HOME記事スケールモデル戦後の空を彩った傑作練習機「ビーチエアクラフト T-34A メンター」日本でも愛されたその経緯とは【いまさら聞けないすごいヤツ】

戦後の空を彩った傑作練習機「ビーチエアクラフト T-34A メンター」日本でも愛されたその経緯とは【いまさら聞けないすごいヤツ】

2025.08.22

いまさら聞けないすごいヤツ!!/ビーチエアクラフト T-34A メンター●宮永忠将、大森記詩 月刊ホビージャパン2025年9月号(7月25日発売)

いまさら聞けないすごいヤツ!!

 ビーチエアクラフト 
 T-34A メンター 

イラスト/大森記詩

「名前は知ってるけどどんなものなんだろう?」「今さら聞くのもはずかしいなぁ……」なんて思ってしまう有名な飛行機や戦車、車などのモチーフをサクッと読める解説とイラスト、オススメのプラモとともにご紹介する本連載。
 前回の「ノースアメリカン T-6 テキサン」に続き、こちらもパイロット育成においては欠かせない練習機として世界的ベストセラーとなった「ビーチエアクラフト T-34A メンター」をご紹介します。


T-34A メンター

全幅/10.01m 
全長/7.87m 
全備重量/1315Kg 

エンジン/コンチネンタルO-470-13 水平対向エンジン 
馬力/225馬力 
最高速度/304km/h 
航続距離/1238km


海上自衛隊 第51航空隊 下総航空基地 1979年

T-34Aメンター左側面イラスト
T-34Aメンター上面イラスト
T-34Aメンター下面イラスト

T-34 メンター初等練習機

解説/宮永忠将

T-34Aメンター右側面イラスト

 戦後の空を彩った傑作練習機 

 第二次世界大戦に参戦したアメリカでは大量のパイロットが必要になった。そんなパイロット候補生が最初に乗る初等練習機には、ボーイング製のステアマン・モデル75みたいな、扱いやすくて安全な複葉機が使用されていた。
 ところが戦争を通じて軍用機の性能が劇的に進化する。その一方で、戦争が終わるや、軍の規模は一気に縮小されて、パイロットの短期大量育成なんてする必要がなくなった。さらに軍用機もジェット時代を迎えつつあったので、初等練習機とはいえ複葉機、しかも戦前設計ではちょっと古すぎる。そんな需要のギャップに目を付けたビーチ・エアクラフト社は、プライベート機として成功していた自社のボナンザ(スペイン語で「幸運/成功」の意味)をベースに、モデル45メンター練習機を開発した。
 メンターとは「助言者」みたいな意味で、学生時代の就職活動で、メンターと呼ばれるOBやOGにお世話になった人も多いだろう。
 そんなメンターは、ボナンザの特徴でもあった、ちょっとおしゃれなV字尾翼をレトロな単尾翼形式に戻し、4人用キャビンをタンデム複座にしたもの。これがアメリカでは陸軍から分離して新設されたばかりの空軍の目に留まり、1953年に初等練習機T-34Aとして採用されたのである。
 良好な操縦性と安定性はもちろん、多少乱暴な操作や、誤操作にあっても容易には安定性が失われない堅牢さが評判となる。そして同様に練習機を探していたアメリカ海軍でも、エンジンの仕様を変更したメンターをT-34Bとして採用している。

 日本でも愛されベストセラーに 

 アメリカ軍に選ばれたという宣伝効果は抜群で、メンターは世界20ヵ国以上で練習機として採用されるようになる。日本も例外ではなくて、戦後、保安庁として発足したばかりの自衛隊でも50機の導入が決まる。ただし完成品を揃えるのではなく、富士重工業の名で再出発した旧中島飛行機のライセンス生産機という条件があった。
 ただ、これが結構複雑で、まずアメリカから20機が貸与されて、それぞれ警備隊(陸自の前身)と保安隊(海自の前身)に10機ずつ配備。その後、富士重工がライセンス機を生産したという流れ。自衛隊での最終的な導入数は124機で、航空自衛隊はもちろんのこと、海上自衛隊では連絡機や救難捜索機としても使われていた。こうして1950年代の自衛隊ではかなりポピュラーな機体となった。
 アメリカ空軍では、ベトナム戦争の時期に訓練コースがオール・ジェットになったため、1970年代を前にメンターは全機退役している。けれど、そんな芸当ができる軍隊なんて他にはない。アメリカ海軍だって1970年代にエンジンをレシプロからターボプロップに交換したT-34Cターボメンターを導入して、90年代まで使用しているし、現在でも世界各地で練習機や軽攻撃機として息の長い活躍をしている。
 大量生産されたので、安価で民間に払い下げられた中古機も多い。メンターの数だけ物語がある。そんな想像を膨らませながら眺めると面白い傑作機だ。


株式会社SUBARU


 2020年に商号を株式会社SUBARUに変更した富士重工業は、かつては三菱航空機(重工)と並ぶ日本最大の航空機メーカー、中島飛行機を前身とする。戦後、日本は航空機開発を禁じられ、設備やスタッフもバラバラになってからの航空産業の回復は容易ではない。だからT-34メンターのライセンス生産事業は富士重工にとっても、航空産業復帰への弾みとなった。まさに同社にとっても良きメンターであったということか。ちなみにSUBARUの自動車には水平対向エンジンやコクピット設計を応用した車体デザインなど、航空機メーカーだった時代の遺産がふんだんに注ぎ込まれていて、同社の特色となっている。


もじ

傑作キットをベースにした
「海上自衛隊」仕様

 ミニクラフト社の傑作キット「T-34A メンター」。国内では韓国のメーカー・アカデミーパッケージ版が購入しやすいです。そのキットにウルフパックデザインが海上自衛隊仕様のデカールをセットして販売しているのが本キット。このキットを買えば、日本国内で運用されたメンターの姿を楽しむことができます。

ウルフパックデザイン「T-34Aメンター海上自衛隊」ランナー
▲パーツ数はシンプル。キットの合わせも良く作りやすい
ウルフパックデザイン「T-34Aメンター海上自衛隊」ディテールアップ
▲本体のディテールは見事! 美しいリベットやパネルラインが多数彫刻されている
ウルフパックデザイン「T-34Aメンター海上自衛隊」デカール
▲こちらが海上自衛隊仕様のデカール(カルトグラフ製)。カラーの塗装図もセットされる
ウルフパックデザイン「T-34Aメンター海上自衛隊」マスキングシール
▲キャノピーやホイール用のマスキングシートが付属。さらにエッチングなどの金属製パーツも付属
ウルフパックデザイン「T-34Aメンター海上自衛隊」パッケージ

1/48 T-34A メンター「海上自衛隊」プレミアムエディションキット

●発売元/ウルフパックデザイン●4620円、発売中●1/48、約18.4cm●プラキット


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