30周年記念特別企画座談会 『マクロス7』&『マクロスプラス』河森正治×BANDAI SPIRITS コレクターズ事業部×BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン クリエイション部
2024.04.1330周年記念特別企画 マクロス7&マクロスプラス 河森正治×BANDAI SPIRITS コレクターズ事業部×BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン 座談会 月刊ホビージャパン2024年5月号(3月25日発売)
30周年記念特別企画 マクロス7&マクロスプラス
河森正治×BANDAI SPIRITS コレクターズ事業部×BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン
座談会
1994年に産声を上げたふたつの「マクロス」シリーズ、『マクロス7』と『マクロスプラス』は、TVシリーズとOVAという異なるメディアにおいて、同時進行で企画が進められた稀有な作品である。その人気はいまだ衰えず、両作品ともに30周年を迎えた今年、BANDAI SPIRITSから数多くの商品がリリースされる予定となっている。はたして歴史に名を刻んだ両作品は、どのようなプロセスで企画やデザインが進められたのだろうか?
現在両作品のアイテムを積極的に展開しているBANDAI SPIRITS コレクターズ事業部およびBANDAI SPIRITS ホビーディビジョン クリエイション部立ち会いの下、中心スタッフとして関わられた河森正治氏に、企画時の思い出やデザインの成り立ちをお聞きした。
(聞き手/河合宏之)
異なる方向性の2作品が誕生した背景とは?
── 『超時空要塞マクロス』は、河森さんも20代前半ということで、若い人たちのエネルギーが溢れているような作品でした。それから10年後、河森さんもクリエイターとして円熟していくなかで、あらためて「マクロス」をどのように作り出そうとしたのでしょうか?
河森 『超時空要塞マクロス』は、それこそ自分が22歳くらいのときの作品です。とても尖っていて「同じことは二度とやらない」と思っていた時代でした。でも、「メディアが変われば「マクロス」もやります」というスタンスで、劇場版の『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』や、ビデオ機材を駆使して作る『超時空要塞マクロス Flash Back 2012』は自分としては受け入れていました。そんなことをしているうちに10年が経過しまして、ある日、学校の後輩でもあるバンダイビジュアル(現:バンダイナムコフィルムワークス)の高梨実プロデューサーが、ささやくように「10年経ったら時効…」と言うんですよ(笑)。
── 時効なんですね(笑)。
河森 まぁ今までの「マクロス」と、「まったく違うアイデアが浮かぶのであれば…」という前提ですよね。そこで「1週間時間が欲しい」と連絡して、何かアイデアが思いついたら、引き受けようと思ったんです。「マクロス」でやり残したことがなかったわけではありません。『愛・おぼえていますか』では「歌で戦闘を止める」と言いつつも、最終的に「輝がボドルザーを撃って解決する」という方法を選んでしまった。それはずっと後悔していました。
「敵を倒して終わり」ではない解決方法がないだろうか、と考えていたときに、まずひらめいたのが「歌って戦うパイロット」。これなら絶対にヒットするという確信がありました。でも、それゆえに「マクロス」のポリシーから外れてしまうと思ったんです。多くの人に受け入れられるだろうけど、果たしてそれは「マクロス」としてやるべきことなのか、と考えて。そこであえてもうひとひねりしようと。
── そこで妥協されなかったことが、結果的に『マクロス7』につながったんですね。
河森 『超時空要塞マクロス』は、「空前」を狙って、今までになかったことを詰め込んだつもりではいたんです。ただ、それでも似たような作品も出てきたので、今度は「絶後」を狙おうと。もう絶対に誰も真似できない・真似したくならないものを作ろうと思って、「歌って戦うではなく、歌って戦わないパイロット」をひらめきました。
ただ、手ごたえを感じつつも、「これは絶対に一部のファンからは総スカンを食らう」と思っていました。そこで『マクロス7』とは真逆の作品ができないかと思って考えたのが、リアル路線の『マクロスプラス』ですね。戦わないパイロットを描く漫画スタイルの『マクロス7』、その対極にある洋画スタイルの『マクロスプラス』。「2本ともできるならいいよ」と高梨君に伝えたら、「ちょっと待ってください」と言われたのですが、数日後に「OKです」という返事をもらって。両方通ってしまった以上、「これはやらなければいけないな」と覚悟を決めました。
── 「マクロス」という世界観の可能性については、考えていた部分はあったのでしょうか?
河森 そうですね。どうすれば『超時空要塞マクロス』から変えることができるだろうと、漠然とは考えていました。それこそ従来の「マクロス」ファンやメカファンから叩かれるぐらいの作品でなければ、変わったとは言えないと思っていたんです。まだ30代で若かったですからね(笑)。
── とはいえ当時の「マクロス」シリーズの主要ファン層は、メカファンですよね。
河森 そうですね。ですから『マクロスプラス』という両極の作品がなかったら、成立しなかったと思います。
── 企画の流れとしては、『マクロス7』も『マクロスプラス』もほぼ同時に進められたのでしょうか?
河森 そうですね。もう完全に並行に進めていたので、どちらが先か分からない状態ですが(笑)。『マクロス7』については、ある程度企画をまとめて、脚本の富田祐弘さんに「歌って戦わない主人公」と打ち合わせをしたら、「それはつまり『俺の歌を聞け!』ってことですか?」と言われてその決めゼリフでいきましょう! と(笑)。企画のテンションが、すぐに伝わってありがたかった。
一方で、バサラがなぜ歌うのか、そのバックグラウンドをスタッフに説明したら、アミノさんから「うーん、主人公に背景はいらない」とバッサリと切られて(笑)。でも「子供時代に山に向かって歌う」というシーンだけ、なんとか入れてもらえたんです。
── 細かい設定がないことで、バサラのミステリアスな雰囲気が伝わってきますね。
河森 そうなんです。結局、考えていた設定は、今になって思うと余計な要素だったと思います。ただ、「山に向かって歌う」シーンは気に入っているので、入れてもらってよかったです。
── それだけ振り切った作品だけに、当時の評価はいかがでしたか?
河森 当時、SNSはありませんでしたから、パソコン通信、ニフティサーブで『マクロス7』のフォーラムをスタッフがチェックしていまして。「なんで歌ってるんだ、馬鹿野郎!」と言われ続けて、ところが、バサラがミサイルを撃ちそうになってしまった話数(第28話「サウンド新兵器」)で、「なんで撃ったんだ!」に変わった瞬間はスタッフ一同「やった!」と思いました(笑)。
── あのときは、視聴者もガムリンと同じ気持ちでしたね(笑)。
河森 スタッフだけではなく、観ている視聴者のみなさんとも一緒に作っている感覚になれた、貴重な体験でした。
すべてを変えるために取り組んだアプローチ
── 一方、『マクロスプラス』は、どのような方向性で進められたのでしょうか?
河森 『マクロスプラス』は、再編集を行って劇場版として上映する前提で進めていたので、人物同士の因果関係も幼馴染にするなど、できるだけシンプルな構造にしました。脚本には実写ドラマを書かれていた信本敬子さんに参加していただいて、感情の描き方やセリフの発想はとても刺激になりました。物語の軸になるシャロンについては、当初バイオテクノロジーで考えていましたが、それでは人間の表現とあまり差別化ができないと思って、バーチャルアイドル、AIに舵を切り直したんです。
── たしかに高性能すぎるバイオロイドだと、人間との差別化が難しくなりますね。シャロンの本体が四角いユニットである点など、現在の目で見ても絶妙なバランスだったと思います。
河森 人間と同じ容姿のバイオロイドの場合、「力が強い」「ジャンプ力がすごい」といった程度の差別化しかできなくなりますからね。当時はバイオテクノロジーが最先端でしたが、作品に取り入れていたら、あまりにも時代性を反映しすぎていたかもしれません。
── 今観ても古さを感じさせないのは、シャロンがバーチャルな存在だったからだと感じます。
河森 シャロンは完全にバーチャルな存在とする一方、感情表現をAIが独自に獲得してしまうと万能すぎるので、ミュンの心を投影しているのがジワジワとわかる描写にしたんです。ここで「バイオニューロチップ禁止」を打ち出したことで、のちの「マクロス」世界で規制ができたのはよかったですね。そうでもしないと、現実にどんどん追い越されてしまいますから。
── 当時の思い出としては、どんなことが印象に残っていますか?
河森 『マクロスプラス』で思い出深いのは、いろいろな場所に取材に行ったことです。エドワーズ空軍基地や、ドライデンフライトリサーチセンター(現:アームストロング飛行研究センター)にも行きました。ドライデンでは、当時機密だったF-18にベクターノズルを付けた試作機を見せてもらって。デモンストレーションで模擬戦をやっている映像を観せてもらったのですが、とても参考になりました。
また、劇中の風車が立ち並ぶ風景は、40年前にロサンゼルス郊外で見た風力発電そのものですね。車で移動していたのですが、見渡す限り全部風車。風車がずっと続いているという壮絶な光景にインパクトを受けて、これは実際に使いたいと思ったんです。
その他にはエアコンバットUSAで、実際にNATOの練習機に乗せてもらい、模擬空中戦を体験できたのはよかったです。教官のパイロットが同乗するのですが、教官が動かすのはペダルだけ。操縦桿の操作は全部こちらでやらせてもらったんです。2機で演習を行うのですが、後ろを取り合う模擬戦を行うんです。この体験は劇中でそのまま使っていますね。
── メカ面については、『マクロス7』『マクロスプラス』の両作品とも、『超時空要塞マクロス』のVF-1 バルキリーからデザインを一変しました。特にYF-19は、現在でもファンの支持を多く集めている機体です。
河森 YF-19のコンセプト的にはファイター形態のシャープさと、バトロイド形態の力強さを強調するようなシルエットを意識しました。そのルーツを探っていくと、アドバンスド・バルキリーになるでしょうね。その段階でさまざまなタイプを検討して、その後『天空のエスカフローネ』の前身企画になる『空中騎行戦記』でYF-19のベースとなる機体をデザインしました。ただ、最終的にYF-19はまったく別物の機体になりました。
── VF-1から、ここまで変形方式が変わったのは驚きでした。
河森 極力変形機構からガラっと変わるものを目指していたんです。スタイリングだけを変えるバージョン違いなら時間はかかりませんが、それではやりがいがありませんからね。せっかくの新作ですから、VF-1で気になっていた部分を解消しようと思ったんです。まずVF-1は、バトロイドに変形するとコクピットが前面になるので、防弾性が弱いですよね。そこでコクピットを、できるだけ後方に移動させようと思いました。機首を胸に移動させたのも、VF-1との違いを出すためです。
また、バトロイド時の主翼の場所についても、背中ではなく腰にしました。これはアクションが前提の機体だったので、肩の可動性も向上させるという点を考慮しました。93年の夏の段階にはスケッチもだいたい固まってきたのですが、バトロイド形態がどうしても気に入らなくて。結局、全部最初から作り直したんです。
── ラフの日付を追うと、YF-21のほうがいち早くデザインが完成していますね。93年の8月ぐらいにはもう決定稿に近い準備稿ができています。
河森 モチーフがしっかりしていること、そしてライバル機だからでしょうね。主役機は、ヒーロー性をどこまで持たせるかのバランスが難しいんですよ。ライバルは、そこまでヒーロー性を意識しなくても大丈夫なんです。YF-19はなかなか主人公機のアイデンティティが生まれなかった。準備稿を見ると、戦闘機というよりはスポーツ機で、バトロイド形態も華奢だったんですよ。
同じ土台を持ちながらも表現方法でアレンジを変えること
── YF-21は初期からコンセプトがブレていない感じがします。
河森 YF-23という、自分が好きな機体をベースにしているからでしょうね。並行してYF-21を進めるわけですが、 これも実際の試作機競争から、近年ではもっとも好きな機体であるYF-23をベースにしました。残念ながらF-22が選定されてしまうのですが、まぁ試作機競争はだいたいかっこいいほうが負けるんです(笑)。
YF-21で考慮したのはYF-19との差別化です。腕の畳み方、脚の使い方、すべてを変えることを考慮しました。特にいつも脚部をエンジンに使っていたので、「背中にエンジンを背負わせたらどうなるか?」といろいろと考えて作った感じですね。
── YF-19のデザインは、そのままファイヤーバルキリーへと採用されます。
河森 完成する前から「TVアニメで描きやすくする」ためのアレンジは意識していました。そもそも最初はVF-11ベースでしたから、ファイヤーバルキリーとはまったく異なる機体だったんです。今振り返ってみると、VF-11ベースのデザインもいいですね。バサラが初期に乗っていた練習機という設定で商品化してもらえないかな?(笑)。
── たしかにそういったバックグラウンドがあると、開発系譜を感じることができますね。でも、これもラフの時点でかなり振り切ったところから、徐々にバランスをとっていった感じがしますね。VF-11ベースのラフ稿ではギターを持っていたり、スピーカーを背負っていたりと、デザイン的にもかなり振り切っていますね。
河森 そうですね。さらに振り切ったところでは、初期は合体版も考えていましたから。でも村上克司先生にプレゼンに行ったとき「うーん、マクロスに合体はいらないなぁ」の一言で却下されてしまって(笑)。
── 主役機をVF-11ベースからYF-19ベースへ切り替えたのは、どんな理由があったのでしょうか?
河森 YF-19のデザインが完成に近づいていくなかで、「せっかくだから『マクロス7』で使おう」という意識はあったと思います。同時進行の作品があって、同じ機体をベースにしつつ、それぞれアレンジの振り幅が違うケースってなかなか実現できませんからね。
── ひとつの機体をベースとして、異なる表現方法にチャレンジした好例という印象があります。
河森 それこそ正解はひとつではありませんから。今みたいにインターネットがあたりまえの時代と違って、昔は飛行機の資料でも船の資料でも、とにかく神保町に行って、古本屋さんを巡り、何百冊の本を引っ張り出してきて、写真を探して、図面を探して調べていたんです。で、 大人になって図面は全部推測図、写真も一部は別物という事実を知るわけですよ(笑)。
そんな時代に生きていたから、公になっている機体とは別の機体があったり、仕様違いがあったりするのはあたりまえという感覚なんです。そういうことを考えているので、アニメが正史だと捉われずに、立体物、模型、設定はもっと自由でいいと思うんです。
── 本当にそれは大事だと思いますね。捉われすぎてしまう人が多いので。
河森 これは、どちらの考え方が良いか悪いかではなく、再現よりも表現が見たいというのが自分のスタンスだからです。新しい表現があれば、再現よりも「表現を見せてほしい」と思うタイプですね。現在は表現できる領域が本当に広がったので、自分的にはいい時代になったと感じます。
立体物もひとつの作品として表現方法をアレンジする
── 『マクロス7』『マクロスプラス』が30周年ということで、昨年から今年にかけて多くのアイテムがリリースされています。
河森 20代の頃なんて、「3年経ったらすべて滅びる」と思っていましたからね(笑)。まさか「30年も生き続ける」とは思ってませんでした。こうして新しい商品を見ると、当時は実現できなかったプロポーションの再現もそうですし、作り手側のアレンジもとても効果的だと感じます。
── 立体物において、監修時にはどのようなことを考慮していますか?
河森 まず、実際に劇中で描かれているファイターとバトロイドのプロポーションはかなり違っています。まぁYF-21は形状記憶素材を使っているので、そもそも変わるんですけど。基本的に両機体とも、バトロイドはマッチョに、 ファイターはスリムにという方向性で、全体のシルエットやメリハリには気を使いました。またポージングの自由度も大切なので、広範囲の可動域を実現できたのはよかったと思います。
── DX超合金では、YF-19とYF-21がついに並び立つことができました。
河森 腰高で上半身がバンとボリュームのあるYF-21と、下半身にボリュームがあるYF-19の差が非常に明確に出ていますね。意図した解釈が、こうして30年経過して立体物にフィードバックされるのは感動します。手描き時代の作品ですから、正解はそれぞれなんですよ。だから大変ではありますが、作り手のアプローチが感じられて面白いポイントになっています。
木村 YF-21に関しては、ファイター時のライン…特にコックピットからバトロイド時に頭部になるパーツにかけての流れは、かなり河森さんとやり取りをしました。
河森 基にしているYF-23は、角度が変わるとまったく違う形状に見えるんです。ステルス形状を取り入れた曲面は、人間の感覚では理解できにくいんですよ。YF-21もフォルムこそ違うのですが、それと同じことが起こったのが面白いですね。
── DX超合金独自のディテールが絶妙なアレンジだと感じますね。
木村 機体が大きいぶん、ディテールの空間が空いてしまわないように、細かく細かく、追加させていただきました。設定のシルエットが明確であるぶん、裏側や隙間など“間”の部分を埋めるという意識でした。まさに河森さんがおっしゃられた表現という意識で取り組んだところです。厳密に言えば、変形方法も設定とは異なっているんです。そこはDX超合金ならではの表現というアプローチですね。
── オリジナルのマーキングも印象的ですが、とても試作機らしいアプローチだと感じますね。
木村 そこは天神英貴さんに相談をしまして。試作機ですから「メーカー名もきっちりと入れましょう」という方向性で進めました。全体的には航空機のルールに則ったマーキングにプラスαを加えたバランスを意識しています。
── コレクターズ事業部のアイテムは、DX超合金以外にもバラエティに富んだアイテムがリリースされますね。
寺島 HI-METAL Rシリーズでは、まだファイヤーバルキリーはラインナップされていなかったので、完全新規造形で再現させていただきました。ホビーディビジョンさんのファイヤーバルキリーのプラモデルと同じタイミングで開発していたこともあり、プラモデルはアニメのプロポーションを重視されている一方、HI-METAL Rは変形アイテムとしての最適解のプロポーションを突き詰めています。ファイヤーバルキリーに関しては、一度VF HI-METALでもリリースしていますが、より洗練されたプロポーションに仕上がっているのではないかと思います。
河森 変形アイテムも進化して「本当に変形するの?」というプロポーションになってきていますね。本当にちょっとしたことの組み合わせで、自然なプロポーションに仕上がるんだと感じます。
寺島 一方、TINY SESSIONは、「マクロス」シリーズのアイテムを俯瞰したときに、どうしてもメカが中心になってしまうという側面がありました。とはいえ歌とキャラクターも「マクロス」として大きな魅力です。これをアイテムとして表現できないかと考えたときに、デフォルメキャラクターとのセットで商品化するというコンセプトにたどり着きました。
バルキリーもデフォルメされていますが、手軽に3段変形が楽しめる。さらに可愛いキャラクターが付属するということで、非常に評価をいただいております。河森さんが遊びながら監修されていたので、「これはいける!」という手ごたえを感じました。
河森 やっぱりキャラクターが一緒についてくるのはありがたいです。メカだけでないということで、作品の世界観を表現できているのは素晴らしいですね。
寺島 エントリーユーザーだけでなく、「マクロス」では「キャラクターが好きです」という方も、メカに触れるきっかけになってもらえるとうれしいですね。河森さんが作品作りや商品作りの際におっしゃられた「同じものでも全然違うものを生み出せる」ということを実現できたアイテムではないでしょうか。
特にファイヤーバルキリーは、元々顔がある機体ということでデフォルメとの親和性も非常に高く仕上がっていると思います。逆にミリタリーチックなYF-19と比較していただくのも面白いと思います。
ひとつの考えに捉われず、媒体に合わせて変化すること
── プラモデルは「マクロス」シリーズ40周年に合わせて、新たにHGシリーズが始動しました。なかでも「差替三段変形(ショートカットチェンジ)」を採用したのは、大きなポイントだったと感じます。
狩野 「マクロス」シリーズのプラモデルを考えたとき、やはり完全変形というのは大きな課題でした。ただ、同じBANDAI SPIRITSのブランドとして捉えれば、コレクターズ事業部さんの製品として、盤石な完全変形がリリースされています。そこで「プラモデルは完全変形から離れるというアプローチは可能だろうか?」ということを検討したんです。特に『マクロスF』では、変形プラモデルの評価が高かったので、変形にニーズがあることも理解していました。
ただ、私個人としては「マクロス」可変アイテムのひとつのマスターピースとして、タカトクトイスのアイテムがあり、変形モデルは「あのアイテムの正常進化であるべき」というのが個人的には刷り込まれていました。その延長線上としてプラモデルで同じことを再現するのはかなり厳しいと考えて、差し替え変形に振り切ることに決めたんです。
── タカトク版の「遊びやすさ」という観点から見れば、差し替え変形に通じるものがあります。
狩野 ただ、差し替え変形で商品化することを関係者に納得してもらうハードルは、とても高かったですね。風向きが変わったのは2022年のホビーショーで、SNS上で結構な評判になったことです。実際に発売後はYF-19がヒットしまして、急遽YF-21の開発がスタートしました。
中尾 プラモデルの設計担当の視点で言えば、狩野から「バトロイドとファイター、それぞれのかっこよさを差し替えで全振りにする」ということを聞いて、「アニメーションで動く姿にどこまで近づけることができるか」という点が一番のポイントになっています。作画ならではのケレン味やひねりの利いた動きを、プラモデルという媒体だからこそ可能なアプローチを目指しました。
── ラインナップについても、最初にYF-19というのは意外でした。
狩野 最初はVF-1とYF-19のどちらを進めるかを検討していたのですが、「将来的にライバルがいるほうが、広がりが出るかもしれない」ということでYF-19から進めました。次にYF-29になった理由としましては、「マクロス」シリーズは40年以上の歴史がある作品ということもあって、新旧の機体を交互にリリースすることで、「ファン層が広がるのではないか?」という狙いでした。
河森 プラモデルもかつては完全変形として取り組みつつ、あえてそこを捨てて差し替え変形を取り入れた判断は、素晴らしかったと思います。プラモデルである以上、「何機でも組み立てたくなる」という要素は、重要なファクターですからね。それによってDX超合金とのすみ分けもできますし。また、ここまで可動性を上げることが可能なら、自分が次に取り組む機体にも、「ここまでできるはずだ」と考える機会にもなりました。
── 昔のデザインを現代にフィードバックすることで、新しいデザインでも考慮することが変化しているんですね。
河森 「マクロス」という世界の流れのひとつではありますが、そこに時代性やキャラクター性を含めて、新しいことをやらないとシステムとして先細りになってしまうんですよね。現実はドローンだらけで大変なことになってしまっているので、有人戦闘機デザイン的には大変な時代です。
── 『マクロス7』『マクロスプラス』の両作品のアイテムについて、河森さんとしては立体物展開に対するリクエストはございますか?
河森 まず『マクロス7』はまだまだ立体化されていない機体も多いので、ぜひ実現してほしいですね。TINY SESSIONは周辺アイテムが賑やかだと、もっと面白くなると思います。それこそアクリルスタンドでも構わないので、一緒に並べられるシャロンもあると楽しいじゃないですか? あとはメカだけではなく、ちょっと「マクロス」の世界を再現できるようなアイテムが増えると嬉しいですね。
── 30周年を迎える両作品について、ファンの方にメッセージをお願いします。
河森 それこそかつては「3年経ったらすべてが滅びる」という時代から、10年経って時効を受け入れて、30周年ですからね。当時、この2作品を作っておいて本当によかったと思います。ここから「マクロス」がシリーズになって、『マクロスゼロ』『マクロスF』『マクロスΔ』と続いて、本当に歴史が作られているという感覚になりました。シリーズそのものは40周年を越えましたが、45周年、50周年と時空の彼方まで続くシリーズになってほしいですね。
── 本日はありがとうございました。
(2024年1月、都内某所にて収録)
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