イギリス陸軍「チャーチル・クロコダイル戦車」が歩兵戦車の究極進化系と語られる理由とは【いまさら聞けないすごいヤツ】
2024.04.18いまさら聞けないすごいヤツ!!/イギリス陸軍 チャーチル・クロコダイル戦車●宮永忠将、大森記詩 月刊ホビージャパン2024年5月号(3月25日発売)
いまさら聞けないすごいヤツ!!
イギリス陸軍
チャーチル・クロコダイル戦車
イラスト/大森記詩
「名前は知っているけど、どんなものなんだろう?」「いまさら聞くのもはずかしいなぁ……」なんて思ってしまう有名な飛行機や戦車、車などのモチーフをサクッと読める解説とイラスト、オススメのプラモとともにご紹介する本連載。
今回はタミヤの戦車模型「ミリタリーミニチュア」シリーズでも、栄光の100番目のアイテムとしてリリースされている「イギリス陸軍 チャーチル・クロコダイル戦車」をお届けします。強力な火焔放射戦車としてドイツ軍から恐れられた車両に迫ります!
イギリス陸軍
チャーチル・クロコダイル戦車
全長約/7.44m(トレーラー除く)
全幅/2.74m
全高/3.25m
重量/39.57t
最高速度/20㎞/h
エンジン/ベドフォード ツイン・シックス ガソリンエンジン
懸架方式/コイルスプリング式
武装/主砲・75mm砲、火焔放射器
乗員/5名
ドイツ軍から恐れられた歩兵戦車の究極進化系
解説/宮永忠将
歩兵を助けるパワフルな戦車
第二次世界大戦に従軍したイギリス陸軍兵が戦場でもっとも目にしたであろう、相棒のような戦車。それがチャーチル戦車だ。
当時、イギリス陸軍は巡航戦車と歩兵戦車というふたつのタイプの戦車を開発していた。巡航戦車は戦車戦や突破後の戦果拡張を主任務とする快速、軽装甲が特徴。そして歩兵戦車は鋼鉄の壁として歩兵を守り、敵の火点を粉砕する役割が期待された。
そんな歩兵戦車にとって重要なのは装甲防御力で、次に敵の拠点を叩き潰す火力だ。反面、歩兵を守るという役割柄、速度はさほど重視されなかった。なにせ鉄の塊に高速性能を持たせるっていうのが戦車開発の難しさなので、そのハードルが低い歩兵戦車の開発は順調。そんなこんなで1942年に完成したのがチャーチルというわけ。
スペックは凄い。装甲は車体正面で102mm、側面で76mmと、敵のティーガーⅠ重戦車に匹敵する数値で、重量も40トンに迫る巨大戦車となった。火力は、当時のイギリスの事情で貧弱だったのだけど、これは順次強化された。そして足周りは低速時のトルク重視となっていた。これに幅広で接地面積が大きな履帯を組み合わせているので、見た目は鈍重なのだけど、結構瞬発力があって、登攀性能も抜群。どんな障害物もグイグイ押しのけて、歩兵のピンチに駆けつけてくる。履帯は不整地踏破能力が高くて構造も簡単と、戦場では信頼性抜群。宇宙世紀になってもガンタンクに採用されているのは、支援兵器として理に適っている。技術史上の偉大な発明であったのだ。
歩兵戦車の究極進化形
チャーチルの主な任務は敵の火点や陣地の制圧。だけどどんな巨砲を搭載しても、頑丈なトーチカや深い塹壕に潜った敵の排除は容易ではない。そんな場面を想定して開発されたのが火焔放射戦車だ。分厚い装甲で敵の攻撃を弾きつつ、敵に迫って必殺の火焔放射を浴びせる。拠点に籠もった敵も圧倒的な熱か酸欠で確実に壊滅する。
ベース車両はチャーチルで、燃料のゲル化油と噴射用圧縮窒素が詰まったトレーラーを牽引する。車内に引き込まれたパイプを伝った燃料が、車体正面に据えられた火焔放射ノズルから目標に噴射されるという仕組みだ。射程は最大で100mを超える上に、75mm戦車砲も普通に使用できる万能ぶり。こうして完成した車両はクロコダイルと名付けられた。
燃焼力が高くて長時間燃え続け、消火が難しいゼリー状の燃料を浴びせてくる火焔放射は、受ける側にとって確実な死を意味する悪夢そのものである。したがって火焔放射戦車には、あらゆる反撃が集中する。だからクロコダイルの車体には、装甲強化タイプのチャーチルMk.Ⅶが採用された。そんなクロコダイルがあまりにも有用だったので、チャーチルMk.Ⅶも途中からトレーラー接続用のブラケットが標準装備となり、簡単にクロコダイルに化けられるようになった。まさに歩兵戦車の究極進化系と呼ぶのにふさわしい仕様だ。同盟のアメリカ兵も多いに助けられている。しかし敵からすればヘイトを形にしたような存在でもある。だからクロコダイルの乗員が捕虜になったときには、命乞いは認められなかったと言われている。
マールバラ公 ジョン・チャーチル
(1650 ~ 1722)
チャーチル戦車という名前は、17~18世紀のイギリス貴族、マールバラ公ジョン・チャーチルにあやかったもの。マールバラ公はフランス王ルイ14世の軍隊に勝利して、フランスの野望を挫いたイギリスの英雄だ。ところが首相として第二次世界大戦のイギリスを指導した首相もウィンストン・チャーチルであるため、この英首相の名前が戦車に付けられたと言われたりするけど、真相はよくわからない。ただ、ウィンストン・チャーチルはマールバラ公の子孫なので、無関係というわけでもない。ちなみに、チャーチル首相は過去に菱形戦車開発にも尽力している。
No.100 を与えられた傑作プラモ
ティーガーIのような派手さはない。しかし、今回の記事を読んでみると「チャーチル・クロコダイル」がタミヤのミリタリーミニチュアシリーズの100番に選ばれたのも納得してしまいます。先ごろ特別販売商品として再生産もされ、手に入れやすい状況になっていますので、ぜひこの機会にゲットしてください。
1/35 イギリス チャーチルクロコダイル戦車
●発売元/タミヤ●3740円、発売中●1/35、約34cm(トレーラー連結時)●プラキット
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