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キング伊福部まつり/伊福部昭総進撃 富山省吾(映画プロデューサー)・大河原孝夫(映画監督)・岩瀬政雄(音楽プロデューサー) 特別対談【後編】

2025.05.23

今や『ゴジラ』の音楽で、その名を知らぬ人はいない作曲家・伊福部昭。2024年には生誕110年を迎え、キングレコードでは昨年から今年にかけて「キング伊福部まつり」と銘打って様々な企画を展開中。そして、その集大成として、来る5月26日(月)には「伊福部昭総進撃 ~キング伊福部まつりの夕べ」と題したコンサートが大々的に開催される。ゴジラファンにとっても記念すべき一夜になることは間違いないだろう。

今回、コンサートの開催を記念して、元東宝の富山省吾(映画プロデューサー)、大河原孝夫(映画監督)、岩瀬政雄(音楽プロデューサー)と平成ゴジラシリーズを手掛けた3名のレジェンドが集結。故川北紘一(特撮監督)がプロデュースした「ゴジラヘッド」でも知られる「ホテルグレイスリー新宿」を取材場所に、後編では平成ゴジラシリーズ最終作となる『ゴジラvsデストロイア』や「キング伊福部まつりの夕べ」の聴きどころなど、さらに深い話を語り合ってもらった。

●取材・構成/トヨタトモヒサ


前編はこちら

●「出撃準備」では音楽を入れられない

――前編で大河原監督から「やっぱりダビングで1番時間がかかるのは、音楽を入れるか入れないか」といったお話がありましたが、何か具体例はありますか?

大河原 『vsメカゴジラ』では、2度目の音楽打ち合わせで、先生と衝突したことがありました。メカゴジラの出撃シーンで当然、ここは「メカゴジラのテーマ」で行きたいと思っていたところ、中尾彬さん演じる麻生司令官のセリフで「出撃準備」とあり、これが先生曰く「準備なので音楽は入りません」と。そこは確かに文字ではそうなんですけど、やはり入れないわけにはいかないですから。それで30分近く話が進まなくて、岩瀬さんに説得していただいたことがありました。

岩瀬 ああ、そうでしたか? 僕は逆に大河原さんと先生の間に立たされたような記憶があまりないんですよね(笑)。

富山 岩瀬さんは、先生のお考えをよくご存じだったから、そうした場合、音楽プロデューサーとして即座にどうすれば良いか判断が付いたのではないでしょうか。

大河原 最終的には、先生にもご理解いただき、音楽を付けることで決着しましたが、この「メカゴジラのテーマ」は気に入ってくれている人が多いみたいですね。『vsメカゴジラ』では、後に監督になる手塚昌明くんが助監督として就いてくれたけど、ダビングテストで初めて映像と音楽が合わさった際に「涙が出た」と言っていましたよ。

富山 伊福部先生は、これまでに映画の脚本を数多く読んでいらっしゃったことに加えて、その本が求める音楽が何なのかを最初にお考えになる。それがかなり独特で伊福部流なんですよね。

大河原 そうそう、シナリオの内容について、ふと意見されることもありました。『vsモスラ』で、トレジャーハンターの別所哲也くんと小林聡美さん演じる別居中の夫婦がいて、娘の「泥棒さんの子どもなんてイヤよ」の一言で、両者の関係が好転しそうだと予感させる筋運びがあるんですけど、突然、伊福部先生から「子供の一言で展開が変わるというよくあるパターンですか」と言われまして。それはダビングの時だったので、そこで言われてもしょうがないんですけど(笑)。

富山 他の人が気づかないところに切り込んで来られて、それがデザインや造形に反映されたこともありましたね。

――『vsキングギドラ』のドラッドのデザインですね。伊福部先生の「爬虫類的な要素を入れようと考えていました」の一言で方向性が見えた、という逸話を大森監督がCD「伊福部昭 協奏三題」(FOCD3143)の解説で書かれていました。

富山 とにかく博識な方で、複眼を以て本を読まれ、完成に向かいつつある映画についても音楽家は音楽を入れる場所にはものが言えるんだ、という持論をお持ちでした。それが先ほど言ったような拘りとして表れているんだと思います。僕らは毎回、お願いする際に脚本を読んでいただき、「いかがでしょうか、今回のホンは?」とお聞きするのが恒例となっていましたが、「いったい何を仰るだろう?」と、その瞬間は緊張したものです。

大河原 『vsメカゴジラ』では、小高恵美くん演じる三枝美希が太古の植物から感じ取ったものが旋律になり、少女たちが歌う場面がありましたよね。ここは後になって歌詞が付いて驚いた、ということがありました。

富山 伊福部先生がご自分で歌詞を書かれたんですよね。

大河原 ダビング直前に伊福部先生に「歌詞を付けることにしましたから」と言われて「ええ!?」って(笑)。

岩瀬 ああ、それは覚えているなぁ。

大河原 どうもゆくゆくは歌詞を付けたいと思われていたらしいんですよ。こっちは歌詞のない前提で「あー」の唇で撮っていたけど、先生は「唇は大丈夫ですから」と平然としておられていて。実際、違和感のない仕上がりになっていたかと思います。

岩瀬 『vsメカゴジラ』でベビーゴジラにヒロインの佐野量子さんが植物を食べさせる場面がありましたよね。

大河原 撮りましたね。

岩瀬 その際に花のほうではなくて茎のほうからあげていて、それをご覧になった伊福部先生が「ああ、ゴジラは神様だから、ちゃんと茎のほうからあげてますよね」と(笑)。

大河原 普通は柔らかい花のほうからあげるイメージがあるんだけど、演出としては最後にキレイな花が口の中に消えていったほうがいいかなと。そういう狙いで撮ったんですよ。

次ページ:ゴジラの誕生に立ち会った者としては、最後を見届けないといけない

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