ディーラー・ゴートこと杉本浩二の怪獣愛について ~小森陽一が原型師の魅力を語る『怪獣ガレージキットの素晴らしき世界』~【コモリプロジェクト】
2025.10.14 コモリプロジェクトHP
Youichi Komori Official Web(y-komori.net)
怪獣ガレージキットの
素晴らしき世界

皆さん、いかがお過ごしでしょうか。お盆が過ぎ、熱戦の甲子園に決着がつき、もうすぐ子供達の夏休みも終わるというのに、まだ夏真っ盛りです。秋の欠片すら見当たりません。この書き出しにいつになったら「涼しい」というフレーズが出るんでしょうね。
『怪獣ガレージキットの素晴らしき世界』において今回スポットを当てるのは杉本浩二氏です。三十代、四十代のファンはディーラー名「ゴート」でお馴染みでしょう。1968年生まれの杉本さんと僕とは同世代、話をすると観てきたもの、読んできたものがこれまたほとんど同じです。僕等の少年時代は今よりずっとエンタメが少なかったし、ビデオもYouTubeもなかったから、それこそ一回こっきりのオンエアを目を皿のようにして観て、記憶の温かい内にノートに描いたりしていました。怪獣図鑑なんて何回ページを捲ったか分からないくらい。ボロボロになるまで繰り返し読み続けていました。そう、怪獣に向けたエネルギーがそれこそ尋常じゃありませんでした。杉本さんはまさにその真っ只中で育った人であり、見出しで「博愛の人」と記したのはこんなにも広く、平等に怪獣を愛している人を他に知らないからです。子供の時に培った気持ちを抱いたまま大人になった素晴らしい人なのです。
90年代前半から原型の活動を開始、僕が杉本さんの名前を知ったのはこの頃です。ボークスJr.シリーズでワイルド星人、フック星人、ノンマルトなどを手掛けられ、人型の表現や着ぐるみに寄る独特の皺のライン、体毛や銃といったいわゆる怪獣とはちょっと違うものまで巧みに作れてしまう技量の確かさがありました。ただ、なんといっても強烈なインパクトを与えたのが2010年に発表された殺し屋超獣バラバでしょう。写真を見た瞬間、文字通り息を呑みました。そんな経験はこれまでに数回しかありません。「ウルトラはQ、マン、セブン以外は売れない」そんな定説を杉本さんは軽やかに、大胆に飛び越えてしまった。でも、僕にはその理由がはっきりと分かります。杉本さんは博愛の人、怪獣に順列も分け隔てもありません。ともすると敬遠されがちだった第二期以降の怪獣達の魅力を抽出し、圧倒的なスキルで立体化してみせる。それは、これまで見ようとしてこなかったから見えなかった僕の目に、とてつもなく新鮮に映りました。この時の衝撃が後にコモリプロジェクトで発表する吸血怪獣ギマイラへとつながっていきます。
今、杉本さんが開いた扉は新たな怪獣ガレージキットファンを獲得し続けています。その波は国内だけに留まらず海外にも広がっています。自分の好きな怪獣を作る。作って飾る。この気持ちはいつしか忘れかけていたガレージキットの精神そのものです。
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怪獣ガレージキットを大迫力の特撮写真で小森陽一が解説
小説・文筆家であり怪獣ガレージキットメーカーも立ち上げた小森陽一氏セレクトの怪獣ガレージキット。熱い怪獣愛で怪獣ファンも認める小森氏が、各メーカーの怪獣ガレージキットを塗装完成品と大迫力の特撮写真で解説していく作品集です。
さまざまなガレージキットメーカーの怪獣ガレージキットを円谷特撮作品から厳選して50体、新規撮り下ろしにて掲載。その魅力を小森陽一氏による解説で紹介していきます。
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小森陽一(コモリヨウイチ)
●1967年生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業後、東映に入社。その後、コラムや小説、漫画原作や映画の原作脚本を手がける。大阪芸術大学映像学科客員教授。『海猿』『トッキュー!!』『S-最後の警官-』『BORDER66』『ジャイガンティス』『ツイン・アース』など著作多数。