「水性塗料」を切り開く、GSIクレオス塗料開発者の片山雄一氏と荒木太歩氏にインタビュー!
2023.10.12これからの水性塗料を切り開くキーパーソンに直撃 GSIクレオス 片山雄一・荒木太歩インタビュー 月刊ホビージャパン2023年11月号(9月25日発売)
これからの水性塗料を切り開くキーパーソンに直撃
GSIクレオス 片山雄一・荒木太歩インタビュー
2017年に起きたシタデルカラーのブーム、そしてコロナ禍による巣篭もり需要。そういった背景により模型シーンでも一躍注目されたのが「水性塗料」でした。低臭で、環境にも優しいので換気をしながらリビングでも快適に塗装できるというアドバンテージは、多くのモデラーから好まれ、ラッカー塗料1強だった塗料シーンを変えたといえます。国内塗料メーカーの最大手であるGSIクレオスも、2019年の水性ホビーカラー完全リニューアル後から、精力的に水性塗料を開発しています。今回はそんなGSIクレオスからふたりのキーパーソンをお呼びして、水性塗料のこと、そして今後の塗料についてお聞きしました。
完全リニューアルから現在
—水性ホビーカラーが2019年に完全リニューアルされましたが、そもそもこれまでと決定的に違う点は何なのでしょうか?
片山(以下片):材料から何から何まですべて違うといっても過言ではありません。というのも、旧水性ホビーカラーは1982年に誕生したもので、塗料のレシピ・材料もとても古いものでした。そのため材料自体も手に入りにくくなっていたのです。そこで新たな水性ホビーカラーを作ろうという流れになりました。
—水性ホビーカラーのリニューアルの前に「水性プレミアムトップコート」というものが発売されたと思います。
片:はい。あのトップコートがかなり革命的で、水性なのにしっとりとしたツヤ、美しい光沢、そして塗膜をしっかりと保護できる強度というのを実現することができました。この成功があったことで、水性ホビーカラーのリニューアルに大きく舵を切ることができました。水性プレミアムトップコートの成分をそのまま塗料に活かせれば、絶対に良い塗料ができると確信していましたので。
—リニューアル後のお客さまの声はいかがでしょうか?
荒木(以下荒):実は未だに「水性だから乾かないんでしょ?」「ブニブニするの?」と旧来シリーズのイメージのコメントも多数寄せられます。それだけラッカーのMr.カラーが定着しているということでもあるのですが。実際に使われた方からは好評で、特にラッカー塗料を使っていた人からは「塗り心地がほとんどMr.カラーと変わらないね!」という声を多く頂きました。実はそこも狙っていたところで、塗り心地はMr.カラーに近づけたいと思って調整しています。ラッカーから水性に移行したい、併用したいという方がスムーズに使える塗料を目指しました。低臭で塗りやすいという認知も広まってきて、最近ではついに「ガンダムベース」でも主力塗料として扱っていただけるようになりました(それまではMr.カラー、ガンダムマーカーのみの取り扱いだったそうです)。水性ガンダムカラーだけでなく、通常カラーも陳列されています。
「水性ガンダムカラー 水星の魔女カラー」の大ヒット
—「水性ガンダムカラー 水星の魔女カラー」は水性ホビーカラーだけでの展開となっています。その狙いを教えてください。
荒:新シリーズのガンダムということで新規ユーザーが必ず入ってきます。そこでより安全で塗りやすくなった水性ホビーカラーを押し出すチャンスだと思いました。またガンプラの説明書にも「水性塗料」が必ず推奨されています。それを見たお客さまがスムーズに購入できるようにするには、「水性ホビーカラーでラインナップする」のが良いと思ったのです。おかげさまで過去に類を見ない大ヒットを記録し、これまでのガンダムカラーの販売記録を大きく上回ることができました。「水星の魔女カラー」によって、多くの人に現在の水性ホビーカラーの性能を認知していただくことができたと思います。まだ使ったことがないという読者の方は、ぜひこの機会に使ってみてください。
アクリジョンの可能性
—それでは次に「アクリジョン」についてお聞かせください。少々クセのある塗料だと思っているのですが、どういった塗料なのでしょうか?
片:エマルジョン系といって、完全に水に溶ける塗料です。水彩絵の具に近い感覚です。無臭でとっても環境にも配慮した塗料なのですが、確かに塗り心地のクセが強い塗料となっています。それは開発時に「エアブラシ塗装もできて筆塗りもできる」という欲張りな選択をしてしまったがために起きたものでした。他社のエマルジョン系のように筆塗りを基本軸に置いているものとは異なっているのです。
そこで当社でも「アクリジョン エアブラシ用うすめ液 改」や「アクリジョン リターダー」、「アクリジョン ベースカラー」などを開発してカバーしています。これらを使っていただければ、より快適に塗装が可能です。アクリジョンの匂いの無さは、プラモだけでなくスイーツデコなどのクラフト系を楽しむ人にも支持されているので、そういった分野にも目を向けています。
エアブラシ用うすめ液 改
アクリジョン リターダー
アクリジョン ベースカラー
—「エアブラシ用うすめ液改」のとってもシビアな「塗料1:うすめ液0.3」という比率ですが、あれだけシビアな理由とは何なのでしょうか?
片:アクリジョンは塗料自体にすでに「水分」が多く含まれています。そのため、うすめ液を入れすぎるとシャバシャバになってしまって塗装がうまくコントロールできなくなります。ですので、少量のうすめ液で充分なのです。この比率は絶対に守ってほしいポイントのひとつです。
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これからの塗料作り
—近い将来、水性塗料とラッカーのシェア逆転はあるのでしょうか?
片:10年ぐらいはこのままだと思います。しかし世界規模で見るとラッカー塗料の有機溶剤に関しての規制がどんどん厳しくなっています。当社でもその流れに対応できるように、Mr.カラーGGX(ダブルジー・エックス)のような溶剤規制に対応できるラッカー塗料を開発中です。ラッカー塗料の塗り心地や速乾性は、今でも多くのモデラーに支持されています。その期待にも応え、さらに水性ホビーカラーやアクリジョンといった水性塗料の性能向上も目指す。どのような時代の流れが来ても対応できるように、まさに今とても大事な準備をしているという段階です。そういった流れがあるので、逆に面白い商品、今までにない塗料が生まれてくると思います。世界的な溶剤規制をネガティブに捉えるだけでなく、ポジティブな方向に考えてどんどん良い塗料を開発していこうと思います。
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