映画『雪風 YUKIKAZE』の主役艦「陽炎型駆逐艦 雪風」の誕生と幸運艦と呼ばれる由縁とは【いまさら聞けないすごいヤツ】
2025.09.17いまさら聞けないすごいヤツ!!
日本海軍
駆逐艦 雪風
イラスト/大森記詩
「名前は知っているけどどんなものなんだろう?」「いまさら聞くのもはずかしいなぁ……」なんて思ってしまう有名な飛行機や戦車、車などのモチーフをサクッと読める解説とイラスト、オススメのプラモとともにご紹介する本連載。
今回は映画『雪風 YUKIKAZE』公開に合わせて、本作品の主役艦である「陽炎型駆逐艦 雪風」をピックアップします!
日本海軍 陽炎型駆逐艦 雪風
基準排水量/2033トン
全長/118.5m
最大幅/10.8m
出力/52000馬力
速力/35.5ノット
乗員/239人
兵装/新造時
50口径三年式12.7cm連装砲:3基、
九六式25mm連装機銃:2基、
九二式61cm四連装魚雷発射管:2基(九三式魚雷16本)、
九四式爆雷投射機:1基、
爆雷投下台:6基、
爆雷:18乃至36個
兵装/終戦時
50口径三年式12.7cm連装砲:2基、
九六式25mm3連装機銃:4基、
九六式25mm連装機銃:1基、
九六式25mm単装機銃:14基、
九二式61cm四連装魚雷発射管:2基(九三式魚雷16本)、
九四式爆雷投射機:1基、
爆雷投下軌条:2基
1945年4月 天一号作戦
駆逐艦「雪風」
解説/宮永忠将
苦い経験から生まれた傑作駆逐艦
日本海軍屈指の幸運艦として名高い駆逐艦「雪風」の誕生物語には、日本駆逐艦がたどった苦難が凝縮されている。
第一次世界大戦の結果、世界第三位の地位となった日本海軍であるが、仮想敵のアメリカと互角に戦うには、どうしても生産力で歯が立たない。そこで日本海軍は数が足りないぶんを性能強化で埋め合わせようとした。その成果のひとつが、大正末期から建造された特型(吹雪型)駆逐艦である。
当時のアメリカ海軍のクレムソン級駆逐艦は、排水量1200トン、10.2cm単装砲を4基、魚雷は53.3cmを3連装4基搭載していた。それに対して特型の「吹雪」は排水量1700トン、主砲は12.7cm連装砲を3基6門、魚雷は61cmを3連装3基搭載していた。魚雷の数こそ少ないが、これは戦艦や巡洋艦などを狙うべき大型魚雷であり、後には次発装填装置が追加された。結果、アメリカと比べて2倍近い攻撃力がある駆逐艦なのである。
特型以降、日本海軍の駆逐艦は小型化しつつも、火力重視の設計が続いていた。ところが後に発生した水雷艇「友鶴」の転覆事故と、演習中の第四艦隊事件により、特型以降の駆逐艦にはいずれも設計上の欠陥が判明した。緊急で実施された改正工事でこれらの欠陥は修正されたものの、速度などの性能が低下してしまったのである。
こうした反省から、ゆとりのある船体に特型並みの兵装を持たせ、バランス良くまとめられたのが、昭和12年から建造された陽炎型駆逐艦であり、その8番艦が「雪風」なのであった。
史上屈指の戦歴を誇る幸運艦
さて、ここで「雪風」の卓越した戦歴を紹介……したいのだけれど、参加した戦闘の名前だけで終わってしまいそう。そこで、敢えて陽炎型駆逐艦を宇宙世紀のジオン軍、その主力艦艇であったムサイ級軽巡洋艦になぞらえて考えたい。ジオンには宇宙駆逐艦という艦種はないけど、陽炎型は大型の駆逐艦なので、軽巡洋艦として扱っても遜色ない。
そんな宇宙世紀の一年戦争で、コロニー落としのブリティッシュ作戦とルウム戦役を最前線で戦い、地球降下作戦の支援にも参加。木馬との遭遇戦を経験し、ソロモン攻略戦、ア・バオア・クー戦では空母ドロスの撃沈宙域に居合わせながらも生き残ったムサイがいたら、どれほどの殊勲艦となるか想像してほしい。しかも損害らしい損害を経験していないのだ。それが「雪風」であった。
さらに「雪風」は、戦後賠償艦として中華民国に引き渡されて、「丹陽(タンヤン)」と名を変えて現役を続行する。そして後に中国国内の内戦に敗北した国民党勢力の幹部は、この「丹陽」で台湾に逃れたのである。これを再度ムサイに例えるなら、ア・バオア・クー陥落後、残存艦隊とともに小惑星アクシズに脱出してから、後の紛争に巻き込まれて戦場にいたというのに等しい。
「丹陽」は1970年に解体されたが、その舵輪と錨は広島県江田島の第2術科学校に保管展示されている。
寺内正道中佐
駆逐艦「雪風」は竣工から終戦まで6人の艦長を迎えている。昭和18年12月に着任した寺内正道中佐は五代目艦長であり、マリアナ沖海戦、レイテ沖海戦などの激戦の最中にあっても、八の字ヒゲに100キロの巨体を揺らして堂々たる指揮で無事に艦を生還させて、乗員の信頼を勝ち取った。艦橋の天井から上半身を乗り出して三角定規で敵機の動きを見定め、航海長の肩を蹴って操舵を指示したのは有名な話。戦艦「大和」沈没後も危険な海域に残って、限界まで将兵を救助していた。このような艦長と乗員の一体感が「雪風」の強運を引き寄せたのだろう。

成型色での色分け&スナップフィットで送る艦NEXT シリーズ
雪風と同型艦の磯風を2隻セットにしたキット。2隻セットなので、ひとつは気軽に組んで、もうひとつはじっくり作るといった楽しみ方や、紛失した時の予備パーツとして1隻確保しておくなど、モデラーに応じた楽しみ方が可能です。成型色で各色が分かれているので、組み立てるだけでもとっても精密な雪風/磯風が完成します。
1/700 艦NEXT 日本海軍駆逐艦 雪風/磯風 2隻セット
●発売元/フジミ模型●4180円、発売中●1/700、約18.4cm●プラキット
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製作期間は週末2日間

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