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【第10回】『マルゾン 転生したらまるでゾンビを知らない世界でした』作・歌田年【異世界ゾンビバトル】

2025.10.27

マルゾン 転生したらまるでゾンビを知らない世界でした

マルゾン10-サムネイル

マルゾン 転生したらまるでゾンビを知らない世界でした

 サトーコーポレーションのスパイであった坊丸が銃弾に倒れ、同じくスパイであった猿座も解雇されたことで、ZIMのテストチームは解散となった。一方、坊丸の死にショックを受けた鷲尾だったが、鈴木から聞かされた、次元転移による元の世界への帰還の可能性に希望を見出すと、警予隊の要請に応え出向を決断。再びマルゾンとの戦いに身を投じるのだった……

原作/歌田年
イラスト/矢沢俊吾
ZIMデザイン/Niθ


第10回

第27章 復讐

〈存命遺体無力化作戦〉発令により、まずは静城県内の公立学校内に残留している若年マルゾンたちを処理することになった。それも可能な限り速やかに。
 県内の公立小学校は五〇〇校、同中学校は四一〇校、同高校は九五校だった。これを六〇名の特装機隊員で分担しなければならない。完全に人手が足りていないが、仕方がない。
 作戦発令の翌日、おれたち第二小隊は静城駅北東の丘の上にある県立高校と高専が固まっているエリアをあてがわれた。
 今回の作戦は最初から〝無力化〟が目的なので、フェロモンでマルゾンを誘う必要がない。せっかくおれが設計した可動バイザーはほぼ出番がなくなってしまったが、面部分のゴリラに似た造作を褒める隊員が多いので悪い気はしない。よっぽど、おれがデザインしたんだと言ってやりたかったが。
 引き続きおれと出間は小隊の中でバディを組まされていたが、それがおれの気分を重くしていた。出間の誘いをきっぱり断ってから、おれたちの関係はギクシャクしていたからだ。あの時点でおれはすっきりしたものの、彼のプライドをいたく傷付けてしまったらしい。
 ゴリラ面のおれとマントヒヒ顔の出間は確かにお似合いだろうが、どうしたって男との恋愛はおれには無理だ。しかしこの状態のままバディワークがうまく回るのかは気掛かりだった。



 この地で若年層の集団発症が起きたのは二週間前の平日午後三時過ぎだという。なぜここまで厳密なタイミングかというと、一昨年の十一月第一月曜日の昼食時から、県内の公立学校で一斉にソイメイトの試供が開始されたためらしい。以降、コンスタントにこの異常ダピオン入り食品が供給された。ひどい話だ。
 いよいよ〝狩り〟の始まりである。
 不幸中の幸い……と言っていいのか、大半の若年者たち──幼児から大学生まで──が各教育施設の敷地内に留まっていたせいで、封鎖が比較的効率よく行われたのである。大半の若いマルゾンが高いフェンス内に囲い込まれていたわけだ。
 今回はいわば〝檻の中の狩り〟である。
 しかし、決して楽な仕事ではない。こちらも逃げ場の無い檻に入っているのだから。
 静清東高校が今日のおれたちの担当だった。対象は未成年なので二人で充分だと司令部うえは判断しているが、これまたどうにも不安だった。
 というのも最近、マルゾンは発症時の年齢や身体能力がその動作に反映されるのではないかという噂が俄然真実味を帯びてきたからだ。つまり、活き、、のよい人間はそれだけ活き、、のよいマルゾンになるというのだ。
 そして高校生は充分に活き、、がよいのである。
 とはいえ、おれたちが小学校に回されなかったことには心底ホッとしていてもいた。美伶のような十歳前後の子供らに取り囲まれるのを想像しただけで気が滅入る。
 高校敷地の周囲の住宅街ワンブロック分が立入禁止になっており、電柱から電柱へグルリと黄色いバリケードテープが渡されていた。
 ほぼ正方形の四隅には警察官が一人ずつ立ち番をしていた。甚だ手薄だと思ったが、今さら言っても仕方がない。ともかく正門へ続く道路を開けてもらい、おれたちはキャリアーを前へと進めた。
 背の高い門の直前で車を止停めると、校庭内を眺める。
 封鎖は下校時刻直後だったこともあり、マルゾンと化した生徒がそれなりの数、校舎外に出ていた。彼らは例によってブラウン運動のように、互いに適当な間隔を空けて校庭内をふらふらと彷徨っていた。部活のランニングの掛け声やコーラス部の発声練習、ブラバンのトランペットの音などは聴こえてこず、ひたすに陰鬱なうめき声だけが高く低く漂っていた。
 今日の曇天と似た色の、巨大な墓石のようにも見える校舎を見上げると、窓際には目ざとい、もしくは耳ざといマルゾンたちが三々五々集まってきていた。強化ガラスに青黒い顔を押しつけ、濁った目でおれたちを見つめている。
 おれと出間は後部の格納庫に移動し、ZIMを手早く装着した。
順番に車の外へ出る。


〔ヘイ、ZIM。広多無オン〕


 と、おれは本作戦から実装されたAIアシスタントZIMに命じた。


〔……〕


 反応が無い。発音が悪かったようだ。「ジム」ではなく「ズィム」なのだ。おれは舌打ちをし、正確な発音でもう一度呼びかけた。


〔ヘイ、ZIM。広多無こうたむオン〕

〔広帯域多目的無線機をオンにしました〕


 と、イヤホンから律儀で無機質な女の声が聴こえてきた。
 このZIM専用のAIアシスタントはおれが鈴木に頼んで開発してもらったものだ。お陰で細かい操作は音声でコマンドできる。両手が常にフリーになるし、顎や舌を本来と違う目的で使わなくてもいい。時代もあるが、これはR・A・ハインライン氏も考えなかったことだ。だが、昔ネットで観たパワードスーツ物のビデオ『S.F.3.D.ORIGINAL』では──特撮の出来はともかく──音声入力の表現があったので、大いに感心したものだ。


〔ニーニー、こちらニーヒト。感明送れ〕

〔ニーヒト、こちらニーニー。そちらの感明よし。こちらの感明よいか〕


 とまあ規則どおり、おれと出間はZIMに内蔵された無線機の感明交信をし、時刻規正をした。因みに21がおれ、22が出間だ。出間の方が隊員歴は長いが、建前上教育係のおれが命令系統の上位者ということになっている。
 正門の鉄扉を開けて敷地内に入ると、再びしっかりと閉めた。施錠をどうしようかと一瞬逡巡したが、結局しないでおいた。
 当初の作戦時間は新型バッテリーの限界ギリギリの二時間だ。爾後じごは小休止を挟んで満タンのバッテリーに交換し、さらに二時間行動する。電源車から有線で電力供給することも可能だが、著しく行動が制限されるのでほとんど忌避されている。索を引き摺るのが煩わしいのだ。


〔ニーヒト、こちらニーニー。各個にやろうや。送れ〕


 と、出間が無線で宣言してきた。
 やはりそうきたか。命令系統無視だ。二人組んで行動するのが規則だが、出間はそうしたくないのだ。自分をフッた男とは協力できないというのである。仕事や任務に私情を差し挟むのはこっちの人間の常なのだろう。仕方がない。


〔ニーニー、こちらニーヒト。……了〕


 と、おれは不承不承答えた。
 門を入るや、おれは右に、出間は左に散開した。
 校庭のマルゾンを見渡す。制服姿もいるが、ジャージ姿も多い。そちらは部活だろう。
 彼らはおれたちの姿に若干の反応を見せたものの、すぐに興味を失った。ヒトフェロモンに感応する彼らは、少しでも曝露面があれば迷わず寄ってくる。ZIMならそういうことがないので隊員は安心して行動できるのである。
 全周警戒しながら前進する。倒れたまま動かない人影もいくつかあった。そちらは完全な遺体だろう。非感染者ないしは変異する前に食われて失血死した者に違いない。 
 ふと『良い遺体は死んでいる遺体だけだ』というフレーズが頭に浮かんだが、こっちの世界の人々には通じないだろうなと思うと、不謹慎にも苦笑いが出た。
 と、右手の高いフェンスを外側からよじ登る人影があった。二つだ。
 動きからしてマルゾンではなく人間だった。


〔ヘイ、ZIM。カメラ、オン〕

〔カメラをオンにしました〕

〔ズーム1〕

〔ズームを1にしました〕


 おれの額の前にある小型ディスプレイには、白いトレーナーにジーンズ姿と、赤いパーカーにグレーのスウェット姿の中年女性の二人の姿が映し出された。規制線をくぐり抜けてきたらしい。やはり警察の警備は手薄だった。
 おれはただちに、保護のためそちらへ向かった。任務外だが見過ごすわけにはいかない。
 間もなく女性たちはフェンスを乗り越えて校庭に下り立った。


「マミちゃーん!」

「ケンタロー!」


 と、女性たちが校舎に向かって大声で叫んだ。
 まずい。
 直後、何体かのマルゾンが声に反応して振り向き、ノロノロと女性たちに近付いて行った。声だけではない。完全曝露状態の彼女らは辺りにヒトフェロモンを撒き散らしているのだ。
 女性たちは生徒の母親だろう。校内にいる我が子を探しに来たらしい。気持ちは解るが無謀過ぎる。この状況下で二週間の生存はありえないし、何の対策もせずに彼らの中に飛び込んだらどうなるかも想像できていない。
 その時、陸上競技のコースにいた短パン姿とジャージ姿の男子マルゾン二体が、バネ仕掛けの人形のように反応し、猛スピードで母親たちに向かって走り出した。
 おれは目を見張った。
 走るマルゾンもいるのか。やはり噂は本当だった。
 走行フォームは崩れがちで、こけつまろびつだったが、本能に駆り立てられるように獲物に向かってまっしぐらだった。かなり速い。概ね毎時二〇キロ超だろう。
 手足を狂ったようにバタつかせて疾走する様は、巨大な根なし草タンブルウィードが風で転がっていくようにも見えた。異様な光景だ。
 恐らく彼らは元は陸上部員なのだ。トラック競技に特化した筋力と運動習慣が、獲物に向かう彼らを疾走させたに違いない。若いマルゾンは想像以上に手強そうだ。
 おれも慌てて走り出したが、ZIMを装着しての走行速度はせいぜい毎時一〇キロ程度だった。ジェット、、、、エンジン、、、、ジャンプ、、、、ギア、、はまだ実用化されていないのだ。頗るもどかしい。
 母親たちがマルゾンの接近に気が付いた。ひるんで後退る。そうだ、早く逃げてくれ。
 すると、彼女らはそれぞれ勝手な方向に走り出した。まずい。両方を同時に守ることはできない。
 おれはひとまず、ジャージのマルゾンが最接近しつつある白トレーナーの母親の方へ向かった。
 が、やはり一足遅かった。マルゾンが先にリーチし、母親に襲い掛かった。
 彼女は「キャーッ!」と悲鳴を上げたが、間もなく声は細くなり、やがて途切れがちになった。その身体にマルゾンが野獣のように噛み付いている。白いトレーナーがたちまち真っ赤に染まった。
 おれはやっと辿り着くと、マニピュレーターでジャージのマルゾンの肩を掴んで母親から引き剥がした。湿っぽい嫌な音がした後、口の周りを真っ赤に濡らし、白い肉片をぶら下げながらマルゾンは地面に尻もちを突いた。
 すぐさま身体を捻って赤パーカーの母親の方を見る。そちらには短パンのマルゾンが迫りつつあった。
 おれは出間に連絡を取った。


〔ニーニー、こちらニーヒト。正門の概ね十時の方向に一般人の侵入あり。保護できるか。送れ〕

〔こちらニーニー、今、手が離せない〕

〔……了〕


 やはり独りでやるしかないか。
 ジャージマルゾンを押さえている間に、いつ現れたのかセーラー服姿の女子マルゾンが白トレーナーの母親に近付いた。最初の襲撃で抵抗できなくなっている母親に容赦なく噛み付く。何度も。何度も。
 母親は血を盛大に噴き出しながら小刻みに痙攣し、やがて動かなくなった。
 マルゾンではない普通の人間がこうやって死ぬところを久々に見た。歌舞伎町以来だろう。


〔ヘイ、ZIM。ヒトキュー式を使う〕

〔一九式両刃警察短刀のロックを解除しました〕


 おれは右手で腰のシースから一九式両刃警察短刀を引き抜くと、暴れるジャージマルゾンを左手で俯せに押さえ付けた。最近はようやく単独で制圧するコツを掴めたのだ。
 マルゾンはクマ並みの威力を持つ〝前足と爪〟を激しく突き立ててきたが、ニューチタン合金の外装はそれをものともしない。
 マルゾンの坊主刈りの後頭部に黒染めのステンレス製ブレードの先端を当てた。斜め上方に突き刺す。パワーアシストのお陰で、豆腐に箸を通すがごとくスムーズにブレードが入っていった。じくじくと粘っこい血が溢れだす。マルゾンは板のように硬直し、すぐに弛緩して動きを止めた。
 いつもながら嫌な瞬間だ。特に今回は、未来があったはずのティーンエイジャーたちだから尚更だ。
 逃げたもう一人、赤パーカーの母親の方をズームカメラで見ると、サッカーゴールの裏に避難していた。短パンのマルゾンが正面突破を試みようとして──やつらは基本、正面突破なのだ──ゴールネットに行く手を阻まれていた。クモの巣に引っ掛かった羽虫のようにもがいている。赤パーカーのナイス判断だった。
 ひとまず安堵してセーラー服のマルゾンを振り返ると、両手を女性の腹に突っ込み、腸などを引き摺り出し、口に運んでいた。内臓を真っ先に摂取するのは肉食獣と同じだ。
 おれは強い嘔吐感を覚えた。やはりおれは根っからの軍人ではないのだ。酸っぱいものが喉の奥から込み上げてくる。が、ZIMの中で小間物屋を開くわけにはいかない。


〔ヘイ、ZIM。気付け薬はあるか〕


 と、胃液を飲み下しながらおれは投薬をリクエストした。ZIMには鎮痛剤や眠気覚ましといった経口薬が若干数だが常備されているのだ。


〔もう一度言ってください〕

〔気付け薬だ〕

〔以下の情報が見つかりました〕


 ディスプレイに〝着付け教室〟のホームページのURLがズラズラと羅列された。
 おれは画面を最後までスクロールしてから舌打ちをした。


〔もういい〕

〔わかりました〕


 だが、この無意味なやり取りで逆に気が紛れた。
 おれは静かに歩み寄ると、先ほどと同じようにマルゾンの後頭部、ポニーテールの結び目の横に警察短刀を突き立て、〝無力化〟した。女子の場合は尚のこと後味が悪い。
 このように特装機隊員の武装は警察短刀に限定されている。銃器によるマルゾンへの射撃は、唯一の弱点である脳幹へのピンポイント攻撃が極めて困難であり、国民の血税たる弾薬をいたずらに浪費するからだ。また、対マルゾン作戦の現場は市街地が多く、一般人を巻き込む可能性も高い。
 それらの理由に加え、出来るだけ肉体を損壊しないで欲しいとの訴えが家族らから出ているのである。もっともな話だ。
 おれは再びゴールの方に注意を向けた。すると、ゴールの中には既に三、四体のマルゾンが集まって来ていた。背中に〝帰宅許可済〟と──たぶんシャレで──プリントされた揃いのTシャツを着た男子たちだ。ネットに頭や手足を突っ込み、もがいている。
 ゴール裏では赤パーカーが腰を抜かしてへたり込んでいた。
 おれはそちらへ毎時一〇キロで急行、、した。


〔ヘイ、ZIM。外部スピーカー、オン〕

〔外部スピーカーをオンにしました〕


 次いで、おれは抑えたトーンでマイクに言った。


〔こちら警予隊特装機です。速やかに退避してください。正門の鍵は開いています。お宅のお子さんはこちらで確認しますので、名前と特徴を教えてください〕


 赤パーカーがハッとして顔を上げた。


「ほ……ホリイケンタロウです。小柄ですが、テニス部に入ってます。それから──」


 彼女が言い終らないうちに、マルゾンたちに押されたゴールが後ろに傾いた。
 マイクに叫ぶ。


〔さがって!〕


 赤パーカーが立ち上がりかけたが、その上にマルゾンもろともゴールが被さるように倒れ掛かった。


「キャーッ!」


 ズズン! 
 地響きの音と共に土煙が舞い上がった。
 土煙が消えると、赤パーカーが横様に倒れ、右脚がゴールポストの下敷きになっているのが見えた。
 幸い、ゴール本体にマルゾンたちの体重が掛かっているわけではないので、脚が切断されるようなことにはなっていなかった。


「ううう……」


 呻き声を上げる赤パーカーに歩み寄り、おれは中腰になって左手でゴールを持ち上げた。アシストストルクを最大限に上げたので、それは難なく持ち上がった。三〇センチほど隙間を開けると、マイクに言った。


〔立てますか? 何とか門まで走って!〕


 おれがそう言うと、赤パーカーがパーマ頭をこくこくと前後させた。ゴールの下から這い出し、中腰のままゆっくり歩を進めた。右脚を引き摺っている。
 ゴールと共に倒れ込んだマルゾンたちが体勢を立て直し、赤パーカーを追おうとした。だが、すぐにネットに足を取られた。慌てずおれはそれらを一体ずつ押さえ込み、後頭部に警察短刀を突き刺して無力化していった。まず二体を始末した後、上体を起こして赤パーカーの様子を確認した。ようやく正門まで辿り着いたところだった。
 と、彼女に向かって猛スピードで突進していく大柄な人影があった。
 薄茶色に変色したシャツ。短パン。頭にヘッドギア。
 きっとラグビー部員だ。
 おれが走り出す間もなく、ラガーマルゾンが赤パーカーの後ろからタックルした。そのまま門扉に叩き付ける。
 ガシャーン!
 赤パーカーのパーマ頭が門扉の格子の隙間にめり込んだ。次にマルゾンが赤パーカーの身体を引き戻した時、首から上は無くなっていた。壊れたマネキンのような身体の、首のあった位置からは間欠泉のように血がピュッピュッと噴き出した。
 結局二人とも助けられなかった。
 もしお袋がこっちの世界にいて、病気でもないとして、おれがマルゾンになったら、同じように行動しただろうか。やはり、そうしただろうな。──そんなことを考えた。
 おれは溜息をつき、マニピュレーターで合掌した。
 ラガーマルゾンは、誰にも取られるものかとでも言うように赤パーカーをしっかと組み敷き、その肉にかぶり付いていた。
 ノットロールアウェイだぜ。おれは小山のようなその背後に静かに忍び寄った。ヘッドギアの後頭部中心線、綴じ紐の結び目の下から二つ目辺りに警察短刀のブレードを押し当てた。マルゾンは蠅を追い払うように左手を後方に伸ばしておれをはたく。おれは半身はんみになり、その手を肩アーマーで受けた。警察短刀を左の逆手に持ち替えると、再び先端を後頭部に当てがった。柄頭に右の掌底を添え、上半身の重量を乗せて一気に挿し込んだ。マルゾンはビクリと一つ震えてから、ガクリと赤パーカーの上に崩れ落ちた。
 おれは後から来る処理班のために、ラガーマルゾンの身体を赤パーカーの上からどかしておいた。

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