『A KITE』は自分の想いを一番形にできた作品なんです/梅津泰臣監督独占インタビュー!『A KITE』『MEZZO FORTE』ほか衛星劇場にて12月より放送中
2024.12.06『A KITE』『MEZZO FORTE』放送記念
梅津泰臣監督インタビュー
幻のOVAを集めた衛星劇場の人気企画「VHSを巻き戻せ! 俺たちのOVA特集」第6弾が放送決定!! 今回は12月の「リクエストSP!」にて梅津泰臣監督作品が放送されることを記念して、スペシャルインタビューをお送りしよう。
(聞き手・構成/島田康治[TARKUS])
『A KITE』は自分の想いを一番形にできた作品なんです。
――アニメーターとして出発された梅津さんが、監督に活動を広げられるようになった経緯をお聞かせください。
この世界に入った時から、とにかくアニメーターとして絵を描きたかったんです。演出や監督をやろうとはまったく思っていませんでした。一度『ロボットカーニバル』の監督をやりましたが、それはその直前に参加した『メガゾーン23/PARTⅡ 秘密く・だ・さ・い』でやり残したことがあったからです。その作品が終わったらまたアニメーターに専念するつもりでしたし、実際そうしていたんですよ。ところがそのうち、僕の描くキャラが肉感的、言ってしまえばエロすぎると言われるようになりまして(笑)、18禁アニメのオファーが来るようになりました。
――そこで『YELLOW STAR』に参加したのですね。
当時の18禁アニメには濡れ場さえあれば何をやってもいい自由さがあったんですね。その時は原作と絵コンテ、キャラクターデザインまで担当したのですが、ただスタジオの限界もあって、完成した作品には不満が残ったんです。そこで次は監督として、全部自分で責任を持とうと思いました。
――『A KITE』は「女の子の復讐劇」というテーマが起点だったそうですね。
子供の頃に観たドラマの影響が大きいんです。小学5、6年生の時に観た『必殺仕掛人』が大好きで、あのテイストを取り入れたいと思いました。表と裏の顔を使い分ける、凄腕の殺し屋の女の子――、今では女性の殺し屋というのはハリウッドでも定番ジャンルですが、あの頃は、一切なかったんです。
――主人公・砂羽がキャラクターとして魅力的に描かれていた印象です。
自分にできることは何だろうと考えた時、それは女の子の芝居や表情だったということですね。やるからには、唯一無二のものにしたいとは思っていました。ストーリーも18禁アニメに不可欠なシーンに至るまでの必然性を意識し、人間の欲望やエゴを正面から描いたドラマを意識しました。
――監督として心掛けたことはどのようなものだったのでしょう?
できる限りフリーの上手いアニメーターに参加してもらったのですが、やはりスタジオの力がそこまでではないため、「上手い人じゃないと描けない」カットを避けるように絵コンテを描きました。具体的にはアクションシーンのカットをかなり細かく割ったんです。長回しで動作の多いカットだと、上手い人じゃないと描けないんですよ。あそこまでカット数の多いアニメも珍しかった。その結果として独特のスピード感が出せたんじゃないかと思っています。
――「銃」と「女の子」という組み合わせは梅津作品の特徴に感じますが?
実は僕は当時銃には全然興味がなかったんですよ(笑)。お恥ずかしい話ですが薬莢ごと弾が飛んでいったりと、『A KITE』はツッコミどころも多いんです。そんな荒唐無稽な部分も楽しんでもらえたら嬉しいですね。
――次回作の『MEZZO FORTE』は一転してコミカルな作品になりました。
『ミッション:インポッシブル』のように、チームで事件を解決していくミステリー・SFにしたかったんです。コメディにしたのは、前作がハードな作品だった反動もあったのでしょう。『A KITE』は生々しい生き様を描くドラマだからあの結末になってしまいましたが、今回は誰も不幸にしたくなかったんです。
――名優・広川太一郎さんのキャスティングも大きいですね。
大ファンなんですよ。まさか18禁アニメに出てくださるとは思ってもみませんでした(笑)。台詞はほとんどがアドリブなんですが、台本が真っ黒になるくらいアドリブが書き加えられていましたね。激しい絡みのシーンもあるんですが、ファンの方からは、広川さんのアドリブ芝居が聞こえると画面に集中できないと言われまして……(笑)。
――『A KITE』と『MEZZO FORTE』には続編的作品が作られましたが、制作する際に想定されていたのでしょうか?
まったく考えていませんでした。『A KITE』はあれで完結しているので、『KITE LIBERATOR』を作る時には主人公を入れ替えることにしました。『MEZZO FORTE』をテレビシリーズにしようと言われた時は驚きましたね。『A KITE』がハリウッドで実写化されるまでになったことも驚きです。何が海外の人に刺さったんでしょうか(笑)。
――OVAの時代を振り返ってみていかがですか?
OVAは個人の想いをそのまま込めることができる媒体なんですよ。やりたいことをやれる。どうしてもテレビシリーズだと、製作委員会の関係上いろんな人の思惑や意見が入ってくるし、テレビコードの問題もあるから個人の想いだけでは作れない部分もある。その意味では、『A KITE』は自分の想いを一番形にできた作品なんです。
――来年公開の最新作『ヴァージン・パンク』のPVを見て『A KITE』を連想した人も少なくないように感じます。
企画からかれこれ10年になりますが、『A KITE』や『MEZZO FORTE』を観てくれたオールドファンにも満足してもらえる、僕にとっては原点回帰的要素も含んだ作品になると思います。こうしたOVAを知らない世代にどのように観られるのか、不安と同時に興味がありますね。ぜひ僕の原点であるこの2本のOVAを見て、『ヴァージン・パンク』に期待してもらえたらと思います。
(2024年10月 株式会社シャフトにて)
「VHSを巻き戻せ!俺たちのOVA特集」で梅津泰臣監督初期作品をチェックせよ!!
衛星放送チャンネル「衛星劇場」の企画「VHSを巻き戻せ! 俺たちのOVA特集」は、主に1980年代から1990年代の黄金期に制作されたオリジナルビデオアニメ(OVA)の中から、懐かしい人気作品や貴重な作品をセレクトして放送する、ファンのみならず業界関係者からも注目される人気企画である。家庭用ビデオデッキの普及とともに80年代に誕生したOVAは、テレビよりもはるかに自由度が高くこだわりを持って制作できることから、作り手にとっても魅力的な選択肢だった。多くの若きアニメーターたちがOVAという舞台でその才能と情熱を発揮したのである。
今回放送される梅津泰臣初監督作品となる『A KITE』は、OVAとしては後発の1998年に発表。2000年にはR15指定に編集された「INTERNATIONAL VERSION」も発売。2008年には一般向けOVAとして続編『KITE LIBERATOR』が制作、さらに2014年には海外にて実写映画『カイト/KITE』も制作されるほどの影響を持つエポックなタイトルだった。『MEZZO FORTE』は一転して、近未来を舞台にしたコミカルな作風。複数のキャラクターによるチームものであり、2004年には続編となるテレビシリーズ『MEZZO -メゾ-』も制作された。
2025年初夏には、10年ぶりとなる梅津監督のオリジナルアニメーションシリーズ『ヴァージン・パンク』第1弾『Clockwork Girl』が公開を控えている。制作は『魔法少女まどか☆マギカ』で知られるシャフトが担当。バウンティハンターとして生きることになった主人公・羽舞(ウブ)の葛藤や、個性豊かなキャラクターたちが織り成す欲望と混沌を巡る物語が描かれるという作品概要は、クリエイター・梅津泰臣の集大成を思わせる。この最新作を楽しむためにも、原点とも言える『A KITE』『MEZZO FORTE』の2作品を、今回の放送でぜひチェックしてほしい。
『ヴァージン・パンク』公式サイト
梅津泰臣
1960年12月19日生まれ。福島県出身。土田プロダクション、東映動画(現・東映アニメーション)、マッドハウスを経てフリー。数多くの作品でキャラクターデザイン、作画監督を務める。主な参加作品に『メガゾーン23/PARTⅡ 秘密く・だ・さ・い』『幻想叙譚エルシア』『キャシャーン』などがある。その後、監督業にも進出。主な作品に『A KITE』『MEZZO FORTE』『KITE LIBERATOR』『MEZZO』『ガリレイドンナ』『ウィザード・バリスターズ 弁魔士セシル』、『ヴァージン・パンク』が25年公開。
『A KITE』© 1998梅津泰臣GREEN BUNNY 『MEZZO FORTE』©2000 梅津泰臣/GREEN BUNNY