FORD GT40 Mk.Ⅱ
#1 Ken Miles/Denny Hulme
2021.07.06
MENGモデル渾身のビッグカーモデルキット「1/12 FORD GT40 Mk.Ⅱ」を楽しみつくせ!
2019年の映画『フォードvsフェラーリ』とともに人気が再燃した、フォードを代表するレーシングマシン「GT40 Mk.Ⅱ」。キットはフジミ模型から1/24スケールのものがリリースされているものの、公開タイミングで再販されることは特になかった。それを尻目に、中国メーカー・MENGモデルが完全新規でのキット化に着手。1/12というビッグスケールでスナップフィットという強烈な仕様で、2021年の5月にいよいよリリースされることとなった。
このキットの開発発表直後から製作を熱望していた“模型芸人”MAX渡辺は、映画リスペクトなレース仕様で、主人公ケン・マイルズのマシンを製作。本誌を代表するカーモデラー・畠中浩は、ル・マン24時間レースの優勝マシン版にして、カーモデルらしい高解像度&ギミック搭載仕様に仕上げた。
対照的だがどちらも最高に魅力的な1台に仕上がっている。MENGモデル初の超ビッグなカーモデル、アナタはどう楽しむ?
「GT40」について
アメリカのフォード・モーターが、1960年代に耐久レースへの参入のために開発したレース車が「GT40」である。参入当初から非常に高い性能を見せはするものの結果は振るわず、その後改良された「GT40 Mk.Ⅱ」でついに結果を残し「ル・マン24時間レース」では表彰台を独占。その軌跡を題材にした映画が2019年公開の『フォードvsフェラーリ』である。
Ford GT40 Mk.II
#1 Ken Miles/Denny Hulme
『フォードvsフェラーリ』激闘のマシンを筆塗り仕上げで表現する
MAX渡辺が手掛けた1/12 Ford GT40 Mk.Ⅱは、カーモデルではあまり行われない筆塗り仕上げ。塗装ムラのない艶やかな塗装面というのがカーモデルのセオリーではあるが、今回はレース終了後、つまり24時間を走り切った満身創痍の耐久レースカーを表現しているため、タッチの利いた筆塗りと、それに追従する汚し仕上げが非常にマッチするのだ。
車両はケン・マイルズが乗車した一号車。映画登場仕様を再現するためにサイドミラーを新規造形で追加したほか、ケン・マイルズ着用のヘルメットを再現した小物も用意している。
FRONT
SIDE
REAR
■横山宏は言った。「『フォードvsフェラーリ』はイイ音の映画館で観なさい」
摸型芸人、Ford GT40、存在は知っていた。かっこいいなぁ〜ペッタンコだなぁと。でもその成り立ち、ドラマチックな戦歴、エピソードなど何ひとつ知らなかった。「Ma.K. in SF3D」撮影の折『フォードvsフェラーリ』を観るのは国民の義務 ! というレベルで熱く語る横山センセに背中を押され、映画館へ。
号泣。
予備知識一切無しで観るに限るよなぁ、映画って。
興奮冷めやらぬ僕は当然のようにプラモデルを探し始めるのだけれど、かなり年代物のフジミのモノしか存在しない模様。そんな時、願ってもないアナウンスが飛び込んでくる。MENGモデルが1/12のビッグスケールでGT40を出すと!! 編集さんにソッコー作例予約の連絡、アナタ向きじゃないと難色を示されるかと思いきや、意外にも快諾を得る。
ひと味違うクルマ模型をやってくれるんじゃないかと期待してくれたのかもしれないと勝手に解釈。
■すごいキットだ、MENGモデル1/12 FORD GT40 Mk.Ⅱ !
パーツ精度、申し分無し。ネジ止めとはめ込みのみ、接着剤無しで組み上がってしまうのだ。成型時のヒケはあるけれど、その処理も大した手間ではない。あれよあれよと言う間に2日で組み上がってしまった。
1/9 KAWASAKI H2Rで僕らを驚かせたMENGモデル流プラモデルのコンセプトをさらに推し進めたプロダクト、それがこの「1/12 FORD GT40 Mk.Ⅱ ’66と言えるだろう。文句無しにサイコー♡のキットだ。
■虹色下地から筆塗りで仕上げるGT40
ここ8年くらい『Ma.K.』連載、飛行機、そしてガンプラ作例でやり続けている彩色メソッド「新MAX塗り」。サーフェイサー→シルバー→クリアー→ベースグレー(ほぼ黒)→赤、緑、青、オレンジ、茶色、黄色、と虹色の下地を作り、その上から筆を入れていく技法だ。
今回の対象はクルマ。だけどきっと面白いものになるんじゃないかとの予感、そして期待を込めて愚直なまでにキープコンセプト。
まずは歌舞伎の隈取りのようなヘッドライト周りの赤を筆塗り。付属のデカールをテンプレートに作ったカッティングシートでマスキング。それからボディカラーを叩いていく。入手したカーマガジンのバックナンバーや映画本編のシーンからイメージするブルーは後年いわゆる“ガルフブルー”と呼ばれるそれと比べかなり白い。ただ、それそのままだとあまりにも白いので少しだけ色気を足してあげた。これは完全に好みの問題。さじ加減だね。
カーモデルなのでぱっと見には分からないくらい下地を覆ってしまうのも良いかと思ったのだけど、やはりタッチは残すことに。かなり濃度高めの塗料を筆を縦に押し付けるように叩いたり、掠らせたりともう勝手気ままに、しかし狙う雰囲気を目指して塗り進めた。傷に見えてもいいし、影に見えてもそして汚れと見えても良い要素を表面に描き入れ、残していく感覚。
■ピカピカに仕上げてから汚してたんじゃ…
ある程度の納得がいったらこの段階でデカールを貼ってしまう。すると当然だけどデカールだけ真面目にピシッとしていて塗装面との違和感がバリバリww そこで、デカールの上にいろんなグレーをランダムに置くように塗る。もう後戻りはできない感じに。その上で白い面には白を、黒い面にはグレーを塗り重ねてブルーの塗装面と馴染ませていったのだ。デカールはやはり薄いフィルムなので下地の影響を受けてしまうから望む色にするためにもこの工程は効果的だ。
ここまで来たらクリアーを5回以上塗り重ねコーティング。一日放置したらスポンジヤスリでサンディング、研ぎ出しだ。塗装面はこの時点で半ツヤ状態。クリアーをコートしてツヤ出しはせずにここから怒涛のウェザリングカラーだ。なぜならこの半ツヤの表面ならウェザリングカラーが上滑りせず引っかかってくれるからだ。
■モデルのシーンはゴール直後を想定
ル・マン24時間耐久レースに限らずさまざまなレースシーン、過去画像をとにかく検索。マシンの汚れっぷりを観察しまくるもののなかなかパターンは掴めない。映画のシーンを観てもいまひとつコレが燃える!! っていうのには出会えなかった。そこで腹を括り、最低限のパターン、ここが汚れてるとそれっぽい、というところだけ押さえて、あとは好き勝手に描くことに決めたww
筆でウェザリングカラーを乗せては綿棒で擦り、気に入らなかったら専用シンナーで拭う。気に入ったならクリアーをエアブラシして押さえてしまう。そうしたらさらに描き入れて拭っても落ちないからだ。
耐久レースを走るクルマはただただ汚れ続けるわけでない。ピットに戻ればヒトの手で拭かれ、触られる。雨が降れば汚れが洗い流されたり溜まったり…進行方向に流れるだけではなく重力の影響も受ける。そう、変化し続けるわけだ。今回の作例は最終ピットインを終え、その後ゴールした状態を想定、アレコレと想像しながら施した。この上なく楽しい時間を過ごさせていただいた。次に作る時はまた全然違うフィニッシュになるに違いない。
そうやって全体のバランスを見ながら足し引きを繰り返して重ね、納得がいったら完成だ。
『フォードvsフェラーリ』で受けた印象を、こうなってくれたら良いなぁという願望を込めて出来上がったこれはイメージモデル、キャラクターモデルだね。実際のレースでは装着されていなかったっぽいフェンダーミラー、映画ではすこぶる重要な要素なので3Dでモデリング、出力してもらった。これも大事なワンポイントだね。
納品当日に突然思い立ってタミヤの同スケールフィギュア「ストリートライダー」からヘルメットを流用。バイザーを自作し、デカールをキャプチャー画像からスキャンして作ってもらい、ケン・マイルズのヘルメットをでっち上げた。
野外撮影当日、思い立った担当編集さんが小池徹弥さん作のフィギュアを立たせて撮ってくれた。小池ちゃんといえば、闘い汚れ傷ついたラリーカーを作り続けてきた、いわば汚れたクルマ模型の第一人者。この作例も密かに彼へのリスペクトを込めたモノだったので、このシンクロニシティには感動、そして感謝しかない。
MENGモデル 1/12スケール プラスチックキット
Ford GT40 Mk.Ⅱ
製作・文/MAX渡辺
協力/鈴木孝、楡木一之、脊戸真樹、仁平哲也
FORD GT40 Mk.Ⅱ
●発売元/MENGモデル、販売元/GSIクレオス●55000円、発売中●1/12、約33cm●プラキット