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【ELECOM×M.A.P.P. 士郎正宗氏スペシャルインタビュー】2002年当時と現在のデザインの変遷とは。今冬復刻予定「士郎正宗デザインマウス」続報もお届け

2025.09.01

エレコム×M.A.P.P. 「士郎正宗デザインマウス」再起動! スペシャルインタビュー 月刊ホビージャパン2025年10月号(8月25日発売)

ELECOM×M.A.P.P. 
「士郎正宗デザインマウス」再起動!

 約23年ぶりの復刻となるエレコムの「M.A.P.P.」シリーズ。本シリーズは漫画家・士郎正宗氏とメカニックデザイナー・カトキハジメ氏を迎えて始まったデザインマウスプロジェクトであり、その先鋭的なフォルムと機能性は大きな反響を呼んだ。今回は2025年冬に第1弾として復刻予定の「士郎正宗デザインマウス」の続報をお届け。士郎氏に2002年当時と2025年現在のデザインの変遷についてうかがった。


士郎正宗氏スペシャルインタビュー

––––まず、ご自分がデザインされたマウスを実際に手に取った当時の感想をお聞かせください。

純粋に「うわ~できたよ本物のマウスだ!」というのと同時に、最終モックアップとの差異の有無・程度や、実機における左右回転の抑え込み具合、前後動時に手の甲や長掌筋周辺にかかる抵抗や、手首周辺とテーブル面の接触度合いの感じ、実物のグリップ重心の具合や芯柱の感じ、重さやぐらつき感の有無、掌の密着感軽減具合と隙間感などなど、他の多くの仕事同様に喜びよりも各種要素の確認と、何か大事なことを忘れていないかとの心配が主だったように思います(大体の場合、初見時は仕事進行途中なので)。

2002年発売の士郎正宗デザインマウスのイメージ画像
▲ 2002年に発売された「M-MAPP1SMシリーズ(士郎正宗デザイン)」。標準価格7875円(税込)で3種を展開

––––2002年版のユーザーの反応で印象に残っていることはなんですか?

賛否是非が分かれていたと思います。今回復刻版を企画していただけたということは、それなりに一定程度どこかで誰かのお役に立てたということだと自分に都合良いように解釈することにします(笑)。また、マウスをどういった作業でどれくらいの頻度や用法で使うか、人によって実にさまざまなのだということを実際に再確認できたのは収穫でした。このような通常だと得られない機会をいただいたことに今も感謝しています。マウスが合わなかった方、すみません。でも人と道具の相性は個々其々です、ご容赦ください。

––––2002年版には士郎氏のデザイン工程やコメントなどを収録したオリジナル小冊子が付属しました。当時の「これからのデザイン必要な要素とは?」という質問に対し、いまならどんな回答をされますか?

20年以上が経過し、家電量販店の店頭観察などから思うに、当時と今で異なっているのは人間工学のどの部分に需要を見出し重点を置くか (左右対称で低く平たいモデルが多かった頃や、左右役割分担で丸みが強い世代、奇抜なアイデアが盛り込まれた派手なモノが登場したり、事務機器メーカーさんが超小型の機種を文具屋さんに置いたり、など時々の変化や流行り廃りがあるようです)や、俗にいう「用と美」や「クラフトとデザイン」の比重・割合、マウスの需要が世の中のどこにどんな形で存在しているか(パソコンサプライやゲームコントローラーとしてのあり方、据え置き主眼かモバイル用か、有線か無線か)、などの点で時代の変化を感じます。またユニバーサル(万人向け)からマルチバーサル(多様な価値観の確立)に、保守か革新か、景気の良し悪しといった要素もあるかと思いますが、一方で本件は復刻版企画なのでそうした観点に大きな影響は受けないかもしれません。

2002年発売の士郎正宗デザインマウスのオリジナル小冊子の画像
▲ 士郎氏のデザイン工程、コンセプト、制作秘話、インタビューを交えたオリジナル小冊子
2002年発売の士郎正宗デザインマウスのオリジナル小冊子の画像
▲ 「これからのデザインに必要な要素とは?」という問いに対し、当時の士郎氏は「現在の流行りで言えば「癒し」の要素を持ったゆとりある親切丁寧なデザインが短期的にはイケ線でしょう。目指すべき思想やその行程が見えがたいために消費心理が冷え、皆疲れており、癒しが必要になっているのだと思います。しかし長期的には「未来のコンセプト」「希望的未来」といったものが必要であると思います。デザインは夢の提示であり、実現・実用ですから、その責任は重大です。今はデザイン分野においては大変な時代であると言えるでしょう」と述べている

––––2002年と2025年で、マウスの製作方法にどのような変化がありましたか?

2002年版では3DCGモデルを作ってレンダリング、静止画をプリント提示して企画の方向や細部を検討・摺り合わせし、ある程度決まった段階で石粉粘土によるモックアップ製作を行い、それを元にさらに企画の方向や細部を検討・確認・摺り合わせ、僕は石粉粘土モックアップ納品まで、という流れでした。
復刻版では2週の進行ごとにエレコムさんにお邪魔し、会議室で資料やモックアップ、作っていただいた3Dプリンター出力モデルや表面処理サンプルなどを前にしてのミーティング、といった流れです。

2002年版士郎正宗デザインマウスの試作品の画像
▲ 2002年版用に石粉粘土で作られたモックアップ。最終的に数十ものモックアップが製作され、形状検討が行われた

–––M.A.P.P.再起動にあたり、デザインや仕様が一部変更された箇所があるとのこと。どのような変更を加えられたのでしょうか。

仕様変更に関しては僕の発案やオーダーではありません。エレコムさんには基本的に「いま風の仕様」だと聞いています。作業としては変更箇所に関する2D上面側面図のプリントと色の方向性確認のレンダリングプリントを1枚、モックアップを2種と親指側確認&検討用の部分粘土モックアップを4種製作しました。
過去にCAD系・グラフィック系で同じ拡張子なのにツールによってデータの持ち方やパラメータの取り扱いが何種類もあることにより「データが化ける」現象が起きて難儀した経験があり、昨今互換性がどうなっているか再び試そうという気にまったくならないため(笑・すみません、作業環境がダメージを受けて復旧が大変面倒だったもので……)、3Dデータそのもののやりとりは避けるようにしています。そのため今回もアナログ (石粉粘土モックアップ。今回は時間の都合で前回よりも粗いモデル)による曲面や持ち具合の意思疎通と確認が僕の担当部分の主です。

2025年版士郎正宗デザインマウスの試作品の画像その1
2025年版士郎正宗デザインマウスの試作品の画像その2

▲ 士郎氏により新たに製作されたマウス本体のモックアップ。造形には2002年時と同じく石粉粘土を使用

2025年版士郎正宗デザインマウスの試作品の画像その3
▲ 親指側確認&検討用の部分粘土のモックアップ4種。全体のサイズ感がわかるよう底面には厚紙が貼られている
士郎正宗自画像

士郎正宗(しろう・まさむね)

 漫画家。同人活動を経て1985年『アップルシード』でメジャーデビュー。画業40周年にあたる2025年、代表作『攻殻機動隊』を中心とする初の大型展示「士郎正宗の世界展~「攻殻機動隊」と創造の軌跡~」を開催。本展は大阪・心斎橋PARCOにて9月5日(金)より巡回展が開催となる。


「ホワイト」&「ブラック」発売決定!!

 2002年版ではブラック、シルバー、ホワイトの3カラーが展開され、進行中の復刻版では写真のホワイト、ブラックカラーが採用決定となった。なお復刻版では「外見上わかりやすい部分」として、下記の変更が加えられるという。

サムネイル

●親指ボタン追加により母指球関連筋から母指内転可動域に関わる接触部分を変更して意図しないスイッチングミスの確率を回避または低下。
●2002年版で親指を引っ掛けて横回転を抑えることができた窪みベベル部分は追加ボタン操作にとって「親指の疲労度を上げるかもしれない負要素」なので「親指の屈曲変化量と挙動作の労力」が低強度になるよう滑らかに変更。
●USB端子口の追加。

次回はシルエットでお届けした復刻版の詳細をお披露目。続報を待て!

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