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Figure-riseLABO 式波・アスカ・ラングレー
プラモデルとフィギュアの融合、その造形&成型の秘密に迫る!

2021.04.03

Figure-riseLABO 式波・アスカ・ラングレー【BANDAI SPIRITS】 月刊ホビージャパン2021年5月号(3月25日発売)

取材・文/島谷光弘(ホビーマニアックス)
協力/首藤一真

毎回さまざまなテーマを設定して、プラキットの新たな表現を研究しているBANDAI SPIRITS ホビー事業部のFigure-riseLABO。その最新作としてこの3月に発売となるのが『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』テスト用プラグスーツ姿の式波・アスカ・ラングレー。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:¦¦』が大好評上映中という最良のタイミングだ(すでに予約で品切れになっているが)。このプラキットはどこを目指していかにして開発されたのか、開発者達に取材しその秘密を探ってみた。

※テストショットを使用しているため、実際の商品と異なる場合があります。

Figure-riseLABO 式波・アスカ・ラングレー

●発売元/BANDAI SPIRITS ホビー事業部●7700円、3月27日予定●約25cm(台座含む)●プラキット


企画

Figure-riseLABOの前作でも協力したBANDAI SPIRITSとアルター。さらなる取り組みを検討する中で、劇場版の公開を控えていた『エヴァンゲリオン新劇場版』から式波・アスカ・ラングレーを新たな表現で立体化する企画が立ち上がった。
開発者は前作と同じくBANDAI SPIRITS ホビー事業部からは企画担当の牧野貴大氏、開発設計担当の林田翔一氏、アルター側からは高野あゆみ氏という布陣。
「もっとチャレンジしたい。次の新しい取り組みをしたいと思っていたところでした」(BANDAI SPIRITS 牧野)
「前回の経験を活かした商品として今度は最初からプラモに合った造形をしたい、という想いがありました」(アルター高野)
前作は造形を進める中でPVC完成品フィギュアとプラキットの特性の違いを摺り合わせる形で開発が進められていたが、その際に得たノウハウを活かして今回は最初からプラキット用の原型を作り、プラキットでなければできない造形表現を目標とした。

アスカ テスト用プラグスーツ

「完成品では肉薄のパーツは成型が難しい。そう考えたらFigure-riseLABOのテスト用プラグスーツをつくりたいと思ったんです」(アルター 高野)
PVCフィギュアにもインサート成型の技術はあるが、成型可能な厚さは約0.8mm程度。プラキットならこれが約0.3mmまでいける。これならテスト用プラグスーツのピッタリと肌に張り付いた透明スーツを薄いまま再現できるのだ。

▲データ上の色でパーツの厚みを表示できる。ヘソ周りは思い切り深くなっているなど、かなり大胆なメリハリがつけられていることが分かる

ポーズの検討&原型製作

今回の企画ではプラキットの原型であるということを最初から意識して作っている。
「(プラキットが金型から)抜ける抜けないの知識が増えたので、一番最初の状態からここは分けたい、この方向から抜きたいというのを含めてポーズの提案をしました」(アルター 高野)
このスーツだとボディだけではなく二の腕にも透明スーツが重なっている。そこの部分もしっかりと見せたいということで、腕を上げたポーズになっている。
原型を手掛けたのはアルターの原型師、飛田崇文氏。デジタルで造形し、出力した物を手で修正して完成させている。ここまではPVCフィギュアと同じ手順だが、プラキットの場合はデジタル納品が必要になるので最後にまたスキャンしてデータに反映させる必要があった。

▲原型製作過程で実際に出力して検討したもの。最終的な原型とは各所異なっている

デジタル造形のアップデート

フィギュアのデジタル造形ソフトウェアとして定評のあるZbrushを使用して、このアスカは作られている。透明スーツの厚みについて当初はトライ&エラーで調整予定だったのが、ちょうど行われたZbrushのアップデートでパーツの厚みが計算できるようになってその作業が非常に楽になった。

テスト用プラグスーツの再現方法

このプラキットの肝となる表現であり、Figure-riseLABO第5弾としての研究テーマともなった「肌に密着した透明スーツ表現」。これまでPVCで発売されていたテスト用プラグスーツのアスカは、アルターから出た物も含めてすべてボディ部分は塗装で再現している。それをこのプラキットでは肌の上に実際に透明パーツを重ねようというのだ。その実証実験として、アルターでレジンを使った試作を何度も行っている。この分割や試作を手掛けたのはアルターの試作開発、周沫氏。この試作のおかげでレイヤードインジェクションの精度の高い検証が可能になった。
アルターの試作を受けてBANDAI SPIRITS側もプラキットとして落とし込む方法を検討。
「肌に密着したスーツの表現をどうプラキットで再現するか。インサート成型ではなく薄いパーツの上に物理的に別パーツを重ねることも検証したんですが、“密着した”というところに関しては再現できないという結論になって、やはりインサート成型を使うことになりました」(BANDAI SPIRITS 牧野)
「クリアーを広い面積に載せるということをやったことがなかったので、キレイに成型するためのパーツ形状を考えるのに苦労しました。また重ねた樹脂同士が溶け合ってしまうと、キレイなクリアーが再現できず濁ってしまう。どういう樹脂の組み合わせにするか、どういう条件で成型するかといった微妙なところでの調整が一番大変でした」(BANDAI SPIRITS 林田)
クリアーの濁りを防ぐために、スーツのクリアー部分と肌部分とで融解温度の異なる材料を使用している。積層しても樹脂がお互いを侵食しないので、クリアー部分と肌部分の積層をキレイに描くことができるのだ。

▲スーツ表面とその下の肌部分を造形。それをシリコーン型に置き換える

▲先に肌用の型で抜いた後、それをスーツ表面用の型の中に固定しクリアーオレンジのレジンを流し込むことでレイヤードインジェクション的な構造を再現
▲こちらは最初に試作されたボディ。クリアー部分にシワをつけたらどう見えるか、おへそのところを深くするとちゃんと暗く見えるか、お腹を削ったらちゃんと肌色が透けるのかなどの検証を行った
▲最終造形に近い仕様のもの。ここに至るまでにさまざまな試行錯誤が行われている

▲製品版のランナーと組み立てた状態。境界線がハッキリと分かれて成型されている

瞳のレイヤードインジェクションの進化

Figure-riseBustで始まって、Figure-riseLABOでも継承しているレイヤードインジェクションによる瞳パーツ。このシリーズの最大の特徴のひとつだが、アルターはカラーレジンでその構造を再現して構造の検証を行っている。
「前作は最初2倍の大きさで作って、そのあと実寸で。アスカは最初から実寸で作りました」(アルター 高野)
CADデータで検討をするつもりだったところ、周氏がその試作をカラーレジンで実際に作ってきたことによって、成型品に近い状態を確認しながら、さまざまなパターンを試すことが可能になったのだ。

▲顔の原型は飛田氏が作ったもので、それにフィニッシャーが瞳を描いたものが左のもの。それをデジタルでトレスし、周氏がカラーレジンで試作した瞳をはめ込んだのが右。クリアーレジンを使うことで全塗装とは違う質感が発揮されている
▲アスカの瞳をカラーレジンで作るためのシリコーン型。まず一番左の型で黒レジンを抜き、そのパーツを真ん中の方の中に入れた上で白レジンを流し、その完成したパーツを一番右の型に入れてクリアーブルーを流し込むことで、レイヤード構造を再現している
▲実際にカラーレジンでできた試作がこちら。プラキットの構造とほぼ同じものが再現されている
▲製品のランナー状態。これまでのものは白目と黒目はひとつのパーツになっていたが、アスカでは白目は顔側についていて、瞳のみをはめ込む形になっている。その白目には薄く黒いフチが成型されていて、瞳の輪郭をよりくっきりさせる効果を発揮している。また、瞳のハイライトが真っ白なのに対して、白目部分は少し濁った白。イラストでも使われる手法だが、これによってより生気が宿った目になるのだ
▲組み立てた状態。アイトラッキングインジェクションでアスカがこちらを見てるように見える。これはすり鉢状のクリアーパーツの底に黒の瞳孔部分がインサート成型されることによって生まれる効果だ

彩色と影

PVCフィギュアと異なり、いわゆるデコマスは製作されていない。髪の毛についてはフィニッシャーが参考に塗装したものがあったが、その他はテストショットで出てきたものを調整している。アスカのために新たに起こされた成型色もあるとのこと。
また、PVCフィギュアだと、成型色の上にシャドウなどの彩色を行うが、プラキットの場合は成型色のみ。その分彫りを深くするなどして自然に影が落ちることを意識した造形も行われている。

▲製作途中原型の後ろ髪と最終的な製品を比較すると、かなりハッキリと彫りが深くなっているのが分かる
▲プラキットの髪の毛は中空にして前後のパーツを貼り合わせるパターンも多いが、このアスカの場合、形状を優先するためにPVCフィギュアと同じように全部ソリッドなパーツになっていて、それを2層に重ねることでパーツ単位の薄さと髪の毛全体のボリューム感を出している
▲パーツに厚みが出るとヒケが発生することが多いため、髪の毛パーツはある程度以上の厚みが出ないように調整されている。ここでもZbrushのアップデートによる新機能によって、厚すぎる部分がすぐにチェックできた

金型

PVCフィギュアの金型は多少無理矢理でも抜くことができるのだが、プラキットの場合はそうはいかない。アンダーは許されないので、原型段階で綿密な調整が必要となる。BANDAI SPIRITSが使用しているZbrushを使った抜き方向に対するアンダー確認手法をアルターに技術共有したことで、原型を調整しながらのアンダー確認が可能となった。
そして金型もスライドを多用したスゴイ構造のものなっている。
「普段は金型に起こす上でのデータ作成は原型が出来上がってからの作業なのですが、今回は一番キレイな形で再現するにはどうしたらいいいか、原型を作リ始める段階からものすごい回数打ち合わせをしました。プラモデルにするための原型を作ってもらったからこそ、スゴイ角度のスライドなどが再現できたんです」(BANDAI SPIRITS 林田)

▲脚部分は完全に円筒状の中空状態。腕もかなり面白い角度でランナーに付いているのだ
▲スーツの下をケーブルが這って表面が盛り上がっている状態。金型の抜きで形状がつぶれないような配置になっていることに注目!

素材の使い分け

ガンプラでは必要な強度によってプラ素材を使い分けているが、Figure-riseLABOの場合は質感の違いを出すために素材を使い分けている。スーツの赤い部分のツヤツヤなところ、肌や髪のマットなところ、そしてその中間。アスカでは関節部分や細いベルト等、強度が欲しい箇所にあえて中間のものを使用し光沢のあるスーツ部分との質感の差を演出している。

▲腕のレイヤードインジェクションのパーツはヒジで分割されることのない一体のパーツになっている。その実現のために脇の一部の肌部分はシールで再現し、自然に見えるようになっている
▲フィギュアで非常に難しいポイントのアゴのラインの分割も検証を重ねている。成型の構造としてもアゴの下にあったゲートを廃止し、キレイなラインが出せるようになっている

量産

Figure-riseLABOは実験的なシリーズだけに、量産もなかなか苦労するところ。
「量産に入ってからも生産担当者が大変そうです。厚いところと薄いところの緩急があるのが大変難しかったそうです。これが作れたのは設計、金型の技術者達の力もあるんですが、生産現場で成型を担当するバンダイホビーセンターの技術者たちの努力もあってこそ成立しているんです」(BANDAI SPIRITS 牧野)
通常版に加えて赤いスーツ部分をメッキした[スペシャルコーティング]版も発表されたが、いずれも予約は瞬殺だっただけに、量産は大変だったにしても再販を期待したいところ。

可能性

フィギュアとプラキットの新たな可能性を追求してきたこのシリーズ。
「また新しい体験をお届けできるようにつねに新しい表現の研究を行っています」(BANDAI SPIRITS 牧野)
「次の技術革新を楽しみにしています」(アルター 高野)
Figure-riseLABOの第6弾以降はあるのか、その場合はどんなテーマになるのか。そしてFigure-riseLABOでの実験の成果は他のプラキットへも反映されてくるはず。その結果も楽しみにしたい。

©カラー

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