原型開発は波乱万丈!? 1/12「I:Pマスカレーナ Ver.1」制作の裏側を企画・開発担当者に直撃インタビュー!!【遊戯王カードゲームMFC】【前編】
2024.06.21その後開発が始まりました。ではここからは企画~原型制作の話をしていきます! 当時、商品仕様を企画する際にまず問題として上がったのは
「I:Pマスカレーナに付属品がないぞ!!」
イラスト違い(Ver.2)のほうのI:Pマスカレーナにはバイクが付いておりますが、この「Ver.1」にはなにも付いておりません! アクションフィギュアとして遊びの幅が広がるパーツはぜひとも欲しいところです…。なるべく派手なものを付けたいですが、勝手に設定を生み出すのはもちろんNGです。その「ないもの」をなんとかして掘り出さないと…!
脳みそにStorm Access!
最終的にたどり着いたのはカードイラストにはありませんが、リンクモンスターとしてあって当然な「リンク召喚エフェクト」でした。アクションフィギュアはポージングの都合上、台座は重要なアイテムといえます。マスカレーナにも付けるなら、面白いものにしなければ…! エフェクト×台座⇒「リンク召喚エフェクト台座」がこれで構想完了しました。最初の頃のスネイルさんの既製品を使った構造図はこちらです↓
アニメではリングを側面から観察すると、上下合計3層の構造になっております。その再現ができていないと製品としては不完全なので、仕事机に大量に置いてあるアニメキャラのアクリルスタンドを2層に重ねて横から確認すると…おいおいこれじゃないか! 厚みのあるアクリル板に両面印刷したうえ、2枚重ねて接着すれば求めていたエフェクトがそこにあります! I:Pマスカレーナはアニメに登場したモンスターではありませんが、リンク召喚エフェクトはリンクモンスター共通のものなので、アニメ準拠に作らせていただきました。さっそくアクリル工場に試作品を作ってもらって、こだわり抜いた「横から3層構造が見える」仕様が超最速で決まりました!
そういえば、WF2024[冬]で展示したエフェクトについてはネット上で「リンクマーカーの向き間違っていたのでは」という意見をいただいております。たしかにI:Pマスカレーナ Ver.1のアローヘッドは「⬋ ⬊」でしたが、会場で展示された腰回りのリンクマーカーが「⬉ ⬈」になっております。それは…ミスではありません! TVアニメ『遊☆戯☆王VRAINS』の劇中で、腰回りのエフェクトは召喚成功時にモンスターを中心に180°回転してから停止する動作があります。何度となく観察したうえで設置しましたので、ご安心ください!
これで一番目立つ付属品は決まりましたが、それでもI:Pマスカレーナ Ver.1の手に持たせるものなどがまったくないのでやはりまだまだプレイバリューが足りません。ダメ元でコナミさんにこうお聞きました。
「あのう…I:Pマスカレーナさんってデータの運び屋だから、パソコンとか得意そうですね…設定的にそういう小物はありませんか?」
ななななななんと! 描き下ろしで設定図をいただきました!!
また、キャラ各部の構造を理解するためにコナミさんに確認した結果、イラストレーターさんは何度も本体の設定画を追加してくれました。本当にありがとうございました…!
※設定画集『YU‐GI‐OH! CARD GAME ART WORKS』でも触れられているエピソードです。ぜひご確認ください!
企画時のエピソードはまだまだいっぱいありますが、その作業は企画者の「ちょっと現実味のある妄想」みたいなものなので喋りはじめたらキリがありませんので、ここで一旦止まって3D原型制作の話に移りたいと思います!
実は、最初の原型からとんでもない改修をかけてここまできました。2022年末に公開した3Dデータは、複数回の監修を受け修正を行いましたが、どうにも私自身が納得できる出来になりませんでした。当時原型の修正が難航していた理由は主に「カードイラストと設定図の差」にあります。私がいただいた設定画の資料は『YU‐GI‐OH! CARD GAME ART WORKS』にも掲載された画像と同じで、カラーラフのようなものでした。もともと立体化を想定しているわけではないので、設定画とカードイラストは完全一致とは言えません。そのうえ、服の構造もパッと見より何倍も複雑に描き、設定されており、その参考に公式番組に出演されたコスプレイヤーさんのコスプレ衣装の画像なども参考にさせていただきましたが、やはり圧倒的に「確実な資料」が足りません!
フィギュアとして立体化する際、特に可動フィギュアは、資料が何枚あっても足りません(笑)。しかも、はっきりとわからない部分はすべて原型師さんの脳細胞で補うことになります、2次元を3次元に召喚する、これが原型師さんがもっている特殊スキルですね。画像に似ているものを作ることですら既に難易度が高いのに、その一部の形・構造を補って作るのはさらに大変です。せっかくコナミさんからたくさんの設定画をいただいたにも関わらず、原型師さんにとっては相当な作業量となるのがフィギュア作りにおいての現実です。
もちろんそれだけではありません。アクションフィギュアというのは、関節構造を組み込むと造形デザインが崩れがちなので、そこもカバーしかなければなりません。しかしそんな都合の良い改修案なんて簡単に見つかるわけがありません。ほとんどの場合「造形」か「可動」のどちらかしか選べません、両立は困難な道なのです。また、パーツの強度も考えると、造形スキル的には作れるものでも、量産するとなると作れないものも結構多いです。造形・ギミック・可動・サイズ感・強度、アイテムによっては、普段フィギュアに慣れていない方でも扱いやすくする仕様なども考慮しなければなりません。みなさん、このように、アクションフィギュアを作る仕事は、まさに無理ゲーに挑むようなものなのです! こうやって根本的な問題解決に向けて、度重なる監修へとスネイルさんは決闘を挑み続けていました。
そのうち何回か開発進捗として監修中の3D原型を公開しまして、ユーザーの皆さまからの意見をたくさんいただきました。それまでの3D原型は設定重視で、三面図・他設定図をベースに制作してきました。特に頭部の造形は、「ゴーグル着脱可能」という設定を再現するためには、ゴーグルのサイズを一回り大きくする必要がありました。そういった「設定再現のためのギミック」を盛った結果、ユーザーの皆さまが求める「とにかくカードイラストに似ているもの」という需要との乖離が生じました。決闘者はI:Pマスカレーナの印象としてはカードやサプライにプリントされたイメージが強いので、他の部分に力を入れたとしても決闘者のための商品にはなりません!
それに気づいてからは、この企画と関わる社内外の全員と相談して「カードイラストの再現を最優先し、原型を徹底的に修正し、さらに高みを目指す必要がある」という結論に至りました。コロナよりもこの件のせいで開発が遅れたのかもしれません。金型までできたらもう修正のしようがないので、その時点で企画の方向修正をしないといけませんでした。苦渋の決断ではありましたが、ユーザーの皆さまにより良い製品を提供したいと全員が合意しましたので、その一歩を踏み出しました。
今回の徹底改修は、スネイルさんの原型師さんだけ困難と戦わせるのではなく、私も助っ人として自分をフィールドに特殊召喚しました。その困難を解決するために、私が決闘者としてI:Pマスカレーナ Ver.1に対する印象と既存の参考資料でオーバーレイネットワークを構築し、構造・ディテールが確認できる新しい資料をエクシーズ召喚しました。あの数か月間でほぼ週一ペースで数十枚の修正リクエスト資料をスネイルさんに渡してあります。一箇所の修正でもかなりの労力がいるのに、毎週数十枚って…その作業量は私ですら想像できません。お恥ずかしいことに、その過程で私の知識不足によって「実際作れない造形」も結構指示してしまいましたが、スネイルさんと検討しつつ、みんなが納得できるように、さらなる高みを目指した造形に修正していきました。「頑張った」の一言では済まない、努力の結晶と言っても過言ではない改修作業がこれで終わりました。いま振り返ってみても、すべての努力は無駄ではないと信じられます。
この無茶な作業量と戦ってきた原型師さん、本当にお疲れ様でした! その苦労はどうしてもこの場を借りて皆さんに知っていただきたいと思います。
ここまで来たら、実物原型の話を語りましょう。これも結構裏話があります。
出力品の可動原型が、イベントなどでは立ち姿で展示されている理由、それは「関節の強度・保持力がない」からです。無理に派手なポーズを付けるのであれば、予め3Dデータでポーズを付けてから無可動フィギュアと同じようにパーツを分割して出力するか、可動原型にポーズを付けながら接着剤で固定させるかのどちらかになります。当時ワンフェス展示のためにコナミさんのご意見をうかがったところ「できればカードイラストのポーズで展示してほしい」とのことでした。これはたしかにそのほうが見映えしますが、正直困りました。手元にあるのはポーズが付けられない原型ひとつのみ。すぐに新しい原型を作る時間もないその時、私のアマチュアモデラ―としての魂が覚醒しました。スネイル製品はほとんど素体の使い回しがありませんが、スケールが統一しているため少し加工すれば既製品の関節をI:Pマスカレーナ Ver.1の原型に移植することができるかもしれません! 既製品の関節なら保持力あります! 原型は出力品で結構脆く、壊してしまったら一発で終わりなので、まずは改造テスト用に改修前の旧原型をリンク素材にしました。
各関節は造形上やはりI:Pマスカレーナ Ver.1とは別物なので、完璧な可動域は取れませんでしたが、ほとんどのポージングが難なくいけます!
同じ改造を改修後の可動原型にも施して、グレーサフを吹いたら完成です。
改修のおかげで、この原型は今でもいろんな開発過程で使用されています。そしてワンフェスで原型を撮影してくださったたくさんの方々、ありがとうございました!
I:Pマスカレーナ Ver.1/遊戯王カードゲームモンスターフィギュアコレクション
●発売元/あみあみ×蝸之殻Snail Shell●価格未定、2024年予定●約16.8cm
■蝸之殻Snail Shell公式X(@wozhike)
■あみあみ公式X(@amiami_figure)
Ⓒスタジオ・ダイス/集英社・テレビ東京・KONAMI