークエンスが開始された。同時に体の各部位が物理的にロックされ、最後は視界を覆うゴーグルが自動的に装着される。
 パイロットが事前に登録されており、かつオペレーションの中枢となるAIのユニットがセットされてさえいれば、AMAIMの起動にキーなどは必要ない。だから何の手続きもなく起動すること自体は不思議ではないのだが、全くの部外者である自分の侵入に対しても起動が始まったことに、カイは驚いた。
(実験機としての効率優先でセキュリティが外されてたのか?)
 あまりにもスムーズに事が運ぶことに居心地の悪さを感じ、カイはコクピットの中で所在なく辺りを見渡した。
 するとその視界360度に状況を示す立体映像が投影された。リアルな風景と、最低限の情報表示。肌に触れる感覚と共に手の中に現れたバーチャルなグリップを軽く握ると、自らの体幹にシンクロし、取り巻く映像が軽く揺れた。随分デリケートな調整になっているとカイは思った。
 機械的な起動音が徐々に高まって来る。
 その重低音の中、突然子供のような声が聞こえた
『……突然の侵入者が新兵器を強奪、か。いいね、アニメみたいで嫌いじゃないよ』
 生意気そうな、少女の声だ。
 天井から降って来るようにして、カイの目の前に、イタチを模したと思しき姿のキャラクターが出現した。
「!? お前は……?」
「お前じゃない。私のことはルーって呼んで」
「ルー?」
「開発の都合で、適当に付けられた名前なんだけどさ……気に入ってるんだよね」
 真っ白い見た目は、オコジョと呼ばれるイタチ科の動物に似ている。かなりデフォルメされており、言葉と一緒にぴょこぴょこ動くさまは、小さな子供に見せればうけるだろう。
「AI……自律思考型か」
「その通り」
「随分フレンドリーなんだな。俺はお前を力づくで奪いに来た人間だぞ? 敵じゃないか」
 ルーと会話しながらも、カイは外の様子に気を配っていた。銃を持った男たちは対応に戸惑い、外からハッチを開ける方法を探っているようだった。緊急時のマニュアルが徹底されていないらしい。
「アタシはユーラシア軍についた覚えはないよ。これからそういう風なラーニングを受けることになっていたのかもしれないけどね」
 人が搭乗するタイプのAMAIMだとは聞いていたが、まさか自律思考型AIのオマケ付きだったとは……
 これが幸運なのかどうかはルーの性能次第ということにあるが、仮に使えないものだったとしても、ユキたちが喜びそうなサンプルにはなるかもしれない。
 カイは、跳ね回る白いイタチを見つめ、交渉を始めることにした。
「なあ、ルー。俺と一緒に来てくれないか?」
「わざわざAIの意思を確認するの? 面白い人間だね、キミは」
「パートナーになってくれと言ってるんだ。それくらいは礼儀だろ」
「へぇ、悪くない気分だね」
 ルーは、悪だくみをする少女のようにニヤリと笑った。感情表現用のモーションが、やけに豊富だ。
「このまま研究所に運ばれるより、キミと行った方がおもしろそうだ。わかった、付き合うよ」
 いよいよ本格的に動き出すということなのだろうか、機械的な起動音はさらに大きくなる。カイの目の前には新たなメッセージウィンドウが展開した。
 そこには「Byakuchi」との文字が表示されている。
「ビャクチ……」
「それがこの機体の名前。日本的で笑っちゃうでしょ? 開発者の趣味ってところかな?」
「そうか……なるほどな」
「それで? キミの方の名前は?」
「北条カイだ。登録するならそれで頼む」
「登録なんかあとでいいよ。今のはね……私が聞きたかっただけ。よろしく、カイ !」
 カイの目の前に広がる景色が大きく揺れる。
 同時に、コクピットも大きく振動した。
 ビャクチが、動き出した。


 緊急事態によりスピードを緩めた船の上。コンテナの壁を引きはがし、ビャクチは暗闇の中にその姿を現した。
 コクピットからは、なすすべなくこちらを見上げてくるだけの船上スタッフの姿がはっきりと見て取れる。この暗闇で光源もなしに、しかも通常カメラでこれだけ見えるのは、なかなかの性能だとカイは感心した。
「ビャクチは跳べるか?」
 カイは、川沿いに建ち並ぶ建造物の間に隙間を探しながら、ルーに聞いた。
「空の彼方までは無理だけど、川岸くらいまでなら余裕」
 言うが早いか、目の前の空間表示に、最適な着地ポイントがいくつか表示された。目で探す必要もなかったなと笑いながら、とりあえず一番近いものをカイは選択する。
「よし。じゃあ幅跳びだ」
「あ、ライフルを忘れずにね。弾も入ってるし、それなりの代物だよ」
 コンテナの中に固定されていた武器が拡大表示される。カイは握りこんだグリップの挙動に連動した機体のマニピュレーター、すなわちビャクチの手を動かし、ライフルをつかみ取る。
「よーし、跳べ !」
 状況を心底楽しんでいるかのようなルーの掛け声。
 カイはシフトキーで出力を調整してから、まるで自らがジャンプするかのようにグリップを操作した。そんな感覚的な動作をダイレクトに反映し、ビャクチは一度体を大きく沈みこませてから、跳躍した。
 まだ本調子ではないのか空中での姿勢は少し不安定だったが、それでも間違いなく、ビャクチは予定されたポイントに着地した。
 だが、そこに一機のAMAIMが待ち構えていた。ユーラシア軍、治安維持隊所属の機体だ。セツロが構いきれなかった一機が、こちらに割り振られて来たらしい。
 取り押さえるつもりなのか、最低限に装備された機関砲をすぐに撃って来ることもなく、相手はまっすぐこちらに突っ込んで来た。
「撃っちゃう? 撃てるよ、ライフル」
「馬鹿言うな、町中だぞ」
「じゃあ振り回せ !」
「はあ!?」
「頑丈にできてる、壊れやしないって」
「暴発とかしないのか?」
「その辺は……うまくやってよ」
「あのなあ !」
「ほら来る !」

ライフルを振り落とすビャクチ

 迫りくる相手に、カイは先ほどと同じような感覚的なフィードバックを当てにして、グリップを振り回した。
 するとビャクチはライフルをこん棒のように持ち替え、カイの挙動を真似るようにそれを振り回した。銃把の部分が、遠心力によって打撃力が増した状態で相手の頭部に打ち付けられた。ビャクチ自体の運動性もさることながら、そんな芸当を実現に導いたルーのサポート能力は驚嘆に値する。人の手による操縦だけで、とてもではないがそんな器用な真似が出来るわけがない。
 各種センサーの集中した頭部を破壊され、相手は動きを止めた。ビャクチはそこからさらに足払いをかけ、その後すぐに立ち直ることができないよう相手の機体を転倒させる。
 実際に、ビャクチをそういう風に“操縦”したのはカイであるが、その内容と言えば、ルーが提示して来たプランを決定し、自らも倒れないよう姿勢制御系の情報表示に気を配っただけ。それだけで、柔道か合気道かという複雑な技を、ルーはビャクチに実現させたのだ。
 これが……自律思考型の力か……
 素直に感心したカイは、最初にアニメみたいだと言ったルーの言葉を思い出し、笑いたいような気持ちになっていた。
「さあ、この隙に逃げよう! あとの手はずを教えて。ちゃんと段取ってあるんでしょ?」
「あ……ああ、もちろん」
 合流地点を伝えようと携帯電話を取り出すと、すぐにデータが同期し、正面にマップが表示された。複数のマーキングがされたそれを、イタチの姿のルーがじっと見つめる。
「本当の合流地点は……東側のここかな?」
 ダミーのマーキングに惑わされることなく、ルーは正しい場所を指摘した。
「どうしてわかった?」


「状況を分析して対象の行動を予測するのはAIが最も得意とする分野だよ。私が敵じゃなくてよかったね」
「……まったくだ」
 合流地点に向かうルートを、カイが決定する。ルーの姿が、マップの上ではしゃぐように踊った。
「おっけー ! あとはお任せ !」
 ビャクチが加速度を上げてダッシュした。
 狭い町中を、アクロバティックな運動性を見せてひたすら突き進む。
 新型機の奪取に成功———
 だが同時に、何かとんでもない物まで拾ってしまったのかもしれないと、カイはコクピットの中を浮遊するルーの姿に目を向けた。
「とりあえず……これからもよろしくな、相棒」
「相棒? なんか汗臭くてヤダ。マイプレシャス ! とかモナム〜〜ルで !」
 くねくねと身をよじらせるルー。
 もしかするとそれらのモーションは、ルー自身が“自律思考”して作りあげたのかもしれない。だとすれば、随分と面倒くさい性格に仕上がったものだと、カイはため息をついた。
「まったく……どんなラーニングしてきたんだ。いいから急いでくれ、スイートハニー」
「うぃー、ムッーーーシュ !」
 まるでバレエダンサーのごとく跳躍して、ビャクチはさらにスピードを上げた。
 その速度に、もはや追いかけて来られる治安維持隊の機体は無いようだった。

(つづく)

【境界戦機 フロストフラワー】

第1話「absolute beginners

第2話「material girl」 ←いまココ

第3話「Under Pressure」

第4話「I say a little prayer」

第5話「Life in a Northen Town」

第6話「Set Them Free」

第7話「Everything But The Girl」

第8話「Want To Know What Love Is」

第9話「Fortress Around Your Heart」

第10話「Can’t Fight This Feeling」new

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©2021 SUNRISE BEYOND INC.

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