HOME記事その他【書籍発売記念連載】アメリカ海兵隊の新たな部隊「海兵沿岸連隊(MLR)」の注目装備を解説!「イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編」【最終回】

【書籍発売記念連載】アメリカ海兵隊の新たな部隊「海兵沿岸連隊(MLR)」の注目装備を解説!「イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編」【最終回】

2025.12.26

現代アメリカ海兵隊の戦い方

遠征前方基地作戦での活躍が期待される海上輸送手段
ALPVとLSMとは

 ホビージャパンの書籍「イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編」発売を記念し、著者の田村尚也氏が大変革の進むアメリカ海兵隊の新たな部隊「海兵沿岸連隊(MLR)」の注目装備を解説していく。最終回では遠征前方基地作戦において兵站の要となる小型輸送艇ALPVと、海軍の新たな中型揚陸艦LSMをピックアップする。

 前回はコチラ!

文/田村尚也
写真/U.S.Marines/U.S.NAVY/DVIDS(https://www.dvidshub.net/)
写真解説/ホビージャパン編集部
イラスト/しづみつるぎ


海兵隊の大変革

▲2025年12月、沖縄のホワイトビーチにおける第31海兵遠征部隊(MEU)の演習の一環で、ALPVを用いた補給訓練が実施された。遠征前方基地作戦(EABO)では、ALPVは敵の脅威下においても多様な物資、装備を海上輸送できることを期待されている。後方に見えるのは、海上自衛隊の補給艦「はまな(AOE-424)」

 

 近年の世界的な安全保障環境の変化の中、アメリカ海兵隊は、戦車部隊を全廃し、砲兵部隊(通常の火砲を装備)を削減。その一方でロケット砲兵部隊や無人機部隊を増強し、さらに歩兵部隊に加えて対艦ミサイル部隊や防空部隊、兵站部隊などを擁する海兵沿岸連隊(Marine Littoral Regiment、略してMLR)を新編。遠征前方基地作戦(Expeditionary Advanced Based Operations、略してEABO)と呼ばれる新しいドクトリンを採用するなど、大規模な変革を進めている。
 このシリーズ記事では、その新編部隊である海兵沿岸連隊(MLR)のおもな装備などを見ていく。第1回のNMESIS(ネメシス)、第2回のMADIS(マディス)とMRICに続いて、最終回の今回はALPVとLSMを見ていこう(なおLSMはMLRの装備ではなく海軍艦艇なので例外となる)。


ALPVの概要

▲2025年1月、第12海兵沿岸連隊第12沿岸補給大隊の訓練の一環として、沖縄の那覇軍港付近の公海で無人航行中のALPV。ALPVは遠隔操作あるいは自動操縦による無人航行が可能

 ALPVとは、Autonomous Low-Profile Vessel(自律型低視認性艇)の略で、半潜没(semi-submersible)型船体を持つ小型の輸送艇だ。アメリカのレイドス・ホールディングス傘下のギブス&コックス社が開発を進めており、「シー・スペクター」とも呼ばれている。
 現在試験されているのは、排水量8.3t(標準)、全長19.75m、最大4.6tの貨物を搭載可能で、第1回で解説したNEMESISが発射する対艦ミサイルNSMのコンテナなら2発分を搭載できる。ディーゼル・エンジン搭載で、航続力は8ノット(約15km/h)で4000kmとされている。最高速度よりも航続力を重視しており、遠隔操作や無人の自動航行が可能。シルエットが低いので、レーダーや目視で発見されにくく、ステルス性が高い。

▲2025年9月、沖縄をはじめ南西諸島を中心に実施された日米共同による実動訓練「レゾリュート・ドラゴン25」でALPVの試験運用が行われ、日本のメディアでも報道された
▲写真左側の海兵隊員がコントローラーで操船している。船倉の上面には防水のためにカバーがかけられている
▲甲板上の後部寄りにロールバーのような形状の簡素なマストが設けられ、アンテナやカメラ、レーダーなど航海に関わる機器類が配置されている
▲海兵隊員達が船倉の蓋を外しているところ。船倉内部が見えている
▲桟橋からクレーンを使ってJMIC(Joint Modular Intermodal Container、米軍規格の輸送コンテナの一種)をALPVの船倉に積み込んでいるところ。JMICは折畳式のアルミ製コンテナで、ALPVの船倉はJMICがうまく収まるサイズなのがわかる
▲2025年9月、ノースカロライナ州のキャンプ・レジューンで実施された「UNITAS 2025」演習で、第2海兵兵站群の海兵隊員達がトレーラーからALPVをクレーンで吊り上げ、水面に浮かべようとしているところ。喫水線が高い位置にある、半潜没型船体の特徴がよくわかる

 ALPVのおもな用途は、敵のミサイルや航空機などの脅威のもとで、敵味方が争っている海域内の島嶼などに展開している海兵隊の地上部隊や拠点である遠征前方基地(Expeditionary Advanced Based、略してEAB)などに、水や糧食、燃料や弾薬、医薬品や予備部品などを輸送することだ。
 現時点では、沖縄県のキャンプ・ハンセンに駐留している第12海兵沿岸連隊などで運用テストが進められている。
 なお、ギブス&コックス社では、派生型として航続力よりも速力を重視した設計で最高速度40ノット(約74km/h)を発揮できる攻撃用の「シー・アーチャー」の自主開発も進めている。

▲2024年6月、カリフォルニア州ポイント・ロマ海軍基地からロサンゼルス沖合のサンタ・カタリナ島に向けて無人航行中の第3海兵兵站群のALPV。EABOを想定したこの運用試験では、作戦海域における秘匿性も確認された。ALPVは半潜没型船体のためシルエットが低く、ステルス性が高いのが特徴である

LSMの概要

 LSMとはLanding Ship Medium(中型揚陸艦)の略で、以前はLight Amphibious Warship(軽水陸両用艦)、略してLAWと呼ばれていた。そしてLSM計画(プログラム)とは、アメリカ海軍・海兵隊が進めている中型揚陸艦の開発・調達計画を指している。計画では、海兵隊の比較的小規模な部隊の兵員や装備、物資などを海上輸送して揚陸するだけでなく再揚搭も可能で手頃な価格の揚陸艦の建造を目指しており、今年(2025年)12月初めにはオランダのダーメン社製のLST-100が設計のベースとして選定された。
 LST-100の基本設計は、排水量約4,000t、全長100m、最高速度15ノット、航続距離6300km以上、約1000㎡の貨物スペースがあり、200名以上の兵員を収容可能とされている。海岸にのし上げて船首のクラムシェル・ドア(門扉)内に格納されているランプウエイ(斜路)から車両や人員などを海岸に直接揚陸できるほか、船尾にもランプウェイも備えており車両の自走による積みおろし(Ro-Ro)ができる。甲板前部のクレーンによる大型貨物の吊り上げも可能。甲板後部には中型ヘリコプターが離発着できる飛行甲板を備えている。
 建造に先行して2025年1月にはLSMの1番艦(LSM-1)が「マクラング」と命名されている。これは2006年にイラク戦争で戦死した初の女性海兵隊士官であるメーガン・M・L・マクラング(Megan M.L.McClung)少佐にちなんでいる。
 海兵隊は、このLSMによって、海兵沿岸連隊(MLR)に所属する地上部隊などを、ある島の岸辺から別の島の岸辺へ、迅速に輸送して再展開させることができるようになるのだ。

▲2025年12月、アメリカ海軍の海洋システムコマンド(NAVSEA)は、LSM計画においてオランダの造船企業、ダーメン社が開発した揚陸艦「LST-100」の設計を選定し、国内の造船所で最大35隻建造する予定であることを発表した。LST-100はまずナイジェリア海軍が採用し、2022年に就役した最初の1隻が現在運用中。また、オーストラリア海軍も国内建造を前提に採用を発表している。写真はギニア湾を航行中のナイジェリア海軍のLST-100「NNS Kada(ST 1314)」

アメリカ海兵隊の新しい戦い方とは

イラストでまなぶ!用兵思想入門-現代アメリカ海兵隊の戦い方編表紙

 アメリカ海兵隊が、ALPVによる兵站輸送能力、LSMによる揚陸能力や再揚陸能力などを活用して、どのように戦おうと考えているのかについては、「イラストでまなぶ!用兵思想入門」シリーズ最新刊となる「イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編」を参照していただきたい。
 本書では現代のアメリカ海兵隊が大変革を進める理由やその用兵思想を、イラストを交えつつ解説している。
 日本の安全保障とも密接に関わっているアメリカ海兵隊が、抑止力としていかに機能し、有事にはどのように戦うのか。ご興味をお持ちになった方に、ぜひご一読いただけたら幸いである。

イラストでまなぶ!用兵思想入門-現代アメリカ海兵隊の戦い方編サンプル01
イラストでまなぶ!用兵思想入門-現代アメリカ海兵隊の戦い方編サンプル02
イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編サンプル03
イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編サンプル10

イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編

●発行元/ホビージャパン●2200円、発売中

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田村尚也(たむら なおや)

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