「“マイナスに飛び込め”という考えを体現するのであれば、最も大変な長編ストーリーにチャレンジするべきだと思いました」『大長編 タローマン 万博大爆発』藤井亮監督インタビュー
2025.08.268月22日(金)から公開中の『大長編 タローマン 万博大爆発』より、タローマンの生みの親・藤井亮監督に話を伺った。話題を呼んだTVシリーズ『TAROMAN』映画化の経緯とは? そしてあの『TAROMAN』をどのように105分の長編映画に仕上げたのだろうか? これを読めば映画がより楽しくなること間違いなしのインタビュー!
藤井亮(ふじい・りょう)
1979年生まれ、愛知県出身。豪勢スタジオ/GOSAY studios代表。『石田三成TVCM』(滋賀県)『星のタービン』(日本建設工業)などの個性的な作品で数々の話題を生み出しているクリエイター。
──まずは『大長編 タローマン 万博大爆発』の製作経緯をお教えください。
藤井 僕の中ではTVSPの『帰ってくれタローマン』でシリーズは終わったと思っていたのですが、配給のアスミック・エースさんから熱いオファーをいただき映画を制作することになりました。ただTVシリーズが「展覧会 岡本太郎」に合わせて制作された番組だったように、やるべき理由が必要だな、ということは最初に考えました。そこで、岡本太郎が太陽の塔に込めた思い――“70年万博の「人類の進歩と調和」というテーマに対するアンチテーゼ”ということについては、TVシリーズでやっていなかったなと。万博が開催されている今、このテーマであれば映画を作れるだろうと思い制作に踏み切りました。
──映画化にあたり、岡本太郎財団(岡本太郎記念現代芸術振興財団)からのご意見はありましたか?
藤井 岡本太郎財団の平野暁臣さんからは「藤井君の思うような作品ができるなら作ったらいい。“映画だからスペシャルゲストや恋愛要素を入れる”といった変な事情にまみれたものなら作ってはいけない」というお言葉をいただいて、この言葉は大きな指標になりました。予算という事情だけはどうにもなりませんが(笑)、それ以外の事情には振り回されず作ろうと決意しました。
──5分番組として展開していた『TAROMAN』を105分の長編で制作するということは、かなりチャレンジングな企画だったのではないかと思います。
藤井 最初は総集編+新規パートやオムニバス形式にすることも考えていましたが、岡本太郎的な「マイナスに飛び込め」という考えを体現するのであれば、最も制作が大変な1本の長編ストーリーにチャレンジするべきだと思いました。ちゃんとした長編だけど、でたらめであるというモノを作れるかチャレンジしたかったんです。
──そのようなチャレンジを行うにあたり、参考にした作品などはありましたか?
藤井 僕自身映画を作るのが初めてですし、子供が観ても面白い映画にしたかったので、90分前後でキレイに収まっている作品を色々と研究しました。特にピクサーの作品……『カーズ』『モンスターズ・インク』『トイ・ストーリー』などを観て、尺ごとに「ここで展開があって、ここで盛り上げればいいのか」ということを勉強して、いざ作るときはそれを壊していきました(笑)。タローマンらしく。
──本作ではTV版のキャラクターにもしっかりとした出番が与えられ、特に風来坊の活躍が目立ちました。TV版の印象では吹かしているだけなようにも受け取れましたが、最初からああいったキャラを想定されていたのでしょうか?
藤井 それはまったくなかったですね。当初の予定ではあそこまで活躍させる予定はなく、TV版でも賑やかし程度の存在感でしたが、その後の展覧会やグッズの「タローマン かるた」などで身体が半分メカになっているということになってしまったので(笑)、せっかくだから色々活躍させようと思い、今作での活躍に繋がりました。
──水差し男爵は実施してもいない人気投票で1位を獲っているという「人気があるということ自体がネタ」なキャラクターですが、大長編ではどう活躍させようと考えましたか?
藤井 水差し男爵の出しどころは悩みました。設定を意識しすぎて露骨すぎるのも良くないし、出せば出すほどボロが出てしまい設定が崩れてしまうように思えて(笑)。なので今回はとにかく水を差すことに専念してもらって、メインであるタローマンの行動を「水差し」しながら、さりげなく助けるという活躍に収まりました。た。
──風来坊も水差し男爵も、観ていてどこか『アイアンキング』のようだと感じました。『アイアンキング』はご存知でしたか?
藤井 たしかにそうですね(笑)。『アイアンキング』は生まれる前の作品なので後追いで知ったのですが、あの時代の量産された特撮のエネルギー、そしてデタラメさを感じるものとして参考のひとつになっています。ある意味憧れでもあり、そういう番組の空気を自分たちのものにしたい、という思いもありますね。
──その他、TV版から引き続き登場している個性的なキャストの皆さんはどのように集めたのでしょうか。
藤井 「顔採用」です。昭和顔・昭和の雰囲気が漂うことがポイントですね。皆さんそこまで露出が多いわけではなく、エキストラ事務所に所属している方がほとんどです。台詞収録はオールアフレコで、本人が声を当てているのは風来坊と博士だけですから。演技力よりもまず見た目を重視しました。
──本作の新キャラクターである「エラン」をタローマンのスーツアクターである岡村渉さんが演じられているのはなぜでしょうか?
藤井 最初はムキムキな外国人の方をアテンドしようとしていたんです。ただ、エランには劇中で重要な役割があるので、その部分を演技で表現できる岡村さんにお願いすることにしました。
──撮影は何ヶ月ほどされたのでしょうか。また、苦労した点などはございますか?
藤井 特撮パート、ドラマパートなどは三ヶ月ほど毎日撮影していました。全てブルーバックによる背景なので、そのあとの合成や素材づくり、編集にさらに数ヶ月かかり、かなり大変でした。少女の家などもスーパーで買ってきたザルで手作りしたり……百均とホームセンターを往復してチマチマ作業をしていました。また、ブルーバック背景での撮影は状況が想像しづらく、役者さんの演技が難しい──というのは、TV版から問題としてありましたね。絵コンテがあるので全体でビジョンの共有はできていたと思いますが、複雑なコンテキストを持つ作品なので、最後のほうはもう理解するのを諦められていたかもしれません(笑)。
──本作では岡本太郎の代表作のひとつ「明日の神話」が重要な奇獣として登場しますが、この奇獣がTV版に登場しなかったのはこういった展開を見据えていたからでしょうか?
藤井 「明日の神話」は作品に込められたテーマが非常に重くセンシティブなこともありまして、TV版の5分尺ではそれを伝えきれない、場合によっては冒涜的に映ってしまうと考え、奇獣としては登場させませんでした。(注:タローマンの必殺技として登場)今回は映画の尺があるので伝えられる、と思って起用しています。また「明日の神話」を奇獣にした場合、かなり大型の着ぐるみを造形する必要が想定されたので、TV版の規模では再現が不可能だったという背景もあります。
──本作ではタローマンのパワーアップ、フォームチェンジ的なシーンがありましたが、TV版より未来の話ということで現代のヒーローを意識したのでしょうか?
藤井 それっぽいシーンはありますが、パワーアップという意識はなかったですね。単純に強化されないのがタローマンらしいと思っています。以前6歳になる息子から「タローマンはパワーアップしないの? フォームチェンジしないの?」ということを聞かれたことがあったのでちょっと目配せはしてみましたが、タローマンはそう単純にはいかないぞ、という作風の現れでもあります。
──今回の映画で、タローマンに一番やらせたかったことは何でしょうか?
藤井 奇獣との戦闘におけるクライマックスで、「劇場、スクリーンで上映される作品という状況で一番できるでたらめなことはなにか」と考えて思いついた攻撃シーンがあります。本作は最初にそこを思いついてからいろいろ膨らませていったので、そのシーンにはぜひ注目してほしいですね。
──この夏はさまざまな大作映画が公開されていますが、近くの公開日の映画でライバルだと思っている作品はありますか?
藤井 ちょうど『スーパーマン』と『劇場版チェンソーマン レゼ篇』の間に公開されたので、同じ「マン」としてほんの少しだけ意識しています(笑)。興行成績で少しでも迫れる週があれば……くらいには。
──商品や映像など、これからの『タローマン』の展開について何かお考えはございますか?
藤井 タローマンは「岡本太郎の作品を語るべき時」に合わせて作られるものだと思うので、また大規模な回顧展があったり、何かそういった機会があればむくっと起き上がる可能性はあるのかな、と思っています。
──最後に、これから映画を観る読者へのメッセージをお願いします。
藤井 昨今のヒーロー映画のイメージですと色々予習をしなければ全てが楽しめないという思われるかもしれませんが、でたらめな映画なので何の予備知識がなくても楽しい作品になっています。もし履修するとしてもTV版の50分だけで済みますので、気軽に観に来て、タローマンの「でたらめさ」を楽しんでいただければと思います。
『大長編 タローマン 万博大爆発』大ヒット上映中!
でたらめに、しかしあくまで本気で岡本太郎の作品と向き合う藤井監督による初劇場作品『大長編 タローマン 万博大爆発』は現在大ヒット上映中! 『TAROMAN』ファンにとっては、あのタローマンが正しく劇場作品としてスクリーンに解き放たれていることに感動間違いなし。『TAROMAN』未見の方にもぜひ「なんだこれは!」と思ってほしい。いずれにせよ唯一無二の映像体験となること間違いなし。今すぐ劇場に飛び込もう!
公式サイト:https://taroman-movie.asmik-ace.co.jp/
月刊ホビージャパン10月号でフルバージョン掲載中!
「月刊ホビージャパン10月号」では、藤井亮監督インタビューのフルバージョンを掲載! 藤井監督の映画ルーツやホビー事情などについても語っていただいているぞ。

©2025『大長編タローマン万博大爆発』製作委員会