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【原型師列伝 外伝】フィギュア原型製作会社「スパロー」社長・瀬邉氏にインタビュー!新進気鋭「スパロー」の設立秘話やフィギュア業界の未来にかける思いを訊く

2025.03.05

フィギュアJAPANマニアックス 原型師列伝 外伝 月刊ホビージャパン2025年4月号(2月25日発売)

フィギュアJAPANマニアックス 原型師列伝 外伝

スパローの設立と未来にかける思い
瀬邉尚貴

 美少女フィギュアについて原型師という切り口でまとめてきた連載「原型師列伝」の番外編が再び登場! 今回は新進気鋭の原型製作会社、スパローについてピックアップ。
 現在はプライズフィギュアやロトフィギュア、スケールフィギュアなどを各メーカーで幅広く手掛けているスパローだが、設立者であり社長でもある瀬邉尚貴氏は比較的遅くホビー業界に入ってきている人物。その氏がいかにしてスパローという原型製作会社を立ち上げるに至ったか、そしてその目指すところとは? 

取材・文/島谷光弘(ホビーマニアックス)
協力/首藤一真

瀬邉尚貴

 1976年、愛知県生まれ。遊技機部品を作る会社に入社、そこがフィギュアも手掛けるようになり、ホビー業界に関わるように。その後独立して原型製作会社スパローを設立。

瀬邉尚貴

フィギュア事始め

遊技機からフィギュアへ

 瀬邉氏がホビー業界に近い会社に転職したのは35歳の時。それまではホビー業界とはまるで関係のない会社に所属していたのだが、遊技機の部品を作る会社に入社したのだ。これは、遊技機メーカーが数多く存在する愛知県ならではの転職ともいえるかもしれない。

瀬邉:ちょうどZbrushと3Dプリンターが普及し始めた頃で、デジタルで筐体の役物を作るということをやってたんです。

 役物とは、遊技機に仕掛けられているさまざまなギミックを演出する半立体や立体で造形されたもので、アニメやゲームをネタにした台が多くなるにつれて、フィギュア的なものの需要も高まっていた(『新世紀エヴァンゲリオン』の遊技機で、初号機や綾波レイなどの造形物を見たことがある人も多いと思う)。瀬邉氏はその役物サンプルのマスキング塗装をする仕事から始めたのだ。もともと小学生の頃からガンプラ製作にも励み、その後腕試し的な意味合いで塗装完成したものをオークションなどにも出品し手ごたえを感じたりしていたので、そういった作業はお手のもの。瀬邉氏は他に営業や経理、さらにはZbrushによるデジタル造形も手掛けるようになる。

瀬邉:(Zbrushについて)若い女の子が入ってきて、ぐっと抜かされてしまってすごく悔しくて。僕もそこで一気に勉強するようにしました。そして技術を身に付けて、いろんな人に教えるようになっていたんです。

 その後その会社はフィギュア製作も手掛けるようになったという。

独立、スパロー設立

 入社して3年目の頃に子会社を任され、7年勤めた瀬邉氏だが独立し、新たに株式会社スパローを立ち上げる。2020年頃のことで、ちょうど世はコロナのためにリモートワーク中心になり、自宅でひとり作業することが多くなっていた時期。当時のスパローはひとり会社だったため問題はなかったのだが、それは瀬邉氏にとって本意ではなかったという。

瀬邉:ひとりで仕事をもらってやってても気持ちが乗らないし、毎日同じことの連続でつまらなさもあって。前の会社で十数人にデジタル造形を教えてきて今はいろんなところで有名原型師になっているんですが、であれば僕がトップの原型師になるより、若き才がある子たちに僕の持っているすべてを伝えていきたいな、というふうに思ったんですよね。

 最初は2名の新人を入れて、デジタル造形を教えつつ自分で揃えた3Dプリンターによる出力や磨きなどもやっていたが、手が足りなくなって人を入れ、そうすると会社が手狭になって引っ越しということを繰り返してきている。

スパローの現在

スタッフ構成

 スパローに所属する原型師は現在17名。出力や磨き、彩色などを行うスタッフが7名、さらに総務や経理などバックオフィスで5名。平均年齢は28歳だが、原型師は25~26歳が多く、女性のほうが多い。

瀬邉:専門学校に求人票を送ったり、作品展示会にも足を運んだりしています。

 こうしてコンスタントにスタッフを増やし続けているのだ。

年間製作数、クライアント

瀬邉:年間に手掛けている数は、250体は確実に超えているんですが、今期は300に達するんじゃないかな?

 多いのはプライズフィギュアで、各社のものを手掛けている。プライズはとにかく点数が多くサイクルも早いので、原型師の実践を兼ねて数をこなして教えていくという方針にもぴったり。だからといって、もちろんクオリティのキープも抜かりなく、スパローが手掛けるフィギュアを瀬邉氏は途中経過も含めてすべてチェック・監修を行っているのだ。プライズフィギュア以外にもロトくじのフィギュアや物販フィギュアなども手掛けている。

スパロー社内の画像1
スパロー社内の画像2

▲ スパロー社内の様子。原型師は1フロアに集まって作業をしている。すべてデジタル造形なので、パソコンとモニターが並ぶという光景。別フロアには3Dプリンターが複数稼動している


フィギュア原型を作るということ

担当者との関係

 原型を作る時に強く意識していることは何だろうか?

瀬邉:限りなくたくさんありますけど、ひとつ言えることは自分が好きなものだったり自分がいいと思えるものを作っても受け入れてもらえるわけではないというところですかね。

 商業原型では依頼者がいるので、まずはその依頼者に満足してもらえるものができなければその先には進まない。そこから版権元のチェックを経てフィギュアファンのところに届くという順番がある。いくら自分が良いものを作ったと思っても、ファンのところに届かなければ意味がない。

瀬邉:担当者さんが不服な出来と感じるものが爆発的に売れるってことはないですし、担当者さんの想像を超えたものを作らないとやっぱり受け入れてもらえないと思っています。

 担当者とは二人三脚で、何が求められているのか、その表現方法は、といったところを考えるようにという指導も行われているのだ。

原型の方向性

 スパローで手掛けているフィギュアは、キャラクターグッズとしてのフィギュアという側面が非常に強い。

瀬邉:有名原型師さんが手掛けているフィギュアでは、自分の作風やテイストが出てくるものもあるじゃないですか。プライズだからというのではないのですが、自分はこう思ったとかこれが良いですといった主張が出せるほどのカラーがない段階で、自分を出してもしょうがないと思うんですよね。それよりは下積みで一生懸命数をこなして覚えていって、表現力を高めるというのが大事ですね。じゃないと、自分の色が表現できないと思うんですよ。

 原型師の作家性、個性を大事にして作品を作り上げるというのもひとつの方向性だが、スパローではまた違う方向性を重視しているのだ。

瀬邉:原型師さんってアーティスト的な考えで自分の作品はどうだとか、作風はどうだとかいう仕事だと思われがちなんですが、そういうところはもう氷山の一角で、そこで生き残れる確率っていうのはすごく少ないわけじゃないですか。それよりも何を表現したら好まれるのかとか、どういうアプローチをしたら多くの人に喜びを与えられるのかのほうが重要だよと教えています。

原型師を育てるということ

 瀬邉氏は原型師を育てることを強く意識してスパローを運営している。以前の電機関係の仕事では、協力会社のミスを瀬邉氏がフォローしたり代わりに怒られたり対策を取ったりすることも多かったが、そうではなく自分自身が作ったものに対しての評価や反応が返ってくることにやりがいを感じていた。

瀬邉:でも、この仕事を長くやっていこうとした時に、やはり僕のひとりの力よりも多くの人を集めたほうがより長くやっていけるだろうと。

 そのためにスパローでは数多くの新人原型師を入れている。

瀬邉:僕が持っている経験を若く才能のある子に伝えれば、僕よりいい原型師になってもらえるんですよね。そのほうが僕の目標というか、僕にとっての天職だと思っているこの仕事を長くやるということにもつながるという思いなんです。

 瀬邉氏自身が35歳という比較的高い年齢でこの業界に入ったため、若い人たちにより早く機会を与えたいという思いもある。

瀬邉:原型師になりたい人がいればそうしてあげたいというのが僕の思いです。そうすることによって、僕も長くこの仕事がやれるので、お互いWIN-WINじゃないかなと思っています。作業に専念させて営業とかそういう打ち合わせのほうは僕がすべてやって、なりたい子がいるなら仕事のある限りは増やしていきたいですね。

スパロー社内の画像3
スパロー社内の画像4

▲ 3Dプリンターと同じフロアには、出力の磨きと塗装を行う部門も。会社のバックオフィスはまた別のフロア。手狭になってきているのでまた引っ越しも含めて検討中とのこと

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