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日本を代表する筆メーカー「名村大成堂」を見学! 天然の毛から「筆」ができるまで

2024.08.14

「筆」ができるまでを見てみよう! 月刊ホビージャパン2024年9月号(7月25日発売)

名村大成堂で「筆」ができるまでを見てみよう!

 日本を代表する筆メーカー「名村大成堂」にお邪魔して、筆職人による「天然毛の筆作り」工程を見せてもらいました。1本の筆を形作る「毛」の大事さ、職人の手によって1本1本大切に作られる過程を通して、あなたの机の上にある筆に思いを馳せてみてください。

名村大成堂

▲東京の雑司が谷に本社を置く筆メーカー。天然毛筆から人工毛筆まで、ありとあらゆる筆を用途に合わせて作り出している

名村大成堂 営業部 石川久樹さん

▲工場を案内してくれた石川氏。筆のこと、筆を作る「毛」の現状などを非常にわかりやすく解説してくれた。自社の筆に対する愛・コダワリの深い営業マン

Q.そもそも「筆の毛」って何ですか?

A.

 最近はPBTナイロンが主流となってきましたが、筆の毛の多くは「食用」として出荷された動物の毛を頂戴して使用しています。出荷するまでの発育過程によって毛の品質は大きく変わります。
 食と筆はかなり密接な関係なのです。昔は豚や牛を1頭出荷するのに、長い時間がかかりました。これが「毛」の成長にはよく、高品質な毛が取れていました。現代では昔よりも早く、質も安定して出荷できるようになっていますが、肉質がよくても「毛」に関してはこれがあてはまらず、早熟な毛が多く出回るようになっています。これによって筆に使う毛のクオリティ低下につながっているのが現状です。
 ですが、職人はいまの毛も使いつつ多くの人に「高品質なもの」を届けようと努力しています。ヴィンテージの毛など混ぜ込んだり、質の悪い毛をしっかりと除去したりですね。この調整は機械ではできず、職人の経験と技術がものを言います。(石川)

模型塗装にオススメな名村大成堂の筆(ナイロン筆もやってます)

名村 面相筆 康尖(こうせん)

▲天然毛のように自然に摩耗するナイロン繊維を使用。使い込んでも穂先にクセがつきにくく、シャープに描ける。細部塗装や細かいタッチで面全体を塗っていくのに適している。軸はアルミニウム製。適度な重さで安定感が出る

●発売元/名村大成堂●2673円~

PCセーブル(丸筆/平筆)

▲セーブル(イタチ)に近い使い心地をナイロンで再現した筆。弾力と穂先のまとまり具合がプラモの塗装に最適。コストパフォーマンスもいいので気軽に常用できる

●発売元/名村大成堂●450円~

天然毛筆を生み出す工房へ!! 職人のお仕事を見学!!

1/筆作りでもっとも大事な「サラエ」

 入手した獣毛を選別する作業が「サラエ」。この作業工程の多さで筆の値段が変わると言われるほど、非常に大事な作業。先の粗い毛や逆毛を職人の手作業で細かく除去していきます。

▲今回はもっとも職人仕事の真価が発揮される「天然毛」の筆の作業風景を見学させてもらった。筆ができる工程でとても大事な手仕事をピックアップしてご紹介しよう!

出荷されてきた馬蹄の毛

▲こちらが馬毛筆に使う馬蹄の毛。このようにまとまった状態のものを「サラエ」で選別していく

質の悪い毛を除去

▲束ねた毛を職人が専用の道具でさっと撫でるように掻き出すと、毛先がない毛や逆毛など質の悪い毛が出てくる。これを机の引き出しを利用したスペースに落として選別する。まるで魔法のように、質の悪い毛だけ除去されていく様子は圧巻

毛をまとめる時の「音」

▲除去したら、木の板を使ってトントンと毛をまとめる。この時の「音」を聞くだけで、他の職人たちはその作業の質が分かってしまうそう。筆作りの工房内には、毛をまとめる際に出る心地よい音が響いている

2/毛組、練り混ぜ工程

 サラエを終えた毛を筆にするための工程。名村大成堂では、今回工程を追っているHFという筆に対してある程度使い込んだ筆と同じ使い心地になるように毛量のバランスを変えて毛組しています(まるで加工済みデニムのようです)。毛組調整で穂先を肉厚にしたり、コシの力強い穂にしたりしています。毛を練り混ぜる混毛は、何度も繰り返して毛の密度を高めます。時に、現代の毛とヴィンテージの毛を混ぜたりして、クオリティが落ちない工夫も行われているそうです。

長さ違いの毛を束ねます

▲よーく確認してほしい。3段階に長さが異なる毛の塊がまとめられている。このそれぞれが毛組と言われるもので、これらの長さ違いの毛をうまく混ぜ合わせて穂先を作っていくのだ

「ハンサシ」で毛をまとめる

▲一握りくらいの毛を取り、完全に毛先側にそろえた後、「ハンサシ」と呼ばれる小刀を使って、逆さになっている毛や、毛先がすれてなくなっている毛などを、指先の感覚を頼りに抜き取りまとめていく

長さ違いの毛の束

▲まずはこのような毛の塊からスタート

毛を広げる

▲毛を広げていき、この状態でサラエをする。非常に素早い手捌きで毛が広げられていく

練り混ぜる

▲毛と毛がより密着し密度感が高まるようにしていく

くるくるとまとめていき、トントンと叩く

▲広げた毛をくるくるとまとめていく。すると穂先のような形状になるが、これで終わりではない。ここでしっかりと根本のほうをガラスに打ち付けるようにトントンと叩く。そしてまた最初の工程に戻って、毛を広げて練り混ぜていく。この工程を幾度も繰り返すことで長さや違う種類の毛が均等に混ぜ合わされた、高密度な穂先となる

3/芯立て

 穂先を束ねる工程です。使用する獣毛によって反り曲がりのクセがあるので、毛ごとにまとめ方に違いがあるそうです。

アーチ形に毛が反る

▲これは豚毛。毛ごとにこのようにさまざまなクセがある。このクセを捉えて、美しい穂先へとまとめ上げる

定量を決めるコマ

▲穂先をまとめるために使用する治具「コマ」。このコマに合うサイズの定量を計り、毛をまとめる

左右対称に巻き合わせる

▲わかりやすいように先ほどのコマよりも大サイズの毛で紹介。このように手作業で左右対称に巻き合わせる

コマに入れる

▲巻き合わせた毛をコマに差し込むと穂先の形状が見えてくる。この毛に櫛を通し整え、さらに先の丸い棒で毛の根元側からコマへと押し込めば、紡錘形の美しい穂先ができる

尾締め

▲コマから外し、糸で縛って穂首をまとめる

しっかりと乾燥させる

▲櫛を通して形をきれいにしたら、しっかりと乾燥させる

4/組み立て工程

 接着剤による接着と合わせて、穂先を入れた金具をより強固に固定するために、カシメを行います。アナログなプレス式から、専用の機械を使ったローラーカシメなどが主流です。筆の金具部分をよく見ると「2本の筋」がついていると思います。それがこの作業を行った証拠です。

メチャ年季が入ってます!

▲こちらが金具をプレスする工具。フットペダルを押し込むことで、上からプレスされる。筆の太さによって規格が決まっており、それに合わせて幅を調整してからプレス!

定規で測る!

▲ヴィンテージマシンなので、自動で幅は設定されない! 規格を見て定規で長さを測る

優しくプレス

▲フットペダルを押し込みすぎると金具が潰れてしまう。ここも繊細な作業が求められる

金具がしっかり食い込んだ

▲金具さし→プレス→接着→軸さし→レット(カシメ)の流れが終わった状態。これにて筆の完成!

大きな筆用!

▲油絵などに用いられる特大サイズの筆の金具のカシメを行う際に使われた大きなカシメ機。このフロアにいる人間の誰よりも先輩

ふたりがかり!!

▲機械を押さえる役、カシメを行う役とふたり体制で作業! 金具にもさまざまな工程が加わっているのだ
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