未来の特撮クリエイター集結の「第23回全国自主怪獣映画選手権 東京総合大会2025」! 力作揃いの上映会レポート
2025.06.08未来の特撮クリエイターが集結!
ポスト田口清隆は誰だ!「第23回全国自主怪獣映画選手権 東京総合大会2025」力作揃いの上映会レポート
「怪獣が出ていればなんでもOK!」を合言葉に、自主映画を募集・上映する「全国自主怪獣映画選手権」(自怪選)。『ウルトラマンZ』や『ウルトラマンブレーザー』の監督として知られる田口清隆が主催するこの大会は、過去には『タローマン』の特撮を手掛けた石井那王貴や、『温泉シャーク』監督の井上森人らを輩出し、毎年多くの才能が集結する場として定着している。
5月24日(土)に調布市文化会館たづくり・くすのきホールで開催された大会の様子を振り返り、その盛り上がりと受賞結果をお伝えしよう。
▲<調布ミライ賞>『ビルラ』(監督:びっくり麻婆)
まず、調布シネマクラブから送られる「調布ミライ賞」には、びっくり麻婆監督の『ビルラ』が選ばれた。調布の街を舞台に、自主怪獣映画を撮る若者が次々にビルの怪獣「ビルラ」に襲われるという、自怪選にピッタリの作品。他の監督の出演や調布市文化会館が破壊されるシーンの圧倒的な面白さと、それらをテンポよく繋いだ編集の巧みさが相まって、会場は大盛り上がりだった。
▲<田口清隆賞>『猿人(前編・後編)』(監督:三枝周愉)
田口清隆賞に選ばれたのは、三枝周愉監督の『猿人(前編・後編)』。悪魔や猿人と言った謎の生物の戦いをクレイアニメーションで描いた力作で、洗練された粘土での表現に田口監督も「美大生が作っているのかと思った」と感想を漏らしたが、三枝監督はなんと中学1年生(制作時小学6年生)。将来が楽しみな、新たな才能の誕生となった。
▲<準優勝>『宇宙干物 対 地球乾物屋三代目』(監督:中嶋政彦)
準優勝には、謎の巨大生物を自衛隊と乾物屋が迎え撃つ、中嶋政彦監督の『宇宙干物 対 地球乾物屋三代目』。「発掘されたフィルム」という説明と、昭和テイストのレトロな映像が『タローマン』を思わせるが、驚いたことにこちらは本当に発掘された1986年制作の8ミリ映画。衣装や建物はもちろん、俳優の佇まいも現代では真似できない本物の80年代感に溢れている。40年前の中嶋監督がフィルムに残した、本物の昭和特撮が文句なしの受賞となった。
▲<優勝>『大きいけど怪しくはない獣』(監督:飯塚貴士)
今回上映された17作品の中でもっとも観客の票を集めたのは、飯塚貴士監督の『大きいけど怪しくはない獣』。ブラック企業で働く青年が、地球に落ちてきた巨大怪獣とともに生きていくストーリーで、「怪しくなくても大きいだけで『怪獣』と呼ばれてしまう事への違和感」を元に作られたという作品。
飯塚監督は『フォーカード』『補欠ヒーローMEGA3』『劇場版オトッペ パパ・ドント・クライ』などでプロとしての実績も豊富。特撮のワクワク感と怪獣のかわいさが同居する飯塚監督の世界観が観客を魅了し、見事優勝に輝いた。トロフィーを授与した田口清隆監督も、盟友の受賞に感無量と言った様子。
飯塚監督から、受賞の喜びを込めたコメントをいただいた。
「怪獣特撮は幼少期から大好きでしたが、何よりもそのおもちゃで遊ぶのに夢中でした。
大人になった今もその感覚や想像で見えていた景色を残したくて映像を撮っています。
その為特撮技術のルールを破る事があり、冒涜と取られてしまう事も少なからずありましたが、田口監督は一貫して優しい言葉をかけてくれていました。この受賞が田口さんをはじめ、応援してくれていた優しい皆さんへの恩返しになっていたら嬉しいです。
偏った愛でも届くことがある。そんな慈しみと可能性に満ちた自怪選がこれからも続き、刺激的な作品と人とが出会い、高め合っていく場であり続ける事を願います。この度は素晴らしい賞をありがとうございました!」
もちろん受賞作品以外にも、多くの個性的な作品が会場を賑わせた。SNSの違和感を描きつつ、単なる風刺に留まらない快作となった『シャマシュの目』(中島啓太監督)や、台湾からやってきた商業映画並みのクオリティの『大黑』(頼廉哲監督)など、さまざまな怪獣が観客を魅了した。
また、サイケデリックな映像で一部に熱狂的なファンを持つ、自怪選の名物監督・田中まもるによる『地獄の怪獣ミュージカル』も、「ラストにメイキングを入れることで、一人の男のドキュメンタリーを見たような気分になった」と田口監督を唸らせ、大会のハイライトの一つとなった。
今回も多くの素晴らしい作品と出会うこととなった自主怪獣映画選手権。次回もまた、未来の特撮界を牽引する才能に期待したい。