HOME記事キャラクターモデル海洋堂のスタンスを体現した伝説のガレージキット「邪神兵」と小比類巻英二という造形作家に迫る

海洋堂のスタンスを体現した伝説のガレージキット「邪神兵」と小比類巻英二という造形作家に迫る

2024.07.05

 では、小比類巻英二とは何者だったのか? その正体は、『鉄の紋章』の造型企画を動かすために作り出された海洋堂造型チームのペンネームだった。では、どうして「小比類巻英二」という名前の造形作家を立てることになったのか? 小比類巻英二の名前で、飛甲兵の原型を担当していた造形師のボーメは次のように語っている。

「海洋堂が『鉄の紋章』の造型プロジェクトを進める中で、複数人で原型を手掛けることを“海洋堂造型チーム”と書くのは嫌だということから作り出されたキャラクターが“小比類巻英二”だったんです」

 ボーメによると、後に海洋堂の企画部長を務める白井武志による発案で、当時人気があった女性ミュージシャンの小比類巻かほるとTVアニメ『蒼い流星SPTレイズナー』の主人公、アルバトロ・ナル・エイジ・アスカから名前を取る形で、「小比類巻英二」という架空の人物が作られた。

「小比類巻英二」の名前で原型が作られた『鉄の紋章』関連のアイテムは5種類存在しており、そこには主に3人の造形作家が関わっている。邪神兵は今池芳章を中心にボーメや片山浩などの海洋堂の造形師が手伝う形で制作。

さらに続けて発売された2バージョンの鉄巨神と機甲猟兵は田熊勝夫が、そして飛甲兵はボーメが原型を担当。造型面では、当時の海洋堂の造形作家の主力を担っていた3名が関わる形で進められたいた。そして、「小比類巻英二」が行う造型表現に関する発言などの文章は、企画発案者の白井が担当している。

「白井にとっては、小比類巻英二という存在はいろいろと便利だったんでしょうね。造型の面でも、発言の面でも海洋堂がやろうとしている“ロボットはフィギュアだ”という主張を体現することができるわけですから。当時、ほかのメーカーを挑発するような発言をノリノリでやっていましたからね。それも本人の名前でやっているわけではなく、架空の人間の発言として書いていたわけですから」

 先に挙げた小比類巻英二が書く形でホビージャパン誌上で連載されていた「ロボットはフィギュアだ」は、白井が原稿を担当。迫力の造型と刺激的な言葉は、海洋堂造型チームよる共同企画として業界全体に影響を与えることになった。

海洋堂の商品カタログの画像
▲ 当時の海洋堂の商品カタログ。小比類巻英二の原型として、5アイテムが掲載されている
機甲猟兵の画像
▲ 小比類巻英二の名義で田熊勝夫が原型を担当した機甲猟兵
飛甲兵の画像
▲ ボーメが小比類巻英二名義で原型を制作した飛甲兵

 では、実際に邪神兵がどのようにして作り上げられていったのだろうか? 当時の海洋堂での造型のやり方について、ボーメは次のように語っている。

「今池さんは海洋堂で造形師をしていたけど、普段は会社員として働いている人で。昼間に会社に出勤して、夕方に退社した後に海洋堂の工作室に来て原型を作るという作業をやっていて。その今池さんの造型を海洋堂のスタッフが手伝うスタイルは、今池さんが原型を作って話題となったオーラバトラーのライネックから始まった形なんです。今池さんが現場監督的なポジションについて、ポージングなどメインとなる造型を作って、それを他の海洋堂の連中が高めていくという形でした」

 今池は、ガレージキットの黎明期に海洋堂で多くの原型を手掛けた造形師で、怪獣から『風の谷のナウシカ』シリーズの人物造型まで幅広い立体物を送り出していた。その造型的な特徴となっていたのが、躍動感と迫力を伴うポージングの構成と有機的なディティール表現だった。

中でも、「ロボットはフィギュアだ」という言葉を体現するポージングのセンスは、海洋堂の造型チームの中でも群を抜いていた。当時、海洋堂の造型は「中に人が入っているような動きをしている」と言われるほど、ロボットのポージングは躍動感に溢れており、その基礎的な部分では今池のセンスが大きく影響していたと言えるだろう。

「海洋堂の造型スタイルというのは、体育会系のところがあって。出来上がったものに対しての意見交換みたいなことはよくやっていたんです。そんな中で、今池さんは誰かが作ってきた原型を見て、ポーズが今ひとつだったりすると“格好悪いやん”って言って関節部分からバキって折って、さらに足を広げたりとかポーズを変えて瞬間接着剤で止めて“こうした方がもっといい”とやってしまう。原型をバキバキにされた人はシュンとしながらまた作り直すわけだけど、立体感の見せ方に説得力があった。実際にやられると自分が作ったものよりも格好いいわけだから、反論はできないわけですよ。それは僕もやられましたし、当時の海洋堂の造形師はほぼ全員やられていた感じですね」

©サンライズ

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TEXT/構成:石井 誠

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