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小森陽一の「夢想の産物」~竹谷隆之酔い語り~【コモリプロジェクト】

2023.06.11

コモリプロジェクト●小森陽一、土井眞一 月刊ホビージャパン2023年7月号(5月25日発売)

コモリプロジェクト23年7月号 G絵 漁師の角度

コモリプロジェクトHP
Youichi Komori Official Web(y-komori.net

 それはほとんどの場合、夜の九時を回ったくらいから始まる。曜日はバラバラだ。普通の日もあれば週末もある。机の上にはメモと走り書きしたキャンパスのノートとお気に入りのぺんてるのサインペン。スマホは娘から誕生日プレゼントで貰った折り畳み式のスタンドに置き、充電機の先は延長コードに繋がれている。おっと、忘れてはいけないのは飲み物だ。日によって違うが、氷のたっぷり入ったハイボールが必ず傍らにはある。これで準備万端。
「もしもし」
 そう呼びかけると、相手は決まってもそもそした声でこう答える。
「どうも」
竹谷さんとの会話はこんな風にして始まる―――。

コモリプロジェクト23年7月号 竹谷隆之 小森陽一

 竹谷隆之氏。ホビージャパンの愛読者なら今さら説明することもないだろう。造形家、デザイナー、著述家、いくつもの顔を持ち、世界的に愛されている存在である。もちろん僕も早くから存在は知っていたし、連載されていた「漁師の角度」を時折眺めてもいた。初めてきちんとご挨拶をしたのは原宿のビームスで開催された横山宏先生のトリビュート展だった。七年前だ。僕は土井さんとデカいマシーネンを制作し、竹谷さんはいろんなパーツをくっ付け廻したサビサビの巨大艦船を持ち込んでいた。
(あ、漁師の角度だ……)
そう思ったことを覚えている。
 それから少し日が経った頃、竹谷さんの工房に遊びに行くことになった。コモリプロジェクトを展開するにあたって、どうしても竹谷さんの力を借りたい。そんな想いを打ち明けると、の伊原源造さんと山脇隆さんのふたりが道筋を作ってくれた。写真で何度も見たあの薄暗い工房で、高円寺の炭火焼の店で、再び工房に戻ってからも四人でいろんな話をした。僕は仕事柄、いろんな現場に行き、いろんな職種の人に会う。もちろんメインは物語の中身に関するヒントを得ることだが、知らず知らずのうちにその人の話し振り、言葉使い、声の強弱、不意に電話が鳴ったり誰かが訪ねてきた時の素振りなどを観察している。それが後々、キャラクターを創る上でスパイスになってくる。この時、竹谷さんを眺めていて強く印象に残ったこと。話を始めるタイミングが誰かとぶつかると、必ず「どうぞ」と先を譲る姿勢だった。無理に我を通そうとせず、誰の話も良く聞き、淡々と――いや飄々と振舞う姿に僕の気持ちも段々と和んでいくのを感じた。

コモリプロジェクト23年7月号 竹谷隆之 小森陽一 話し
コモリプロジェクト23年7月号 画材

 今だから話せるが、この頃、僕は『宇宙戦艦ヤマト』の新作に取りかかっていた。ヤマトが宇宙に行く前の物語、いわばエピソード0的なもので、大和をいかにしてヤマトたらしめたかという展開だった。竹谷さんがヤマト好きというのも相まって、時々構想を話すようになった。これが冒頭の会話の始まりだ。残念ながらヤマトの企画は流れてしまったが、お互いの関係性は一気に深まったように思う。『インナーアース』に登場するアンダーグラウンドスーツの造形や自由断面切削機型車両〈道行〉のデザイン、「ジャイガンティス」ではジャイガンティスはもちろんIASのイメージ画、コモリプロジェクトの第3弾に決定しているジャミラのデザイン画を先頃のワンフェス会場でご覧になった方もいるだろう。近頃はスコットランドのウイスキーメーカー、グレンファークラスのラベルを手がけた。片方は僕が大学時代に書いた奇妙な道化の絵、もうひとつは竹谷版ジャイガンティスの胸像画だ。お互いのサインが刻まれたウイスキーが生まれるのは楽しみで仕方がない。

コモリプロジェクト23年7月号 ジャイガンティスIASイメージ画
コモリプロジェクト23年7月号 ウイスキーラベル 竹谷隆之 小森陽一

 さて、いつ頃からだったか定かではないが、次第に「漁師の角度」の話題が深くなり始めた。お互いの両親や育った環境、これから先、もうそんなに長くない創作人生を如何に過ごすかというテーマからすれば必然だった。育った場所は北と南でまったく違うが、すぐ側に自然があり、子供の頃からさまざまな生き物に触れ、地球の環境に憂いを抱いて生きている。おそらく娘がひとりいて、これからどうやって生きていくのだろうという想いを馳せる部分も似ているように思う。いつしか僕は「漁師の角度」の企画書を作り、舞台やアニメなどの展開が出来ないかと道を探り始めた。それをやるにおいて、竹谷さんの頭の中を覗く必要がある。これまでに描いたメモや絵をすべて送っていただいた。それは役所の便箋や学校の案内、新聞のチラシの裏に描いた走り書きまで含まれる。竹谷創作の神髄、その一端を見るような気がしてワクワクするのと同時に、手当たり次第に書き殴るオトナ子供のような振舞いにはさすがに呆れてしまう(笑)。
やがてそのレールの上に小説が現れ始めた。造形がメインではない、物語としての「漁師の角度」だ。去年の夏、計画していた積丹半島のシナハンはいったん流れたが、今年はどうやらお互いのスケジュールが噛み合いそうである。地に足をつけて、「見て」「聞いて」「嗅いで」「食べて」、五感を研ぎ澄ませてあの特異な世界を身体の中に取り込みたいと思っている。

コモリプロジェクト23年7月号 漁師の角度後ろ

 スマホの向こうで足音、何かを開ける音、氷がグラスの中を駆け回るカランという音がする。竹谷さんはこの頃すっかりウイスキー好きになった。それも独特の香りを放つラフロイグ専門だ。
 「小森さんの『インナーアース』がきっかけですよ」
 なんて言う。
確かに小説の中で登場人物達がラフロイグのウイスキーを飲むシーンを書いたが、僕自身はそこまでピート(泥炭)に惹かれてはいない。
「癖、強いでしょ」
「まぁね、臭いっちゃ臭い」
「でも好き?」
「ですね~ 値段もまぁまぁするんですけどね~ これが美味くって」
お代わりして何杯目だろうか。すでに話し始めてから三時間近く経っている。竹谷さんの呂律も少し怪しくなっている。
「なら、今回はこの辺りで」
大体締めの言葉は僕が言う。
「お疲れ様です。どうも」

コモリプロジェクト23年7月号 竹谷隆之 小森陽一 歩き

 翌朝、パソコンを立ち上げてみると、竹谷さんからメールが届いている。送信された時刻を見ると真夜中だ。
(あのあとさらにパソコンに向かったんだ……)
そんなことを思いつつ、添付されたものを開いてみる。
「―――お!」
 本人は「落書き」だとか「まだモウソウ中」などと書いているが、それは落書きと称するにはあまりにも凄まじい作品である。こういう事がしょっちゅうある。

 竹谷隆之という人は夢想の人である。日々、緩んだ蛇口から水が流れ落ちるように数多の産物が生まれている。

文字

文/小森陽一
撮影・構成/土井眞一

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