HOME記事フィギュア話題の超ハイクオリティ・可動フィギュア「INART」の実態とは?開発チームに直接“こだわり”を聞いてみた【Queen Studios 独占インタビュー】

話題の超ハイクオリティ・可動フィギュア「INART」の実態とは?開発チームに直接“こだわり”を聞いてみた【Queen Studios 独占インタビュー】

2025.08.09

等身大フィギュアの雄、クイーンスタジオ本社に行ってみた●しげる 月刊ホビージャパン2025年9月号(7月25日発売)

ハイクオリティアクションフィギュア専門ブランド、INARTの実態に迫る!

VIPER氏とVENCHAR氏の写真

 クイーンスタジオの擁するアクションフィギュア専門ブランドとして、2022年から商品展開を始めたINART。超ハイクオリティな1/6フィギュア専門ブランドとして、3年の間活動を続けてきた。さらに『ダークナイト ライジング』版バットマンで、1/12スケールにも進出! 止まるところを知らない彼らはいかにしてフィギュアを作り、何にこだわっているのか。同ブランドでアクションフィギュアの開発に携わるVIPER氏(写真左)とVENCHAR氏(写真右)に話を伺った。

ジョーカーのアクションフィギュアの画像
アラゴルンのフィギュアのアップ画像
マイケル・ジャクソンのアクションフィギュアの画像
デンジのフィギュアのアップ画像
孫悟空のフィギュアの画像

▲ 『ダークナイト』のジョーカーや『ロード・オブ・ザ・リング』のアラゴルン、はたまた『チェンソーマン』のデンジやゲーム『黒神話:悟空』の孫悟空、さらにマイケル・ジャクソンまで、INARTの1/6フィギュアは幅広いラインナップを誇る

INARTのバットマンのフィギュアのアップ画像
▲ INART初の1/12フィギュアが『ダークナイト ライジング』版のバットマン。全高16cmほどのサイズながら、顔の造形はまさにクリスチャン・ベールそのものだ
孫悟空のアクションフィギュアの全体画像
孫悟空のアクションフィギュアのアップ画像
孫悟空のアクションフィギュアの武器パーツの画像
孫悟空のアクションフィギュアのメイン画像
▲ INART製1/12フィギュアの最新作が、この「Black Myth:Wukong The Destined One」。ゲーム『黒神話:悟空』の孫悟空を題材としたフィギュアだ。衣装の一部には極薄の布地を使い、全身の鎧のモールドも極めてシャープかつ精密。如意棒の上に乗ったゲーム内のポーズもとることができるなど、可動範囲も申し分ない。取材したタイミングではまだ価格未定だが、前作のバットマンを鑑みると“お値段以上”の一品となることは間違いないだろう

クイーンスタジオよりも大規模なINART

──クイーンスタジオから分かれてINARTが設立された経緯を教えてください。

VIPER 元々は自分は、幼馴染の大学の下宿で12インチのフィギュアで初めて遊んで、フィギュアを自作したりしていたんです。その後、自作フィギュアをきっかけにクイーンスタジオに自分が入社して、その幼馴染ものちに入社したので、彼と立ち上げたブランドです。INARTというブランド名も、その幼馴染と一緒に考えたものです。


──現在のINARTの規模を教えてください。

VIPER 杭州でのバックオフィス業務はクイーンスタジオもINARTも両方やっているんですが、製作スタッフは基本的に東莞にいます。そちらも「INARTのスタッフ」「クイーンスタジオのスタッフ」という形でキレイに分かれるわけではないんですが、総勢100人ほどのうち、70人程度はINARTの仕事をしているスタッフという感じです。

──現在はすでにスタチュー部門よりスタッフの人数が多いんですね。

VIPER 市場の方向性もあって、現在はINARTのほうが主力事業になりつつあります。クイーンスタジオもINARTも企業理念は同じなんですが、お客さんに覚えてもらいやすいので、ふたつのブランド名に分けている状態ですね。

“1/6はスケールモデル”、“1/12はガンプラ”

──当初は1/6のフィギュアからスタートしたINARTですが、なぜ1/12にトライしようとしたんでしょうか?

VIPER 1/6のフィギュアはどうしても価格が高くなりますし、参入してくるユーザーも少ないです。そういった市場を鑑みて、1/6のノウハウをそのまま転用した1/12フィギュアの開発に進みました。

──可動のないスタチューと関節が動く1/6、1/12のフィギュアでは製造ノウハウは全く異なると思うんですが…?

VIPER 入社前から東莞の工場を歩き回って、アクションフィギュア生産のためのリソースを集めていたんです。元々クイーンスタジオにはアクションフィギュア部門の立ち上げが目的で入ったところがあるので、その時期に溜め込んだリソースがINARTの事業でも役立っています。

──原型製作はどのように行っているのでしょうか?

VIPER 原型製作はほぼデジタルです。古い作品だと俳優の3Dデータがないこともあるので、そういう場合は写真を見ながら似せていきます。1/6は可動フィギュアではあるんですが、よりコレクション性や見映えを重視していて、例えば髪の毛を植毛にしたり服の布に凝ったりしています。
VENCHAR もちろん関節は動くんですが、1/6は激しく動かして遊ぶものではないと思いますし、その代わりにフィギュア自体のクオリティを上げて、ディテールにこだわっていますね。1/12は手に取りやすいサイズであるということもあって、可動や遊びやすさも重視しています。1/6は正解に近づけていくスケールモデルに近いですね。布地の素材選びにしても時間がかかりますし、どれだけ彩式見本に近いものを届けられるかが勝負です。

──1/12はそれとは違うわけですね。

VENCHAR 1/12はスケールモデルというよりガンプラに近い感じです。もうちょっと振れ幅があるというか、自由なところがあります。たとえば人間の肘や膝の関節は二重関節ではないですが、曲げた時にキレイなラインになるようあえて関節をもうひとつ増やすとか。そうなると開発段階が大変で、設計者と着地点をすり合わせるのに苦労します。

──そのあたりの差は、実際の製造工程にも影響してくるんでしょうか?

VENCHAR 正直、設計は1/12のほうがめんどくさいです(笑)。最初にこのキャラクターはどこが面白いんだろうという点を考えて、関節を配置した上でディテールにも気を遣わなくてはならないので。ただ、製造現場でより苦労するのは1/6のほうですね。設計は比較的難しくないんですが、製造するのが難しいディテールが多いんです。

──顔ひとつとっても、このレベルの塗装を全製品でキープするのは大変そうですね。

VIPER やはり顔は大変ですね! 1/6だったら、版権元のチェック前に15回程度のリテイクで済めば少ないほうです。これは開発部の定番ジョークなんですが、「顔がよくできていれば、それ以外のところもよくできていると加点としてもらえる。しかし顔がダメだと、それ以外の部分がどれだけよくできていたとしても、顔の減点が大きすぎて焼け石に水程度の埋め合わせにしかならない」と言われています。なので、1/6だと全工程の80%は顔の造形に費やしていると思います。

異素材の使用を可能にする東莞という地

──この孫悟空にしても、1/12ののフィギュアにも関わらず一部に布地が使われていたりして、工夫の跡が見られます。

VENCHAR ぶっちゃけた話、うちではコスト的には布を使ったほうが高いんです。もう、素材の選定から大変です。1/12のサイズで自然にシワを寄せることができる布素材というのは、安価なものではまず存在しないんですよ。さらにいえば、スケールが小さくなればなるほど布を調達するのも大変になります。

──相対的に、フィギュアのサイズに比べてどんどん布が分厚くなりますもんね。

VENCHAR さらに1/12フィギュアとして、可動させた時に自然に裾が落ちているように見えるかとか、あらゆる部分に気を使います。

──日本人の感覚だと、やはりアクションフィギュアというのは全部樹脂でできているほうが自然だろう、という気持ちはありますが…。

VIPER 布を使う場合、素材を吟味できないと安っぽくなってしまうという弊害は確かにありますね。INARTの場合、工業地帯である東莞にオフィスを置いているのがそれに対する回答になっています。例えば、この孫悟空の布にしても、東莞に布地の市場があるから、そこにいって選べばいい。他にも、例えば中国国外のメーカーだと3〜4日かかる問題を、東莞にオフィスを置いている我々なら1日で解決できるんです。

──生産手段・施設とオフィスが近いのは、本当に有利ですね…! クオリティコントロールについても、日本のメーカーより生産地に近いことがプラスに働いているところがありそうです。

VIPER 日本メーカーとの違いに関していえば、日本のメーカーは「客観的なクオリティ」を重要視する傾向があると思います。たとえばフィギュアの表面にちょっと塵がついてるとか、フィギュアをスタンドに立たせる時に調整が必要になるとか、そういった枝葉の部分までクオリティにこだわるというか。我々は、それとはちょっと異なる視点で製品を作っています。

──それはどういった視点なんでしょうか?

VIPER 自分たちが重視しているのは、「パッとみた時に自然かどうか」なんです。
VENCHAR 例えば、パーツにドライブラシを施していますが、日本のメーカーだと量産したものは全部メーカー彩式見本と同じ仕上がりにしたいという希望が出ると思います。我々は多少の差異があってもいいと思っていますし、なんなら個体特有の違いがあってもいい、でも全体的に見た時に自然な仕上がりになってないとダメと考えています。
VIPER 「完璧すぎると魂を感じない」とさえ思いますね。とにかく均一に、全部同じでなくてはという発想ではなく、製品が全部唯一無二ということでいいんです。

今後はさらなる異分野へのチャレンジを狙う

──今後のINARTの製品は、どのようなものが予定されているんでしょうか?

VIPER もっと小さいスケールのフィギュアやプラキットも考えています。人員も毎年拡充していますし、開発能力が上がればいろんな可能性が生まれますから。ただ、「それは本当に自分たちがやるべきなのか」という点は精査したいんです。ただやりたいとやるのではなく、アドバンテージの有無や自分たちの中で活かせる技術はあるのかなど、総合的に見て今後手掛ける事業を考えていきたいと思っています。

──プラキット!? それは楽しみです……! 最後に、日本のユーザーに向けてメッセージはありますか?

VIPER 昔からホビージャパン読者だったので、今回インタビューしてもらえてすごく嬉しいです。今後立ち上げる「Morfig」というシリーズはオリジナルの題材をメインに、各国のアーティストと組む予定です。日本のアーティストとも一緒にやりたいので、「アイデアはあるけど資金や生産リソースがない」というクリエイターの方は、ぜひご連絡ください!
VENCHAR 改めてのインタビューの機会をいただきありがとうございました! リボルテックをはじめとする、昔から日本のアクションフィギュアで遊んでいたので、フィギュア製造に関してもまさに「巨人の肩に乗る」という感じでした。ぜひ日本の市場に加わって、我々の製品が憧れの先達たちと一緒に並んでいるところを見たいです。そして日本の皆さんにも我々のフィギュアが受け入れてもらえれば、こんなに嬉しいことはないですね。

──ぜひ日本市場でも頑張ってください! 本日はありがとうございました!

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