出渕裕が語る「邪神兵誕生秘話」。そして新たなシリーズ展開も!
2024.07.19『機甲界ガリアン』の基礎設定を活かしつつも、物語、キャラクター、世界観、メカなど全てが刷新されることで話題となった『鉄の紋章』。出渕氏が新たにデザインを手掛けるにあたっては、まずは監督の高橋良輔氏からは次のような説明があったという。
「本編の続きではなくて、キャラクターからインスパイアされた形で父や兄弟同士の争いを、若干シェイクスピア劇のような雰囲気も入った戦国奇譚みたいなものにする。……時間が経っているので、記憶違いがあるかもしれませんが、そのようなことだと良輔さんからは聞いて作品に参加しました。テレビシリーズの時は、メインメカを大河原邦男さんがデザインされていたんですが、お忙しい時期で途中で回らなくなり、僕が途中から助っ人で入っていて。その流れで、OVAのリニューアルデザインは僕が担当することになったんです。ちなみに、絵コンテと演出を担当したのは、ダイナミックな演出を得意とする池田成君、そのおかげで戦闘シーンも迫力のあるものに仕上がった印象があります。」
『機甲界ガリアン』のメカである機甲兵のリニューアルデザインは、もとのデザインの段階から中世ファンタジー風の世界観は描かれていたため、その要素を踏襲しつつ作業がすすめられた。デザインリファイン作業は、『聖戦士ダンバイン』のオーラバトラーのリファインに続く形となっているが、『鉄の紋章』ではそれまでとはまた違ったアプローチでデザンのリファインに臨んだそうだ。
「OVAではテレビシリーズの方と続いていないということで、全部リニューアルして構わないという話だったんです。テレビシリーズのスポンサーだったタカラ(現:タカラ・トミー)さんの方で『鉄の紋章』をプラモデルなどで商品化をするという話も無かったので、ロボットっぽい関節可動などを入れる必要もない。だったらもうちょっと自分らしさみたいなものを前面に出して、自分が考えていたファンタジーロボットというイメージを極めてみようかなという思いがありました。
『聖戦士ダンバイン』のデザインを自分なりに変える時は、外骨格生物とか昆虫の殻を使った、FRP的な軽い質感をイメージを考えていたんですが、『鉄の紋章』ではこれはもう鉄というか金属であるという方向で行こうと。西洋甲冑なんかも金属だけどなめらかな曲線がでているのが美しくて、重厚でもあるのでOVAの方ではそういうイメージで推していってみようかなと考えていきました。テレビシリーズだとガリアンがローラーダッシュをしたりして軽快な感じもありましたけど、OVAでは金属の厚みや重みみたいなものが感じられて、華麗な剣戟的な戦いではなく鈍重な甲冑同士が重い武器を叩き付け合うという方向を追求していった形です。イメージも大きな人間が重たい甲冑を着ているという感じですね。
当時、中世の武器なんかに興味があって資料を集めていたので、装備させる武装に関してもスタイリッシュな剣ではなく、もっとプリミティブな野蛮さがあるような鈍器や斧などの武器を持たせてみようかなとも思っていました」
そうした形で劇中に登場する機甲兵のリニューアルデザインを手がける中で、クライマックスに登場するラスボス的な存在に関しても考える必要があり、出渕氏自らがデザインイメージを提案する形で邪神兵が誕生することになる。
「『ガリアン』には人馬兵のような半身半獣のような形のメカが活躍しているわけですから、そこで半身が蛇のような感じだったら面白いんじゃないかと思って、「こんなのはどうでしょう?」とこちらからアイデアを出したと思います。
邪神兵は「邪(よこしま)な神の兵」と書くんですが、言葉だけだと「蛇の身体の兵」というようにも聞こえるので、ダブルミーニングみたいな感じでいけるかなと思って、名前も合わせて提案していました。ほかの機甲兵はテレビシリーズのアレンジというか、バージョンアップみたいな感じですが、邪神兵だけは完全オリジナルで。
デザインの元イメージとしてはレイ・ハリーハウゼン監督の『タイタンの戦い』に出てくるメデューサなんかも頭の中にあったのかしれないですね。あと作画もアニメアールの吉田徹君がメカ作画監督をしていて、沖浦啓之君なんかも参加していて、なかなかいいアクションを見せてくれた印象はあります。先ほども言ったような、鈍器で叩き合う厚みや重みも出ていて。よくやっていただいたんじゃないかなと思います」
こうしてデザインが完成し、劇中で活躍したイメージを、ある意味設定画に囚われずに、劇中の存在感やイメージを優先して造型したのが、小比類巻英二作の邪神兵だった。出渕氏は、当時から海洋堂とやり取りがあり、その造形スタイルを目の当たりにしていた。では、当時の造形師の個性を前面に出す海洋堂の造型に対する姿勢をどのように思っていたのだろうか?
「当時の僕は、造型に関して細かいことは言わなかったんです。もちろん『機動警察パトレイバー』のようなリアルロボットであればディテールの違いを監修で意見を言ったり、自分が描いていた『機神幻想ルーンマスカー』に関してデザイン的な解釈を聞かれればアドバイスをしたりもしました。でも、オーラバトラーや機甲兵なんかは、造型する人なりの解釈が入ってもいいと思っていたので。その人の想像力、創作力、創作意識みたいなものを大事にした方がもっと表現が広がると思って口を出すようなことをしませんでした。
例えば、今池芳章さんのギトールのようなモンスター化しているようなアレンジがあってもいいし、設定通りに作る人、生物的じゃないアプローチをしている人もいると思うんです。そういう意味では、オーラバトラーや機甲兵は造形表現に自由度を持たせていいジャンルなのかなと思っていました」
そうした自身のデザインを立体化される際に、造型に対して寛容な形で接していた出渕氏は、小比類巻英二作の邪神兵を見た時にはどのような感想を持っていたのだろうか?
「いやもう、「格好いい!」のひと言でしたよね。今池君は生物的な造型が得意な人だったから、鎧をモチーフにしている邪神兵はなかなか生物的にはできなかったと思うんですが、腹部とか関節部分にそうした生物的な要素が入っているし、全体のバランスが素晴らしいですよね。当時、アニメ誌のモノクロイラストで、とぐろを巻いた邪神兵のイラストを描いたことがあるんですけど、そのイメージにとても似ていて。胴体がとぐろを巻くことで台座にもなるし、ポージングとしても収まりがよくて。
設定画だと、縦長の中に無理矢理尻尾を収めるように描いていたですけど、でも本当ならもっとボリューミーですからね。だから、僕の思っていた「こんな感じ」というのをところを押さえているし、マッシブな雰囲気はありつつもウエストは凄く締めていて。本当に決定版だと思いましたね」
小比類巻英二による邪神兵は、デザインを担当した出渕氏が太鼓判を押すほどの完成度もつ造形物であることは、これまでのコメントから深く理解してもらえただろう。
ARTPLAでは、当時制作された原型に手直しをいれ、細部まで徹底した3Dスキャンを行うことでデータを作成。さらに、データ上で外縁やエッジ部分などの形状やディテールをよりシャープになるように調整することで、より解像度をアップされており、原型の持つ圧倒敵な存在感はそのままに、現在の目から見ても遜色のないレベルに細部が調整された逸品として仕上がっている。そして、出渕氏にインジェクションキット化に向けてもひとことメッセージをもらった。
「当時の邪神兵のガレージキットは、今でも家にあるけど、大きくて値段も高かったから買えなかった人も多かったんじゃないかなと。それが約40年経ってインジェクションキット化するのは、嬉しいですし、感慨深いです。ぜひ色を塗る時は、設定画の色味に引っ張られないで、金属の塊である鎧を着込んだイメージをベースに、硬くて重い印象で仕上げてもらえるといいんじゃないかと思います」
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