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『ゴジラ-1.0』山崎貴監督スペシャルインタビュー!ゴジラデザインと対戦兵器について語る

2024.11.01

山崎貴監督スペシャルインタビュー 月刊ホビージャパン2024年2月号(12月25日発売)

山崎貴監督
スペシャルインタビュー

ゴジラマイナスワン 山崎貴監督インタビュー

 『ゴジラ-1.0』の監督・脚本・VFXを手掛けた山崎貴氏。監督デビュー作『ジュブナイル』(2000年)を機に、次々とVFX 大作を世に送り出し、『ALWAYS 続・三丁目の夕日』では夢のシーンでゴジラを登場させ、西武園ゆうえんちのアトラクション映像『ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦』を演出するなど、次期『ゴジラ』作品の監督候補として、ファンの間で常に名前が挙がる山崎氏がついにメガホンをとった。そんな待望の新作『ゴジラ-1.0』について、特に読者が気になるゴジラデザイン、対戦兵器を中心に語っていただいた。

(インタビュー&原稿/中村 哲
原稿執筆協力/山田尚弘)

山崎貴

 1964年生まれ。長野県出身。2000年『ジュブナイル』で映画デビュー。『ALWAYS三丁目の夕日』(05年)では第29回日本アカデミー賞優秀作品賞・脚本賞など計12部門で最優秀賞を受賞。13年の『永遠の0』は、2014年年間邦画興行収入NO.1のメガヒットとなった。


ゴジラの創造と対戦兵器

――まず本作のゴジラのデザインの創造についてお聞かせください。

山崎 『シン・ゴジラ』(16年)の撮影の初期段階で、監督の樋口(真嗣)さんから「ちょっと見ますか?」と言われてスタジオに入ったら、その場にゴジラの雛形が置いてあって。それを見て、ものすごいショックを受けました。ゴジラというものの本質として、原爆の雲が歩いてきたみたいなイメージがおそらく初代ゴジラにはあったと思うんですが、この雛形はそれを見事に表現されていました。
 実は、このゴジラのキャラクターデザインと造形を担当された竹谷(隆之)さんは、阿佐ヶ谷美術専門学校の一個上の先輩なんです。当時自分は、SF系のイラストレーターになろうと思っていた時期があったんですが、そしたら「先輩にすごいのがいるよ」って。それが寺田(克也)さんで、「やっぱり造形にしよう」と思ったら竹谷さんもいて。とんでもなくすごいふたりがいたので、どっちの道も閉ざされてしまいました……(笑)。

――竹谷さんや寺田さんらが、学校の先輩としていらっしゃったんですね。

山崎 町場の専門学校でしたが、竹谷さんらは「奇跡の2年」と言われていました(笑)。それゆえに、たまたま学校の中で映像を目指す人がいなかったので、「やっぱり初志貫徹で映像で行こう」と考え直しました。
 それで『シン・ゴジラ』のお話に戻りますが、その造形がすごく正しい答えを出しているような気がしましたので、そちらではない別の方向を目指さなきゃいけないなと。自分の仕事の中で「This is ゴジラ」というか、普通の人が思っているゴジラのイメージの究極の形態を作るのがいいだろうと思ったのが、「西武園ゆうえんち」の『ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦』(21年)でのゴジラですね。このゴジラの仕上がりには僕もスタッフ達も非常に満足しましたし、アトラクションを体験してくださった方々も「これはこれですごくかっこいいゴジラだ!」と言ってくださって。

――ゴジラのデザイン画は、監督自ら多彩なものを描かれていますね。

山崎 いろいろなゴジラのスケッチを描いたり、デジタルの中ですが立体造形もやって検討をしたんですが、作っても作っても自分が求めているイメージにはなかなかならなくて。自分自身、『ゴジラ・ザ・ライド』の時ほど燃えなかったんですよ。それで、初めてゴジラが日本に出現するというシチュエーションの映画を作る以上は、やっぱり「This is ゴジラ」で勝負するしかないんじゃないかと思い直しまして。『ゴジラ・ザ・ライド』の時に作ったゴジラが「もうすでに自分らはその作業をやっているじゃないか」ということで、そちらのデザインに戻していったという感じですね。

ゴジラ(2023)

――デザインの完成までは、どれくらいの時間をかけられたんでしょうか?

山崎 どれくらいだったかな? ゴジラのデザインに当たっては、3D造形担当の田口(工亮)君っていう、とんでもなく天才的な名手がいまして、竹谷さんにぶつけるんだったら彼しかいないという我々の秘密兵器とも言える人材でした。僕自身も3Dでゴジラを作って、それを田口君に渡して「これをもっとかっこよくリファインしてほしい」とお願いして。今回のデザインには『ゴジラ・ザ・ライド』のデータも使っていますが、いろいろと試行錯誤をしつつ、けっこう横道に逸れた時もありましたので、デザインの完了までに実際どれくらいの時間がかかったのか、ちょっと正確には言えないですね。

――冒頭の大戸島の飛行場に登場する幼体は、巨大化したゴジラの創造後に作られたのですか?

山崎 そうです。最初に巨大化後の形態を作って、これが巨大化する前の姿はどういうものだろうということで。ですがあれも幼体というよりかは、あれはあれで成体なんですよ。普段は大戸島近海の深海に住んでいて、大戸島にちょいちょい現れては暴れる、漢字で「呉爾羅」と書く生物で。ここからのリバースエンジニアリング的に、もうちょっと小さかったら、ゴジラ自身の特有のディテールってどうなんだろうと。これはまあ核実験の影響で暴走してできたものとするならば、もうちょっと生物学的な鱗だったらどうだろうかという風に、逆に考えて作り上げたのが冒頭の「呉爾羅」ですね。

――大戸島の幼体は、まだ放射能の影響を受けていないんですよね。

山崎 ええ。米軍によるビキニ環礁でのクロスロード作戦以降は、ゴジラは放射能の影響を受けていますけれど、それ以前は放射能の影響を受けていない、放射能とは無縁の、再生能力がものすごく強いだけの一般的な生物というか、モンスターです。それがクロスロード作戦によって、核で皮膚を焼かれてぐしゃぐしゃになっちゃったのに、それを再生していたら暴走してでかくなってしまったというのが裏設定にあります(苦笑)。

――劇中で敷島は、「あの時に殺してればこんなことにならなかった」みたいなセリフを吐露しますが……。

山崎 大戸島に上陸した「呉爾羅」は、そもそも再生能力を備えていましたので、零戦の20mm機関砲で射撃しても、その場ですべてが解決したとは思えないですね。

――本作では海中のゴジラの出現前に、その前兆現象として海面上に胃袋を膨らませた深海魚が浮かんできますね。

山崎 これは実際にある現象らしいんですけど。深海でもの凄く巨大なものが来た時にびっくりして逃げた深海魚が、あまりの水圧の急減に耐えきれずに胃袋が出てしまうということがあるらしいんですよ。ゴジラ出現の前段階として、これらの深海魚に登場してもらいました。

――東宝サイドからの、今回のゴジラのデザインに関しては何か要望は?

山崎 それはびっくりするほど何もなかったですね。最終的に『ゴジラ・ザ・ライド』の方向に行こうとなった時に、東宝の方達もこのゴジラを気に入ってくれていましたので。「あっ、そうですよね」とか「やっとそこに辿り着いてくれましたか」という感じでしたね(笑)。

――本作のゴジラの特徴として、放射熱線を吐く前には次々と背びれが可動しますが、こちらのアイデアは当初からあったんですか?

山崎 それについてはデザインを創造する前から、インプロージョン式の原子爆弾のイメージがありました。核のイメージにしたかったので、「ガシャッ、グシャ、バーン!」っていう、熱線の吐き方が欲しかったんですよ。擬音で喋っていますけど(笑)。「ガシャン」となるためには、背びれが一回伸びたほうがいいだろうなと思って、それが一斉に伸びるのか、だんだんと伸びていくのかでいうと、やっぱりだんだん伸びていったほうが儀式として面白いですね。

ゴジラマイナスワン

――これにはカウントダウン的な怖さがありますね。

山崎 そうですね。それを途中で思い付いて、プロデューサーと話したら「それかっこいいですね」と言われて。「これまでやったことがないし、面白いんじゃないか」ということになって、映像にしてみたら「これは実に良かったな」と。

――放射熱線のシーンは、「過去一番のかっこよさ」だとおっしゃるゴジラファンの方も多いですよ。

山崎 割とこれまでのゴジラというと、カジュアルに熱線を放射するじゃないですか。これについては、ちょっと壮大なものにし過ぎちゃったのかなとの思いもありまして、やっぱりゴジラには、核兵器のイメージを背負わせたかったんです。ちょっと核兵器のイメージからゴジラは遠ざかっていて、そもそも核の脅威が怪獣の姿をして現れたというのが根本にありますから、そこの部分は大事にしたくて。背びれの動きについては、炉心設備の制御棒が次々に外れていくみたいなイメージもあって、何かそういう核にまつわるアクションを付けたかったとの思いもありましたね。

――けっこう一撃必殺型で、一回撃つとしばらく時間かかるというのは『宇宙戦艦ヤマト』の波動砲的な感じですね。

山崎 それはね、僕の口からは言えないですね、波動砲って何でしたっけ?(笑)。放射熱線の発射後は、ゴジラ自体にも頭部にけっこうダメージがあって、一度撃ってしまうとしばらく動けなくなりますからね。もしも他の怪獣と戦う時は連射できるように改良しておかないといけませんね(笑)。

――引き続き、劇中に登場するメカニックについてお聞きします。まずドラマの中盤でゴジラと戦う重巡洋艦の「高雄」について。本作のパンフレットでは、「大和」、「零戦」、「赤城」に次いで思い入れがあるとおっしゃられていますね。

山崎 当初は妙高型に類別されていた、高雄型重巡の特徴である島型のバカでかい艦橋を初めて見た時に「なんてすごい船なんだ」と思いました。これは現代のイージス艦とかにも繋がるデザインじゃないですか。「高雄」はレイテ沖海戦の緒戦のパラワン島沖で被雷して、そのままシンガポールに回航されて最後にはイギリス海軍の手でマラッカ海峡にて自沈させられたという。太平洋戦争を生き残りはしましたが、晴れやかな活躍の舞台もそんなになくて、それがとても切なく、この艦が背負っている物語も含めてけっこう好きな軍艦なんです。それで劇中に「高雄」を登場させるならどの時代だといったら、やっぱり昭和21年に自沈させられているので、同年だとちょっと性急過ぎて矛盾があるので、昭和22年だったら皆が許してくれるかなと。ゴジラによる被害が出始めて、連合軍もそれに対して日本に返還するための軍艦として「高雄」を保全したのかなというような設定で。とにかく「高雄」を出したかったので、劇中の時代設定を、割と「高雄」合わせであの時代にしたっていうのはありますね。

重巡洋艦高雄

――「高雄」の存在は、それだけ監督の中で大きかったんですね。

山崎 ええ、僕の中ですごく大きかったんですよ。これまでに自分が映像化したかった、「大和」、「零戦」、「赤城」を次々と手掛けて、旧型ですけど戦艦「長門」も作ったし。次は「高雄」だなと思っていました。

――もう少し劇中での、ゴジラと「高雄」の水上戦闘が見たかったという声もありますが……。

山崎 いやいや、逆にあれが良いんですよ。「高雄」のゼロ距離射撃を受けてダメージを受けたゴジラですが、海面が青く輝いて、「ウワーッ!」となった瞬間に「ドンッ!」って放射熱線の一撃で「高雄」を沈めるという。この前久々に本作を観たんですが、ゴジラは「高雄」を瞬殺しないとだめなんですよ。ものすごく強そうな相手が来た時に、それを瞬殺することで、今回のゴジラは半端なく強いよということをストレートに表現しているんです。あんまりこの「高雄」戦を引っ張っちゃうと、そのデータが大変っていうこともありましたから。

――ゴジラの圧倒的な強さが描かれましたね。

山崎 「高雄」を撃破した後に「どうすか?」って感じで、ゴジラが海上に出てくるんですよ。「見ましたか?今の」って(笑)。このゼロ距離に耐えるゴジラの姿は、実はうちの猫に似ているんですよ。何か高い所にパッと登った時に「どうですか?」みたいな顔をしている時があるんですけど。今回のゴジラ猫説が世の中にはけっこうあるようでして、いろんな人が「うちの猫にそっくりなんだけど」というんですけど。違います、うちの猫です(笑)。

――劇中の「高雄」は迷彩塗装が施されていました。

山崎 そうですね。シンガポールへの回航後に、「高雄」は迷彩塗装を施されていますから。とはいえ、あまり色の変化がない迷彩でして、特にああいう曇りの下ではそんなに迷彩が目立たないですけどね。そういえば今回の作品を作ってみて、重巡「高雄」を知らない人が多いことに気付きまして、けっこうびっくりしています。「えっ、重巡洋艦の高雄だよ!?」っていう(笑)。
 それから、いろんなところで「高雄」のプラモデルが売り切れているとのことですね。公開初日に劇場売店のゴジラコーナーでは、早速「高雄」や「震電」のプラモデルを売っていたそうですが、せめて一回目の上映が終わるまでは布か何かをかけておいて、未見の方にはネタバレしないようにしてほしかったですね。

――同じ水上艦艇で、クライマックスの「海神作戦」に登場する、駆逐艦の「雪風」や「夕風」、「響」らですね。これらの艦艇は、きちんと主砲の砲身部が武装解除されていましたね。

山崎 本来でしたら「雪風」らの駆逐艦は、砲塔自体も甲板上から抜かれていて大きな穴が空いているんですよ。でも、それではちょっと悲しすぎる形でしたので、主砲を切断し搭載機銃を下ろしたという形で武装解除を表現したんですけど。これは歴史考察としてはちょっと忸怩たるものがありますが、兵器好きとしてはあれで良しなんですよね。主砲が切られているという姿の悲しさ。本来はああじゃないんです。本当に悲しい船になっているんですよ。甲板に何もなくて。ブリッジと煙突とかが立っているだけで、あと何もないという。

ゴジラマイナスワン-駆逐艦

――とはいえ「雪風」は、日本海軍一の幸運艦ですからね。

山崎 「雪風」は「高雄」の次に登場させたかった軍艦でして、しかも戦艦「大和」の最後の出撃にも随伴する活躍振りで、ゴジラと戦うんだったら「雪風」が旗艦となって戦うべきだなと。「雪風」を知っている人は、出てきた瞬間に「ゴジラに絶対に負けない」って思いますよね(笑)。決して負けはしない、最悪でも引き分けというね。それからこの「雪風」だけは、艦橋の内外や甲板のセットをはじめとして、アンテナやマストの一部も作ってもらいました。それを見に行った時には、「俺、「雪風」の艦橋に乗れるんだ……!」って。すごく興奮しましたね。僕はセットではあまり写真を撮らないんですけど、この「雪風」についてはメチャクチャ写真を撮りました(笑)。

――「雪風」の艦長・堀田辰雄役の役者さんも、四代目の艦長であった寺内正道さんそっくりの方で。演じられた田中(美央)さんの起用については、やっぱり意識されましたか?

山崎 そうですね、キャスティングの時にどうしようかなって。もちろん彼はすごく演技が上手だし、自分の他の作品にも出演してもらっていますから。それに彼は声優もやられていて、たいへん声も良くて。「海神作戦」を説明するシーンでは、包容力がありながらも、皆が揃って前に進むっていう演説をしなきゃいけなかったので。でもご本人は喜んでおられましたね。ゴジラ映画に出演できる、自分の役者人生の中にゴジラが関わってくることがあるとは到底思っていなかったとのことでね。自分のところにゴジラの仕事は来ないだろうなと思っていた人達が、「今回呼んでもらえて嬉しい」というのはけっこういろんな方々から聞きましたね。やっぱり皆さん、一回くらいはゴジラ映画に出たいなと思っているみたいですね。

――本作の出演者のメンバーの中で、以前ゴジラ映画に出られた方は?

山崎 『シン・ゴジラ』では巨災対所属の防衛課長の袖原泰司役を担当され、本作では、駆逐艦の乗組員である元軍人の谷口役を演じられた谷口(翔太)さんが唯一ですね。基本的に『シン・ゴジラ』と出演者が被らないようにしようと思っていまして、イメージが繋がっちゃうといけないので。でも、谷口さんがその隙間をすり抜けられて……(笑)。

――ゴジラに対する陸上兵器は、国会議事堂前に布陣した四式中戦車ですね。

山崎 この戦車は庶民は守らないけれど、国会だけは守るということで(笑)。とはいえ、ゴジラの熱線を受けて消滅してしまいますが……。この戦車のCGは、『シン・ゴジラ』の時にも戦車のCGを担当し、戦車を作るためだけに白組に入社したという、ちょっと名の知れているタンク君(杉山和隆)という方がいまして。とにかく戦車に対してメチャクチャ思い入れのある人で、白組にはタンク君という宝がいるので、彼を使わない手はなく。「タンク君、四式中戦車が登場するこのワンカットを君にあげるから好きにして」と伝えてこのカットを任せました。

四式中戦車[チト]

――当初は戦車を登場させる予定はなかったんですか?

山崎 いやいや、「どこでタンク君に活躍してもらおうか」と考えながら脚本を書いていました。ただ、軍備が整っている世界ではないので、あまり戦車戦みたいなことはやれないなとも思っていまして。第一作の『ゴジラ』(54年)では、ゴジラの上陸時にM-24戦車や榴弾砲、重機関銃が登場するので、あの感じもありかなと思いながらも、でもタンク君がいますから。人的資源は有効に活かしつつ、四式中戦車のシーンはワンカットでしたので、かなりエクスペンシブなものになりましたね。

――登場メカの最後は、大活躍する局地戦闘機の「震電」ですね。

山崎 「震電」は僕自身もものすごく好きな戦闘機だったし、やっぱり有名というか、この機に反応している人は多いですね。実は劇中に「震電」を登場させられれば、この機体の製作に関わられた関係者の方々に取材ができてお話が聞けるなと思ったんですよ。

十八試局地戦闘機震電

――どんな方に会われたのですか?

山崎 「震電」の主任設計者であった鶴野正敬大尉の息子さんに会いに行きまして、いろいろお父さんのお話を聞きました。その当時26歳であった鶴野さんは、テストパイロットとして「震電」に搭乗されたそうで、滑走試験時に機首を上げ過ぎてプロペラを地面に接触させて先端を曲げてしまったそうです。それで垂直尾翼に車輪を付けたり、エンジンの大きさゆえに機体が傾き過ぎちゃうので当て舵をしないと安定して飛行ができなかったとか、実戦に投入するにはまだまだいろんな問題点があったようですね。「震電」の実写化も一回やってみたいなとずっと思っていたんですが、当初は「「震電」の実物大は作れません、実物は無理です」とのことで、コクピットだけを作って周囲を全部CGで処理するというプランがありました。ですが、製作部が日本中を駆け回ってくれまして、「撮影後の「震電」を引き取ってくれるところがあれば、その代金を足して実物大を作れるかもしれません」ということで。結局、福岡県にある「大刀洗平和記念館」さんのご協力のおかげで「震電」の実物大を製作することができました。映画が公開されるけっこう以前から、この記念館に「零戦三ニ型」と並べて「震電」が展示されていましたが、本作の公開を受けて、ようやく何のためにこの機体が作られたのかが入場者の方々にお話しできるようになりましたね。

――「震電」の実物大プロップとの初対面時のご感想を。

山崎 本当に「こんなに馬鹿でかかったのか!」と感動しました。自分が聞いていたところでは、先尾翼機は一番重たいところにエンジンを置けて、機銃のスペースとエンジンのスペースを別々に分けられるのは、機体を小さくするために非常に有利だということで、けっこう小さい機体なんだろうなと思っていたんです。

――太平洋戦争の実戦に間に合わなかった、陸海軍の試作兵器を劇中に登場させた点についてはどういった思いが?

山崎 戦争に生き残った者たちと戦争に間に合わなかった者たちの両者が、割と今回の兵器選びのテーマでして、なにか物語をひとつ背負っている者たちがもう一回戦うというお話にしたかったんです。「震電」や「四式中戦車」は、表向きにはおそらく焼却等の処分をされているんでしょうが、米軍の本土決戦を意識して用意されていたものとのイメージです。

――山崎監督にとってゴジラとは?

山崎 『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(07年)や『ゴジラ・ザ・ライド』で、これまでに二度、ゴジラの姿を描いてきましたが、その時々に「ゴジラって何だろう」との問いかけを自身にしていました。ゴジラは、神と生物の両方を兼ね備えた存在であるだろうとのイメージが自分の中にありまして、本作の製作を通じて、荒神を鎮めるための「神楽」を舞うという、ゴジラ映画とはそういうものなんだと思えるようになりました。

――これまでのゴジラ映画へのオマージュが全編にわたって描かれていますね。

山崎 冒頭の大戸島の設定をはじめとして、有楽町駅から出発した省線(電車)をゴジラが襲うのは定番の描写として、そのふたりの運転手は、『ゴジラ』で品川駅に向けて電気機関車を運転していた当時の人に似ている人達を探してきまして。そこで気付いたのが、『ゴジラ』はスタンダードフレームじゃないですか。この作品はシネスコなので、フレームにはまらないという。どうしようかとけっこう困りましたが、まあなんとなくそういう並びに処理しました。

――そういう点にもこだわりがあるんですね。

山崎 こだわりというか、嗜みですよ、それはね。ゴジラ映画を作る嗜みとしてね。やはり作るからには、そうやるべきことだなと思いますね。

(以下、本作のラストに関してのネタバレがございます。本作未見である読者の方々は鑑賞後に読まれることをお勧めします)

ゴジラマイナスワン 山崎貴監督インタビュー2

――監督が大好きと公言されるゴジラ映画の一本である、『ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃』(以下、『GMK』)(01年)へのオマージュもありますね。

山崎 熱線を吐きながらゴジラのその身が崩れていくシーンや、ゴジラのラストカットは『GMK』を想起させますが、実は忘れていたんですよ、『GMK』のオチを(笑)。

――去る10月13日に開催された、本作の公開記念の『山崎貴セレクション ゴジラ上映会』での『GMK』の上映では、金子(修介)監督とお会いされていますね。その際に金子監督から何か言われませんでしたか?

山崎 大丈夫です。このトークショーをやった時は、金子監督はこの作品をまだ観られていなかったので。観ていたらなんか散々言われそうな気がしますね(笑)。「山崎君さぁ……あれはないんじゃない?」って。

――それから本作では、前作の『シン・ゴジラ』とは真逆の世界観の作品を作られましたね。

山崎 ええ、そうです。『シン・ゴジラ』は現代を舞台として大変よくできていますので、そっちはもう開拓され尽くしたなというか、同じものを目指してもしょうがないなと。やっぱり、一番自分の得意なエリアで対抗すべきだなと思いまして、何よりそれが『シン・ゴジラ』に対する礼儀ですから。ですので、「官」に対して「民」とか、「陸」に対して「海」とか。そういう対比をしました。

――本作のテーマの根底には、「政府があてにならず、自分たちの力で人生を切り拓いていく」という、何か現代と通じるところもありますね。

山崎 こちらもまったくそうですね(笑)。製作の最中にコロナ禍によって一度中断することもあって、その間にシナリオを修正するじゃないですか。そうすると「あぁ、政府は何も国民のためにやってくれないな」みたいな時期があると、すごくそれが作品に反映しちゃったりしましたね。けっこう現代と相似形になっているというか、VFXの作業の最中に世界で戦争が起きてしまったりとか。だんだんそういうきな臭さみたいなものが世界に蔓延していくという姿も含めて、なんだかちょっと不思議な感じでしたね。

――敷島と典子によるラストシーンは意味深ですね。

山崎 これは生きることを選択してゴジラと戦った敷島を、何とかして典子と再会させてあげたかったんです。ゴジラ襲撃時の銀座のシーンでは、「まあ典子は死んでいるよな、あの状況では」というものがあったので、どうしようかなと思いつつ、包帯を巻かれたベット上の典子の首筋に怪しいものが見えるという。単なるハッピーエンドでもないし、単なるバッドエンドでもないよということで、観客の皆さんによっていろんな受け取り方をしていただければ。ゴジラが復活しそうな不気味な雰囲気も含めて、これは戦争とか核兵器のメタファーですので、決して断ち切ることができないんですね。終われないものというのがゴジラじゃないかなと思っています。

――気の早いお話ですが、ゴジラ映画の次作の構想は?

山崎 いやいや、そんなお話は全然ありませんよ。でも、次作に誰かが決まったら、ちょっと悲しいかもしれないですね。「次のゴジラの監督はこの人です」と言われたら「えぇーっ!」と思うし、「やってください」と言われても「えぇーっ!」って(笑)。どうせ次作を監督するのでしたら、この作品の続編をやってみたいとは思いますが、やっぱり単体のゴジラ映画が2本続いていますから、おそらく次作は敵怪獣を出さなければいけないでしょうね。

――最後に、本誌の読者の方々にメッセージをお願いします。

山崎 そうですね、この作品は観るたびに新しい発見があると思いますので、ぜひまた重巡「高雄」の迷彩を確認しに(笑)。だいたい自分と同じくらいの世代を中心とした、プラモデルを作られているホビージャパンの読者の皆さんは、本作を一番見てほしいターゲットかつ、僕の中での仮想の観客さんですから。それらの仮想のお客さんをイメージしながら映画を作ったほうが、絶対に良いものになるんですよ。ですからまだ見てない人いたら「まだ観てないの!?」って責め立てていただいて(笑)。「君たちのために作っているんですから絶対に観てくださいよ」ってね。

(令和5年11月22日、東宝本社にて)


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