秀作駆逐艦にリニューアル艤装パーツを活用
1/700スケールで統一された軍艦プラモデルコレクション「ウォーターラインシリーズ」は、50年以上の長い歴史の中で絶えず内容のリニューアルが行なわれてきたが、アオシマ文化教材社のキットでは、最近の細密志向に合わせて駆逐艦を中心に機銃、高角砲、魚雷発射管、艦載艇などをリニューアルした艤装パーツを新たに追加している。今回は「冬月」、「涼月」、「雪風」を製作、各艦の仕様に合わせてアップデートされた新艤装品の実力を探ってみた!
▲手前の「涼月」と奥の「冬月」は新艤装品を使用。ディテールアップしたモデルにもマッチする情報量だ
▲手前の「伊19」は主砲と機銃を新艤装品に交換。奥の「伊33」は比較のために従来パーツを取り付けた
「冬月」
▲キットパーツのみ用い、1945年4月の状態を再現。旧部品の21号レーダーを新規の22号(SI5)と交換したうえ、新規の13号(SI6)を前後マストに取り付ける。「秋月」型後期艦の搭載艇は8m内火艇と7mカッターで、本来は各2隻だが天一号作戦時は半減して単装機銃を増備した。そのため単装機銃がないとどうしても間延びしてしまい、わざとボートを定数以上のせてごまかす手も考える必要がありそう。8m内火艇は珍しい装備で部品化されていないので7mで代用する。また、艦橋構造物の横に追加された三連装機銃の銃座はキットにない。作例ではもっとも手っ取り早い措置として「涼月」の余剰部品(D31、「冬月」の後部機銃座と同じ)を加工流用した。本来は角形銃座なので、さらに形状を直すか別の部品を探してくるといい。高射指揮装置(SI11)も交換対象だが、下半分をカットする必要がある。旧部品の「冬月」と新部品を加工した「涼月」を比較されたい
▲向かって左が「冬月」。22号および13号レーダーを新規とした他、三連装機銃、高射指揮装置も交換
▲艦載艇は8m内火艇と7mカッターだが、前者は珍しい装備のため新規パーツがなく、7m内火艇で代用
「涼月」
▲新艤装パーツに近づけるよう全体を調節したもの。マストなどは同社から以前発売されていたスーパーディテール版キットのエッチングパーツを使用した。今後これと同じ商品が発売されるかもしれないが、天一号作戦時とする場合は13号電探が1基不足(作例は他から流用)するなどの不備もあるため、エッチングパーツは再設計が望ましい。この時期の本艦は簡易艦首、角型艦橋、リノリウムの一部を撤去した後甲板など、直しておきたい特徴が多い。過去に発売されたことがある角型艦橋のパーツではなく、今回は通常型のみ。青島の「陽炎」「秋月」型も初回発売から30年ほどたつが、現時点で後発の他社製品にも「涼月」の決定版はなく、ディテールが少なく修整しやすい青島版の利用価値はなお高い。手を入れるなら少しでもいい作品にしたいと考えるとき、新艤装パーツは基準設定の上でとても役立ってくれる。魚雷発射管は左前下方のシールド突出部を追加のうえ、旋回軸をやや前方に寄せた。従って改修された船体側の取付穴は用いていない
▲「涼月」は決定版がなく、必要な修整を行いエッチングなどを組み込めば現在でも利用価値は高い
▲リノリウムの一部を撤去した後甲板などが修整点。魚雷発射管はシールド突出部の追加の改修を行った
「雪風」
▲「涼月」と同等の工作レベルで、エッチングパーツは使わず、新艤装品以外のディテールアップはほぼプラ材の加工のみとした。ただし単装機銃はどうしても欲しいので、「雪風」「涼月」ともハセガワの「朝潮」「夕雲」型のものを利用した。これらを大戦前期状態で作れば必ず18基残り、現時点では別売りのアフターパーツ以外でもっともまとまった数を入手しやすい。新艤装品の12.7cm C型砲室は左右の下側の縁を水平に削る。青島の「陽炎」型を後期状態とする場合は、後部煙突前の機銃座を形状変更するのが追加工作の第一歩となる。作例では見せ場を明確にするため手すりなどは取り付けなかったが、新艤装品の砲室や魚雷発射管シールドにはジャッキステーのモールドが入っており、むしろそれらを取り付けるほうが全体のバランスを整えやすいぐらいだろう。「陽炎」型は基本形状のよいキットとして評価されているので、勢いに任せてあれこれ足すだけでもかなり出来映えがよくなるはずだ
▲主砲塔、連装機銃、22号レーダーなどを新艤装品に交換。単装機銃のみはハセガワのパーツを流用
▲四連装魚雷発射管はジャッキステーがモールドされ精密感がある。手すりのエッチングとも相性がよい
■アオシマ更新版艤装の活用法
1/700艦船模型に新風を吹き込んだピットロードの活躍に呼応して、静岡模型教材協同組合のウォーターラインシリーズが各種装備品パーツの新規開発ランナーを各商品に組み込むようになってからはや30年。エッチングパーツから3Dプリントに至る新技術によってさらに細密志向が高まった現代、アオシマ文化教材社が単独で装備品パーツを再開発して自社製品に組み込むという新たな試みがなされている。
前回の装備品セットは大型艦用と小型艦用の2通りで、中口径砲から機銃、ボート、搭載機に至るまでを1枚のランナーに収めた集約式だったが、今回は最小1種類から数種類のアイテムでランナー1枚を構成し、それぞれのキットに必要な種類と数を踏まえた組み合わせで構成される。従って、相次いで発売されている更新版艤装パーツ入り商品は、キットごとに入っているパーツの内容が異なっている。それでも余剰部品はかなり出るので、各モデラーの手元にあるキットや他社のキットに回す余裕も出るはずだ。
■小艦艇での効果を探る!
今回は小艦艇数種を製作した。旧装備品はエッジの効いた小気味よいモールドが好印象ではあるものの、駆逐艦用の主砲や魚雷発射管はスケールに対し若干小さめで、機銃の形状など実物とかなり離れたアレンジが加えられているところもあり、アップデートが必要だったのも確かだ。新部品も形状やメーカーが示した使い方にいくらか詰め足りないところがなくはないが、そこはマニアの領域で、作品全体のディテールアップとあわせて考えればいい。
評価のポイントとなるべきは、単装機銃が含まれなかったこと。爆雷装填台のように基の部品にモールドされているものをいったん削り取る工作が必要なのであれば省いても構わないと思うが、日本の単装機銃はほとんどが基の部品に影響のない装備方法を取っているし、新パーツの解像度では省略するのは不自然といってもいい。ハセガワのエッチングパーツのようにランナーを個別販売し、単装機銃をラインナップに追加するなどの選択肢が望まれる。
青島文化教材社 1/700スケール プラスチックキット
日本海軍 駆逐艦 冬月/涼月/雪風
製作・文/岩重多四郎
日本海軍 駆逐艦 冬月/涼月
●発売元/青島文化教材社●1760円、発売中●1/700、約19.1cm●プラキット
日本海軍 駆逐艦 雪風
●発売元/青島文化教材社●1650円、発売中●1/700、約16.9cm●プラキット