コロナ禍以降“工作室”が全国に増えたのはなぜ…?その他いろんな質問を「ラグレアの模型製作スペース」店長に聞いてみた
2025.03.25月刊ホビージャパン2025年5月号(3月25日発売)

エアブラシを試せる最高の環境
“工作室”が全国に増えたのはなぜ…?
「エアブラシを試してみたいけれど、自宅で環境を整えるのは難しい……」そんな悩みを持つモデラーにとって、工作室はまさに理想の場所。近年、全国各地で新たな工作室がオープンする一方で、閉店する店舗もあり、その動きは活発に見える。その背景には、コロナ禍での模型ブームや、新しい趣味の形を求める人々の変化があった。
今回は、模型製作スペース「ラグレア」を運営する一之瀬知樹さんに、工作室の需要の高まりや、エアブラシの魅力を初心者に広める工夫、そして今後の展望について話を伺った。エアブラシに興味がある人も、すでに使っている人も、工作室の進化を知れば新たな可能性が見えてくるはずだ。
本記事ではホビージャパンウェブ版として、本誌掲載時よりボリューム増の内容でお送りする。
(取材・文/ホビージャパン編集部)
\伺ったのはこちらのお店!/
場所/〒165-0026 東京都中野区新井1-34-17-1F
営業時間/24時間営業、年中無休(定休日なし)
※設備点検等により営業時間の短縮や臨時休業となる場合あり
利用料金/1000円(1時間)、4000円(1日)、12000円(1か月)※学生割引あり
\博多にも系列店があります!/
場所/〒812-0018福岡市博多区住吉2-16-12 グランデュオ博多1F
営業時間/24時間営業、年中無休(定休日なし)
※設備点検等により営業時間の短縮や臨時休業となる場合あり
利用料金/1000円(1時間)、4000円(1日)、12000円(1か月)※学生割引あり
コロナ禍以降高まる
工作室の需要

――コロナ禍を経て、工作室の需要は高まったのでしょうか。また、その理由をどのように分析されていますか?
まずコロナ禍でプラモデルが流行したのは、家の中でできる趣味としての魅力が再発見されたからだと思います。また、Netflixなどの動画配信サービスが普及し、アニメがより身近になったことも大きな要因かなと。これらの影響でプラモデルに触れる人が増え、それに伴って工作室の需要も高まったのだと考えています。
またオーナー側の視点だと、「いつ何があるかわからないからこそ、自分の好きなことを仕事にしたい」という思いがコロナ禍を経て強くなったのも、工作室が増えた理由のひとつだと思います。私自身も、コロナが流行して1年が経った頃、「こういう施設があったらいいな」と考えて、2年目に入る頃、本格的に動き始めたんです。明石と枚方に1号店・2号店をオープンしましたが、残念ながら一昨年にどちらも閉店。2022年に新たにオープンした中野店も、2023年の半ばには経営の厳しさを痛感する場面もありましたが、住み込みで運営する覚悟を決め、そこから軌道に乗り始めました。
工作室の
メリット・デメリット
メリット
・塗装時の匂い問題が解決
自宅でエアブラシを使うと、換気が不十分だと塗料の匂いがこもりますが、工作室ならしっかりとした換気設備があるので、エアコンが効いた部屋で快適に作業できます。電気代を気にしなくていいところも。
・汚れを気にせず作業できる
賃貸住宅での塗装は、塗料の飛び散りやこぼれが気になりますよね。カーペットにこぼしたら大変です。でも、工作室なら「多少こぼしても大丈夫」という気持ちで作業できるのがいいところです。
・さまざまな道具や塗料を試せる
同じ色でも絶妙に色味の異なる塗料の発色を比較できたり、最新の工具の使い心地を試せるのも魅力です。
デメリット
・営業時間の制限
当店は24時間いつでも利用できますが、他の工作室さんだと営業時間の都合もあります。予約制の工作室も多いので、利用前にXなどで確認しておくのがオススメです。
・立地の問題
自宅からアクセスの悪い場所にある場合や、雨の日に行きづらいことがあるのは確かです。ただ、設備的には万全なので雨の日でもかぶれるなどの不調はあまり聞きません。
・コストの問題
工作室ごとに料金体系は違いますが、利用料がかかります。ただ、都内でワンルームを借りて塗装機材を一式揃えるよりは安いですし、他の工作室では常連の方は自宅で組み立てまで済ませて、塗装のみ工作室利用というパターンもありです。ちなみにラグレアでは工作から時間を気にせずゆっくり利用することができます。

初心者でも
安心して学べる環境
――初心者でもいきなり工作室に行っていいんでしょうか?
初心者こそ最短距離で上達できる環境が整っています。工作室には先生となるスタッフがいるので、手取り足取り教えてもらえるのは大きな魅力です。特に「このキットをこんな風に塗装したい」といった相談が多く、事前にメールで問い合わせをいただくこともあります。その際に返信で工程を説明し、大体の所要時間を伝えて、効率よく作業が進められるようサポートます。
――「エアブラシに興味はあるけど、ちょっと敷居が高い」と感じる人も多いと思いますが、いかがでしょうか。
そのイメージを変えたいですね。敷居の高さでいうと、もちろん筆塗りの方がハードルが低いんですが、やってみるとわかる通り筆塗りってかなり難しいんですよ。塗り方が人によって異なるので、教えづらい部分が多いんです。その点、エアブラシは指導しやすく、初心者でも「こんなにきれいに塗れるんだ!」と実感してもらいながら進めることができるんです。
エアブラシの魅力は、色を均一に美しく塗れること。その楽しさを初心者の方にも体験してほしいですね。
最新アイテムを試せる、
情報が集まる場
――初心者ではなく、自宅にエアブラシがあるような方にとってはどのような場所になるんでしょうか。
中級者以上の方にとってもレベルアップしやすい場所だと思います。バリバリに作品を作る現役のモデラー達が集まるので、最新の工具や塗料、技法などの情報もどんどん知ることができるので加速度的に上達するのがわかると思います。他にもまるで部活のように、コンペに向けて仲間と一緒に作業する楽しさもあるとお客さんからは聞きますね。
また、自宅作業との違いはズバリ「達成感」だと思います。わざわざ工作室に来て作ったという実感、自分のイメージしたものを形にして持って帰ることができるのは、カフェでものすごく集中して勉強や仕事が捗った感覚に近いかもしれません。そういったラグジュアリーな体験も工作室にしかないものだと思います。家には誘惑が多いですが、工作室には製作に没頭できる環境がありますし。
――導入している機材や塗料についてはどのような基準で選ばれているのでしょうか。
塗料については、持ち込みの塗料無しでもプラモを完成できるような色を取り揃えています。ただメタリック系は好みが分かれるため、(金色だけでも数十種類ありますから…。)別途購入できる仕組みにしています。

目指すのは
フィットネスクラブみたいに
気軽に通える工作室
――今後、工作スペースがどうありたいかを教えてください。
ラグレアでは「作る場所」の提供だけでなく、日本らしいおもてなしのサービスまで含めた「環境」を整えていきたいと考えています。まだまだブルーオーシャンな分野であり、原型師にとってはコワーキングスペース、アーティストにとってはアトリエのような役割も果たせると考えています。また、メーカーさんにとっても新製品をモデラーに試してもらい、リアルなフィードバックを得られる場でもあります。そういった点で考えると工作室は、モデラーとメーカーをつなぐ場として機能し、双方にとってメリットのある仕組みになっているのかなと思います。
目指すのは、フィットネスクラブのような「誰でも気軽に通える場所」。体育会系にはスポーツジムがあるように、文化系の趣味を持つ人たちが集まれる場所として、工作室を広めていきたいですね。
根本的な話をすると、社会が成熟するにつれて、幸せの軸が「趣味」に向かっているのかなと感じます。100年後がどうなっているかはわかりませんが、趣味を楽しむ人々のためのスペースとして発展させていきたいですね。
あとは、子供たちにもプラモデル製作の過程を学べる場として活用してほしいです。今後、親子割引や子供無料といった施策にも力を入れていく予定です。
エアブラシ塗装の
背中を押したい
――さいごに本記事を読んでいる皆さんにメッセージをお願いします。
エアブラシを使ったことがない方に、僕は断言します。びっくりするぐらいきれいに塗れますよ! 本当に感動すると思いますし、エアブラシを使うだけで誰でも簡単に上手くなれます。
塗料の種類や塗るモチーフによっては食いつきが違う場合もありますが、グラデーション塗装やキャンディー塗装も、工作室に来ればすぐにできるようになります。ぜひ、お近くの工作室に足を運んでみてください。
また当店は、女性スタッフも多く、ホビー以外の用途にも対応しています。コスプレの小道具やアイドル応援グッズの塗装など、模型以外の用途でもエアブラシを活用できます。ひとりで悩まず、ぜひ気軽に相談してみてください!

【プロフィール】
一之瀬 知樹 Tomoki ICHINOSE
ラグレア株式会社 代表取締役
ラグレア 模型製作スペース中野店 店長
幼少期からガンプラやミニ四駆に親しみ、20歳のときに『機動戦士ガンダムSEED』をきっかけに再びガンプラに熱中。コロナ禍でプラモデルの魅力を再認識し、誰もが気軽に製作を楽しめる環境を提供するため、模型製作スペース「ラグレア」をオープンした。
\エアブラシの最前線トピックを/
\ぜひ雑誌でも読んでください!/